片目が開かない朝―動眼神経麻痺と反対側の片麻痺が指し示す「中脳」という答え
第105回医師国家試験 G問題 第45問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。今朝,起床時に右眼が開けられないことに気付いたため来院した。意識は清明。血圧168/92 mmHg。右眼瞼下垂,右の瞳孔散大および対光反射消失を認め,右眼球は外転位である。左上下肢にBarré徴候を認め,左Babinski徴候陽性。正常者の頭部MRI水平断像の5つのスライスレベル(①~⑤)を別に示す。 この患者の病変が存在する可能性が高いスライスレベルはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
病巣側の脳神経麻痺と対側の片麻痺がそろう交代性片麻痺は脳幹病変を示し、障害された脳神経の種類で病変の高さを推定します。眼瞼下垂・散瞳・対光反射消失・外転位は動眼神経麻痺で説明でき、これに対側片麻痺が加われば、動眼神経線維が大脳脚を貫く中脳腹側の病変、すなわちWeber症候群が考えられます。MRI水平断では、左右の大脳脚と中脳水道が描くミッキーマウス様の形が中脳レベルの目印です。橋下部のMillard-Gubler症候群、延髄のWallenberg症候群(縮瞳を伴うHorner症候群)などとの違いや、瞳孔散大を伴う単独の動眼神経麻痺では動脈瘤や鉤ヘルニアを除外すべき点も押さえておきましょう。脳神経核の高さと症候を結び付ける力は、神経診察から病巣を推定する臨床推論の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・68歳男性、高血圧(168/92 mmHg)。起床時に気付いた突然発症の症状であり、脳血管障害(脳梗塞など)を考える経過である。 ・右眼:眼瞼下垂、瞳孔散大、対光反射消失、眼球の外転位 ・左上下肢:Barré徴候(軽い上位運動ニューロン性の筋力低下を検出する徴候)、Babinski徴候陽性
右眼の所見の解釈
眼瞼下垂は上眼瞼挙筋の麻痺、瞳孔散大と対光反射消失は瞳孔括約筋を支配する副交感神経線維の障害、外転位は内直筋の麻痺によって外直筋(外転神経支配)の作用が優位となった結果である。これらはすべて動眼神経の障害で説明でき、右動眼神経麻痺と判断できる。動眼神経は上眼瞼挙筋、上直筋、下直筋、内直筋、下斜筋と瞳孔括約筋・毛様体筋(副交感神経)を支配しているため、完全麻痺では眼球は外転位(しばしば外下方)をとる。
左片麻痺の解釈
左上下肢のBarré徴候とBabinski徴候は、左半身の錐体路(皮質脊髄路)障害を示す。錐体路は延髄下端の錐体交叉で交叉するため、左半身の麻痺は右側の脳(交叉より上)の錐体路障害を意味する。
病変部位の特定
病巣と同じ側に脳神経麻痺があり、反対側に片麻痺がある状態を交代性片麻痺という。これは脳幹病変に特徴的で、障害された脳神経の種類から病変の高さ(レベル)を決めることができる。動眼神経の神経核と神経線維(髄内を走る部分)は中脳にあり、中脳の腹側では動眼神経の線維が錐体路の通る大脳脚のすぐそばを走って脚間窩から出る。したがって、右中脳腹側(大脳脚)の病変で、右動眼神経麻痺+左片麻痺が生じる。これがWeber症候群である。
設問の考え方
5つのスライスは上から順に、①大脳基底核・視床のレベル、②中脳のレベル、③橋上部のレベル、④橋下部のレベル、⑤延髄のレベルである。中脳レベルのスライスである②が正解となる。中脳は水平断で、前方に左右一対の大脳脚が広がり、中央後方に中脳水道があり、全体としてミッキーマウスの顔のような形に見えるのが目印である。
選択肢考察
- ×a. ①
大脳基底核(被殻・淡蒼球・尾状核)、内包、視床を含むレベルである。右内包後脚などの病変では左片麻痺をきたすが、動眼神経の核や線維はこのレベルには存在しないため、右眼瞼下垂や瞳孔散大は説明できない。
- ○b. ②
中脳のレベルである。中脳には動眼神経核があり、そこから出た動眼神経線維は赤核の内側を通って腹側へ向かい、錐体路が通る大脳脚の内側を貫いて脚間窩から脳幹外へ出る。右中脳腹側の病変では、右動眼神経麻痺(眼瞼下垂、散瞳、対光反射消失、外転位)と、交叉前の錐体路障害による左片麻痺が同時に生じる。これがWeber症候群であり、本症例の症候と一致する。
