「ゆがんで見える」は黄斑からのSOS―加齢黄斑変性の最初のサインを見逃さない
第105回医師国家試験 D問題 第36問
国試問題にチャレンジ
83歳の男性。左眼の視力低下を主訴に来院した。6か月前から左眼の見え方に違和感があった。1か月前から視力低下が進行した。75歳時に両眼の白内障手術の既往がある。視力は右1.0(矯正不能),左0.6(矯正不能)。眼圧は右14 mmHg,左14 mmHg。眼内レンズが両眼に挿入されている。両眼の眼底写真(A)(B)を別に示す。 6か月前からあったと推定される症候はどれか。

- a.羞明
- b.夜盲
- c.変視症
- d.弓状暗点
- e.Mariotte盲点の拡大
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
高齢者の黄斑部に出血や浮腫などの滲出性変化がみられれば、脈絡膜新生血管による滲出型加齢黄斑変性を考えます。黄斑に網膜下液や出血がたまると視細胞の配列が乱れるため、初期には物がゆがんで見える変視症が自覚され、進行すると中心暗点や視力低下に至ります。夜盲は杆体障害(網膜色素変性など)、弓状暗点は緑内障、Mariotte盲点の拡大は視神経乳頭疾患、羞明は前眼部炎症や中間透光体の混濁と、症状と障害部位を対応させて整理することが鑑別の鍵です。変視症の確認にはAmslerチャートを片眼ずつ用い、診断はOCTや蛍光眼底造影で行い、治療の中心は抗VEGF薬の硝子体内注射です。初期症状を知っていることは、進行の速い本症を早期に眼科治療へつなげるうえで重要です。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・83歳の高齢男性で、左眼の違和感が6か月前から続き、1か月前から視力低下が進んだ。緩徐に始まり、ある時点から悪化した経過である。 ・視力は右1.0、左0.6で、いずれも矯正しても改善しない。屈折異常ではなく、網膜・視神経などの器質的疾患を考える。 ・眼圧は両眼14 mmHgで正常範囲(おおむね10〜21 mmHg)にあり、緑内障発作などは考えにくい。 ・75歳で両眼の白内障手術を受け、眼内レンズが入っている。 ・眼底写真では、左眼の黄斑部に網膜内から網膜下にかけての出血と浮腫(滲出性変化)がみられる。右眼の黄斑部は色調のむらがあるのみで、明らかな出血はない。
診断へのプロセス
高齢者の黄斑部に出血と滲出性変化がみられれば、まず加齢黄斑変性(AMD:age-related macular degeneration)の滲出型を考える。滲出型では、脈絡膜から新生血管(CNV:choroidal neovascularization、脈絡膜新生血管)が網膜色素上皮の下や網膜下に伸び、そこから出血や滲出液の漏出が起こる。 白内障術後であることから、次の二つを鑑別する。 ・後発白内障(眼内レンズを支える水晶体嚢が術後に混濁するもの):眼底写真が鮮明に撮影できているので、中間透光体に強い混濁はなく否定的である。 ・嚢胞様黄斑浮腫(Irvine-Gass症候群):白内障術後数週〜数か月に起こりやすいが、本例の手術は8年前で時期が合わない。さらに、網膜下出血を伴う点も説明できない。 これらから左眼の滲出型加齢黄斑変性と診断する。右眼の色調のむらは、加齢黄斑変性の前段階(前駆病変)を示している可能性がある。
設問の考え方
問われているのは、1か月前の視力低下より前、6か月前からあった「見え方の違和感」が具体的にどのような症状かである。黄斑は中心視を担う部位で、ここに病変が起こると、まず見たいものの中心がゆがむ、あるいは暗く見えるといった症状が現れる。この初期症状を示す選択肢を選ぶ。
選択肢考察
- ×a. 羞明
羞明とは、通常の明るさでも異常にまぶしく感じる症状である。角膜炎や虹彩炎などの前眼部の炎症、白内障や後発白内障などで光が眼内で散乱する状態、先天無虹彩、錐体ジストロフィなどでみられる。加齢黄斑変性の初期症状としては典型的でない。本例は眼底が鮮明に写っており、光を散乱させる後発白内障もない。
