目の点状出血が語る最期―溢血点を強くするのは「静脈だけが止まる」死
第105回医師国家試験 E問題 第35問
国試問題にチャレンジ
死体の眼瞼結膜に溢血点が強く発現する死因はどれか。2つ選べ。
- a.溺水
- b.絞頸
- c.脳動脈瘤破裂
- d.急性心筋梗塞
- e.胸腹部圧迫による窒息
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
溢血点は眼瞼結膜や顔面皮膚、漿膜下に生じる針先大の点状出血で、低酸素による血管壁の障害と静脈うっ血によって生じ、急死一般にみられる所見です。特に強く出るのは、動脈からの流入が保たれたまま頭頸部の静脈還流だけがせき止められる死因で、絞頸や胸腹部圧迫による窒息(外傷性窒息)が代表例です。これに対し、動脈まで一気に閉塞する定型的縊頸では顔面は蒼白で溢血点は乏しく、溺水や脳動脈瘤破裂・急性心筋梗塞などの内因死でも強くは出ません。溺死の診断には泡沫液、溺死肺、錐体内出血、プランクトン検査が重視されます。所見を「なぜ生じるか」という機序から理解することは、検案で死因や死亡の状況を正しく推定するための基礎になります。
解答・解説
正解はb, eです
溢血点(いっけつてん)とは、眼瞼結膜・眼球結膜や顔面皮膚、胸膜・心外膜などの粘膜・漿膜下に生じる針先大の点状出血である。法医解剖や検案で急死、とくに窒息死を推定する手がかりの一つとされる。 溢血点ができる主な要因は次の3つである。 1. 静脈還流が妨げられ、毛細血管の内圧が急に上がること(うっ血) 2. 低酸素によって毛細血管壁が傷み、透過性が高まること 3. 窒息時のけいれん・努力呼吸に伴って胸腔内圧や静脈圧が大きく変動すること 低酸素はどんな死因の急死でも多少は起こる。したがって、溢血点がどれだけ強く出るかは、頭頸部の静脈血が心臓へ戻れなくなる程度(上大静脈系のうっ血の強さ)で大きく変わる。 この観点で選択肢を見る。頸部の静脈だけが圧迫され、動脈からの流入は保たれる絞頸と、胸郭の圧迫で上大静脈系の還流が物理的にせき止められる胸腹部圧迫による窒息(外傷性窒息)では、頭頸部に強いうっ血が生じる。そのため顔面は暗赤紫色に腫れ、眼瞼結膜に多数の溢血点がみられる。一方、溺水・脳動脈瘤破裂・急性心筋梗塞は、急死に伴って溢血点が出ることはあるものの、頭頸部の静脈還流を直接せき止める機序がないため、強く出るとはいえない。
選択肢考察
- ×a. 溺水
溺水は、気道に水を吸い込むことによる窒息である。低酸素によって溢血点が出ることはあるが、頸部や胸郭が外から圧迫されるわけではないので、頭頸部の静脈還流は保たれ、うっ血は強くない。また、水中では死後に血液が顔面へ移動しにくく、腐敗も修飾するため、溺死体の眼瞼結膜の溢血点はむしろ少ないか目立たないことが多い。溺死の診断には、口や鼻の周りの白く細かい泡(泡沫液)、肺が水を含んで膨らむ溺死肺(水性肺気腫)、錐体内出血、臓器のプランクトン(珪藻)検査などが重視される。
- ○b. 絞頸
絞頸(こうけい)は、ひもなどを首に巻き付け、体重以外の力(他人の手や器具)で絞める窒息である。頸静脈は壁が薄く低い圧でつぶれるため、真っ先に閉塞する。一方、頸動脈、とくに頸椎の中を通る椎骨動脈は完全には閉塞しにくく、頭部への血液流入はしばらく続く。流入は続くのに流出が止まるので、頭頸部の毛細血管内圧が急に上がり、顔面のうっ血・腫脹・チアノーゼとともに眼瞼結膜に溢血点が強く現れる。これに対し、体重がかかって頸動脈・椎骨動脈まで一気に閉塞する定型的縊頸(首吊り)では、顔面は蒼白でうっ血・溢血点は乏しいことが多い。この違いは頻出の対比である。
