平坦な波形に電気ショックは効かない―心静止で最初に手にする薬はアドレナリン
第105回医師国家試験 C問題 第21問
国試問題にチャレンジ
55歳の女性。心肺停止状態で搬入された。40歳台から高血圧症のため,降圧薬を服用中である。仕事中に「胸が絞め付けられるように痛い」と言った後,床に倒れた。救急車内で救急救命士によって静脈路を確保され,心肺蘇生法を施行されつつ搬入された。搬入時のモニター心電図波形は心静止である。 投与する薬品はどれか。
- a.アドレナリン
- b.ジアゼパム
- c.プレドニゾロン
- d.ヘパリン
- e.ベラパミル
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
心停止の二次救命処置では、心電図波形によって対応が分かれ、心室細動・無脈性心室頻拍は電気ショックの適応、心静止・無脈性電気活動はショック非適応となります。心静止では質の高い胸骨圧迫を続けながら、アドレナリン1 mgを静脈路または骨髄路から早期に投与し、3〜5分ごとに反復します。アドレナリンはα1作用で末梢血管を収縮させ、冠動脈・脳の灌流圧を高めて自己心拍再開を助けます。ジアゼパムやステロイドには蘇生作用がなく、ベラパミルは陰性変力・変時作用でむしろ有害であり、ヘパリンは自己心拍再開後の冠動脈インターベンションで用いる薬です。波形の確認、HとTに沿った可逆的原因の検索、そして胸痛後の心停止では急性冠症候群を念頭に置いた再灌流療法までを一連の流れとして理解しておくことが、救急現場での確実な判断につながります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・55歳女性、40歳代からの高血圧症(冠危険因子)。 ・仕事中に「胸が絞め付けられるように痛い」と絞扼感を訴えた直後に倒れた。典型的な狭心痛の訴えであり、急性冠症候群(ACS:急性心筋梗塞や不安定狭心症)、特に急性心筋梗塞による心停止がまず考えられる(大動脈解離や肺塞栓症なども鑑別に挙がる)。 ・救急救命士により静脈路が確保され、心肺蘇生(CPR)が続けられている。 ・搬入時のモニター心電図は心静止(asystole)である。
設問の考え方
心停止の二次救命処置(ALS)では、心電図波形によって対応が二つに分かれる。 ・心室細動(VF)・無脈性心室頻拍(pulseless VT):電気ショック(除細動)の適応がある「ショック適応リズム」。 ・心静止・無脈性電気活動(PEA):除細動の適応がない「ショック非適応リズム」。 本例は心静止であり、除細動は無効である。質の高い胸骨圧迫を中断せずに続けながら、静脈路(または骨髄路)からできるだけ早くアドレナリン1 mgを投与し、以後3〜5分ごとに反復する。並行して、心停止の原因のうち治療可能なもの(低酸素、循環血液量減少、アシドーシス、高・低カリウム血症、低体温、緊張性気胸、心タンポナーデ、中毒、血栓症〈冠動脈・肺動脈〉など)を検索し是正する。本例では急性冠症候群が疑われるため、自己心拍再開(ROSC)後には12誘導心電図と緊急冠動脈造影・再灌流療法を考慮する。
選択肢考察
- ○a. アドレナリン
アドレナリンはα1受容体刺激作用により末梢血管を収縮させ、胸骨圧迫中の大動脈拡張期圧を高めて冠動脈・脳への灌流圧を上昇させる。これにより自己心拍再開の可能性を高めるため、心静止・PEAでは第一に投与する薬剤である。成人では1 mgを静脈内(または骨髄内)に投与し、3〜5分ごとに繰り返す。ショック非適応リズムではできるだけ早期の投与が推奨される。
- ×b. ジアゼパム
ジアゼパムはベンゾジアゼピン系薬で、鎮静・抗不安・抗けいれん・筋弛緩作用をもち、てんかん重積状態などのけいれん発作の停止に用いる。呼吸抑制や血圧低下をきたしうる薬剤であり、心停止の蘇生には適応がない。
