10 kgのダイエットが止めた月経―無月経の「司令塔」は視床下部にある
第105回医師国家試験 G問題 第44問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。無月経を主訴に来院した。初経以来月経に異常はなかったが,半年前から無月経となった。1年前からダイエットを始め体重は10 kg減少したが,現在もダイエットを続けている。性格は明るく,職場や家庭においても人間関係は良好である。身長158 cm,体重44 kg。 無月経の原因として最も考えられる部位はどれか。
- a.視床下部・下垂体
- b.甲状腺
- c.副腎皮質
- d.卵巣
- e.子宮
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急激なダイエットで元の体重の15〜20%以上が減少した後に生じた続発性無月経は、体重減少性無月経を考えます。体脂肪の減少によるレプチン低下などを介して視床下部のGnRHパルス分泌が抑制され、下垂体からのLH・FSH、卵巣からのエストロゲンがいずれも低下する視床下部性(低ゴナドトロピン性)無月経であり、原因の主座は視床下部・下垂体です。卵巣性ならFSH・LHが高値となり、子宮性のAsherman症候群では掻爬などの既往とホルモン投与での消退出血欠如が特徴で、甲状腺や副腎の疾患はそれぞれ特有の症状・体重変化から区別します。治療の基本は体重回復で、必要に応じてKaufmann療法や排卵誘発を行い、長期のエストロゲン欠乏による骨密度低下にも注意が必要です。視床下部―下垂体―卵巣―子宮という階層で障害部位を整理する考え方は、あらゆる無月経の診療に通じる基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・23歳女性。初経以来月経は順調であったが、半年前から無月経となった(いったん確立した月経が3か月以上止まった状態であり、続発性無月経に当たる)。 ・1年前からダイエットを始め、体重は10 kg減少(約54 kg→44 kg、元の体重の約18.5%の減少)。現在もダイエットを継続している。 ・身長158 cm、体重44 kgで、BMI(体重kg÷身長m²)は44÷1.58²≒17.6と低体重(18.5未満)である。 ・性格は明るく人間関係も良好と、あえて記載されている。
診断のプロセス
短期間の急激な体重減少のあとに生じた続発性無月経であり、体重減少性無月経が最も考えられる。一般に、数か月のうちに元の体重の15〜20%以上が失われると無月経になりやすいとされ、本症例はこれに合致する。 体重減少性無月経は、神経性やせ症(神経性食欲不振症)に伴うものと、精神疾患を伴わない単純な体重減少によるものに大別される。本症例は性格や対人関係に問題がないことが強調され、ボディイメージの歪みや極端なやせ願望をうかがわせる記載もないため、神経性やせ症の要素は乏しく、ダイエットによる単純性体重減少性無月経と考えられる。
障害部位の考え方
体重減少で脂肪組織が減ると、脂肪細胞から分泌されるレプチンが低下する。エネルギー不足の信号は視床下部に伝わり、GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)のパルス状分泌が抑制される。その結果、下垂体からのLH(黄体形成ホルモン)・FSH(卵胞刺激ホルモン)分泌が低下し、卵巣での卵胞発育とエストロゲン産生が止まり、無月経となる。すなわち原因の主座は視床下部にあり、選択肢の中では「視床下部・下垂体」が該当する。卵巣や子宮そのものには器質的な異常はない。
選択肢考察
- ○a. 視床下部・下垂体
体重減少性無月経は、エネルギー不足やレプチン低下により視床下部のGnRHパルス分泌が抑制されて起こる機能性の視床下部性無月経である。GnRH低下に続いて下垂体からのLH・FSH分泌も低下し、血中LH・FSH・エストラジオールはいずれも低値となる。GnRH負荷試験では、視床下部性であれば下垂体はGnRHに反応してLH・FSHが上昇するのが原則であるが、体重減少が高度・長期の場合は下垂体の反応性も一時的に鈍り、低反応を示すことがある(GnRHの反復投与で反応が回復すれば視床下部性と判断できる)。
- ×b. 甲状腺
