StudyMed医師国家試験

リングの中身が光るとき―拡散強調像で見抜く脳膿瘍

第105回医師国家試験 I問題 第42問

国試問題にチャレンジ

第105回 I問題 第42問

61歳の女性。頭痛と嘔吐とを主訴に来院した。1週前から頭痛と嘔吐とがあり,2日前から38℃台の発熱も加わった。既往歴に副鼻腔炎がある。来院時の意識レベルはJCSⅠ-2。右半身の運動感覚障害,失算および失書を認める。頭部MRIの拡散強調横断像(A)と造影T1強調矢状断像(B)とを別に示す。  最も考えられるのはどれか。

第105回 I問題 第42問の問題画像
  1. a.髄膜腫
  2. b.脳膿瘍
  3. c.胚細胞腫
  4. d.神経膠腫
  5. e.転移性脳腫瘍

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、発熱を伴って短期間に進行した頭蓋内の占拠性病変を見分ける問題だ。注目点は3つ。症状から病変の場所を推定すること、感染を疑わせる背景があるかどうか、そしてMRIの造影像と拡散強調像の組み合わせだ。まず、神経症状から病変はどこにあると考える?
医学生医学生
右半身の運動感覚障害なので、左大脳半球ですよね。失算と失書もあるので、頭頂葉でしょうか。
ドクタードクター
その通り。失算・失書は優位半球、多くは左の頭頂葉、特に角回付近の障害で出る症状だ。手指失認と左右失認を加えた4つがGerstmann症候群だね。右半身の運動感覚障害も、中心前回・中心後回に近い左頭頂部の病変として説明できる。
医学生医学生
神経解剖の講義で、角回はGerstmannとセットで覚えました。頭痛と嘔吐は頭蓋内圧亢進のサインですか。
ドクタードクター
そう考えていい。1週間で頭痛・嘔吐が進み、軽い意識障害まで出ているから、比較的速く大きくなっている占拠性病変だ。そこに38℃台の発熱と副鼻腔炎の既往が加わる。この背景をどう読むかな。
医学生医学生
腫瘍なら発熱はあまり出ないはずなので、感染でしょうか。副鼻腔炎から頭蓋内に細菌が入ったとか。
ドクタードクター
いい推論だね。副鼻腔は頭蓋底に隣接しているから、そこから直接感染が波及することがある。では画像だ。造影T1強調像では、頭頂部の病変が壁の薄い、なめらかで均一なリング状に造影され、内部は造影されない。リング状増強効果を示す代表的な病変といえば?
医学生医学生
脳膿瘍、膠芽腫、転移性脳腫瘍の3つと習いました。でも、造影だけだと区別が難しい気がします。
ドクタードクター
まさにそこで役立つのが拡散強調像だ。この症例ではリングの内部が均一な高信号になっている。拡散強調像は水分子の動きやすさを画像化したもので、水の動きが制限されると高信号になる。膿は好中球や細菌、壊死物質を多く含んで粘り気が強いから、水の拡散が強く制限されるんだ。
医学生医学生
なるほど。じゃあ腫瘍の中心の壊死も、ドロドロしていれば高信号になりませんか。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。腫瘍の壊死部や嚢胞の液体は基本的にさらさらしているから、水は比較的自由に動けて、拡散強調像では低信号になるのが普通だ。ADCの値で確かめると、膿瘍の内腔はADCが低く、腫瘍の壊死部は高い。だから「リング状増強+内腔が均一にDWI高信号」なら脳膿瘍を強く考える。臨床像とも合わせて、答えは脳膿瘍だ。
医学生医学生
膠芽腫を含む神経膠腫は、リングの形でも区別できるんですか。
ドクタードクター
ある程度はね。膠芽腫のリングは厚さが不均一で、でこぼこした花輪状になりやすい。本例のような薄くなめらかなリングとは印象が違う。それに発熱や副鼻腔炎は説明できない。転移性脳腫瘍もリング状に造影されうるけれど、壊死した内腔はやはりDWIで低信号が基本だし、担癌の既往もない。灰白質と白質の境界に多発し、大きさの割に浮腫が強いのが典型像だ。
医学生医学生
髄膜腫は女性に多い良性腫瘍なので年齢や性別は合いますが、脳の外にできる腫瘍でしたよね。
ドクタードクター
そう、くも膜由来の脳実質外腫瘍で、硬膜に広く接して全体が均一に強く造影される。dural tail signが特徴で、発育も緩やかだ。胚細胞腫は小児や若年男性の松果体部や鞍上部といった正中に好発するから、61歳の頭頂葉病変とは合わない。
医学生医学生
部位と症状で場所を決めて、背景で感染を疑って、最後に拡散強調像で腫瘍の壊死と区別する、という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展知識も押さえておこう。感染経路は隣接感染巣からの波及と血行性に分けられる。副鼻腔炎なら前頭葉、中耳炎や乳突洞炎なら側頭葉や小脳に生じやすい。血行性では感染性心内膜炎、肺膿瘍、Fallot四徴症のような右左シャントのある心疾患が原因になり、多発しやすい。
医学生医学生
小児科の実習で、チアノーゼ性心疾患の子の頭痛は脳膿瘍を忘れるなと言われました。治療はやはり抗菌薬ですか。
ドクタードクター
そう、脳への移行性を考えて第3世代セフェムやメトロニダゾールなどを組み合わせ、長期間静脈投与するのが基本だ。起炎菌はレンサ球菌、嫌気性菌、黄色ブドウ球菌などが多い。大きな膿瘍や脳室に近いものは、定位的穿刺による排膿や摘出術を考える。被膜は脳室側が薄くなりやすいから、脳室に破れると脳室炎を起こして重篤になる。
医学生医学生
髄膜炎みたいに腰椎穿刺で髄液を調べたくなりますが……。
ドクタードクター
そこは要注意だ。頭蓋内圧亢進がある占拠性病変で腰椎穿刺をすると、脳ヘルニアを誘発する危険がある。発熱と頭痛だからといってすぐに穿刺せず、まず画像で占拠性病変がないかを確認する習慣をつけておこう。

