StudyMed医師国家試験

胎盤の声を聴く―臍帯動脈ドプラで見抜く胎児発育不全の危険信号

第107回医師国家試験 E問題 第21問

国試問題にチャレンジ

第107回 E問題 第21問

疾患と検査の組合せで正しいのはどれか。

  1. a.異所性妊娠 ―― 血中エストラジオール定量
  2. b.過期妊娠 ―― 羊水マイクロバブルテスト
  3. c.子宮筋腫合併妊娠 ―― 羊水染色体検査
  4. d.胎児水腫 ―― 子宮頸管長計測
  5. e.胎児発育不全 ―― 胎児臍帯動脈血流計測

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠中の異常とそれを評価する検査の組合せを問う問題だ。考え方のコツは、「その検査で何がわかるか」と「その疾患の管理で本当に知りたいことは何か」が一致しているかを見ることだよ。
医学生医学生
産科の検査はたくさんあって、名前と目的がごちゃごちゃになりがちです。
ドクタードクター
だからこそ一つずつ整理しよう。まず結論から言うと、正しいのは胎児発育不全と臍帯動脈血流計測の組合せだ。胎児発育不全、つまりFGRの多くはどうして起こると思う?
医学生医学生
胎盤の機能が落ちて、胎児に酸素や栄養が十分届かないから、でしょうか。
ドクタードクター
その通り。胎盤機能不全では胎盤の血管抵抗が高くなる。臍帯動脈は胎児から胎盤へ血液を送る血管だから、ドプラ法で血流を測ると胎盤側の抵抗がそのまま反映されるんだ。抵抗が上がると拡張期の血流が減って、抵抗係数RIや拍動指数PIが上昇する。
医学生医学生
さらに悪くなるとどうなるんですか。
ドクタードクター
拡張期に血流が途絶えたり、逆向きに流れたりする。拡張期途絶や逆流は胎児の状態が悪く予後も不良であることを示す重要な所見で、分娩時期の判断に直結するんだ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、エコーの画面に波形が出ていて、指導医の先生が「拡張期がちゃんと流れているね」と言っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれを見ていたんだね。あわせて覚えておきたいのが中大脳動脈だ。胎児は低酸素になると脳への血流を優先して保とうとするから、中大脳動脈の抵抗はむしろ下がる。これを血流再分配、brain sparingという。
医学生医学生
臍帯動脈は抵抗が上がって、中大脳動脈は下がる。向きが逆になるのがポイントですね。では、ほかの組合せも確認させてください。異所性妊娠はホルモンを測る点では合っている気がしたんですが。
ドクタードクター
ホルモンという発想は惜しいけれど、測るべきはエストラジオールではなくhCGだ。妊娠反応が陽性で、hCG値から考えると子宮内に胎嚢が見えるはずなのに経腟超音波で見えない、というのが異所性妊娠を疑う典型的な流れになる。エストラジオールは主に卵胞発育の評価、たとえば排卵誘発のモニタリングに使う指標だよ。
医学生医学生
羊水マイクロバブルテストは肺の成熟度を見る検査でしたよね。過期妊娠だと逆に意味がない気がします。
ドクタードクター
鋭いね。マイクロバブルテストは肺サーファクタントの量を推定して、早産児が新生児呼吸窮迫症候群を起こすかを予測する検査だ。42週を過ぎた過期妊娠の胎児の肺は十分成熟しているから、調べる意味はない。過期妊娠で心配なのは胎盤機能の低下や羊水過少、胎便吸引症候群で、NSTや羊水量、BPSで胎児の状態を評価するんだ。
医学生医学生
子宮筋腫合併妊娠に羊水染色体検査というのは、関係がなさそうに見えます。
ドクタードクター
その感覚で正しい。筋腫が胎児の染色体異常を増やすことはないからね。筋腫合併妊娠では、超音波や必要に応じてMRIで筋腫の位置や大きさ、胎盤や頸部との関係を調べる。流早産、胎位異常、赤色変性による痛み、分娩停止、産後の弛緩出血などに注意し、産道をふさぐ位置なら帝王切開を選ぶ。羊水染色体検査は遺伝カウンセリングを経て行う確定的な出生前検査だ。
医学生医学生
胎児水腫と子宮頸管長も結びつきませんね。頸管長は切迫早産のときに経腟エコーで測るものだと習いました。
ドクタードクター
その通り。頸管が短いほど早産しやすい。一方、胎児水腫は胸水や腹水、皮下浮腫など2か所以上に液体がたまった状態で、超音波断層法で診断する。原因は血液型不適合による免疫性と、心疾患や染色体異常、パルボウイルスB19感染などの非免疫性に分けて検索する。胎児貧血の推定には中大脳動脈の最高血流速度を使うんだ。
医学生医学生
中大脳動脈は、FGRの血流再分配と胎児貧血の両方に使えるんですね。
ドクタードクター
いいまとめだね。最後に臨床での注意点を。FGRを正しく診断するには、まず妊娠初期の頭殿長などで妊娠週数を確定しておくことが前提だ。週数がずれていると、小さいのか単に週数が早いのか判断できない。また胎盤機能不全によるFGRは、頭は比較的保たれて腹部が小さい非対称性になりやすい。
医学生医学生
根本的な治療がないから、胎内で育てる利益と悪化するリスクを比べて分娩時期を決める、ということですね。
ドクタードクター
その通り。臍帯動脈や中大脳動脈の血流、羊水量、NST、BPSを組み合わせて、その天秤を見極めるのが産科医の腕の見せどころなんだ。