- ×c. ③
橋上部のレベルである。ここには三叉神経の運動核・主感覚核や内側縦束(MLF:左右の眼球の共同運動をつなぐ線維束)、上小脳脚などがある。病変では対側片麻痺に加えて、MLF症候群(障害側の眼の内転障害と反対眼の外転時眼振)、三叉神経障害、小脳失調などを生じうるが、動眼神経の核・線維はこのレベルにはないため、動眼神経麻痺は説明できない。
- ×d. ④
橋下部のレベルである。外転神経核・顔面神経核がある。腹側病変では、病側の外転神経麻痺・末梢性顔面神経麻痺と対側片麻痺を呈するMillard-Gubler症候群が生じ、傍正中橋網様体(PPRF)や外転神経核が障害されると病側への側方注視麻痺を伴う(Foville症候群)。眼球は外転ではなく内転位となる点で、本症例とは異なる。
- ×e. ⑤
延髄のレベルである。内側の病変では病側の舌下神経麻痺と対側片麻痺(Dejerine症候群、延髄内側症候群)を、外側の病変ではWallenberg症候群(延髄外側症候群:病側の小脳失調、顔面の温痛覚障害、Horner症候群、嚥下・構音障害と、対側の頸部以下の温痛覚障害)を生じる。Horner症候群では軽い眼瞼下垂がみられるが、瞳孔は縮瞳であり、本症例の散瞳・外転位とは逆である。
脳幹の代表的な交代性症候群
病巣側の脳神経麻痺+対側の片麻痺(または感覚障害)という組み合わせで、病変部位を推定する。 中脳 ・Weber症候群:中脳腹側(大脳脚)。病側の動眼神経麻痺+対側片麻痺。後大脳動脈の傍正中枝(脚間枝など)の閉塞で生じることが多い。 ・Benedikt症候群:中脳被蓋(赤核を含む)。病側の動眼神経麻痺+対側の不随意運動(振戦・舞踏運動など)や小脳失調。 ・Claude症候群:赤核と上小脳脚付近。病側の動眼神経麻痺+対側の小脳失調。 ・Parinaud症候群:中脳背側(上丘付近)。垂直注視麻痺(特に上方視)、輻湊・対光反射の障害など。松果体腫瘍などで生じる。 橋 ・Millard-Gubler症候群:橋下部腹側。病側の外転神経麻痺・顔面神経麻痺+対側片麻痺。 ・Foville症候群:橋下部背側寄り。病側への側方注視麻痺+病側の顔面神経麻痺+対側片麻痺。 延髄 ・Dejerine症候群(延髄内側症候群):病側の舌下神経麻痺+対側片麻痺+対側の深部感覚障害。 ・Wallenberg症候群(延髄外側症候群):椎骨動脈または後下小脳動脈(PICA)の閉塞で生じる。病側の顔面温痛覚障害・Horner症候群・小脳失調・球麻痺症状+対側の頸部以下の温痛覚障害。片麻痺は通常みられない。
脳神経核の位置(覚え方)
中脳:動眼神経(III)、滑車神経(IV) 橋:三叉神経(V)、外転神経(VI)、顔面神経(VII)、内耳神経(VIII、橋延髄移行部付近) 延髄:舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)、舌下神経(XII)
動眼神経麻痺の鑑別
・瞳孔散大を伴う動眼神経麻痺:動眼神経の表層には瞳孔を支配する副交感神経線維が走るため、外からの圧迫で散瞳が早期に出やすい。内頸動脈−後交通動脈分岐部(IC-PC)動脈瘤による圧迫や、鉤ヘルニアの除外が重要である。これらの単独の動眼神経麻痺では片麻痺は伴わない(鉤ヘルニアでは意識障害を伴う)。 ・瞳孔が保たれる動眼神経麻痺:糖尿病などによる神経の微小循環障害で起こりやすい。 本症例のように対側片麻痺を伴えば、脳幹(中脳)の実質病変を考える。
POINT
・交代性片麻痺(病側の脳神経麻痺+対側片麻痺)は脳幹病変を示し、障害脳神経で高さを決める。 ・動眼神経麻痺(眼瞼下垂、散瞳、対光反射消失、外転位)+対側片麻痺→中脳腹側(大脳脚)のWeber症候群。 ・脳神経核の高さ:中脳(III・IV)、橋(V〜VII、VIII)、延髄(IX〜XII)。 ・Benedikt症候群(赤核:対側不随意運動)、Millard-Gubler症候群(橋:VI・VII)、Wallenberg症候群(延髄外側)と区別する。 ・中脳の水平断は大脳脚と中脳水道が目印。