まとめ

頭痛・嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状が短期間に進行し、発熱や副鼻腔炎などの感染源を伴う場合は脳膿瘍を疑います。リング状増強効果を示す代表は脳膿瘍・膠芽腫・転移性脳腫瘍ですが、粘稠な膿では水の拡散が制限されるため、内腔が拡散強調像で均一な高信号(ADC低下)になる点が、腫瘍の壊死部(DWI低信号)との鑑別に最も役立ちます。失算・失書は優位半球頭頂葉(角回)の症状でGerstmann症候群の一部であり、症状から病変部位を推定する力も問われます。治療は脳移行性のよい抗菌薬の長期投与を基本とし、必要に応じて穿刺排膿や摘出を行い、頭蓋内圧亢進時の腰椎穿刺は脳ヘルニアの危険から避けます。造影像と拡散強調像を組み合わせて読む考え方は、救急や神経診療で頭蓋内病変を評価する際の基本となります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・1週前からの頭痛と嘔吐:頭蓋内圧亢進症状と考えられる。 ・2日前からの38℃台の発熱と副鼻腔炎の既往:感染症を考える手がかりとなる。副鼻腔炎は、隣接する頭蓋内に細菌が波及する感染源になりうる。 ・意識レベルJCS I-2:刺激しなくても開眼しているが、見当識障害がある。軽い意識障害である。 ・右半身の運動感覚障害:左大脳半球の中心前回・中心後回の付近、またはそこからの伝導路の障害である。 ・失算と失書:優位半球(多くは左)の頭頂葉、特に角回の付近の障害を示す。手指失認・左右失認と合わせてGerstmann症候群とよばれる症状の一部である。 これらから、病変は左頭頂葉の付近にある。短い経過で、発熱と頭蓋内圧亢進を伴って進行した占拠性病変と考えられる。

