「頸がん検診は毎年正常」の落とし穴―不正出血と内膜肥厚にはまず組織診を
第105回医師国家試験 D問題 第28問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。未経妊。不正性器出血を主訴に来院した。挙児希望があるため,子宮に癌がないかと心配している。1年前から月経周期は40~45日型で不整,月経痛も自覚している。子宮頸がん検診は26歳から毎年受けているが,異常は指摘されていない。身長152 cm,体重66 kg。血圧144/92 mmHg。内診で子宮は正常大で可動性良好。経腟超音波検査で子宮内膜厚は12 mmでやや肥厚している。 現時点で最も適切な対応はどれか。
- a.経過観察
- b.排卵誘発
- c.子宮全摘出
- d.子宮内膜組織診
- e.GnRHアゴニスト投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
不正性器出血をみたら、まず悪性・前癌病変などの器質的疾患を除外し、そのうえで機能性出血と判断するのが原則です。未経妊、肥満、高血圧、希発月経などの排卵障害は、プロゲステロンに拮抗されないエストロゲン刺激(unopposed estrogen)を介して子宮内膜異型増殖症や類内膜癌のリスクを高めます。子宮頸がん検診は頸部の細胞診であり、体部の内膜病変は評価できないため、検診が正常でも体癌は否定できません。閉経前の内膜厚は周期により変動しますが、不正出血とリスク因子を伴う内膜肥厚では子宮内膜組織診で診断を確定させることが先決で、排卵誘発やホルモン療法はその後に検討します。挙児希望のある若年女性でも体癌を念頭に置き、治療より診断を優先する姿勢は、婦人科診療の基本として身につけておきたい考え方です。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・32歳、未経妊(一度も妊娠したことがない)で、挙児希望がある。 ・主訴は不正性器出血で、本人は子宮の癌を心配している。 ・1年前から月経周期が40~45日と延長し、しかも不整である(希発月経。排卵が起こっていない周期が混じっている可能性を示す)。 ・身長152 cm、体重66 kgで、BMI(体格指数)は66÷1.52²≒28.6と肥満傾向にある。 ・血圧144/92 mmHgで高血圧域にある。 ・子宮頸がん検診は毎年受けていて異常はない。 ・内診で子宮は正常大、可動性良好で、大きな筋腫や癒着を示す所見はない。 ・経腟超音波で子宮内膜厚12 mmと、やや肥厚している。
考え方
不正性器出血の原因を考えるとき、まず器質的疾患(癌・前癌病変・ポリープ・筋腫など)を除外し、そのうえで機能性(ホルモン異常による)出血と判断するのが原則である。 本例には、子宮体癌(子宮内膜癌)およびその前段階である子宮内膜異型増殖症のリスク因子が複数そろっている。すなわち、未経妊、肥満、高血圧、希発月経(排卵障害)である。排卵が起こらないと黄体が形成されずプロゲステロンが分泌されないため、子宮内膜はエストロゲンだけに刺激され続ける(unopposed estrogen)。さらに肥満では脂肪組織でアンドロゲンからエストロゲンが作られるため、エストロゲン過剰状態が強まる。この持続刺激が内膜増殖症、ひいては類内膜癌の発生母地となる。 月経不順・肥満・未経妊という組み合わせからは多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による排卵障害も疑われるが、その確定にはLH・FSH・アンドロゲンなどの内分泌検査や卵巣の超音波所見が必要で、本文の情報だけでは確定できない。いずれにしても、不正出血と内膜肥厚がある以上、まず内膜病変を評価しなければならない。 重要なのは、本人が毎年受けている「子宮頸がん検診」は子宮頸部の細胞を調べる検査であり、子宮体部の内膜病変は評価できないという点である。したがって、頸がん検診が正常であることは体癌の否定にはならない。 また、閉経前の子宮内膜厚は月経周期の時期によって大きく変動するため、厚さの数値だけで良悪性を判定することはできない。本例では、不正出血があり、リスク因子を多数もつ女性に内膜肥厚がみられるという状況全体から、組織学的評価(子宮内膜組織診)が必要と判断する。組織診は内膜増殖症・体癌の有無を確認できるうえ、内膜の状態(分泌期像がみられるかなど)から排卵の有無を推定する手がかりにもなる。 治療方針(排卵誘発、ホルモン療法など)は、悪性・前癌病変が否定された後、あるいは診断が確定した後に決めるべきものである。「現時点で」最も適切なのは、診断を確定させるための子宮内膜組織診である。
選択肢考察
- ×a. 経過観察
不正性器出血と子宮内膜肥厚があり、未経妊・肥満・高血圧・希発月経という子宮体癌のリスク因子が重なっている。この状況で内膜を調べずに様子をみると、子宮内膜異型増殖症や体癌を見逃すおそれがある。本人も癌の有無を心配しており、それに答えるためにも精査が必要である。経過観察は不適切である。
- ×b. 排卵誘発
