「食べられない」か「燃えすぎる」か―やせをきたす内分泌疾患を2本の軸で見抜く
第105回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
やせをきたすのはどれか。3つ選べ。
- a.Addison病
- b.褐色細胞腫
- c.甲状腺機能亢進症
- d.原発性アルドステロン症
- e.原発性副甲状腺機能亢進症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
やせ(体重減少)の機序は「摂取エネルギーの減少」と「消費エネルギーの増加」の2本立てで考えると整理しやすくなります。甲状腺機能亢進症と褐色細胞腫は、それぞれ甲状腺ホルモンとカテコラミンの過剰によって基礎代謝が亢進し、食べていてもやせるのが特徴です。Addison病はコルチゾール不足による食欲不振・消化器症状とアルドステロン不足による脱水で体重が減り、ACTH上昇による色素沈着が重要な手がかりになります。一方、原発性アルドステロン症は高血圧と低カリウム血症、原発性副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症が主体で、やせは典型的な所見ではありません。Cushing症候群やインスリノーマなど肥満をきたす疾患と対にして理解しておくと、体重変化を訴える患者の鑑別で内分泌疾患を見逃さない力につながります。
解答・解説
正解はa, b, cです
内分泌疾患は、ホルモンの過不足によってエネルギー代謝・食欲・脂肪蓄積のバランスが崩れるため、体重の増減(肥満またはやせ)を伴いやすい。本問は「やせ(体重減少)をきたす代表的な内分泌疾患」を選ぶ問題である。 体重が減る仕組みは大きく2つに整理できる。 1. 摂取エネルギーの減少:食欲不振・悪心・嘔吐・下痢などで食べられない、あるいは吸収できない(例:副腎皮質機能低下症)。 2. 消費エネルギーの増加:基礎代謝が高まり、摂取しても消費が上回る(例:甲状腺ホルモンやカテコラミンの過剰)。 この2つの軸で各疾患を考えると、Addison病(1の機序)、褐色細胞腫・甲状腺機能亢進症(2の機序)が典型的なやせをきたす疾患として選ばれる。一方、原発性アルドステロン症と原発性副甲状腺機能亢進症は、主症状が電解質異常(低カリウム血症、高カルシウム血症)と高血圧・骨病変などであり、やせは特徴的所見ではない。
選択肢考察
- ○a. Addison病
Addison病は副腎皮質そのものが障害されて起こる原発性の慢性副腎皮質機能低下症である。コルチゾール不足により食欲不振・悪心・嘔吐・下痢などの消化器症状が出現し、糖新生の低下もあって全身倦怠感とともに体重が減少する。さらにアルドステロン不足によるナトリウム・水の喪失(脱水)も体重減少に加わる。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の代償性上昇による皮膚・口腔粘膜の色素沈着、低血圧、低ナトリウム血症・高カリウム血症、低血糖も特徴であり、やせと色素沈着の組み合わせは本症を想起させる重要な手がかりである。
- ○b. 褐色細胞腫
褐色細胞腫は副腎髄質(または傍神経節)のクロム親和性細胞から発生し、カテコラミン(アドレナリン・ノルアドレナリン)を過剰に分泌する腫瘍である。カテコラミンは交感神経系を介して熱産生・脂肪分解・グリコーゲン分解を促し基礎代謝を亢進させるため、体重減少をきたす。古典的には「5H」と呼ばれる高血圧(Hypertension)、代謝亢進(Hypermetabolism)、高血糖(Hyperglycemia)、頭痛(Headache)、発汗過多(Hyperhidrosis)が知られ、動悸・振戦なども伴う。代謝亢進の結果としてのやせは本症の典型的所見の一つである。
- ○c. 甲状腺機能亢進症
甲状腺ホルモン(T3・T4)は全身の細胞の酸素消費と熱産生を高めるホルモンであり、過剰になると基礎代謝が著しく亢進する。そのため食欲はむしろ増進しているにもかかわらず、消費が摂取を上回って体重が減少する(「よく食べるのにやせる」が特徴)。加えて腸管運動亢進による排便回数増加も関与する。ほかに動悸・頻脈、発汗過多、暑がり、手指振戦、易疲労感などを伴う。代表的な原因疾患はBasedow病(Graves病)であり、Plummer病(中毒性結節性甲状腺腫)でも同様にやせをきたす。なお、高齢者では食欲がむしろ低下し、体重減少と無気力が前景に立つ病型(無欲状甲状腺機能亢進症)もある。
- ×d. 原発性アルドステロン症
原発性アルドステロン症は副腎皮質の腺腫や過形成からアルドステロンが自律的に過剰分泌される疾患である。腎集合管でのナトリウム再吸収とカリウム排泄が亢進し、高血圧・低カリウム血症・代謝性アルカローシスをきたす。血漿レニン活性は抑制される。症状は高血圧に関連するもののほか、低カリウム血症による筋力低下・四肢麻痺、多尿・夜間尿などであり、代謝を亢進させたり食欲を著しく落としたりする作用はないため、やせは特徴的な所見ではない。
- ×e. 原発性副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能亢進症は副甲状腺の腺腫(最多)・過形成・癌からPTH(副甲状腺ホルモン)が過剰分泌される疾患で、高カルシウム血症と低リン血症をきたす。症状は骨病変(骨粗鬆症、線維性骨炎)、尿路結石、消化性潰瘍、膵炎、多尿・口渇、精神症状などであり、現在は無症状で血液検査の高カルシウム血症から見つかる例が多い。高度の高カルシウム血症では食欲不振・悪心が生じうるが、代表的な症候として体重減少が挙げられる疾患ではなく、本問の「やせをきたす疾患」には該当しない。
内分泌疾患と体重変化の整理
<やせをきたす主な疾患> ・甲状腺機能亢進症(Basedow病、Plummer病など):代謝亢進 ・褐色細胞腫:カテコラミンによる代謝亢進 ・Addison病(慢性副腎皮質機能低下症):食欲低下・消化器症状・脱水 ・下垂体機能低下症(Sheehan症候群など):ACTH・TSH低下による副腎・甲状腺機能低下を背景とした食欲低下、全身衰弱 ・コントロール不良の糖尿病:尿糖によるエネルギー喪失と脂肪・蛋白の異化 <肥満をきたす主な疾患> ・Cushing症候群:中心性肥満(満月様顔貌、野牛肩) ・インスリノーマ:低血糖を避けるための過食 ・甲状腺機能低下症:代謝低下と粘液水腫による体重増加 ・偽性副甲状腺機能低下症(Albright遺伝性骨異栄養症を伴う病型):肥満、低身長、円形顔貌、中手骨短縮 ・視床下部性肥満、多嚢胞性卵巣症候群など
Addison病と続発性副腎不全の違い
原発性のAddison病ではACTHが上昇するため色素沈着がみられ、アルドステロンも低下するため高カリウム血症を伴う。下垂体性(続発性)副腎不全ではACTHが低いため色素沈着はなく、アルドステロンはレニン-アンジオテンシン系で維持されるため高カリウム血症は目立たない。
POINT
・やせの機序は「摂取の減少」と「消費の増加」の2本立てで考える。 ・代謝亢進でやせる:甲状腺機能亢進症、褐色細胞腫。 ・食欲低下・消化器症状でやせる:Addison病、下垂体機能低下症。 ・原発性アルドステロン症は高血圧+低カリウム血症、原発性副甲状腺機能亢進症は高カルシウム血症が主体で、やせは典型的でない。 ・肥満をきたす内分泌疾患(Cushing症候群、インスリノーマ、甲状腺機能低下症など)と対にして覚える。
