StudyMed医師国家試験

母から子へ届く唯一の抗体―IgGが胎盤を越えられる本当の理由

第105回医師国家試験 G問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第6問

胎盤を通過する免疫グロブリンはどれか。

  1. a.IgA
  2. b.IgD
  3. c.IgE
  4. d.IgG
  5. e.IgM

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、母体の抗体のうちどれが胎盤を越えて胎児に届くかを問う問題だ。答え自体は有名だけれど、「なぜその抗体だけが通れるのか」まで理解しておくと、新生児の感染防御や母子間の病気まで一気につながる。まずは直感で答えてみようか。
医学生医学生
IgGだと思います。理由は、IgMは五量体で大きすぎるから通れない、と覚えていました。
ドクタードクター
答えは正解。ただ、理由づけには落とし穴がある。IgGの分子量は約15万〜16万で、分子量約6.6万のアルブミンよりずっと大きい。それなのにアルブミンはほとんど胎盤を通らず、IgGは通るんだ。
医学生医学生
えっ、小さい分子のほうが通りにくいんですか。サイズで選別されているわけじゃないということですね。
ドクタードクター
そう。鍵は胎盤の絨毛表面を覆う合胞体栄養膜細胞にある、新生児Fc受容体、略してFcRnという受容体だ。母体血中のIgGは細胞に取り込まれたあと、Fc部分でFcRnに結合して分解を免れ、胎児側へ運ばれる。つまり受容体を介した能動的な輸送なんだ。
医学生医学生
基礎の免疫学の講義でFcRnはIgGの血中半減期を長くする受容体だと習いました。胎盤輸送にも同じ受容体が使われているんですね。
ドクタードクター
よくつながったね。分解から守る仕組みと、細胞を横切って運ぶ仕組みが同じ受容体で担われている。ほかのクラスにはこの輸送経路がないから、ほとんど移行しない。では選択肢を順に確認しよう。IgAはどうかな。
医学生医学生
血清中のIgAは単量体でIgGと同じくらいの大きさですよね。サイズだけで考えると通りそうに見えてしまいます。
ドクタードクター
まさにサイズ説が破綻する例だね。IgAはFcRnで運ばれないので胎盤は通らない。IgAが活躍するのは粘膜で、J鎖でつながった二量体に分泌成分が結合した分泌型IgAとして、唾液や腸管粘液、母乳に多く含まれる。新生児は胎盤経由ではなく、初乳に含まれる分泌型IgAで腸管の粘膜免疫を補ってもらっているんだ。
医学生医学生
小児科実習で、初乳をできるだけ飲ませるよう助産師さんが指導していたのを思い出しました。IgDとIgEはどうですか。
ドクタードクター
どちらも胎盤は通らない。IgDは血清中にごくわずかで、主に成熟ナイーブB細胞の表面にIgMとともに抗原受容体として発現している。IgEは血中濃度が最も低く、肥満細胞や好塩基球のFcεRIに結合して、抗原が来るとヒスタミンなどを放出させるI型アレルギーの主役だ。寄生虫への防御にも関わる。
医学生医学生
最後にIgMですが、通らないことが逆に臨床で役立つんでしたっけ。CBTの勉強で先天性感染の診断と関連づけて覚えた気がします。
ドクタードクター
その通り。IgMは分子量約90万〜100万の五量体で、感染に対して最初に作られる抗体だ。母体のIgMは胎児に移行しないから、臍帯血や新生児の血液で病原体特異的IgMが陽性なら、それは胎児自身が作ったもの。つまり風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなどの胎内感染を示唆するんだ。
医学生医学生
IgGが陽性でも母親由来かもしれないから判断できないけれど、IgMなら赤ちゃん自身の反応だと言える、ということですね。
ドクタードクター
完璧な理解だ。ここから発展知識。IgGの移行は妊娠中期から増え、特に妊娠後期に急増して、正期産児の臍帯血IgGは母体と同程度かやや高くなる。だから早産児は母親由来の抗体が少なく、感染に弱いという点に注意したい。
医学生医学生
生まれたあと母親由来のIgGはずっと残るんですか。
ドクタードクター
いや、徐々に分解されて減っていく。乳児自身の産生はまだ少ないから、生後3〜6か月頃に血清IgGが最も低くなる。これを生理的低γグロブリン血症という。このあたりから母親由来の防御が薄れて、感染症にかかりやすくなるんだ。
医学生医学生
IgGが胎盤を通ることで、逆に困ることもありそうです。母親の自己抗体も通ってしまいますよね。
ドクタードクター
鋭いね。Rh(D)陰性の母親の抗D抗体による胎児・新生児溶血性疾患、母体の抗TSH受容体抗体による新生児バセドウ病、抗SS-A抗体による新生児ループスや先天性完全房室ブロック、抗アセチルコリン受容体抗体による新生児一過性重症筋無力症、母体ITPによる新生児血小板減少症などがある。多くは母親由来の抗体が消えるにつれて改善するが、先天性完全房室ブロックは永続することが多いので要注意だ。
医学生医学生
逆にその性質を予防に使うこともできそうですね。
ドクタードクター
その通り。Rh(D)陰性の妊婦には感作を防ぐために抗Dヒト免疫グロブリンを投与するし、妊婦にワクチンを接種して母体のIgGを高め、胎盤経由で新生児を守る方法も百日咳やRSウイルスなどで行われている。IgGの胎盤通過は、守る仕組みでもあり、病気の原因にもなり、治療・予防にも使える。そう整理しておこう。