- ×c. プレドニゾロン
プレドニゾロンは抗炎症・免疫抑制作用をもつ副腎皮質ステロイドで、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、ネフローゼ症候群、気管支喘息、副腎皮質機能低下症などに用いる。心静止に対して心拍再開を目的に使う薬剤ではなく、適応はない。
- ×d. ヘパリン
ヘパリンはアンチトロンビン(AT)と複合体を形成してトロンビンや活性化第Ⅹ因子などを阻害する抗凝固薬で、血栓症の治療・予防、播種性血管内凝固(DIC)、体外循環時の凝固防止などに用いる。急性冠症候群の治療では自己心拍再開後の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)に際して使用されるが、心静止の状態で心拍を再開させる作用はなく、蘇生中にまず投与する薬剤ではない。
- ×e. ベラパミル
ベラパミルはVaughan Williams分類Ⅳ群の非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬で、房室結節伝導を抑制し、発作性上室頻拍の停止や心房細動・心房粗動の心拍数調節に用いる。陰性変力作用・陰性変時作用により心収縮力と心拍数を低下させるため、重篤な低血圧、心原性ショック、高度徐脈、Ⅱ〜Ⅲ度房室ブロック、重篤な心不全などでは禁忌である。心静止の患者に投与すれば蘇生をさらに妨げるだけであり、用いてはならない。
心停止アルゴリズム(成人ALS)の要点
1. 心停止を確認したらただちに胸骨圧迫を開始する(強く:約5 cm・6 cmを超えない、速く:100〜120回/分、絶え間なく、胸壁を完全に戻す)。 2. 除細動器・心電図モニターを装着し、リズムを評価する。 3. VF/無脈性VT:電気ショック後ただちに胸骨圧迫を2分間再開。ショックを繰り返しても続く場合はアドレナリンを投与し、難治性であればアミオダロン(またはニフェカラント、リドカイン)を用いる。 4. 心静止/PEA:電気ショックは行わず、胸骨圧迫を継続しつつアドレナリン1 mgを早期に投与、3〜5分ごとに反復する。 5. 約2分ごとにリズムと脈拍を確認し、胸骨圧迫の中断は最小限(10秒以内)にする。 6. 気管挿管などの高度な気道確保、呼気CO2モニタリングを行い、治療可能な原因を検索・是正する。
心停止の可逆的な原因(いわゆる「H」と「T」)
H:Hypoxia(低酸素)、Hypovolemia(循環血液量減少)、Hydrogen ion(アシドーシス)、Hyper-/Hypokalemia(高・低カリウム血症)、Hypothermia(低体温) T:Tension pneumothorax(緊張性気胸)、Tamponade(心タンポナーデ)、Toxins(中毒)、Thrombosis(冠動脈・肺動脈の血栓症)
心静止の確認
モニター上の平坦な波形は、電極の外れや感度設定の不良、誘導の問題でも生じうる。リード・感度・誘導を確認して、真の心静止であることを確かめることが大切である。
かつての知見
かつては心静止に対してアトロピンが用いられたが、有効性が示されず現在のガイドラインでは推奨されていない。また、バソプレシンもアドレナリンに代わる選択肢から外されている。
POINT
・心静止・PEAはショック非適応リズムで、除細動は行わない。 ・胸骨圧迫を継続しつつ、アドレナリン1 mgを静注(骨髄内投与も可)し、3〜5分ごとに反復する。 ・VF・無脈性VTはまず電気ショック、難治性ならアミオダロンなどを追加する。 ・並行して可逆的な原因(H&T)を検索・是正する。胸痛後の心停止では急性冠症候群を念頭に置く。 ・ベラパミルなど陰性変力・変時作用をもつ薬剤は心停止には禁忌的である。
