StudyMed医師国家試験

老いて「増える」肺の空気―残気量が教える加齢変化の例外

第105回医師国家試験 H問題 第11問

国試問題にチャレンジ

第105回 H問題 第11問

加齢に伴い低下しないのはどれか。

  1. a.残気量
  2. b.細胞性免疫
  3. c.薬物代謝能
  4. d.体温調節機能
  5. e.エピソード記憶

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は加齢に伴う生理的な変化の問題だ。老化というと何でも「低下」すると考えがちだけれど、中には逆に増えるものがある。その例外を見抜けるかがポイントだよ。
医学生医学生
老年医学の講義では、だいたい全部の機能が落ちると習った気がします。どれも低下しそうに見えてしまいますね。
ドクタードクター
そこが落とし穴なんだ。まず呼吸機能から考えよう。残気量とは何だったかな。
医学生医学生
最大限に息を吐き切ったあとに肺に残る空気の量です。生理学実習でスパイロメトリーをやりましたが、残気量はスパイロでは直接測れないと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。では加齢で肺はどう変わるか。肺の弾性線維などが変化して、肺が自らの弾性で縮もうとする力、つまり弾性収縮力が弱まる。この力は、肺胞壁が末梢の細い気道を外へ引っ張って開いておく力の源でもあるんだ。
医学生医学生
その引っ張る力が弱まると、息を吐いている途中で細い気道がつぶれてしまう、ということですか。
ドクタードクター
その通り。呼気の途中で末梢気道が早く閉じるから、空気が肺の中に取り残される。だから残気量は低下ではなく増加する。さらに脊柱後彎による胸郭の変形や呼吸筋力の低下も呼出を妨げる。これが「加齢に伴い低下しない」ものの答えだ。
医学生医学生
肺気腫と似たような仕組みですね。全肺気量はどうなるんですか。
ドクタードクター
いい比較だね。全肺気量はほぼ変わらない。だから残気量が増えた分だけ肺活量は減り、残気率は上がる。1秒量や1秒率、PaO2は低下し、末梢気道が閉じ始める肺気量であるクロージングボリュームは増加する。PaCO2はほぼ変わらないことも押さえておこう。
医学生医学生
では細胞性免疫はどうでしょう。高齢者は感染症に弱い印象があります。
ドクタードクター
その印象は正しい。細胞性免疫を担うT細胞は胸腺で成熟するけれど、胸腺は思春期以降に萎縮して脂肪に置き換わる。新しいナイーブT細胞の供給が減るから、ツベルクリン反応が陰性化したり、帯状疱疹や結核の再燃が増えたりする。低下する機能だね。
医学生医学生
薬物代謝能は、薬理学で高齢者には少量から始めると習ったので、低下するはずです。
ドクタードクター
そうだね。肝重量と肝血流量が減り、特にCYPによる第Ⅰ相反応が落ちやすい。腎血流量やGFRも低下するから腎排泄型の薬は蓄積しやすい。体内の水分が減って脂肪の割合が増えることで、薬物の分布も変わる。だから少量から開始して、効果と副作用を見ながら慎重に増量するのが原則なんだ。
医学生医学生
体温調節機能は、夏に高齢者の熱中症がニュースになるので低下していそうです。
ドクタードクター
まさにそう。暑さ寒さの感覚が鈍り、発汗や皮膚血管の反応が落ち、筋肉量の減少で熱産生も減る。口渇感も低下するから脱水になりやすい。熱中症や低体温症を起こしやすく、感染症でも発熱が目立たないことがある点は臨床で特に注意したいところだ。
医学生医学生
エピソード記憶も、年を取ると物忘れが増えるので低下しますね。でも昔のことはよく覚えている高齢の方も多い気がします。
ドクタードクター
鋭い観察だね。いつ・どこで・何があったかというエピソード記憶、特に新しい出来事を覚える力は低下する。一方、言葉の意味や一般知識といった意味記憶、自転車の乗り方のような手続き記憶は比較的保たれ、昔の出来事の記憶も保たれやすい。生理的な物忘れは体験の一部を忘れるのに対し、Alzheimer型認知症では体験そのものを丸ごと忘れる点が鑑別上大事だよ。
医学生医学生
整理すると、免疫・代謝・体温調節・記憶は低下するけれど、残気量は肺の弾性低下の結果として増える、ということですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床での注意点を。加齢で増えるものとしては、残気量やクロージングボリュームのほか、収縮期血圧や体脂肪率もある。また高齢者は筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が上がりにくく、腎機能低下が見逃されやすい。検査値が正常に見えても、加齢による変化を前提に薬の量や体調の変化を評価することが大切なんだ。

まとめ

加齢に伴う生理的変化の多くは機能の低下として現れますが、残気量は例外的に増加します。加齢で肺の弾性収縮力が低下すると末梢気道を外から引っ張る力が弱まり、呼気途中で気道が閉塞しやすくなるため、残気量・残気率・クロージングボリュームが増加し、全肺気量はほぼ不変のまま肺活量や1秒量、PaO2は低下します。一方、胸腺萎縮による細胞性免疫、肝・腎機能低下による薬物代謝・排泄能、感覚や発汗の鈍化による体温調節機能、新しい出来事を覚えるエピソード記憶はいずれも加齢で低下します。高齢者では薬の副作用や熱中症、腎機能低下の見逃しなどに注意が必要であり、「何が低下し、何が増えるか」を理解することは高齢者診療の基本となります。

