風邪薬のあとの目の充血と口のただれ―標的様紅斑が告げる重症薬疹SJS・TEN
第105回医師国家試験 D問題 第50問
国試問題にチャレンジ
23歳の女性。発熱と発疹とを主訴に来院した。10日前から微熱と咽頭痛とがあり,イブプロフェンを含有する市販感冒薬を内服していた。3日前から顔面と体幹とに紅斑を認め,眼球結膜の充血と口腔粘膜のびらんとが出現した。体温38.2℃。体幹の一部の紅斑は標的様で,中央に水疱を形成している。 考えられる疾患はどれか。2つ選べ。
- a.固定薬疹
- b.扁平苔癬
- c.尋常性乾癬
- d.中毒性表皮壊死症
- e.Stevens-Johnson症候群
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
薬剤内服後に高熱、眼・口腔など複数部位の粘膜病変、中央に水疱を伴う標的様紅斑がそろえば、重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(TEN)を考えます。両者は表皮細胞の広範な壊死を本態とする同一スペクトラムの疾患で、表皮剥離が体表面積の10%未満ならSJS、10%以上ならTENと区別され、SJSからTENへ進展することもあります。原因薬としてNSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなどが多く、マイコプラズマなどの感染症も誘因となります。固定薬疹は同一部位に繰り返し出て色素沈着を残し、扁平苔癬や尋常性乾癬は慢性の経過をとるため、急性の全身症状と粘膜障害を伴う本病像とは異なります。治療は原因薬の即時中止と入院での全身管理、ステロイド全身投与が中心で、眼の後遺症を防ぐため早期の眼科介入が欠かせず、発疹を診たら必ず粘膜も確認する姿勢が重症薬疹の見逃しを防ぎます。
解答・解説
正解はd, eです
所見の整理
・10日前からの微熱と咽頭痛に対し、イブプロフェンを含む市販の感冒薬を内服:原因薬剤となりうる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を内服している。先行する上気道感染(ウイルスやマイコプラズマ)も発症の引き金になりうる。 ・3日前から顔面と体幹に紅斑:内服開始から数日〜2週間程度で出現しており、薬疹として矛盾しない時間経過である。 ・眼球結膜の充血と口腔粘膜のびらん:皮膚だけでなく、眼・口唇・口腔といった複数の粘膜が障害されている。 ・38.2℃の発熱:全身症状を伴う。 ・体幹の紅斑の一部が標的様で、中央に水疱を形成:表皮が壊死して剥がれかけていることを示す。
診断へのプロセス
発熱と発疹をきたす疾患には、薬疹、ウイルス感染症(麻疹、風疹など)、細菌感染症(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群など)がある。本例では発症前にNSAIDsを含む薬剤を内服しており、まず薬疹を考える。 薬疹のなかで、①高熱などの全身症状、②眼・口腔など複数部位の粘膜病変、③標的様の紅斑や水疱・びらんといった表皮の壊死を示す皮疹、の3つを伴うものは重症薬疹であり、Stevens-Johnson症候群(SJS)と中毒性表皮壊死症(toxic epidermal necrolysis:TEN)が該当する。両者は同一の病態スペクトラム上にある疾患で、主に水疱・びらん(表皮剥離)の面積で区別される。わが国の診断基準では体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。 本例は問題文から表皮剥離の範囲がわからず、どちらとも決められない。またSJSは発症早期に急速にTENへ進展することがある。したがって、「考えられる疾患」としては両方を挙げることになる。
臨床上の注意
SJS・TENはいずれも死亡率が高く、眼の後遺症(視力障害、ドライアイ、瞼球癒着)を残すことがある。原因と疑われる薬剤をすぐに中止し、入院のうえ全身管理と早期治療を行う必要がある。
選択肢考察
- ×a. 固定薬疹
固定薬疹は、原因薬剤を内服するたびに同じ部位に境界明瞭な円形〜楕円形の紅斑(中央が水疱化することもある)を繰り返し生じる薬疹で、治った後に褐色〜紫褐色の色素沈着を残すのが特徴である。口唇や外陰部など皮膚粘膜移行部に好発するが、病変は通常数か所に限られ、高熱などの全身症状や眼の充血はまれである。本例は初回の発症で、顔面・体幹に広がる紅斑、複数の粘膜病変、発熱がそろっており、固定薬疹では説明しにくい。なお、固定薬疹が多発・広範囲化した汎発性水疱性固定薬疹はSJS・TENとの鑑別が問題になるが、本例の病歴とは合わない。
- ×b. 扁平苔癬
扁平苔癬は、四肢屈側などに紫紅色で扁平に隆起する光沢のある丘疹が慢性に生じる疾患で、表面に白色の網状線条(Wickham線条)がみられる。口腔粘膜にも白色レース状の病変やびらんを生じることがあるが、経過は慢性で、急性の高熱や眼球結膜の充血、標的様紅斑の中央に水疱を形成する皮疹は示さない。薬剤による苔癬型薬疹も存在するが、これも慢性経過で本例とは異なる。