画像の読み方

・造影T1強調矢状断像(B):頭頂部の病変が、壁の薄い、比較的なめらかで均一なリング状増強効果(ring enhancement)を示し、内部は造影されない。 ・拡散強調横断像(A):リングの内部が均一な高信号を示している。 拡散強調像(DWI)は、組織の中を水分子がどれだけ自由に動けるか(拡散)を画像にしたものである。水の動きが制限されている部分は高信号になる。膿は好中球・細菌・壊死物質を多く含み、粘り気が強いため、水の拡散が強く制限される。そのため膿瘍の内腔はDWIで均一な高信号になる。これに対し、腫瘍の中心部の壊死や嚢胞の液体はさらさらしているので、水の拡散は制限されず、DWIでは低信号になるのが普通である。

診断へのプロセス

リング状増強効果を示す主な病変は、脳膿瘍、膠芽腫(悪性度の最も高い神経膠腫)、転移性脳腫瘍である。これにDWIの所見を組み合わせる。内腔がDWIで均一な高信号であれば、脳膿瘍を強く考える。さらに、発熱と感染源(副鼻腔炎)があること、短い経過で頭蓋内圧亢進と意識障害をきたしていることも、脳膿瘍に合う。以上から脳膿瘍が最も考えられる。

選択肢考察

  1. ×a.  髄膜腫

    髄膜腫は、くも膜の細胞から発生する良性の脳実質外腫瘍である。中年以降の女性に多く、原発性脳腫瘍の中で最も頻度が高い。硬膜に広く接して発生し、造影で腫瘍全体が均一に強く造影される。周囲の硬膜が尾を引くように造影されるdural tail signも特徴である。発育は緩やかで、発熱は伴わない。リング状増強効果や内腔が均一なDWI高信号を示すことは通常なく、本例とは合わない。

  2. ○b.  脳膿瘍

    脳膿瘍は、細菌などが脳実質に感染し、被膜に囲まれた膿のたまりをつくる疾患である。副鼻腔炎・中耳炎などから直接広がる場合と、感染性心内膜炎・肺感染症・右左シャントのある先天性心疾患などから血流にのって広がる場合がある。画像では、壁が薄く比較的なめらかなリング状増強効果を示す。粘り気の強い膿の中では水の拡散が制限されるため、内腔は拡散強調像で均一な高信号になり、腫瘍の壊死と区別するのに最も役立つ。本例は、副鼻腔炎の既往、発熱、短い経過での頭蓋内圧亢進症状、左頭頂葉の症状(右半身の運動感覚障害、失算、失書)、これらの画像所見がすべてそろっており、最も考えられる。

  3. ×c.  胚細胞腫

    頭蓋内の胚細胞腫は小児から若年者、特に男性に多い。松果体部や神経下垂体部(鞍上部)など正中の構造に好発する。松果体部の腫瘍では、上方注視麻痺などのParinaud徴候や閉塞性水頭症がみられる。鞍上部の腫瘍では、尿崩症や視野障害がみられる。代表的な組織型である胚腫(ジャーミノーマ)は細胞が密集しているため、拡散強調像で高信号になることがある。しかし、ふつうは全体が比較的均一に造影される充実性の腫瘤で、リング状増強効果は示さない。61歳という年齢、左頭頂葉の病変、発熱のいずれも合わない。

  4. ×d.  神経膠腫

    神経膠腫はグリア細胞に由来する腫瘍の総称で、悪性度に幅がある。中でも悪性度の高い膠芽腫は、中心が壊死するためリング状に造影されることがある。ただし、そのリングは厚さが不均一で、でこぼこした花輪状(garland-like)になりやすい。壊死部はさらさらした液体なので、拡散強調像では低信号になり、腫瘍の充実部が部分的に高信号を示す程度である。本例のように、壁が薄くなめらかなリングで内腔全体がDWIで均一に高信号という所見は合わない。発熱や副鼻腔炎も説明できない。

