母の背景は胎児へのメッセージ―「機序」でつなぐ母体と胎児疾患の組合せ
第117回医師国家試験 A問題 第1問
国試問題にチャレンジ
母体背景と胎児疾患の組合せで正しいのはどれか。3つ選べ。
- a.高齢妊娠 ―― 13trisomy
- b.風疹感染 ―― 先天性心疾患
- c.妊娠高血圧症候群 ―― 不整脈
- d.全身性エリテマトーデス ―― 頭蓋内出血
- e.パルボウイルスB19感染 ―― 貧血
対話形式の解説
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医学生まとめ
母体背景と胎児疾患の組合せは、「なぜその疾患が起こるのか」という機序で結びつけると正誤を判断しやすくなります。高齢妊娠では減数分裂時の染色体不分離が増えて21・18・13トリソミーが増加し、風疹の妊娠初期感染は先天性心疾患・白内障・難聴を3徴とする先天性風疹症候群を、パルボウイルスB19は赤芽球系前駆細胞の傷害による胎児貧血と胎児水腫を起こします。一方、妊娠高血圧症候群は胎盤循環不全を介して胎児発育不全や胎児機能不全を起こし、抗SS-A抗体陽性のSLEでは先天性房室ブロックが問題となり、胎児頭蓋内出血はITPなど血小板減少をきたす病態と結びつけるのが適切です。母体の自己抗体や感染症が胎盤を介して胎児に及ぶ仕組みを理解しておくことは、妊婦健診の意義を理解し、胎児管理を的確に行うための基盤になります。
解答・解説
正解はa, b, eです
妊婦がもつ背景(年齢、合併症、妊娠中の感染症など)と、それによって胎児に起こりやすくなる疾患とを結びつけて問う問題である。 考え方の軸は次の3つである。 1. 母体年齢:卵子の加齢に伴い減数分裂時の染色体不分離が増え、21・18・13トリソミーなどの数的異常の頻度が上がる。 2. 経胎盤感染:ウイルスが胎盤を通過して胎児に感染すると、ウイルスごとに特徴的な障害を起こす。風疹は器官形成期の奇形(先天性風疹症候群)、パルボウイルスB19は赤芽球系の造血障害による貧血・胎児水腫が代表である。 3. 母体の全身疾患:妊娠高血圧症候群は胎盤循環不全を介して胎児発育不全や胎児機能不全を、全身性エリテマトーデス(SLE)は母体の自己抗体(抗SS-A抗体)の胎盤移行を介して胎児の先天性房室ブロックを起こしうる。 各組合せについて「どのような機序でその胎児疾患が起こるのか」を考えると、機序で説明できる組合せが正しく、機序が結びつかない組合せ(妊娠高血圧症候群と不整脈、SLEと頭蓋内出血)が誤りと判断できる。
選択肢考察
- ○a. 高齢妊娠 ―― 13trisomy
正しい組合せである。母体年齢が上がるほど、卵子の減数分裂における染色体不分離の頻度が増し、トリソミーなど染色体数的異常をもつ児の頻度が上昇する。21トリソミー(Down症候群)が最も多いが、18トリソミー、13トリソミー(Patau症候群)も同様に母体年齢とともに増加する。日本産科婦人科学会では35歳以上で初めて出産する女性を高年初産婦と定義しており、高年妊娠では染色体異常のほか、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、軟産道強靱による分娩遷延なども増えるため注意を要する。
- ○b. 風疹感染 ―― 先天性心疾患
正しい組合せである。妊娠初期(特に妊娠20週ごろまで、なかでも12週以前)に母体が風疹に初感染すると、ウイルスが胎盤を通じて胎児に感染し、先天性風疹症候群(CRS)を起こすことがある。3徴は先天性心疾患(動脈管開存症、肺動脈狭窄など)、白内障、感音難聴である。感染時期が早いほど発症率が高く、多彩な異常をきたす。
- ×c. 妊娠高血圧症候群 ―― 不整脈