まとめ

胎児発育不全の多くは胎盤機能不全によって生じ、胎盤の血管抵抗を反映する臍帯動脈血流計測が胎児の状態評価と分娩時期の判断に欠かせません。RIやPIの上昇、さらに拡張期途絶や逆流は重症を示す所見であり、低酸素時には中大脳動脈の抵抗が低下する血流再分配(brain sparing)がみられます。異所性妊娠はhCG定量と経腟超音波、羊水マイクロバブルテストは早産児の肺成熟度評価、子宮頸管長計測は早産リスク評価、羊水染色体検査は胎児染色体異常の確定診断に用いる検査であり、胎児水腫は超音波断層法で診断して免疫性・非免疫性の原因を検索します。検査ごとに「何がわかるか」を押さえ、疾患の管理で知りたい情報と結びつけて理解することが、産科の検査選択を正しく行うための土台になります。

解答・解説

正解はeです

妊娠に関連する異常と、その診断や管理に用いる検査の組合せを問う問題である。選択肢ごとに、その検査で何がわかるかを確認し、疾患の管理で本当に知りたい情報と合っているかを判断する。 ・血中エストラジオール:卵巣や胎盤のはたらきを反映するホルモンの指標 ・羊水マイクロバブルテスト:胎児の肺が成熟しているか(肺サーファクタントが十分か)の指標 ・羊水染色体検査:胎児の染色体の数や構造に異常がないか ・子宮頸管長計測:早産のリスクの指標 ・臍帯動脈血流計測:胎盤の血管抵抗、すなわち胎盤が十分に機能しているかの指標 胎児発育不全(FGR)の多くは、胎盤機能が低下して胎児に十分な酸素と栄養が届かないことで起こる。そのため、胎盤の血管抵抗を反映する臍帯動脈の血流計測は、FGRの原因の評価、胎児の状態の把握、分娩時期の判断に欠かせない。ほかの組合せは、それぞれの疾患の管理で中心となる検査とずれている。

選択肢考察

  1. ×a.  異所性妊娠 ―― 血中エストラジオール定量

    誤り。異所性妊娠(子宮内膜以外の場所に受精卵が着床した状態で、多くは卵管)の診断で中心となるのは、血中または尿中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)の測定と経腟超音波検査である。妊娠反応が陽性で、hCG値から考えると子宮内に胎嚢が見えるはずなのに見えない場合、異所性妊娠を疑う。ほかに、血中hCGの上昇が正常妊娠より緩やかであること、付属器の腫瘤、ダグラス窩の液体貯留(腹腔内出血)なども手がかりになる。血中hCGの推移はメトトレキサートによる治療の効果判定にも用いる。一方、エストラジオールは主に卵胞の発育の評価(不妊治療での排卵誘発のモニタリングなど)に用いる指標で、異所性妊娠の診断には使わない。

  2. ×b.  過期妊娠 ―― 羊水マイクロバブルテスト

    誤り。羊水マイクロバブルテストは、羊水を強く撹拌してできる微小な気泡の数から、胎児の肺サーファクタント(肺胞がつぶれないようにする表面活性物質)の量を推定する検査である。早産になりそうなときに、生まれた後に新生児呼吸窮迫症候群(RDS)を起こすかどうかを予測する目的で行う。出生直後の新生児の胃液を用いて行うこともある。過期妊娠(妊娠42週0日以降)の胎児は肺が十分に成熟しているので、この検査を行う意味はない。過期妊娠で問題になるのは、胎盤機能の低下、羊水過少、胎便吸引症候群などである。そのため、ノンストレステスト(NST)、羊水量の測定、BPS(biophysical profile score)などで胎児の状態を評価し、分娩誘発を考える。

  3. ×c.  子宮筋腫合併妊娠 ―― 羊水染色体検査

    誤り。子宮筋腫が胎児の染色体異常を増やすことはないので、この組合せには根拠がない。子宮筋腫合併妊娠では、超音波断層法(必要に応じてMRI)で筋腫の位置、大きさ、数、胎盤や子宮頸部との位置関係を調べる。筋腫によって、流産・早産、胎位異常、筋腫の変性による痛み(妊娠中の赤色変性など)、分娩の進行が止まること、分娩後の出血(子宮の収縮が悪いこと)などが起こりうる。子宮の下部や頸部にある筋腫が産道をふさぐ場合は帝王切開を選ぶ。羊水染色体検査は、羊水穿刺で採った羊水中の胎児細胞を用いて染色体を調べる確定的な出生前検査である。高年妊娠や、胎児の超音波検査で染色体異常を疑う所見がある場合などに、夫婦への十分な遺伝カウンセリングのうえで行う。

