StudyMed医師国家試験

脳卒中はなぜ減ったのか―死亡率グラフが示す降圧治療の力

第105回医師国家試験 E問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第105回 E問題 第29問

 65歳以上の高齢者の主な死因別死亡率の推移の図を示す。  矢印で示す死因の減少と最も関係する治療薬はどれか。

第105回 E問題 第29問の問題画像
  1. a.降圧薬
  2. b.抗菌薬
  3. c.抗腫瘍薬
  4. d.糖尿病治療薬
  5. e.脂質異常症治療薬

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、高齢者の死因別死亡率の推移グラフから、矢印の死因が何かを読み取り、その減少に最も貢献した治療薬を考える問題だ。ポイントは2つ。グラフの形から死因を特定すること、そしてその死因の最大の危険因子は何かを考えることだよ。
医学生医学生
ずっと下がり続けて、最後は悪性新生物と心疾患に次ぐ3番目になっている線ですね。昔は上位だった死因というと、結核でしょうか。
ドクタードクター
結核を思い浮かべるのは自然だけど、結核が第1位だったのは1950年ごろまで。このグラフの期間、昭和後期から平成にかけて上位から着実に減ってきた死因というと何だろう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、1951年から1980年まで死因1位だったのは脳血管疾患と習いました。それですか。
ドクタードクター
正解。矢印は脳血管疾患、つまり脳卒中だ。1981年以降は悪性新生物が1位になり、その後心疾患が2位に上がってきた。では脳卒中の最大の危険因子は何かな。
医学生医学生
高血圧です。だから降圧薬が正解ですね。
ドクタードクター
その通り。脳出血でも脳梗塞でも、高血圧は最大かつ最も頻度の高い危険因子だ。降圧治療で脳卒中の発症がおよそ30〜40%減ることが多くの臨床試験で示されている。日本では降圧薬の普及に加えて、減塩指導や健診による高血圧の早期発見が進んで、国民全体の血圧水準が下がった。特に脳出血の死亡率の低下が著しかったんだ。
医学生医学生
でも、死亡が激減したと聞くと、抗菌薬も候補に思えてしまいます。
ドクタードクター
そこが一番の落とし穴。抗菌薬で結核などの感染症死亡が激減したのは、ストレプトマイシンなどが導入された戦後まもない時期で、グラフの時期とは合わない。しかも高齢者の肺炎死亡率は、高齢化や誤嚥性肺炎の増加で下がりにくく、むしろ増える傾向を示してきたんだ。
医学生医学生
そういえば、内科の実習で入院していた高齢の方には誤嚥性肺炎の患者さんが多かったです。抗菌薬があっても減らないわけですね。
ドクタードクター
そういう実感は大事だよ。次は抗腫瘍薬。これは悪性新生物が対象だけど、悪性新生物は1981年以降ずっと1位で、高齢者では粗死亡率が上がり続けている。矢印の減少とは関係しないね。
医学生医学生
糖尿病治療薬や脂質異常症治療薬も、脳梗塞の予防になるのでは。
ドクタードクター
いい疑問だね。糖尿病は脳梗塞の危険因子だけど、血糖コントロールで確実に減るのは網膜症や腎症などの細小血管合併症で、脳卒中のような大血管障害を厳格な血糖管理で減らせるかどうかは、はっきりした結論が出ていない。それに糖尿病の患者さんはこの期間にむしろ増えているから、脳卒中死亡の大幅な減少の主因とは言えない。
医学生医学生
スタチンはどうですか。
ドクタードクター
スタチンで脳梗塞が20〜30%程度減るのは確かだ。ただ脂質異常症は冠動脈疾患との結びつきがより強く、脳出血への寄与は小さい。しかもスタチンが普及したのは1990年代以降で、それより前から続いていた脳卒中死亡の減少を主に説明するものではないんだ。
医学生医学生
死因の順位の移り変わりと、その時代に何が起きたかをセットで考えるのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。発展として押さえておきたいのは、脳卒中が減った要因は薬だけではないこと。東北地方などの高食塩地域での減塩運動、動物性たんぱく質の摂取増加などの栄養改善、急性期医療の進歩も寄与した。その結果、今の脳血管疾患では脳梗塞が最も多い病型になっている。
医学生医学生
血圧と脳卒中の関係は、心筋梗塞より強いと聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。血圧が高いほど脳卒中のリスクはほぼ直線的に上がり、収縮期血圧を約10mmHg下げると脳卒中は3〜4割減ると見込まれる。外来で地道に血圧を管理することが、集団レベルでは死因の構造そのものを変えてきた、ということを覚えておこう。

まとめ

高齢者の死因別死亡率の推移で、かつて上位を占め一貫して減少してきた死因は脳血管疾患であり、1951〜1980年には日本人の死因第1位でした。その最大の危険因子は高血圧で、降圧薬の普及、減塩指導、健診による早期発見によって国民の血圧水準が下がり、特に脳出血の死亡率が大きく低下しました。抗菌薬による感染症死亡の激減は戦後まもない時期の出来事であり、高齢者の肺炎死亡はむしろ増加傾向にあるため、時期も傾向も合いません。糖尿病治療薬やスタチンも脳梗塞予防に一定の役割はあるものの、普及時期や寄与の大きさから主因とはいえません。死因順位の変遷をその時代の医療・公衆衛生の取り組みと結びつけて理解することは、予防医学の意義を実感するうえで重要です。

