幻覚が消えたその後に―統合失調症の回復期リハビリは「薬」と「人づきあい」
第105回医師国家試験 E問題 第57問
国試問題にチャレンジ
30歳の男性。精神科病棟に入院中である。数年前から家に引きこもりがちの生活を送っていた。2か月前に幻覚妄想状態を示したため入院となったが,薬物療法で改善した。最近は落ち着いているものの,表情は乏しく,ほとんど一日中臥床している。他人との交流はほとんどみられない。 この患者のリハビリテーションの課題として適切なのはどれか。2つ選べ。
- a.服薬の自己管理
- b.否定的感情の修正
- c.無意識的葛藤の評価
- d.あるがままの受け入れ
- e.コミュニケーション技能の習得
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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医学生
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ドクター
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ドクターまとめ
幻覚妄想が抗精神病薬で改善した後も、感情の平板化・無為・社会的引きこもりといった陰性症状が残る統合失調症の回復期では、再発予防と社会復帰に向けたリハビリテーションが中心となります。再発の最大の要因は服薬中断であるため、心理教育を通じた服薬の自己管理が重要で、対人技能の低下には生活技能訓練(SST)によるコミュニケーション技能の習得が有効です。否定的感情の修正は認知療法、無意識的葛藤の評価は精神分析療法、「あるがまま」は森田療法の概念で、主にうつ病や神経症性障害が対象であり、統合失調症のリハビリの課題とはなりません。家族の感情表出への介入、作業療法、デイケアや就労支援なども含めて、急性期後の包括的な支援を理解しておくことは、精神科臨床の基本となります。
解答・解説
正解はa, eです
所見の整理
・30歳男性。数年前から引きこもりがちの生活が続いていた(前駆期・発症前からの社会的機能の低下と考えられる)。 ・2か月前に幻覚妄想状態となって入院し、抗精神病薬による薬物療法で幻覚妄想は改善した。 ・現在は落ち着いているが、表情が乏しい(感情の平板化)、ほぼ一日中臥床している(意欲低下・無為)、他者との交流がほとんどない(社会的引きこもり・自閉)。
診断へのプロセス
若年成人で、社会的機能の低下が先行したのちに幻覚妄想が出現し、抗精神病薬で陽性症状が改善したという経過は統合失調症に典型的である。現在は幻覚妄想などの陽性症状は目立たず、感情の平板化・意欲低下・社会的引きこもりといった陰性症状が前景に立っている。気分障害(うつ病)でも臥床や交流減少はみられるが、幻覚妄想状態が先行し抗精神病薬で改善した経過、抑うつ気分や罪責感の記載がないことから、陰性症状の優位な統合失調症の回復期と考えるのが妥当である。
設問の考え方
統合失調症の治療は、急性期の薬物療法で症状を鎮めるだけでは完結しない。再発を防ぎ、退院後に地域で生活していくための能力を取り戻すことが回復期以降の目標となる。そのため問われている「リハビリテーションの課題」としては、(1) 再発予防の要である服薬を自分で継続できるようにすること、(2) 陰性症状や長期の引きこもりで損なわれた対人関係・社会生活の技能を身につけ直すこと、の2点が中心となる。一方、選択肢には認知療法・精神分析療法・森田療法といった、主に神経症性障害やうつ病を対象とする精神療法の概念が含まれており、これらは統合失調症のリハビリテーションの課題としては適切でない。
選択肢考察
- ○a. 服薬の自己管理
統合失調症の再発の最大の要因は服薬の中断であり、抗精神病薬の継続は再発予防の基本である。入院中は看護師の管理下で内服できても、退院後は患者自身が服薬を続けなければならない。そのため、病気と薬の作用・副作用についての心理教育を行い、病識を育てたうえで、薬を自分で管理して飲み忘れを防ぐ練習(自己管理への段階的な移行)を入院中から行うことは重要なリハビリテーションの課題である。生活技能訓練(SST)にも服薬自己管理のモジュールが含まれている。
- ×b. 否定的感情の修正