  4. ×d.  胎児水腫 ―― 子宮頸管長計測

    誤り。胎児水腫は、胎児の2か所以上の体腔や組織に液体がたまった状態(胸水、腹水、心嚢液、全身の皮下浮腫など)で、超音波断層法で診断する。原因は、血液型不適合による免疫性のものと、それ以外の非免疫性のもの(心奇形や不整脈、染色体異常、パルボウイルスB19などの感染症、胎児の貧血、双胎間輸血症候群など)に分かれる。原因を調べるために、胎児の心エコー、母体の抗体検査や感染症検査、胎児の中大脳動脈の最高血流速度の測定(胎児貧血の推定)などを行う。子宮頸管長計測は、経腟超音波で子宮頸管の長さを測り、切迫早産の診断や早産のリスクの評価に用いる検査である。頸管が短いほど早産しやすい。胎児水腫の診断とは関係しない。

  5. ○e.  胎児発育不全 ―― 胎児臍帯動脈血流計測

    正しい。胎児発育不全(FGR:fetal growth restriction)は、超音波で推定した胎児の体重が妊娠週数の基準より明らかに小さい状態である。日本では-1.5SD以下が目安とされる。胎盤機能が低下して起こるFGRでは、胎盤の血管抵抗が高くなるため、ドプラ法で調べた臍帯動脈の拡張期の血流が減り、血管抵抗の指標である抵抗係数(RI)や拍動指数(PI)が大きくなる。進行すると、拡張期の血流が途絶えたり(拡張期途絶)、逆向きに流れたり(逆流)する。これらは胎児の状態が悪く、予後も悪いことを示す重要な所見である。一方、胎児は低酸素状態になると脳への血流を優先して保つので、中大脳動脈の血管抵抗は下がる(血流再分配、brain sparing)。臍帯動脈と中大脳動脈の血流計測は、NSTやBPSと組み合わせて胎児の状態を評価し、分娩時期を決めるために用いる。

胎児発育不全(FGR)の評価

・診断:妊娠初期の頭殿長(CRL)などで正確な妊娠週数を確定したうえで、超音波による推定胎児体重を基準曲線と比べる。 ・原因の分類:胎児側の原因(染色体異常、先天奇形、胎内感染)、胎盤・臍帯側の原因(胎盤機能不全、臍帯の付着異常)、母体側の原因(妊娠高血圧症候群、喫煙、低栄養、膠原病など)に分けて考える。胎盤機能不全によるものは、頭部の成長が比較的保たれ腹部が小さい「非対称性FGR」になりやすい。 ・胎児の状態の評価:推定体重の推移、羊水量(羊水過少は胎盤機能低下を示唆する)、臍帯動脈や中大脳動脈の血流計測(必要に応じて静脈管の血流も調べる)、NST、BPSを組み合わせる。BPSは、NST、胎児の呼吸様運動、胎動、筋緊張、羊水量の5項目を各2点で評価し、合計10点満点とする。 ・管理:根本的な治療法はない。胎内で成長を待つ利益と、胎内にいることで状態が悪化するリスクとを比べて、分娩時期を決める。

出題された検査と主な用途

血中・尿中hCG定量:妊娠の診断、異所性妊娠、流産、絨毛性疾患の評価 血中エストラジオール:卵胞の発育の評価(排卵誘発時のモニタリングなど) 羊水マイクロバブルテスト:胎児の肺成熟度の評価(新生児RDSの予測) 羊水染色体検査:胎児の染色体異常の確定診断 子宮頸管長計測:切迫早産の診断や早産リスクの評価 臍帯動脈血流計測:胎盤機能やFGRの胎児の状態の評価 中大脳動脈血流計測:血流再分配の評価、最高血流速度による胎児貧血の推定

POINT

・胎児発育不全では、臍帯動脈血流計測で胎盤の血管抵抗を評価する。RIやPIが上昇し、重症例では拡張期途絶や逆流がみられる。 ・低酸素になると中大脳動脈の血管抵抗が下がる(血流再分配、brain sparing)。 ・異所性妊娠の診断はhCG定量と経腟超音波で行う。 ・羊水マイクロバブルテストは胎児の肺成熟度の評価で、早産児のRDSを予測するのに使う。 ・子宮頸管長計測は切迫早産や早産リスクの評価に使う。 ・胎児水腫は超音波断層法で診断し、免疫性か非免疫性かで原因を調べる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。