挙児希望があり排卵障害も疑われるので、将来的には排卵誘発(クロミフェンなど)を行う可能性はある。しかし、内膜の悪性・前癌病変が否定されていない段階で妊娠に向けた治療を始めるのは順序が逆である。もし子宮内膜異型増殖症や体癌があれば、その治療方針(妊孕性温存を目指すか否かなど)が不妊治療より優先される。まずは内膜を評価するべきである。
- ×c. 子宮全摘出
現時点で悪性の診断はまったくついておらず、手術の根拠がない。さらに患者は挙児を希望しており、子宮全摘出は妊孕性(妊娠できる能力)を永久に失わせる。診断前の侵襲的で取り返しのつかない治療として、明らかに不適切である(禁忌肢と考えてよい)。
- ○d. 子宮内膜組織診
不正性器出血・内膜肥厚に加え、未経妊、肥満(BMI約28.6)、高血圧、希発月経(排卵障害によるunopposed estrogen状態)と、子宮体癌および子宮内膜異型増殖症のリスク因子が重なっている。毎年の子宮頸がん検診は頸部の検査であり、体部の病変は評価できていない。したがって、内膜を採取して病理学的に調べる子宮内膜組織診をまず行うのが適切である。組織診は外来で実施でき、癌・増殖症の有無を確認できるうえ、内膜が増殖期像のままか分泌期像を示すかによって排卵の有無を推定する材料にもなる。その後の治療(排卵誘発やホルモン療法)の方針もこの結果に基づいて決まる。
- ×e. GnRHアゴニスト投与
GnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アゴニストは、投与初期に一過性にゴナドトロピン分泌を高める(フレアアップ)が、持続投与により下垂体のGnRH受容体を減少させ(ダウンレギュレーション)、LH・FSHの分泌を抑えて卵巣からのエストロゲン分泌を低下させる。子宮内膜症や子宮筋腫などに用いられる薬であり、診断のついていない不正出血に対していきなり使うものではない。排卵も抑制するため、挙児希望にも沿わない。まずは診断を優先するべきである。
子宮体癌(子宮内膜癌)のリスク因子
・エストロゲン依存性の要因:未経産(未経妊)、肥満、排卵障害(PCOSなど)、早い初経・遅い閉経、エストロゲン単独のホルモン補充療法、エストロゲン産生腫瘍(顆粒膜細胞腫など) ・その他:糖尿病、高血圧、タモキシフェン内服、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)の家族歴 これらの多くは「プロゲステロンによる拮抗を受けないエストロゲン刺激(unopposed estrogen)」で説明され、このタイプ(類内膜癌)は子宮内膜異型増殖症を経て発生することが多い。
子宮頸癌検診と子宮体癌の評価の違い
・子宮頸癌検診:子宮頸部(外子宮口付近の移行帯)を擦過して細胞診を行う。ヒトパピローマウイルス(HPV)感染に関連する病変が対象である。 ・子宮体部の評価:子宮内膜細胞診、または子宮内膜組織診(キュレットなどで内膜組織を採取)を行う。細胞診で異常があれば組織診を追加し、組織診で診断が不確実な場合や十分な検体が得られない場合は子宮内膜全面掻爬や子宮鏡検査を考慮する。
子宮内膜厚の見方
閉経後女性では内膜は薄くなるため、閉経後出血で内膜厚がおおむね4~5 mmを超える場合には精査が勧められる。一方、閉経前では月経周期によって内膜厚が数mmから十数mmまで変化するため、厚さの数値だけでは判断できず、不正出血の有無やリスク因子を合わせて組織診の適応を判断する。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
生殖年齢女性の数%~1割程度にみられ、排卵障害による月経異常・不妊の主要な原因の一つである。LH高値、アンドロゲン過剰、卵巣の多嚢胞性変化を特徴とし、肥満や多毛などを伴うことがある。インスリン抵抗性が病態に深く関与する。日本産科婦人科学会の診断基準では、月経周期異常、多嚢胞卵巣(最新の改訂ではAMH高値も用いうる)、アンドロゲン過剰またはLH高値(FSH正常)の3項目をすべて満たすものをPCOSとする。長期の無排卵はunopposed estrogen状態をもたらすため、子宮内膜増殖症・体癌のリスクが高い。 挙児希望のあるPCOSの排卵誘発では、肥満があればまず減量を勧め、薬物療法ではクロミフェンやレトロゾールが第一選択となる。無効ならゴナドトロピン療法を行うが、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)や多胎妊娠に注意が必要である。挙児希望がない場合は、定期的に黄体ホルモン(または低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)を投与して消退出血を起こし、内膜を保護する。
POINT
・不正性器出血ではまず悪性・前癌病変を除外し、そのうえで機能性出血と判断する。 ・子宮頸がん検診が正常でも子宮体癌は否定できない(検査する部位が違う)。 ・未経妊・肥満・高血圧・排卵障害(希発月経、PCOS)は子宮体癌のリスク因子であり、共通の背景はunopposed estrogenである。 ・不正出血と内膜肥厚があれば、子宮内膜の細胞診・組織診で評価する。 ・挙児希望がある場合も、治療(排卵誘発など)は内膜病変の評価後に行う。診断前の子宮全摘出は論外である。
