病状を最初に聞くのは誰か―職業や家族構成に惑わされない告知の原則
第105回医師国家試験 C問題 第16問
国試問題にチャレンジ
52歳の男性。旅客機操縦士。大腸がん検診で便潜血が陽性となったため精査目的で来院した。大腸内視鏡検査でS状結腸に全周性の進行癌を認めた。精査の結果,病期ⅣのS状結腸癌と診断した。治療方針としてS状結腸切除術と抗癌化学療法とを勧める予定である。母親,妻および医学生の娘との4人暮らし。 はじめに病状を伝える相手として適切なのはどれか。
- a.患者本人
- b.妻
- c.母親
- d.娘
- e.職場の上司
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
判断能力のある成人患者では、病名・病状・治療の選択肢はまず本人に説明するのが原則であり、その根拠はインフォームド・コンセントと自己決定権の尊重、そして医師の守秘義務です。配偶者や親などの家族であっても本人の同意なく先に伝えることは不適切で、家族の同席や情報共有の範囲は本人の意思を確認して決めます。家族に医療関係者がいることや、安全に関わる職業であることは本人を飛ばす理由にはならず、職場への報告も本人の同意のもとで行います。本人が判断能力を欠く場合や、本人が知らないでいることを明確に希望した場合に限り、家族などが説明の相手となります。SPIKESなどの手順を踏まえた丁寧な告知は、患者との信頼関係を築き、その後の治療を支える土台となります。
解答・解説
正解はaです
状況の整理
52歳の男性が大腸がん検診(便潜血検査)陽性を契機に精査を受け、遠隔転移を伴う病期ⅣのS状結腸癌と診断された。今後、S状結腸切除術と抗癌化学療法を提案する予定である。本人は自ら検診を受け、自分で来院している。意識障害や認知機能低下を示す記載はなく、自分で判断する能力(意思決定能力)は保たれていると考えられる。
設問の考え方
問われているのは「病状を最初に誰に伝えるか」である。現在の医療では、判断能力のある成人患者について、診断名・病状・予後・治療選択肢の説明は本人に対して行うのが原則である。これはインフォームド・コンセント(十分な説明を受け、理解したうえで本人が治療に同意・選択すること)と自己決定権の尊重に基づく。さらに診療情報は個人情報であり、本人の同意なく第三者へ伝えることは守秘義務・個人情報保護の観点から許されない。家族も例外ではなく、本人より先に家族へ伝える理由にはならない。 問題文には「旅客機操縦士」という職業や、「医学生の娘」がいる家族構成が書かれている。これらは、職場への配慮や家族に医療知識があることを理由に本人以外を優先させようとする誘導(ひっかけ)である。職業上の影響が大きい場合でも、まず本人に伝え、職場や家族へどう伝えるかは本人の意思を確認して決める。
選択肢考察
- ○a. 患者本人
本人は意思決定能力を保っており、病名・病期・治療法(手術と化学療法)の利点と不利益、ほかの選択肢を理解して自分で選ぶ権利がある。病期Ⅳの癌では、治療の選び方がその後の生活・仕事・人生設計に直結するため、本人が事実を知ったうえで決めることが特に重要である。したがって最初に説明する相手は本人である。家族へ伝える範囲や同席の希望も、本人に確認してから決める。
- ×b. 妻
配偶者であっても、判断能力のある患者本人を差し置いて先に病状を伝えるのは不適切である。本人の同意なく家族に伝えることは守秘義務にも反する。本人が希望すれば妻の同席のもとで説明するのは望ましいが、それは本人の意思確認が前提である。本人が意識障害などで判断できない場合には、配偶者などの家族が説明の相手や意思決定の代理となりうる。
- ×c. 母親
母親も家族ではあるが、本人より先に伝える理由はない。本人の同意なく病状を明かすことは許されず、誰にどこまで伝えるかは本人が決める。高齢の親への伝え方を本人が迷う場合は、その相談に医療者が乗るという形で関わる。
- ×d. 娘
娘が医学生で医学知識をもっていることは、本人より先に伝える根拠にならない。医療知識の有無にかかわらず、説明の第一の相手は判断能力のある本人である。家族内に医療関係者がいても、その人を通して本人に伝えさせるような方法は不適切である。
- ×e. 職場の上司
上司は家族ですらない第三者であり、本人の同意なく病状を伝えることは守秘義務違反・個人情報保護法違反となる。旅客機操縦士という安全に関わる職業であっても、医師が本人を飛ばして職場へ病名を知らせることは認められない。就業上の配慮や職場への報告が必要な場合は、本人に説明したうえで、本人の同意を得て、あるいは本人自身が行う。
インフォームド・コンセントの要素
医師が、病名・病状、検査や治療の目的と方法、期待される効果と危険性(合併症・副作用)、ほかに取りうる選択肢(治療を受けない場合も含む)、予後をわかりやすく説明し、患者がそれを理解したうえで自発的に同意・選択するという過程を指す。説明は一度で終わらず、患者の理解度や心理状態に合わせて繰り返し行う。
悪い知らせの伝え方
癌の告知のように患者にとってつらい情報を伝える際は、プライバシーの保たれた静かな場所で、本人が同席を希望する人がいれば同席させ、まず本人が病状をどこまで理解しているか・どこまで知りたいかを確かめてから段階的に伝える。感情の動揺に共感的に対応し、今後の方針と支援を示して終えることが推奨される(SPIKESと呼ばれる6段階の手順が代表的である)。
本人以外に説明する場面
・本人が意識障害・重度の認知症などで判断能力を欠く場合:家族など代諾者に説明し、本人の推定意思を尊重して方針を決める。 ・本人が「自分は聞きたくない、家族に伝えてほしい」と明確に希望した場合:その意思を尊重しうる(知らないでいる権利)。ただしその場合も、本人の意思を確認したうえでの対応である。 ・未成年者:年齢と理解力に応じて本人にも説明し、親権者の同意も得る。
守秘義務
医師は刑法(秘密漏示罪)により業務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならない。家族や職場への情報提供も、原則として本人の同意が必要である。
POINT
・判断能力のある成人では、病名・病状の説明はまず本人に行う(自己決定権、インフォームド・コンセント)。 ・家族への説明の範囲や同席者は本人の意思で決める。家族に医療者がいても優先する理由にはならない。 ・職場など第三者へは本人の同意なく伝えない(守秘義務・個人情報保護)。 ・本人に判断能力がない場合に限り、家族などが説明・代諾の相手となる。