- ×c. 脳動脈瘤破裂
脳動脈瘤破裂は、主にくも膜下出血(SAH)を起こして急死の原因になる内因死である。急死一般の所見として軽い溢血点がみられることはあるが、頸部や胸郭が外から圧迫されるわけではなく、頭頸部の静脈還流も妨げられない。そのため、溢血点が特に強く現れる死因ではない。診断は解剖でのくも膜下腔の出血と、破裂した動脈瘤の確認による。
- ×d. 急性心筋梗塞
急性心筋梗塞は、致死性不整脈(心室細動など)や心破裂によって急死を起こす代表的な内因死である。死に至る過程で低酸素やうっ血が生じ、溢血点が出ることもあるが、頭頸部の静脈還流を選んでせき止める機序はなく、強く出るとはいえない。
- ○e. 胸腹部圧迫による窒息
土砂や重量物の下敷き、群衆の将棋倒しなどで胸腹部が強く押さえられると、胸郭や横隔膜が動けなくなり、呼吸ができずに窒息する(外傷性窒息、Perthes症候群ともいう)。同時に胸腔内圧が急上昇し、上大静脈から右心房への血液の戻りがせき止められる。頸静脈や上大静脈には静脈弁がほとんどないため、高い圧がそのまま頭頸部へ逆流して強いうっ血を起こす。その結果、顔面から頸部・上胸部にかけて暗赤紫色のうっ血(チアノーゼ)と腫脹が生じ、眼瞼結膜や顔面皮膚に溢血点が多数、強く現れる。うっ血の範囲が圧迫部位より上にはっきり分かれて出るのが特徴である。
溢血点の性状
・粘膜、漿膜、皮膚にみられる針先大から粟粒大の点状出血である。眼瞼結膜、眼球結膜、顔面皮膚、口腔粘膜のほか、解剖では胸膜下・心外膜下にもみられる(胸膜下・心外膜下の点状出血はTardieu斑と呼ばれる)。 ・窒息死に特有の所見ではなく、急死一般(急死の三徴:暗赤色流動性血液、臓器のうっ血、粘膜・漿膜下の溢血点)の一つである。 ・頭頸部の静脈還流が障害されると、とくに強く出る。
窒息の種類と顔面所見の目安
・絞頸:顔面のうっ血・溢血点は強い。索溝(ひもの跡)はほぼ水平で、首を一周し、深さもほぼ均一。 ・扼頸(手で首を絞める):うっ血・溢血点は強い。頸部に指の跡の変色(扼痕)や爪痕がみられる。 ・定型的縊頸:頸動脈・椎骨動脈まで一気に閉塞するため、顔面は蒼白で溢血点は乏しい。索溝は結び目の方向へ斜めに上がり、首を一周しない。 ・非定型的縊頸(足が床に着いている等):静脈優位の閉塞になり、うっ血・溢血点が出やすい。 ・胸腹部圧迫(外傷性窒息):圧迫部より上の顔面・頸部に強いうっ血・溢血点が出る。 ・鼻口部閉塞、気道内異物:急性窒息の所見として溢血点は出るが、頸部の圧迫を伴う窒息ほど強くはない。 ・溺水:泡沫液、溺死肺、錐体内出血、プランクトン検査が診断の中心で、溢血点は目立たないことが多い。
急性窒息の経過
窒息はおおむね、前駆期(呼吸困難)→ 呼吸困難期(吸気性から呼気性へ)→ けいれん期 → 無呼吸期 → 終末呼吸期と進む。けいれん期の急激な血圧上昇や静脈圧の変動が、溢血点ができる一因となる。
POINT
・溢血点は急死一般でみられるが、頭頸部の静脈還流がせき止められる死因で特に強く出る。 ・強く出る死因:絞頸、扼頸、胸腹部圧迫による窒息(外傷性窒息)、非定型的縊頸。 ・定型的縊頸は動脈まで一気に閉塞するため、顔面は蒼白で溢血点は乏しい(絞頸との対比が頻出)。 ・溺水、脳血管障害や心疾患による内因性急死では、溢血点は強くない。
