二重らせんは誰が描いたのか―生命科学の巨人たちと業績を結びつける
第105回医師国家試験 C問題 第15問
国試問題にチャレンジ
DNAの三次元立体構造と役割の解明に貢献したのは誰か。
- a.Charles R Darwin
- b.Barbara McClintock
- c.Gregor J Mendel
- d.Jacques L Monod
- e.James D Watson
対話形式の解説
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ドクターまとめ
DNAの三次元立体構造と遺伝物質としての役割を明らかにしたのは、1953年に二重らせん構造モデルを提唱したJames D WatsonとFrancis Crickであり、Franklinらが得たX線回折像がその基盤となりました。このモデルは、逆平行の2本鎖とA–T・G–Cの相補的塩基対によって、一方の鎖が鋳型となる半保存的複製の仕組みを説明した点で画期的でした。Darwinは自然選択説による進化論、Mendelは遺伝の法則、McClintockはトランスポゾンの発見、Monodはオペロン説と、それぞれ業績が異なるため区別して覚えておく必要があります。人物と業績を年代順にたどると遺伝学の発展が一本の流れとして理解でき、現在の遺伝子検査や分子標的治療を支える基礎知識にもつながります。
解答・解説
正解はeです
本問は、生命科学・遺伝学の歴史に名を残した研究者と、その業績を正しく結びつけられるかを問う問題である。 DNA(デオキシリボ核酸)が遺伝情報の担い手であることは1940〜50年代の研究(Averyらの肺炎球菌の形質転換実験、Hershey と Chase のバクテリオファージ実験など)で示されつつあったが、DNAがどのような立体構造をとり、どうやって情報を複製・伝達するのかは不明であった。1953年、James D Watson と Francis Crick は、Rosalind Franklin や Maurice Wilkins が得たDNAのX線回折像などをもとに、2本のポリヌクレオチド鎖が逆向き(逆平行)に絡み合い、内側で塩基どうしが相補的に対合する「二重らせん構造モデル」を Nature 誌に発表した。 このモデルは、単に形を示しただけではなく、「一方の鎖が他方の鎖の鋳型になる」ことから、DNAが正確に複製される仕組み(半保存的複製)を自然に説明できる点で画期的であった。すなわち、DNAの立体構造と遺伝物質としての役割の両方を明らかにしたことになる。この業績により、Watson、Crick、Wilkins の3名は1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。 したがって、各選択肢の人物の代表的業績を思い出し、「DNAの三次元構造」に直結するのは誰かを選べばよい。
選択肢考察
- ×a. Charles R Darwin
英国の博物学者で、1859年に『種の起源』を著し、生存に有利な変異をもつ個体が子孫を多く残すことで生物が変化していくという「自然選択(自然淘汰)説」を中心とする進化論を唱えた。ビーグル号での航海、特にガラパゴス諸島での観察が着想の一助となったことで知られる。遺伝の物質的な実体(DNA)は当時知られておらず、DNAの構造解明とは無関係である。
- ×b. Barbara McClintock
米国の細胞遺伝学者で、トウモロコシの粒の色の斑入り模様を研究する中で、ゲノム上の位置を移動する遺伝因子(転移因子、トランスポゾン、いわゆる「動く遺伝子」)を発見した。発表当初は評価されなかったが、のちに細菌などでも確認され、1983年に単独でノーベル生理学・医学賞を受賞した。遺伝子の動的なふるまいを示した業績であり、DNAの二重らせん構造の解明ではない。
- ×c. Gregor J Mendel
オーストリアの修道士で、エンドウマメの交配実験から、優性(顕性)の法則・分離の法則・独立の法則からなる「メンデルの法則」を1865年に発表した。形質は粒子状の「遺伝因子」(現在の遺伝子)によって親から子へ伝わることを示した遺伝学の祖であるが、その因子の化学的な実体や構造は扱っていない。業績は生前ほとんど注目されず、1900年に複数の研究者により再発見された。
- ×d. Jacques L Monod
フランスの分子生物学者で、François Jacob とともに大腸菌のラクトース(乳糖)代謝酵素の発現調節を研究し、オペロン説を提唱した。リプレッサー(抑制因子)がオペレーターに結合して一群の遺伝子の転写をまとめてオン・オフするという、遺伝子発現調節の基本概念である。この業績で Jacob、André Lwoff とともに1965年のノーベル生理学・医学賞を受賞した。遺伝子の働きの調節を明らかにしたものであり、DNAの立体構造の解明ではない。
- ○e. James D Watson
米国の分子生物学者で、1953年に Francis Crick とともにDNAの二重らせん構造モデルを提唱した。2本の鎖が逆平行に向かい合い、アデニン(A)とチミン(T)、グアニン(G)とシトシン(C)が水素結合で相補的に対合するという構造であり、一方の鎖を鋳型として他方が正確に複製される仕組みを説明した。DNAの三次元立体構造と遺伝物質としての役割を同時に示した業績であり、1962年に Crick、Wilkins とともにノーベル生理学・医学賞を受賞した。
DNA二重らせん構造の要点
・2本のポリヌクレオチド鎖が互いに逆向き(5'→3' と 3'→5')に並ぶ(逆平行)。 ・糖(デオキシリボース)とリン酸の骨格が外側、塩基が内側に位置する。 ・塩基対は A–T(水素結合2本)、G–C(水素結合3本)の相補的対合である。この規則性は、Chargaff が見いだした「A量=T量、G量=C量」という経験則(Chargaff の法則)とも一致する。 ・右巻きのらせんで、1回転あたり約10塩基対(B型DNA)である。 ・相補性により、複製時には各鎖が鋳型となり、新しい二本鎖は古い鎖1本と新しい鎖1本からなる(半保存的複製。1958年に Meselson と Stahl が実験で証明)。
構造解明に関わった人物
・Rosalind Franklin:DNAの鮮明なX線回折像(いわゆる「写真51」)を撮影し、らせん構造の決定に不可欠なデータを提供した。1958年に死去しており、ノーベル賞は存命者のみが対象のため受賞者に含まれていない。 ・Maurice Wilkins:DNAのX線結晶構造解析を進め、1962年に Watson、Crick と共同受賞した。 ・Francis Crick:のちに遺伝情報が DNA → RNA → タンパク質へと流れるという「セントラルドグマ」を提唱した。
遺伝・生命科学史上の主な人物と業績
・Darwin:自然選択説による進化論(『種の起源』1859年) ・Mendel:遺伝の法則(1865年) ・Avery:形質転換物質がDNAであることを示した(1944年) ・Watson と Crick:DNA二重らせん構造(1953年) ・Jacob と Monod:オペロン説(1961年) ・McClintock:トランスポゾンの発見(1940年代〜、1983年ノーベル賞)
POINT
・DNA二重らせん構造モデル=Watson と Crick(1953年)。X線回折像を提供したのは Franklin と Wilkins。 ・McClintock=トランスポゾン、Mendel=遺伝の法則、Monod=オペロン説、Darwin=自然選択説(進化論)。 ・二重らせんは逆平行、A–T と G–C の相補的塩基対、半保存的複製の基盤となる。