- ×b. 夜盲
夜盲は、暗い所で見えにくくなる症状である。暗所で働く杆体細胞の機能が障害されて起こり、網膜色素変性やビタミンA欠乏症が代表例である。杆体は網膜の周辺部に多く、黄斑の中心(中心窩)には錐体が集中している。加齢黄斑変性は黄斑の局所的な病変であり、初期に杆体が選択的に障害されることはないため、夜盲は主症状にならない。
- ○c. 変視症
変視症は、物がゆがんで見える、線が波打って見える、大きさが違って見えるといった症状である。黄斑部に網膜下の液体(漿液性網膜剝離)や網膜色素上皮剝離、出血、浮腫が生じると、網膜が持ち上がったり波打ったりして視細胞の並びが乱れ、像がゆがんで感じられる。滲出型加齢黄斑変性ではこれが早い時期から自覚され、進行すると中心暗点や大きな視力低下に至る。本例の「6か月前からの見え方の違和感」は、この変視症にあたると考えられる。
- ×d. 弓状暗点
弓状暗点(Bjerrum暗点)は、Mariotte盲点から弓のような形で固視点の周囲を回るように伸びる暗点である。視神経乳頭に集まる網膜神経線維の走行に沿った欠損であり、緑内障の初期から中期に典型的にみられる。本例は眼圧が正常で、病変は黄斑部にあり、所見に合わない。
- ×e. Mariotte盲点の拡大
Mariotte盲点は、視細胞のない視神経乳頭に対応する生理的な暗点である。乳頭浮腫(うっ血乳頭)、視神経乳頭炎、乳頭周囲の網脈絡膜萎縮など、視神経乳頭やその周囲の病変で拡大する。本例は黄斑部の病変であり、乳頭の異常を示す所見はない。
加齢黄斑変性の概要
・加齢に伴って黄斑部の網膜色素上皮・Bruch膜・脈絡膜に変化が起こり、中心視力が障害される疾患である。高齢者の視力障害の重要な原因であり、日本では男性に多く、喫煙が最大の危険因子である。 ・前駆病変:軟性ドルーゼン(網膜色素上皮の下にたまる黄白色の沈着物)や網膜色素上皮の色むら(色素異常)。 ・滲出型:脈絡膜新生血管が生じ、網膜下出血、漿液性網膜剝離、網膜色素上皮剝離、硬性白斑などを起こす。進行が速く、日本では多数を占める。特殊な病型としてポリープ状脈絡膜血管症(PCV)や網膜血管腫状増殖(RAP)がある。 ・萎縮型:網膜色素上皮と脈絡膜毛細血管板がゆっくり萎縮していく(地図状萎縮)。
検査
・Amslerチャート(方眼紙状の表)で中心のゆがみや欠損を自覚的に確認する。自宅でのセルフチェックにも用いる。 ・光干渉断層計(OCT)で網膜の断面をみて、網膜下液や色素上皮剝離を捉える。 ・フルオレセイン蛍光眼底造影やインドシアニングリーン蛍光眼底造影で新生血管の位置や型を評価する。OCTアンギオグラフィは造影剤を使わずに新生血管を描出できる。
治療(滲出型)
・抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射が第一選択である。 ・光線力学的療法(PDT)を併用することもある。 ・禁煙を指導する。萎縮型や前駆病変に対しては、抗酸化ビタミンと亜鉛などのサプリメントで進行リスクを下げられる可能性が示されている。
症状と障害部位の対応
・変視症・中心暗点:黄斑疾患(加齢黄斑変性、中心性漿液性脈絡網膜症、黄斑上膜、黄斑円孔など) ・夜盲・輪状暗点・求心性視野狭窄:網膜色素変性 ・弓状暗点・鼻側階段:緑内障 ・Mariotte盲点の拡大:乳頭浮腫などの視神経乳頭疾患 ・羞明:前眼部の炎症、中間透光体の混濁、錐体機能障害
POINT
・高齢者の黄斑部に出血や滲出性変化があれば、滲出型加齢黄斑変性を考える。 ・黄斑疾患の初期症状は変視症と中心暗点で、Amslerチャートで確認する。 ・視野異常と疾患の組み合わせ(夜盲は網膜色素変性、弓状暗点は緑内障、Mariotte盲点拡大は乳頭浮腫)を整理しておく。 ・滲出型の治療の中心は抗VEGF薬の硝子体内注射である。