否定的な感情や、それを生み出す偏った考え方(自動思考・認知の歪み)を見直して修正していくのは、主に認知療法・認知行動療法の手法であり、うつ病や不安症(パニック症、社交不安症など)がよい適応である。本例で問題となっているのは否定的感情の強さではなく、感情の平板化や意欲低下といった陰性症状と社会生活技能の低下であり、リハビリテーションの課題として適切ではない。なお統合失調症に対しても認知行動療法が補助的に用いられることはあるが、それは主に持続する幻覚妄想への対処を目的とするものである。
- ×c. 無意識的葛藤の評価
本人が意識していない心の葛藤を明らかにして意識化し、洞察を得ることを目指すのは精神分析療法(精神力動的精神療法)の考え方で、主に神経症性障害を対象としてきた。統合失調症、とくに回復期の患者に対して深層の葛藤を掘り下げる介入は、自我の脆弱性から症状を悪化させるおそれがあり、一般に行われない。リハビリテーションの課題として不適切である。
- ×d. あるがままの受け入れ
「あるがまま」は森田療法の中心的な概念である。森田療法は、不安や症状を排除しようとするほどそれにとらわれてしまう悪循環(精神交互作用)から抜け出すため、症状や不安をそのまま受け入れつつ、なすべき行動に取り組むことを促す日本独自の精神療法で、主に神経質(不安症・強迫症などの神経症性障害)を適応とする。統合失調症の陰性症状や社会生活技能の低下に対するリハビリテーションの課題ではない。
- ○e. コミュニケーション技能の習得
本例は他者との交流がほとんどなく、長期の引きこもりと陰性症状によって対人関係の技能が損なわれていると考えられる。こうした患者に対しては、生活技能訓練(SST:social skills training)により、挨拶・会話・頼みごとや断り方・困ったときの相談の仕方などを、ロールプレイと正のフィードバックを通じて具体的に練習する。コミュニケーション技能を身につけることは、退院後の家庭生活・就労・地域での支援者との関係づくりに直結し、ストレスへの対処能力を高めて再発予防にもつながるため、適切な課題である。
統合失調症の症状
・陽性症状:幻覚(とくに幻聴)、妄想、まとまりのない会話・行動など。抗精神病薬が比較的よく効く。 ・陰性症状:感情の平板化、思考の貧困、意欲低下(無為)、快感消失、社会的引きこもり(自閉)など。薬物療法の効果が限られ、社会生活上の障害の主因となる。 ・認知機能障害:注意・記憶・遂行機能の低下など。
病期と治療の流れ
前駆期(引きこもり、不眠、集中力低下など)→ 急性期(陽性症状が活発)→ 休息期(消耗状態で臥床がちとなる)→ 回復期(徐々に活動性が戻る)と経過することが多い。急性期は薬物療法と安全の確保が中心で、回復期以降は再発予防と社会復帰に向けた心理社会的治療の比重が大きくなる。
精神科リハビリテーションの主な方法
・心理教育:病気・治療・再発の早期徴候について本人と家族が理解する。服薬アドヒアランス(患者が治療方針を理解し主体的に服薬を続けること)の向上に役立つ。 ・家族心理教育:家族の感情表出(EE:expressed emotion)、すなわち批判的な言動や過度の感情的巻き込みが強いと再発率が高いことが知られており、家族の対応を支援する。 ・生活技能訓練(SST):認知行動療法の理論に基づき、対人技能・服薬自己管理・症状自己管理などをロールプレイで練習する。 ・作業療法、レクリエーション療法:生活リズムの回復、意欲・集中力・対人交流の改善を図る。 ・デイケア、就労支援、グループホームなどの地域生活支援。
他の精神療法とその主な適応
・認知療法/認知行動療法:うつ病、不安症、強迫症など。 ・精神分析療法(精神力動的精神療法):神経症性障害、パーソナリティの問題など。 ・森田療法:神経質(不安症、強迫症など)。 ・内観療法:自己の対人関係を振り返る日本独自の技法。アルコール依存症などに応用される。
POINT
・引きこもりの先行→幻覚妄想→抗精神病薬で改善→感情平板化・無為・自閉が残存、は陰性症状の目立つ統合失調症の回復期である。 ・統合失調症の再発の最大要因は服薬中断であり、服薬の自己管理と心理教育が再発予防の柱である。 ・陰性症状や社会生活技能の低下にはSST(生活技能訓練)でコミュニケーション技能などを練習する。 ・否定的感情(認知)の修正は認知療法、無意識的葛藤は精神分析療法、「あるがまま」は森田療法の概念で、主にうつ病や神経症性障害が対象である。