  5. ×e.  転移性脳腫瘍

    転移性脳腫瘍は、成人の脳腫瘍の中で頻度の高いものの一つである。原発巣には肺癌が最も多く、乳癌などが続く。灰白質と白質の境界付近に多発しやすく、腫瘍の大きさに比べて周囲の浮腫が強い。中心が壊死すると、本例のようなリング状増強効果を示すことがある。しかし、壊死した内腔は拡散強調像で低信号が基本であり、均一な高信号にはならない。本例では、担癌の既往がないこと、発熱と副鼻腔炎という感染を示す状況があることも合わない。

リング状増強効果を示す主な病変

脳膿瘍、膠芽腫、転移性脳腫瘍が代表的である。そのほかに、脱髄性疾患(リングの一部が途切れるopen ring signが特徴)、亜急性期の脳内血腫、トキソプラズマ症などもある。

拡散強調像(DWI)で高信号を示す主な病態

・細胞が密に集まる腫瘍:悪性リンパ腫、髄芽腫、胚腫など。 ・粘り気の強い液体:脳膿瘍。内腔が均一な高信号になる。 ・細胞性浮腫:急性期脳梗塞。発症から早い段階で高信号になる。 ・そのほか:類表皮腫、Creutzfeldt-Jakob病(大脳皮質や基底核が高信号)。 拡散制限はADC(見かけの拡散係数)の低下で確かめる。膿瘍の内腔はADCが低い。一方、腫瘍の壊死部や嚢胞はADCが高い。

脳膿瘍の病期と画像

初期の脳炎期には境界が不明瞭な炎症の広がりとして写る。その後、周囲に被膜ができる被膜形成期に入り、典型的なリング状増強効果を示す。被膜は、酸素が豊富で血流の多い皮質側が厚くなり、脳室側は薄くなりやすい。そのため脳室の方へ破れ、脳室炎を起こす危険がある。

脳膿瘍の感染経路・起炎菌・治療

・隣接する感染巣からの波及:副鼻腔炎では前頭葉、中耳炎・乳突洞炎では側頭葉や小脳に生じやすい。 ・血行性:感染性心内膜炎、肺膿瘍、右左シャントのある先天性心疾患(Fallot四徴症など)から。多発しやすい。 ・起炎菌:レンサ球菌(口腔内のものを含む)、嫌気性菌、黄色ブドウ球菌などが多い。免疫不全ではノカルジア、真菌、トキソプラズマも考える。 ・治療:抗菌薬の長期静脈投与が基本である。脳への移行性を考え、第3世代セフェム、メトロニダゾールなどを組み合わせる。膿瘍が大きい場合や脳室の近くにある場合は、定位的穿刺による排膿や摘出術を行う。頭蓋内圧亢進があるときの腰椎穿刺は脳ヘルニアを誘発する危険があるため、避ける。

Gerstmann症候群

手指失認、左右失認、失書、失算の4つを特徴とする。優位半球(多くは左)の頭頂葉、特に角回の付近の病変で生じる。

POINT

・リング状増強効果+内腔が拡散強調像で均一な高信号であれば、脳膿瘍を考える(腫瘍の壊死部はDWIで低信号)。 ・リング状増強効果を示す三大病変は、脳膿瘍、膠芽腫、転移性脳腫瘍である。 ・発熱と感染源(副鼻腔炎、中耳炎、感染性心内膜炎、右左シャントのある心疾患)があり、短い経過で頭蓋内圧亢進をきたしていれば、脳膿瘍を疑う。 ・失算と失書は優位半球の頭頂葉(角回)の症状である(Gerstmann症候群)。 ・頭蓋内圧亢進が疑われるときは、腰椎穿刺を避ける。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。