StudyMed医師国家試験

むくみは妊娠のサイン?―ホルモンで読み解く妊娠初期の徴候

第105回医師国家試験 G問題 第16問

国試問題にチャレンジ

第105回 G問題 第16問

妊娠を疑う所見でないのはどれか。

  1. a.浮腫
  2. b.無月経
  3. c.乳房腫大
  4. d.悪心・嘔吐
  5. e.皮膚色素沈着

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は「妊娠を疑う所見」を問う問題だ。ポイントは、妊娠が成立した直後の体の中でどんなホルモン変化が起きていて、それがどんな症状として現れるか。そして「妊娠中にみられること」と「妊娠を疑うきっかけになること」は別物だ、という視点も大切だよ。
医学生医学生
選択肢はどれも妊婦さんにありそうなものばかりで、正直どれも当てはまる気がしてしまいます。
ドクタードクター
そう感じるのは自然だね。だからこそ、まず仕組みから整理しよう。受精卵が着床すると、絨毛からhCGが分泌される。このhCGが黄体を維持するので、エストロゲンとプロゲステロンが高い状態で保たれるんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、妊娠しないと黄体が退縮してホルモンが下がり、月経が来ると習いました。それが起こらないということですね。
ドクタードクター
その通り。だから無月経は、妊娠を疑う最も重要な所見なんだ。臨床では、性成熟期の女性が無月経を訴えたら、まず妊娠を否定するのが鉄則。尿中hCG検査はその第一歩だね。
医学生医学生
臨床実習の救急外来で、腹痛の若い女性にはまず妊娠反応を確認するよう指導されました。
ドクタードクター
大事な習慣だよ。次は乳房腫大。エストロゲンが乳管を、プロゲステロンが腺房の発育を促すので、妊娠初期から乳房が張ったり、痛みを感じたりする。乳輪のモントゴメリー腺が目立ってくることもある。
医学生医学生
悪心・嘔吐はつわりですよね。これもhCGと関係があるんでしょうか。
ドクタードクター
そう考えられている。つわりは妊娠5〜6週頃に始まり、hCGがピークとなる8〜10週頃に最も強くなり、12〜16週頃までに自然に軽快することが多い。脱水や体重減少、ケトン尿を伴うほど重いと妊娠悪阻として、輸液やビタミンB1補充などで治療する。
医学生医学生
皮膚の色素沈着も妊娠初期から出るんですか?ちょっと意外でした。
ドクタードクター
エストロゲン・プロゲステロンの増加やMSH様の作用でメラニン産生が高まるんだ。乳頭・乳輪や外陰部、腋窩など、もともと色素の多い部位が濃くなるし、腹部の正中線が黒っぽくなったり、顔に肝斑が出たりもする。これも妊娠を推測する手がかりになる。
医学生医学生
となると、残る浮腫が答えでしょうか。でも、妊婦さんの足がむくむのはよく聞きますよね。
ドクタードクター
いい疑問だね。たしかに妊娠中の浮腫は多くの人にみられる。ただしそれは主に妊娠後半に、大きくなった子宮が下大静脈や骨盤内の静脈を圧迫したり、循環血漿量の増加で膠質浸透圧が相対的に下がったりして起こるものだ。妊娠に気づく前の時期に出る徴候ではないんだよ。
医学生医学生
なるほど。それに浮腫は心不全や腎疾患、肝疾患、甲状腺機能低下症でも起こるので、妊娠に特異的とはいえませんね。
ドクタードクター
その通り。だから「妊娠を疑う所見でない」のは浮腫になる。ちなみに、昔の妊娠中毒症では浮腫・蛋白尿・高血圧が三主徴とされていたけれど、現在の妊娠高血圧症候群の定義には浮腫は含まれていない。古い知識で覚えている人もいるから注意してね。
医学生医学生
妊娠徴候には、ほかにどんなものがありますか。
ドクタードクター
自覚症状なら頻尿や倦怠感・眠気、基礎体温の高温相が3週間以上続くことも妊娠を示唆する。他覚所見では、子宮峡部が軟らかくなるヘガール徴候、腟壁や子宮腟部が暗紫色になるリビド着色がある。そして確実な徴候、つまり確徴は、経腟超音波での子宮内の胎嚢や胎児心拍の確認、ドプラでの胎児心音の聴取などだ。
医学生医学生
妊娠反応が陽性でも、それだけでは確定ではないんですね。
ドクタードクター
そう。hCG陽性だけでは、正常妊娠か異所性妊娠か、胞状奇胎かは区別できない。だから超音波で子宮内の胎嚢を確認することが重要なんだ。疑う所見と確定する所見を分けて整理しておくと、臨床でも試験でも迷わなくなるよ。