甲状腺機能亢進症(Basedow病など)では体重減少と月経異常(過少月経・無月経)をきたすため鑑別には挙がる。しかし本症例の体重減少は意図的なダイエットによるものと説明でき、動悸・発汗・振戦・甲状腺腫など甲状腺中毒症を示す所見の記載もない。甲状腺機能低下症も高プロラクチン血症を介するなどして月経異常をきたしうるが、体重はむしろ増加しやすい。いずれも本症例の原因部位としては考えにくい(実臨床では無月経の初期検査としてTSH・FT4の測定は行う)。
- ×c. 副腎皮質
Cushing症候群では無月経をきたすが、中心性肥満など体重はむしろ増加し、本症例とは合わない。Addison病(慢性原発性副腎皮質機能低下症)では体重減少と月経異常をきたしうるが、全身倦怠感、色素沈着、低血圧、低Na血症などの所見を伴うはずであり、それらの記載はない。また意図的なダイエットという明確な誘因がある。
- ×d. 卵巣
卵巣性無月経には早発卵巣不全(40歳未満で卵巣機能が停止する状態)やTurner症候群などの性腺形成不全があり、この場合は卵巣からのエストロゲン低下に対してFSH・LHが高値となる(高ゴナドトロピン性)。性腺形成不全は原発性無月経のことが多い。本症例はダイエットによる体重減少という明確な誘因があり、卵巣自体には障害がない。
- ×e. 子宮
続発性の子宮性無月経の代表はAsherman症候群(子宮内腔癒着症)であり、人工妊娠中絶や流産後の子宮内容除去術(掻爬)、子宮内膜炎などの既往が誘因となる。本症例にはそのような既往の記載がなく、ダイエットとも関係しない。子宮性無月経ではホルモン分泌は正常であり、エストロゲン・プロゲスチンを投与しても消退出血が起こらないことで診断される。
無月経の分類
・原発性無月経:満18歳になっても初経がないもの ・続発性無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの
障害部位による続発性無月経の分類
・視床下部性:体重減少性無月経、神経性やせ症、心因性(ストレス性)無月経、過度の運動による無月経など。最も頻度が高い。 ・下垂体性:Sheehan症候群(分娩時大量出血後の下垂体壊死)、下垂体腫瘍、高プロラクチン血症など ・卵巣性:早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)など ・子宮性:Asherman症候群など ・その他:甲状腺機能異常、副腎疾患、薬剤性など
無月経の重症度評価(プロゲスチン試験)
・第1度無月経:プロゲスチン(黄体ホルモン)単独投与で消退出血が起こる。ある程度のエストロゲン分泌が保たれている。 ・第2度無月経:プロゲスチン単独では出血せず、エストロゲンとプロゲスチンの併用で初めて消退出血が起こる。エストロゲン分泌が著しく低下している。 体重減少が高度で長期に及ぶ体重減少性無月経では、エストロゲンが低下し第2度無月経となることが多い。
体重減少性無月経の要点
・機序:体重・体脂肪の減少→レプチン低下などを介して視床下部のGnRHパルス分泌が抑制→LH・FSH低下→卵巣でのエストロゲン産生低下→無月経 ・検査所見:LH・FSH低値(特にLHの低下が目立つ)、エストロゲン低値 ・治療:まず体重の回復が基本である。体重が回復すれば月経も回復することが多いが、時間がかかる。挙児希望がなければKaufmann療法(エストロゲン・プロゲスチンの周期的投与)でホルモンを補う。挙児希望があればゴナドトロピン療法などで排卵を誘発する。 ・合併症:エストロゲン欠乏状態が続くと骨密度が低下し、若年でも骨粗鬆症のリスクが高まる。
神経性やせ症との区別
神経性やせ症では、体重が著しく低いにもかかわらず、体重増加への強い恐怖、ボディイメージの歪み(やせていても太っていると感じる)、病識の欠如がみられる。低体温、徐脈、低血圧、うぶ毛の増加などの身体所見を伴うことも多い。本症例は精神面の問題がない点が強調されており、単純性の体重減少性無月経と考えられる。
POINT
・短期間で元の体重の15〜20%以上減少すると、無月経をきたしやすい(体重減少性無月経)。 ・体重減少性無月経は視床下部性(GnRHパルス分泌の抑制)の続発性無月経であり、LH・FSH・エストロゲンは低値となる。 ・卵巣性無月経ではFSH・LHが高値(高ゴナドトロピン性)となる点と区別する。 ・続発性子宮性無月経の代表はAsherman症候群(子宮内容除去術などの既往)。 ・治療の基本は体重回復。長期のエストロゲン欠乏は骨密度低下を招く。
