夜に疼く10歳の太もも―硬化の中の小さな「巣」が告げる類骨骨腫
第105回医師国家試験 D問題 第29問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。右下肢痛のため家族に伴われて来院した。4か月前から誘因なく右大腿部痛が出現したという。痛みは安静時,運動時ともにあり,夜間に増悪する。右下肢の皮膚,筋および関節に異常を認めない。右大腿骨のエックス線検査で異常が疑われたため撮影した両大腿部の単純CTを別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.骨肉腫
- b.類骨骨腫
- c.軟骨肉腫
- d.骨軟骨腫
- e.好酸球性肉芽腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
小児〜若年男性に、数か月続き夜間に増悪する骨の痛みがあり、NSAIDsがよく効く場合は類骨骨腫を考えます。nidusが産生するプロスタグランジンが痛みの原因で、CTで反応性骨硬化に囲まれた小さな透亮巣(nidus)を確認することが診断の決め手です。骨肉腫は骨破壊とCodman三角・spicula、骨軟骨腫は骨表面の無痛性隆起、好酸球性肉芽腫は10歳未満の打ち抜き像、軟骨肉腫は中高年というように、年齢と画像パターンで鑑別できます。治療はCTガイド下ラジオ波焼灼術や切除によるnidusの確実な除去です。「年齢・症状・画像」の三点で骨腫瘍を絞り込む考え方は、整形外科診療の基本となります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・10歳の男児。4か月前から誘因のない右大腿部痛が続いている。 ・痛みは安静時にも運動時にもあり、特に夜間に強くなる。 ・皮膚・筋・関節には異常がなく、腫脹や発赤、関節可動域制限などの記載はない。発熱など全身症状の記載もない。 ・単純CTでは、右大腿骨の皮質に、骨硬化で厚くなった皮質骨に囲まれた小さな円形の透亮像(骨が薄く見える部分)がみられる。この透亮像がnidus(ナイダス、「巣」の意)である。
診断へのプロセス
小児~若年者で、長管骨に数か月続く痛みがあり、それが夜間に悪化するという病歴は、類骨骨腫を強く想起させる典型的な経過である。画像上、強い反応性骨硬化に囲まれた1 cm程度までの小さな透亮巣(nidus)が確認できれば診断はほぼ確定する。nidusの中心に石灰化(点状の高吸収)がみられることもある。 鑑別としては、骨膜反応を伴い骨破壊が広がる悪性骨腫瘍(骨肉腫など)、骨表面から突出する隆起性病変(骨軟骨腫)、打ち抜き像を呈する溶骨性病変(好酸球性肉芽腫)などを考えるが、いずれも本例の「硬化縁の中の小さな透亮巣」とは画像所見が異なる。
設問の考え方
「夜間痛」+「小児・若年者」+「骨硬化に囲まれたnidus」という三つの鍵がそろえば類骨骨腫と判断できる。単純エックス線では皮質の肥厚が目立ちnidusが見えにくいことがあり、CTがnidusの描出に最も有用である。
選択肢考察
- ×a. 骨肉腫
骨肉腫は10歳代に好発する代表的な原発性悪性骨腫瘍で、大腿骨遠位や脛骨近位の骨幹端(膝周囲)に多い。症状は疼痛と腫脹で、夜間痛を訴えることもある。しかし画像では、境界不明瞭な骨破壊と腫瘍性の骨形成が混在し、Codman三角やspicula(旭日様の骨膜反応)などの骨膜反応、骨外への軟部腫瘤を伴うのが典型である。本例のCTは硬化縁に囲まれた小さな透亮巣であり、浸潤性の骨破壊や悪性を示唆する骨膜反応はみられないため否定的である。
- ○b. 類骨骨腫