まとめ

妊娠が成立すると、hCGによって黄体が維持され、エストロゲン・プロゲステロンが高値に保たれます。その結果として現れる無月経、乳房腫大、つわり(悪心・嘔吐)、皮膚の色素沈着は、妊娠を疑うきっかけとなる初期徴候です。一方、浮腫は主に妊娠後半に子宮による静脈圧迫や循環血漿量の増加で生じるもので、初期徴候ではなく、心・腎・肝疾患などでもみられる非特異的な所見です。なお、現在の妊娠高血圧症候群の定義に浮腫は含まれません。性成熟期女性の無月経ではまず妊娠を除外し、妊娠の確定は超音波での胎嚢・胎児心拍の確認で行う、という流れを押さえておくことが、産婦人科に限らず日常診療の安全につながります。

解答・解説

正解はaです

【テーマ】妊娠初期に出現する徴候(妊娠徴候)を問う問題である。

考え方

妊娠が成立すると、胎盤(絨毛)から産生されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)により黄体が維持され、エストロゲンとプロゲステロンが持続的に高値となる。この内分泌環境の変化が、月経の停止、乳房の腫大・緊満、つわり(悪心・嘔吐)、皮膚の色素沈着といった妊娠初期の症状・所見を生み出す。これらは多くが妊娠に気づくきっかけとなり、『妊娠を疑う所見』として扱われる。 一方、浮腫は妊娠中に出現することはあるが、主に妊娠後半に増大した子宮による静脈還流障害や循環血液量の増加によって生じるもので、妊娠初期に妊娠を推測させる徴候ではない。また浮腫は心不全、腎疾患、肝疾患、甲状腺機能低下症など多くの疾患でもみられ、妊娠に特異的でもない。したがって『妊娠を疑う所見でない』ものとして浮腫を選ぶ。

妊娠徴候の分類

妊娠徴候は、本人が自覚する症状(無月経、つわり、乳房緊満感、頻尿、胎動の自覚など)と、診察で確認される他覚所見(子宮の増大・軟化、腟壁や子宮腟部の着色、色素沈着など)に分けて整理される。さらに、胎児の存在を直接確認できる所見(超音波での胎嚢・胎児心拍、胎児心音の聴取、胎児部分の触知)は妊娠の確徴とされる。

選択肢考察

  1. ○a.  浮腫

    妊娠を疑う所見ではなく、これが正解である。妊娠中、特に妊娠後期には、増大した子宮が下大静脈や骨盤内静脈を圧迫して下肢の静脈圧が上がること、循環血漿量が増加し血漿膠質浸透圧が相対的に低下することなどから、下腿を中心とする生理的な浮腫が多くの妊婦にみられる。しかしこれは妊娠が進んでから現れるもので、妊娠に気づく手がかりとなる初期徴候ではない。また浮腫は心・腎・肝疾患などでも生じ、妊娠に特異的でもない。なお、かつて妊娠中毒症は浮腫・蛋白尿・高血圧を三主徴としていたが、現在の妊娠高血圧症候群の定義では浮腫は診断項目に含まれていない。

  2. ×b.  無月経

    妊娠を疑う最も重要な所見である。妊娠が成立するとhCGによって黄体が維持され、エストロゲン・プロゲステロンが高値に保たれるため、子宮内膜の剥脱(月経)が起こらなくなる。性成熟期の女性が無月経を訴えた場合、原因検索の第一歩としてまず妊娠を否定する必要がある(尿中hCG検査など)。これは臨床上きわめて重要な原則である。