誤りである。妊娠高血圧症候群では胎盤の血管形成不全による子宮胎盤循環不全が本態であり、胎児に起こりやすいのは胎児発育不全(FGR)、胎児心拍数モニタリングの異常で捉えられる胎児機能不全(NRFS)、羊水過少、さらに常位胎盤早期剥離による胎児死亡などである。胎児の不整脈を特徴的に起こすわけではない。胎児不整脈(先天性房室ブロック)と結びつく母体背景は、抗SS-A抗体陽性のSLEやSjögren症候群である。
- ×d. 全身性エリテマトーデス ―― 頭蓋内出血
誤りである。SLE合併妊娠では流産・死産、胎児発育不全、早産、妊娠高血圧症候群が増え、抗SS-A抗体陽性例では抗体が胎盤を通過して胎児の心臓刺激伝導系を傷害し、先天性完全房室ブロック(新生児ループスの一病型)を起こすことがある。一方、胎児・新生児の頭蓋内出血を典型的に起こす母体背景は、抗血小板抗体が胎盤を移行して胎児血小板減少をきたす特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や、母児間の血小板抗原不適合による胎児・新生児同種免疫性血小板減少症などであり、SLEの代表的な胎児合併症ではない。
- ○e. パルボウイルスB19感染 ―― 貧血
正しい組合せである。パルボウイルスB19(小児の伝染性紅斑の原因ウイルス)は赤芽球系前駆細胞表面のP抗原を受容体として感染し、これを破壊する。胎児は赤血球の寿命が短く造血が盛んなため、感染すると赤血球産生が止まって高度の貧血に陥る。貧血は高拍出性心不全・低酸素状態を招き、さらにウイルスが心筋にも感染して心筋障害を起こすことも加わり、非免疫性胎児水腫や胎児死亡に至ることがある。胎児貧血は中大脳動脈収縮期最高血流速度(MCA-PSV)の上昇で推定でき、重症例では胎児輸血が行われる。
母体背景と胎児・新生児への影響の整理
・高年妊娠:染色体数的異常(21・18・13トリソミー)、流産、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤、分娩遷延 ・糖尿病合併妊娠:妊娠初期の高血糖による先天異常(心奇形、尾部退行症候群など)、巨大児、新生児低血糖、新生児呼吸窮迫症候群 ・妊娠高血圧症候群:胎児発育不全、胎児機能不全、常位胎盤早期剥離 ・SLE・Sjögren症候群(抗SS-A抗体陽性):先天性房室ブロック、新生児ループス(皮疹など) ・抗リン脂質抗体症候群:習慣流産、胎児発育不全、妊娠高血圧症候群 ・ITP:抗血小板抗体の胎盤移行による胎児・新生児血小板減少、頭蓋内出血 ・Basedow病:抗TSH受容体抗体の胎盤移行による胎児・新生児甲状腺機能亢進症 ・重症筋無力症:抗アセチルコリン受容体抗体の移行による新生児一過性筋無力症 ・Rh(D)陰性妊婦の感作:胎児溶血性貧血、胎児水腫
主な胎内感染(TORCH症候群など)
・風疹:先天性心疾患、白内障、難聴 ・サイトメガロウイルス:小頭症、脳室周囲石灰化、難聴、肝脾腫、胎児発育不全 ・トキソプラズマ:水頭症、脳内石灰化、網脈絡膜炎 ・梅毒:先天梅毒(肝脾腫、骨軟骨炎、皮疹など) ・パルボウイルスB19:胎児貧血、非免疫性胎児水腫 ・水痘:先天性水痘症候群(皮膚瘢痕、四肢低形成など)
妊婦健診
母体背景は胎児の疾患と密接に関連するため、妊婦健診では血圧・尿検査(糖、蛋白)・体重などの評価に加え、血液型・不規則抗体、血算、血糖、梅毒、B型肝炎抗原、C型肝炎抗体、HIV抗体、HTLV-1抗体、風疹抗体、子宮頸がん検診、B群溶血性レンサ球菌、性器クラミジアなどのスクリーニングが公費助成の対象として行われている。
POINT
・母体年齢の上昇で21・18・13トリソミーなどの染色体数的異常が増える。 ・先天性風疹症候群の3徴は先天性心疾患、白内障、難聴。妊娠初期の感染ほど危険。 ・パルボウイルスB19は赤芽球系を傷害し、胎児貧血→胎児水腫を起こす。 ・妊娠高血圧症候群→胎児発育不全・胎児機能不全・常位胎盤早期剥離。 ・SLE(抗SS-A抗体)→先天性房室ブロック。胎児頭蓋内出血はITPなどの血小板減少と結びつける。