解答・解説

正解はaです

加齢に伴う生理的な変化(生理的老化)の多くは「機能の低下」として現れるが、中には値が「増加」するものもある。本問はその例外を見抜けるかを問うている。 代表的な例外が呼吸機能である。加齢により肺の弾性線維などの結合組織が変化すると、肺が自らの弾性で縮もうとする力(弾性収縮力)が弱まる。この弾性収縮力は、肺胞壁が末梢の細い気道を外側へ引っ張って開いておく力(牽引)の源でもあるため、これが弱まると息を吐き切る途中で末梢気道が早く閉じてしまう。その結果、吐き出せずに肺に残る空気の量、すなわち残気量が増加する。 一方、細胞性免疫、薬物代謝能、体温調節機能、エピソード記憶は、いずれも加齢とともに低下する機能である。したがって「加齢に伴い低下しない」のは残気量である。

選択肢考察

  1. ○a.  残気量

    残気量は最大限に息を吐き出したあとに肺内に残る空気の量である。加齢で肺の弾性収縮力が低下すると、末梢気道を外から引っ張って開いておく力が弱まり、呼気の途中で末梢気道が虚脱(つぶれて閉塞)しやすくなる。このため空気が肺内に取り残され、残気量は増加する。さらに脊柱後彎による胸郭の変形や呼吸筋力の低下も呼出を妨げる。全肺気量はほぼ変わらないため、残気量が増えた分だけ肺活量は減少し、残気率(残気量/全肺気量)は上昇する。低下ではなく増加するので、本問の正解である。

  2. ×b.  細胞性免疫

    細胞性免疫の中心を担うT細胞は胸腺で成熟するが、胸腺は思春期以降しだいに萎縮して脂肪組織に置き換わる。そのため高齢者では新たなナイーブT細胞の供給が減り、T細胞の機能も低下する。臨床的には、ツベルクリン反応(遅延型過敏反応)の陰性化、リンパ球幼若化反応の低下、帯状疱疹(水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化)や結核の再燃の増加として現れる。加齢で低下する機能である。

  3. ×c.  薬物代謝能

    高齢者では肝臓の重量と肝血流量が減少し、特にシトクロムP450(CYP)による酸化などの第Ⅰ相反応が低下しやすく、肝臓での薬物代謝能は低下する。加えて、腎血流量や糸球体濾過量(GFR)も加齢で低下するため、腎排泄型の薬物は体内に蓄積しやすい。このほか、体内の水分量の減少と脂肪の割合の増加により、薬物の分布も変化する。これらのため高齢者では薬物の血中濃度が上がりやすく、副作用が出やすい。少量から開始し、効果と副作用を確認しながら慎重に増量することが原則である。加齢で低下する機能である。

  4. ×d.  体温調節機能

    高齢者では、暑さ・寒さを感じ取る感覚の鈍化、発汗機能の低下、皮膚血管の収縮・拡張反応の低下、筋肉量の減少による熱産生の低下、口渇感の低下(脱水になりやすい)などが重なり、環境温度の変化に応じて体温を一定に保つ機能が低下する。そのため高温環境では熱中症、寒冷環境では低体温症や凍傷を起こしやすい。また感染症にかかっても発熱が目立たないことがある。加齢で低下する機能である。

  5. ×e.  エピソード記憶

    エピソード記憶とは、「昨日の夕食に誰と何を食べたか」のような、いつ・どこで・何があったかという個人的な出来事の記憶である。加齢とともに、新しい出来事を覚えたり思い出したりする能力は低下する。一方、言葉の意味や一般知識などの意味記憶や、自転車の乗り方のような手続き記憶は比較的保たれ、昔の出来事の記憶も保たれやすい。生理的な物忘れでは体験の一部を忘れるにとどまるが、Alzheimer型認知症では体験そのものを丸ごと忘れる点が鑑別上重要である。加齢で低下する機能である。

加齢による呼吸機能の変化

・増加するもの:残気量、残気率(残気量/全肺気量)、機能的残気量、クロージングボリューム(呼出時に末梢気道が閉じ始める肺気量)、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2) ・低下するもの:肺活量、1秒量、1秒率、最大換気量、動脈血酸素分圧(PaO2)、肺の弾性収縮力、胸壁のコンプライアンス(胸郭の柔らかさ) ・ほぼ変わらないもの:全肺気量、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2) 肺の弾性収縮力の低下で肺は伸びやすくなる(肺コンプライアンスは増加)一方、肋軟骨の石灰化や脊柱後彎で胸郭は硬くなる。換気血流比の不均等も進むため、PaO2は加齢とともに低下する。

加齢による主な臓器機能の変化

・腎臓:腎血流量・GFRが低下する。高齢者では筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が上がりにくく、腎機能低下が見逃されやすい。 ・肝臓:肝重量・肝血流量が減少し、薬物代謝が低下する。 ・循環器:収縮期血圧は上昇し、動脈硬化が進む。最大心拍数は低下する。 ・免疫:胸腺萎縮によりT細胞機能(細胞性免疫)が低下する。 ・内分泌・代謝:耐糖能は低下する。 ・神経:エピソード記憶や情報処理速度は低下するが、意味記憶・手続き記憶・言語的な知識(結晶性知能)は保たれやすい。

老化で「増える」ものの例

残気量、クロージングボリューム、収縮期血圧、体脂肪率など。「加齢で増えるもの」を選ばせる問題は頻出である。

POINT

・加齢で肺の弾性収縮力が低下すると末梢気道が早く閉塞し、残気量・残気率・クロージングボリュームは増加する。 ・全肺気量はほぼ不変で、肺活量・1秒量・1秒率・PaO2は低下する。 ・細胞性免疫(胸腺萎縮)、薬物代謝・排泄能(肝・腎機能低下)、体温調節機能、エピソード記憶はいずれも加齢で低下する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。