まとめ

胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみであり、その理由は分子の小ささではなく、合胞体栄養膜細胞の新生児Fc受容体(FcRn)を介した能動輸送にあります。IgAは分泌型として母乳から粘膜免疫を補い、IgMは胎盤を通らないため臍帯血や新生児での特異的IgM陽性は先天性感染を示唆します。IgGの移行は妊娠後期に急増し、母親由来のIgGが減る生後3〜6か月頃には生理的低γグロブリン血症となります。また母体の自己抗体や同種抗体もIgGとして移行するため、新生児溶血性疾患、新生児バセドウ病、新生児ループスなどの原因となり、抗D免疫グロブリンや妊婦へのワクチン接種はこの性質を予防に応用したものです。抗体クラスごとの特徴を輸送の仕組みとともに理解することは、周産期医療や小児の感染症診療の基礎となります。

解答・解説

正解はdです

本問は、母体から胎児へ胎盤を通って移行できる免疫グロブリン(抗体)の種類を問う問題である。 免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)には、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つのクラスがある。このうち胎盤を通過できるのはIgGだけである。 IgGが胎盤を通過できるのは、分子が小さいからではない。IgGの分子量は約15万〜16万で、分子量約6.6万のアルブミンより大きいが、アルブミンはほとんど胎盤を通過しない。IgGだけが移行できるのは、胎盤の絨毛表面を覆う合胞体栄養膜細胞(シンシチオトロホブラスト)に、IgGのFc部分と特異的に結合する受容体である新生児Fc受容体(FcRn)が存在するためである。母体血中のIgGは細胞内に取り込まれた後、FcRnに結合して分解を免れ、胎児側へ運ばれる(受容体を介した能動的な輸送)。他のクラスの抗体にはこのような輸送の仕組みがないため、ほとんど移行しない。 IgGの移行は妊娠中期から増え、特に妊娠後期(とりわけ妊娠32週以降)に急増する。正期産児の臍帯血中IgG濃度は母体と同程度か、むしろやや高くなる。この母親由来のIgGが、自分で十分な抗体を作れない新生児を生後数か月間感染から守る(受動免疫)。

選択肢考察

  1. ×a.  IgA

    IgAは胎盤を通過しない。血清中では主に単量体(分子量約16万)として存在し、IgGとほぼ同じ大きさであるが、FcRnによる輸送を受けないため移行しない。IgAは唾液、涙、腸管粘液、母乳などの分泌液中に多く含まれ、J鎖でつながった二量体に分泌成分が結合した分泌型IgAとして粘膜の防御を担う。新生児は胎盤経由ではなく、母乳(特に初乳)に含まれる分泌型IgAによって腸管の粘膜免疫を補われる。

  2. ×b.  IgD

    IgDは胎盤を通過しない。分子量は約18万で、血清中の濃度はごく低い。主に成熟したナイーブB細胞の表面に、IgMとともに抗原受容体として発現しており、B細胞の活性化や分化に関わると考えられている。

