網膜の交差点で静脈が消える―眼底でみる動脈硬化のサイン
第105回医師国家試験 C問題 第4問
国試問題にチャレンジ
動脈硬化を示唆する眼底所見はどれか。
- a.黄斑浮腫
- b.毛細血管瘤
- c.網膜新生血管
- d.動静脈交叉現象
- e.視神経乳頭陥凹
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
網膜の細動脈は全身の細動脈とよく似た変化を示すため、眼底検査は高血圧や動脈硬化の評価に用いられます。動脈硬化性変化の代表は動脈血柱反射の亢進(銅線動脈・銀線動脈)と動静脈交叉現象で、後者は共通外膜に包まれた交叉部で硬化した動脈が静脈を圧迫して生じます。毛細血管瘤や網膜新生血管は糖尿病網膜症などの網膜虚血、黄斑浮腫は血管透過性の亢進、視神経乳頭陥凹の拡大は緑内障の所見であり、動脈壁の硬化を直接示すものではありません。高血圧性変化と動脈硬化性変化を分けて評価するScheie分類の考え方を理解しておくと、眼底所見から全身の血管状態を読み解く力につながります。
解答・解説
正解はdです
眼底は、生体内で血管を直接観察できる唯一の部位である。網膜の細動脈は全身の細動脈とよく似た変化を示すため、眼底検査は高血圧や動脈硬化の評価に用いられる。 眼底の血管変化は、大きく二つに分けて考えると整理しやすい。 ・高血圧性変化(機能的・急性の変化): 細動脈の狭細化・口径不同、さらに重症になると網膜出血、軟性白斑(綿花様白斑)、視神経乳頭浮腫が加わる。 ・動脈硬化性変化(器質的・慢性の変化): 血管壁が肥厚・硬化するために生じる所見で、動脈血柱反射の亢進(銅線動脈・銀線動脈)と動静脈交叉現象が代表である。 本問は「動脈硬化」に特徴的な所見を問うている。選択肢のうち、黄斑浮腫・毛細血管瘤・網膜新生血管は主に糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症など網膜の循環障害・虚血でみられる所見であり、視神経乳頭陥凹は緑内障の所見である。動脈壁の硬化そのものを反映しているのは動静脈交叉現象である。
選択肢考察
- ×a. 黄斑浮腫
黄斑浮腫は、網膜血管の透過性が亢進し、黄斑部(特に外網状層にあたるHenle線維層)に液体がたまった状態である。糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、白内障術後(Irvine-Gass症候群)などでみられ、悪性高血圧のような重症の高血圧性網膜症でも生じうる。血管透過性の異常を示す所見であり、動脈壁の硬化を直接示すものではない。
- ×b. 毛細血管瘤
毛細血管瘤は、網膜の毛細血管壁が局所的に膨らんだもので、検眼鏡では小さな赤い点として見える。高血糖による周皮細胞の脱落や基底膜の肥厚、内皮細胞障害によって毛細血管壁が弱くなり、網膜の低酸素状態も加わって生じる。糖尿病網膜症の最も早期の所見(単純網膜症の段階)として重要であり、網膜静脈閉塞症などでもみられる。動脈硬化の所見ではない。
- ×c. 網膜新生血管
網膜新生血管は、網膜が広範に虚血(無灌流)に陥った結果、血管内皮増殖因子(VEGF)が産生されて生じる異常な血管である。増殖糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症、未熟児網膜症などでみられる。もろく出血しやすいため硝子体出血の原因となり、増殖膜を形成して牽引性網膜剝離を起こすこともある。網膜虚血を反映した所見であり、動脈硬化を示すものではない。
- ○d. 動静脈交叉現象
網膜では、動脈と静脈が交差する部位で両者が共通の外膜に包まれている。動脈硬化で動脈壁が厚く硬くなると、その下を走る静脈が圧迫され、交叉部で静脈が細く見えたり途切れて見えたりする(隠伏)。さらに進むと、交叉部の手前(末梢側)で静脈が膨らんだり、走行が曲がったりする。これが動静脈交叉現象であり、動脈壁の器質的な硬化を反映する代表的な所見である。動脈血柱反射の亢進(銅線動脈・銀線動脈)とともに、Scheie分類で動脈硬化性変化の程度を評価する項目となっている。
- ×e. 視神経乳頭陥凹
視神経乳頭陥凹は、視神経乳頭の中央にあるくぼみ(陥凹)である。緑内障では視神経線維が減るため陥凹が拡大し、陥凹乳頭径比(C/D比)が大きくなる。上下の辺縁部が薄くなる、左右差がある、といった変化も緑内障を疑う手がかりになる。視神経の障害を示す所見であり、網膜血管の動脈硬化とは関係しない。
Scheie分類
眼底の変化を高血圧性変化(H)と動脈硬化性変化(S)に分け、それぞれ0〜4度で評価する分類である。 ・高血圧性変化(H): 細動脈の狭細化・口径不同の程度で1〜3度を評価し、網膜出血・白斑が加わると3度、視神経乳頭浮腫が加わると4度とする。 ・動脈硬化性変化(S): 動脈血柱反射の亢進と動静脈交叉現象の程度で評価する。1度は軽度の血柱反射亢進と軽度の交叉現象、2度はそれらがより明らかになった状態、3度は銅線動脈と高度の交叉現象、4度は銀線動脈がみられる状態である。
動脈血柱反射と銅線動脈・銀線動脈
正常の網膜動脈では、血管の中央に細い光の反射(血柱反射)が見える。動脈壁が肥厚・硬化すると反射の幅が広く強くなり(血柱反射亢進)、さらに進むと血管全体が銅色に光って見える(銅線動脈)。最終的に血柱が見えないほど壁が厚くなると、白い線のように見える(銀線動脈)。
Keith-Wagener分類
高血圧患者の眼底所見を全身の予後と関連づけた分類で、I〜IV群に分ける。IV群は視神経乳頭浮腫を伴い、悪性高血圧に相当する。
網膜の所見と主な原因疾患
・毛細血管瘤、点状・しみ状出血、硬性白斑: 糖尿病網膜症 ・網膜新生血管: 増殖糖尿病網膜症、網膜静脈閉塞症など網膜虚血 ・火炎状出血、軟性白斑、乳頭浮腫: 重症高血圧性網膜症 ・視神経乳頭陥凹拡大: 緑内障
POINT
・動脈硬化性眼底変化の代表は、動静脈交叉現象と動脈血柱反射の亢進(銅線動脈→銀線動脈)である。 ・高血圧性変化(狭細化、出血、白斑、乳頭浮腫)と動脈硬化性変化を区別して評価するのがScheie分類である。 ・毛細血管瘤・新生血管は糖尿病網膜症など網膜虚血の所見、乳頭陥凹拡大は緑内障の所見である。