  3. ×c.  乳房腫大

    妊娠を疑う所見である。妊娠初期からエストロゲンが乳管の発育を、プロゲステロンが腺房(乳腺小葉)の発育を促し、さらにプロラクチンやヒト胎盤性ラクトゲン(hPL)も関与して、乳房は腫大し、張り(緊満感)や圧痛を自覚するようになる。乳頭・乳輪の増大、乳輪部のモントゴメリー腺(乳輪腺)の隆起もみられる。

  4. ×d.  悪心・嘔吐

    妊娠を疑う所見である。いわゆるつわり(悪心、嘔吐、食欲不振、嗜好の変化など)は、多くは妊娠5~6週頃に始まり、hCGが高値となる妊娠8~10週頃にピークを迎え、妊娠12~16週頃までに自然に軽快することが多い。hCGやエストロゲンの上昇が関与すると考えられている。症状が強く、脱水や体重減少、ケトン尿などを伴う場合は妊娠悪阻として治療(輸液、ビタミンB1補充など)の対象となる。

  5. ×e.  皮膚色素沈着

    妊娠を疑う所見である。妊娠中はエストロゲン・プロゲステロンの増加や、メラニン細胞刺激ホルモン(MSH)様作用などによりメラニン産生が亢進し、乳頭・乳輪、外陰部(大陰唇・会陰)、腋窩などにもともと色素の多い部位で色素沈着が目立つようになる。腹部正中線の色素沈着(妊娠線条とは別の正中黒線)や顔面の肝斑も妊娠に伴ってみられる。

妊娠徴候の整理

1.自覚症状 ・無月経(最初に気づくことが多い) ・つわり(悪心・嘔吐、食欲不振、嗜好の変化) ・乳房の緊満感・圧痛 ・頻尿(増大した子宮による膀胱の圧迫) ・全身倦怠感、眠気(プロゲステロンの作用) ・胎動の自覚(初産婦で妊娠18~20週頃、経産婦ではやや早い) 2.他覚所見 ・子宮の増大・軟化(子宮峡部が特に軟らかくなり、双合診で子宮体部と頸部が離れているように感じられるものをヘガール徴候という) ・子宮の非対称な膨隆(着床部位が膨らむピスカチェック徴候) ・腟壁・子宮腟部の暗紫色の着色(リビド着色、チャドウィック徴候):血流増加とうっ血による ・乳房の腫大、乳輪の色素沈着、モントゴメリー腺の隆起 ・皮膚の色素沈着(正中線、外陰部、肝斑) ・基礎体温の高温相の持続(3週間以上続けば妊娠の可能性が高い) 3.確実な徴候(確徴) ・経腟超音波での子宮内胎嚢(GS)の確認(妊娠5週前後)、胎児心拍の確認(妊娠6週前後) ・胎児心音の聴取(ドプラ法で妊娠10~12週頃から) ・胎児部分の触知、胎動の他覚的確認

補足:妊娠反応

尿中hCG検査は市販の妊娠検査薬でも予定月経の頃(妊娠4週頃)から陽性となりうる。ただしhCG陽性だけでは正常妊娠か異所性妊娠か、胞状奇胎かは区別できないため、超音波検査で子宮内の胎嚢を確認することが重要である。

POINT

・妊娠初期の徴候は、hCGによる黄体維持とエストロゲン・プロゲステロン上昇で説明できる:無月経、乳房腫大、つわり、色素沈着、基礎体温高温相の持続など。 ・性成熟期女性の無月経では、まず妊娠を除外する。 ・浮腫は妊娠後期に生理的にもみられるが、妊娠を疑わせる初期徴候ではなく非特異的。 ・現在の妊娠高血圧症候群の定義に浮腫は含まれない。 ・妊娠の確定は超音波での胎嚢・胎児心拍の確認による。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。