  3. ×c.  IgE

    IgEは胎盤を通過しない。分子量は約19万で、血清中の濃度は5つのクラスの中で最も低い。肥満細胞や好塩基球の表面にある高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合し、抗原が結合すると細胞からヒスタミンなどが放出され、即時型(I型)アレルギー反応を起こす。寄生虫に対する防御にも関与する。

  4. ○d.  IgG

    IgGは胎盤を通過する唯一の免疫グロブリンであり、正しい。分子量は約15万〜16万の単量体で、血清免疫グロブリンの約70〜75%を占め、液性免疫(抗体による免疫)の中心となる。合胞体栄養膜細胞にあるFcRnに結合して胎児側へ能動的に輸送されるため、母体血漿蛋白の中でも特に効率よく胎盤を通過する。これにより新生児は、母親が持つ麻疹、風疹などに対する抗体を受け取り、生後しばらくの間それらの感染から守られる。

  5. ×e.  IgM

    IgMは胎盤を通過しない。J鎖でつながった五量体で、分子量は約90万〜100万と最も大きい。感染に対して最初に作られる抗体で、補体を活性化する力が強い。母体のIgMは胎児に移行しないため、臍帯血や新生児の血液でIgMが高値(または病原体特異的IgMが陽性)であれば、胎児自身が作った抗体であり、胎内での感染(先天性感染:風疹、サイトメガロウイルス、トキソプラズマなど)を示唆する。

免疫グロブリン5クラスの特徴

・IgG:単量体、分子量約15万〜16万。血清中で最も多い(約70〜75%)。二次免疫応答の主体。胎盤を通過する唯一のクラス。4つのサブクラス(IgG1〜IgG4)がある。 ・IgA:血清中では主に単量体。分泌液中では分泌型IgA(二量体+J鎖+分泌成分)。粘膜免疫を担い、母乳に多い。 ・IgM:五量体、分子量約90万〜100万。感染初期に最初に作られる。補体活性化能が高い。胎盤を通過しない。 ・IgD:単量体、分子量約18万。B細胞表面の抗原受容体。 ・IgE:単量体、分子量約19万。血中濃度が最も低い。I型アレルギー、寄生虫感染に関与する。

新生児・乳児の免疫グロブリンの推移

母体由来のIgGは生後徐々に分解されて減っていく。一方、乳児自身のIgG産生はまだ少ないため、生後3〜6か月頃に血清IgGが最も低くなる(生理的低γグロブリン血症)。この時期以降、母親由来の抗体による防御が薄れ、感染症にかかりやすくなる。IgMは生後早期から、IgAはゆっくりと数年かけて成人値に近づく。

母体IgGの移行による新生児の病気

IgGが胎盤を通過するという性質は、母親の自己抗体や同種抗体が胎児・新生児に病気を起こす原因にもなる。 ・血液型不適合妊娠による胎児・新生児溶血性疾患:Rh(D)陰性の母親の抗D抗体(IgG)。ABO不適合では、O型の母親が持つIgG型の抗A・抗B抗体による。 ・新生児バセドウ病:母体の抗TSH受容体抗体(TRAb)。 ・新生児ループス、先天性完全房室ブロック:母体の抗SS-A抗体。 ・新生児一過性重症筋無力症:母体の抗アセチルコリン受容体抗体。 ・新生児血小板減少症:母体の免疫性血小板減少症(ITP)の抗血小板抗体など。 これらは母親由来の抗体が消えるにつれて多くは改善する(ただし先天性完全房室ブロックは永続することが多い)。

予防への応用

Rh(D)陰性の母親には、感作を防ぐ目的で抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。また、妊婦へのワクチン接種で母体のIgGを高め、胎盤を通じて新生児に抗体を移行させる予防法(百日咳、RSウイルスなど)も行われている。

POINT

・胎盤を通過する免疫グロブリンはIgGのみである。 ・通過は分子量によるものではなく、合胞体栄養膜細胞のFcRnを介した能動輸送による。 ・臍帯血でIgMが高値であれば、胎児自身が作った抗体と考え、先天性感染を疑う。 ・新生児は母乳中の分泌型IgAで粘膜免疫を補われる。 ・母体由来IgGは生後減少し、生後3〜6か月頃に生理的低γグロブリン血症となる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。