類骨骨腫は10~20歳代の男性に多い良性の骨形成性腫瘍で、大腿骨や脛骨などの長管骨の骨幹部皮質に好発する。腫瘍本体(nidus)がプロスタグランジンを産生するため、夜間に増悪する持続性の痛みが特徴で、NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)が著効することも診断の手がかりになる。画像では、肥厚した反応性の骨硬化像に囲まれた1 cm前後以下の小透亮像(nidus)を示し、CTで最もよく描出される。本例の年齢・性別、夜間に悪化する4か月来の痛み、CT所見はいずれもこれに合致する。
- ×c. 軟骨肉腫
軟骨肉腫は軟骨を形成する悪性骨腫瘍で、中高年(40歳以上が半数以上)に多く、骨盤や大腿骨近位、上腕骨近位などに好発する。10歳の小児にはまれである。髄内に発生した場合、画像では境界不明瞭な骨吸収・破壊像の中に、リング状・点状(ポップコーン様)の石灰化がみられ、骨内膜側の皮質が侵食される(endosteal scalloping)。年齢も画像所見も本例と一致しない。
- ×d. 骨軟骨腫
骨軟骨腫は最も頻度の高い良性骨腫瘍で、10歳代に多く、大腿骨遠位や脛骨近位の骨幹端に好発する。骨の表面から軟骨帽を伴って外側へ突出する隆起性病変(外骨腫)で、病変の骨皮質・骨髄腔が母床の骨と連続しているのが特徴である。通常は無痛性の硬い腫瘤として気付かれ、痛みは周囲組織の圧迫などがある場合に限られる。本例のCTに骨表面から突出する病変はなく、夜間痛という症状も合わない。
- ×e. 好酸球性肉芽腫
好酸球性肉芽腫は、ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)のうち骨に限局する病型で、10歳未満の小児に好発し、頭蓋骨、椎体、肋骨、骨盤、長管骨などに発生する。局所の疼痛や腫脹が主症状である。画像では辺縁が比較的明瞭な打ち抜き像(punched-out)の溶骨性病変を示し、長管骨では層状の骨膜反応を伴うことがある。椎体では扁平椎(vertebra plana)を生じる。本例のような著明な骨硬化に囲まれた小さなnidusとは画像所見が異なる。
類骨骨腫のまとめ
・好発:10~20歳代、男性に多い(男女比は約2~3:1)。 ・部位:大腿骨・脛骨の骨幹部皮質が多い。脊椎(主に後方要素)に生じると有痛性の側弯を起こすことがある。関節内に生じると関節炎様の症状をとる。 ・症状:夜間に増悪する持続痛。nidusが産生するプロスタグランジンが痛みの原因と考えられ、アスピリンなどのNSAIDsで痛みがよく軽減する。 ・画像:単純エックス線では皮質の紡錘状肥厚と骨硬化。CTで硬化像の中の小透亮巣(nidus、通常1.5 cm未満)を確認できる。骨シンチグラフィでは強い集積を示す。MRIでは周囲の骨髄浮腫が強く、かえって悪性腫瘍や炎症と紛らわしいことがある。 ・病理:nidusは類骨(石灰化前の骨基質)と未熟な骨梁、豊富な血管からなる。 ・治療:NSAIDsで経過観察することもあるが、根治にはnidusの除去が必要である。現在はCTガイド下のラジオ波焼灼術(RFA)が広く行われ、外科的切除(掻爬・一塊切除)も選択肢となる。nidusが残ると再発する。
骨腫瘍の年齢による目安
・10歳未満:好酸球性肉芽腫、Ewing肉腫(5~20歳) ・10歳代:骨肉腫、骨軟骨腫、類骨骨腫、単発性骨嚢腫 ・20~40歳代:骨巨細胞腫(骨端線閉鎖後の骨端部) ・中高年:軟骨肉腫、多発性骨髄腫、転移性骨腫瘍
骨芽細胞腫との違い
組織像は類骨骨腫とよく似るが、骨芽細胞腫は2 cmを超える大きな病変で、脊椎に多く、夜間痛やNSAIDsへの反応は類骨骨腫ほど目立たない。
POINT
・小児~若年男性+夜間に増悪する骨の痛み+NSAIDsが著効 → 類骨骨腫。 ・画像の決め手は、反応性骨硬化に囲まれた小さな透亮巣(nidus)で、CTで最もよく描出される。 ・痛みの原因はnidusが産生するプロスタグランジン。 ・治療はnidusの除去(CTガイド下ラジオ波焼灼術や外科的切除)。 ・鑑別:骨肉腫(骨破壊+Codman三角・spicula)、骨軟骨腫(骨表面の隆起性病変・無痛性)、好酸球性肉芽腫(10歳未満、打ち抜き像)、軟骨肉腫(中高年)。