解答・解説

正解はaです

図の読み取り

65歳以上の高齢者の主要死因別死亡率の年次推移で、矢印の死因はかつて上位を占めていたが一貫して減少し、図の最終年(平成18年=2006年)には悪性新生物・心疾患に次ぐ第3位となっている。この推移に合う死因は脳血管疾患(脳卒中)である。

考え方

脳血管疾患は1951年から1980年まで日本人の死因第1位だった。その後に死亡率が大きく下がった最大の要因は、最も重要な危険因子である高血圧の管理が進んだことである。具体的には、降圧薬の普及による血圧コントロール、減塩指導、健診による高血圧の早期発見が挙げられる。とくに脳出血の死亡率の低下が著しかった。

抗菌薬と迷わないために

激減した死因と聞くと、抗菌薬による感染症の減少を思い浮かべるかもしれない。しかし抗菌薬の普及で結核などの感染症死亡が大きく減ったのは第二次世界大戦後まもない時期であり、図に示される昭和後期から平成にかけての減少とは時期が合わない。さらに高齢者の肺炎死亡率は、高齢化や誤嚥性肺炎の増加によって下がりにくく、むしろ増加傾向を示してきた。 以上より、矢印の死因の減少に最も関係する治療薬は降圧薬である。

選択肢考察

  1. ○a.  降圧薬

    矢印の死因は脳血管疾患である。脳出血と脳梗塞のいずれにとっても、高血圧は最大かつ最も頻度の高い危険因子である。降圧治療を行うと脳卒中の発症はおよそ30〜40%減少することが、多くの臨床試験で示されている。わが国では降圧薬の普及と減塩によって国民の血圧水準が下がり、脳血管疾患、とくに脳出血の死亡率が大幅に低下した。したがって本問の正解である。

  2. ×b.  抗菌薬

    抗菌薬は肺炎や結核などの細菌感染症の死亡を減らす。ただし抗菌薬による感染症死亡の急減は戦後まもない時期の出来事であり、図の時期とは一致しない。また高齢者の肺炎死亡率は高齢化とともにむしろ上昇してきた死因であり、矢印のように減少し続けてはいない。

  3. ×c.  抗腫瘍薬

    抗腫瘍薬が対象とするのは悪性新生物である。悪性新生物は1981年以降、死因の第1位であり、高齢者では粗死亡率が上昇を続けている。矢印の減少とは関係しない。

  4. ×d.  糖尿病治療薬

    糖尿病は脳梗塞の危険因子であり、血糖コントロールで網膜症・腎症・神経障害などの細小血管合併症は確実に減る。一方、脳卒中のような大血管障害については、厳格な血糖管理で発症が減るかどうかはっきりした結論が得られていない。また糖尿病の有病者はこの期間に増加しており、脳血管疾患死亡の大幅な減少を説明する主因にはならない。

  5. ×e.  脂質異常症治療薬

    スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)などで脂質異常症を治療すると、脳梗塞の発症は20〜30%程度減る。ただし脂質異常症は冠動脈疾患との結びつきがより強く、脳卒中全体への寄与、とくに脳出血への寄与は高血圧に比べて小さい。スタチンが普及したのは1990年代以降であり、それより前から続いていた脳血管疾患死亡の減少を主に説明するものではない。

日本の死因順位の変遷(全年齢)

・1950年ごろまで:結核が第1位。抗菌薬(ストレプトマイシンなど)の導入や生活水準の向上により、戦後急速に減少した。 ・1951〜1980年:脳血管疾患が第1位。 ・1981年以降:悪性新生物が第1位。 ・1985年ごろから心疾患が第2位。その後、肺炎や老衰が上位に入るようになり、近年は老衰が第3位前後を占める(2017年からは「誤嚥性肺炎」が「肺炎」と分けて集計されている)。

脳血管疾患死亡率が減少した要因

・降圧薬の普及による高血圧管理の改善 ・食塩摂取量の減少(東北地方などの高食塩地域での減塩運動) ・健診による高血圧の早期発見と保健指導 ・動物性たんぱく質の摂取量増加などの栄養改善(脳出血の減少に寄与したと考えられている) ・急性期医療の進歩 なかでも脳出血の減少が目立ち、現在の脳血管疾患では脳梗塞が最も多い病型である。

高血圧と脳卒中

血圧が高くなるほど脳卒中のリスクは直線的に上がり、その関係は心筋梗塞よりも強い。収縮期血圧を約10mmHg下げると、脳卒中はおよそ3〜4割減ると見込まれる。

POINT

・矢印の死因は脳血管疾患。1951〜1980年は死因第1位で、その後は減少した。 ・脳血管疾患の最大の危険因子は高血圧。降圧治療と減塩が死亡率の低下に最も大きく貢献した。 ・抗菌薬で激減したのは戦後まもない時期の結核などの感染症であり、時期が異なる。 ・高齢者で増えてきた死因は悪性新生物・心疾患・肺炎(および老衰)である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。