同じ子宮でも原因は別物―HPVは「頸癌」、体癌はエストロゲンで考える
第105回医師国家試験 C問題 第11問
国試問題にチャレンジ
疾患と危険因子の組合せで誤っているのはどれか。
- a.胃癌 ―― Helicobacter pylori
- b.喉頭癌 ―― 喫煙
- c.高血圧症 ―― 食塩
- d.骨粗鬆症 ―― 閉経
- e.子宮体癌 ―― ヒト乳頭腫ウイルス
対話形式の解説
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ドクターまとめ
ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は子宮頸癌の原因ウイルスであり、子宮体癌の危険因子ではありません。子宮体癌の多くは黄体ホルモンに拮抗されないエストロゲンの持続刺激で生じ、肥満、未経産、閉経の遅れ、糖尿病、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェンなどが危険因子です。胃癌とHelicobacter pylori、喉頭癌と喫煙、高血圧と食塩、骨粗鬆症と閉経(エストロゲン低下)はいずれも代表的な組合せで、エストロゲンが「減れば骨粗鬆症、過剰なら体癌」と対比すると整理しやすくなります。HPVは中咽頭癌や肛門癌などにも関与し、ワクチンと検診による予防が確立しています。危険因子をメカニズムとともに理解することは、一次予防・二次予防を考える公衆衛生の基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、代表的な疾患とその危険因子の対応を問う問題であり、「誤っている組合せ」を一つ選ぶ。 危険因子とは、それがあることで疾患の発生確率が高まる要因をいい、感染症(病原体)、生活習慣(喫煙・飲酒・食事)、内分泌環境(ホルモン)、遺伝などがある。予防医学では、危険因子を知ることが一次予防(発症の予防)の出発点となる。 選択肢のうち、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)は子宮頸癌の原因ウイルスであり、子宮体癌の危険因子ではない。子宮頸癌と子宮体癌は同じ子宮に発生する癌でも、発生部位、組織型、原因がまったく異なることを押さえておく必要がある。
選択肢考察
- ×a. 胃癌 ―― Helicobacter pylori
組合せは正しい。Helicobacter pylori(ピロリ菌)は胃粘膜に持続感染して慢性胃炎を起こし、萎縮性胃炎から腸上皮化生を経て胃癌が発生する素地をつくる。WHOの国際がん研究機関(IARC)はピロリ菌を確実な発癌因子(グループ1)に分類している。胃のMALTリンパ腫の原因でもあり、除菌治療は胃癌の予防にも有効とされる。このほか高塩分食、喫煙も胃癌の危険因子である。
- ×b. 喉頭癌 ―― 喫煙
組合せは正しい。喉頭癌の患者の大部分は喫煙者であり、喫煙は最も重要な危険因子である。タバコ煙に含まれる発癌物質が、吸気の通り道である喉頭の粘膜に直接作用する。飲酒も危険因子で、喫煙と組み合わさるとリスクがさらに高まる。組織型のほとんどは扁平上皮癌で、高齢の男性に多い。
- ×c. 高血圧症 ―― 食塩
組合せは正しい。食塩(ナトリウム)を過剰に摂取すると、体液量が増えて血圧が上昇する。日本人は食塩摂取量が多く、高血圧の重要な原因となっている。日本高血圧学会のガイドラインでは、高血圧患者の減塩目標を1日6g未満としている。食塩以外に、肥満、過剰な飲酒、運動不足、加齢、遺伝的素因なども高血圧の危険因子である。
- ×d. 骨粗鬆症 ―― 閉経
組合せは正しい。エストロゲンは破骨細胞による骨吸収を抑える作用をもつ。閉経によってエストロゲンが急減すると骨吸収が骨形成を上回り、骨量が急速に減少する(閉経後骨粗鬆症)。そのため骨粗鬆症は閉経後の女性に多い。ほかに加齢、やせ、喫煙、過度の飲酒、ステロイド薬の長期使用、運動不足、カルシウム・ビタミンD不足などが危険因子となる。
- ○e. 子宮体癌 ―― ヒト乳頭腫ウイルス
組合せは誤りであり、これが正解である。ヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus:HPV、ヒトパピローマウイルス)は子宮頸癌の原因ウイルスである。性交渉によって感染し、特にHPV16型・18型などの高リスク型の持続感染が、子宮頸部の異形成を経て癌を引き起こす。一方、子宮体癌(子宮内膜癌)の多くは、黄体ホルモン(プロゲステロン)に拮抗されないエストロゲンの持続的な刺激によって子宮内膜が増殖して生じる。危険因子は肥満、未経産、閉経の遅れ、糖尿病、高血圧、多嚢胞性卵巣症候群、エストロゲン単独のホルモン補充療法、タモキシフェンの使用などであり、HPVは関与しない。
子宮頸癌と子宮体癌の比較
・子宮頸癌:好発年齢は20〜40歳代にも多い。組織型は扁平上皮癌が多く、腺癌もある。原因は高リスク型HPVの持続感染。危険因子は性交開始年齢が早いこと、性的パートナーが多いこと、喫煙など。予防としてHPVワクチン(一次予防)と子宮頸がん検診(細胞診など、二次予防)がある。 ・子宮体癌:好発年齢は50〜60歳代(閉経前後)。組織型の大部分は類内膜癌(腺癌)。エストロゲン依存性のもの(タイプⅠ)が多く、危険因子は肥満、未経産、糖尿病、高血圧、エストロゲン単独補充療法、タモキシフェンなど。不正性器出血が初発症状となることが多い。
HPVが関与するその他の疾患
高リスク型HPVは子宮頸癌以外に、中咽頭癌の一部、肛門癌、外陰癌、腟癌、陰茎癌にも関与する。低リスク型(6型・11型など)は尖圭コンジローマの原因となる。
感染症が原因となる主な癌
・Helicobacter pylori:胃癌、胃MALTリンパ腫 ・HPV:子宮頸癌、中咽頭癌など ・B型・C型肝炎ウイルス:肝細胞癌 ・EBウイルス:上咽頭癌、Burkittリンパ腫など ・HTLV-1:成人T細胞白血病・リンパ腫 ・日本住血吸虫:肝癌・大腸癌との関連が指摘されている
POINT
・HPV(ヒト乳頭腫ウイルス)は子宮頸癌の原因であり、子宮体癌とは関係しない。 ・子宮体癌はエストロゲンの持続刺激が原因で、肥満・未経産・糖尿病などが危険因子である。 ・胃癌―Helicobacter pylori、喉頭癌―喫煙、高血圧―食塩、骨粗鬆症―閉経(エストロゲン低下)はいずれも代表的な組合せである。