- ×c. 尋常性乾癬
尋常性乾癬は、肘・膝・頭部・腰部などの擦れやすい部位に、厚い銀白色の鱗屑を伴う境界明瞭な紅斑(局面)が慢性に生じる炎症性角化症である。粘膜病変は通常みられず、標的様紅斑や水疱も形成しない。薬剤で増悪することはあるが、本例のような急性の発熱・粘膜障害を伴う病像とは合わない。
- ○d. 中毒性表皮壊死症
中毒性表皮壊死症(TEN)は、高熱などの全身症状とともに、広範な紅斑が急速に拡大・融合し、表皮が全層性に壊死して剥がれ、全身が熱傷のようになる最重症型の薬疹である。表皮剥離が体表面積の10%以上に及ぶものをTENとする。軽くこすると表皮が剥がれるNikolsky現象がみられ、眼・口唇・口腔・外陰部の粘膜病変を伴う。多くはSJSから進展して生じる。本例は薬剤内服後の発熱、眼・口腔の粘膜病変、水疱を伴う標的様紅斑をそろえており、現時点で剥離範囲は不明だが、TENも考えるべき疾患に含まれる。
- ○e. Stevens-Johnson症候群
Stevens-Johnson症候群(SJS)は、発熱とともに眼・口唇・口腔・外陰部などの粘膜に重い発赤・びらんを生じ、皮膚には中央が暗紅色〜水疱となる標的様紅斑(典型的な3層構造をもたない、平坦な非典型的標的病変であることが多い)が多発する重症薬疹である。表皮剥離は体表面積の10%未満にとどまる。原因としてNSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬(カルバマゼピンなど)、アロプリノールなどの薬剤が多く、マイコプラズマなどの感染症も原因となる。本例のイブプロフェン内服後の発熱、眼球結膜充血、口腔粘膜びらん、水疱を伴う標的様紅斑はSJSに合致する。
SJSとTENの位置づけ
・SJSとTENは、薬剤などを契機に細胞傷害性T細胞などが表皮細胞のアポトーシス(細胞死)を大量に引き起こす同一スペクトラムの疾患である。表皮剥離が体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする(国際的には10〜30%をSJS/TENオーバーラップとする分類もある)。 ・かつてSJSは多形滲出性紅斑の重症型(EM major)とみなされ、「多形滲出性紅斑→SJS→TEN」と連続して進展すると説明されていた。現在は、典型的な3層構造の標的病変が四肢に多いEM(単純ヘルペス感染などが誘因となることが多い)と、非典型的な平坦な標的様紅斑が体幹に多いSJS・TENとは別の病態として区別されている。
臨床像
・原因:薬剤が大部分を占める(抗菌薬、NSAIDs・解熱鎮痛薬、抗てんかん薬、アロプリノール、総合感冒薬など)。原因薬剤の内服開始から数日〜数週(多くは4週以内)で発症する。マイコプラズマなどの感染症も原因になる。 ・前駆症状:発熱、咽頭痛、倦怠感など感冒に似た症状で始まることが多く、その治療に使った感冒薬が原因となる場合もある。 ・皮膚:紅斑、標的様紅斑、水疱、びらん。Nikolsky現象陽性。 ・粘膜:眼(結膜充血、偽膜形成、角膜上皮欠損)、口唇の血痂・びらん、口腔・外陰部のびらん。眼病変は失明やドライアイなどの後遺症の原因となるため、眼科での早期評価が必要である。 ・病理:表皮の全層にわたる壊死(表皮細胞の広範な壊死)。 ・予後:死亡率はSJSで数%、TENでは20〜30%程度に達するとされる。敗血症や多臓器不全が主な死因である。
治療
・原因と疑われる薬剤をすべて中止する。 ・入院のうえ、熱傷に準じた皮膚処置、輸液・栄養管理、感染対策を行う。 ・早期からの副腎皮質ステロイド全身投与(重症例ではステロイドパルス療法)が基本となり、効果不十分例には免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)や血漿交換療法を組み合わせる。 ・眼病変には眼科的な局所治療を早期から行う。
薬疹の主な病型
・播種状紅斑丘疹型(最も多い)、多形紅斑型、固定薬疹、苔癬型、光線過敏型、蕁麻疹型、SJS、TEN、薬剤性過敏症症候群(DIHS。抗てんかん薬などで発症し、HHV-6の再活性化を伴う)など。
POINT
・薬剤内服後の「発熱+複数部位の粘膜病変(眼・口腔)+水疱を伴う標的様紅斑」は重症薬疹であるSJS・TENを考える。 ・SJSとTENは表皮剥離面積で区別する(体表面積10%未満がSJS、10%以上がTEN)。SJSからTENへ進展しうる。 ・原因薬剤はNSAIDs、抗菌薬、抗てんかん薬、アロプリノールなど。マイコプラズマ感染も原因となる。 ・原因薬剤を中止し、入院のうえステロイド全身投与を中心に治療する(IVIG、血漿交換も選択肢)。眼の後遺症に注意する。 ・固定薬疹は同じ部位に繰り返し出て色素沈着を残す。扁平苔癬・尋常性乾癬は慢性疾患で急性の重症薬疹像とは異なる。
