「下痢でショック」はどの型?―4分類で読み解くショックの原因
第105回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
ショックと原因の組合せで誤っているのはどれか。
- a.血管原性ショック ―― 重症下痢
- b.閉塞性ショック ―― 緊張性気胸
- c.心原性ショック ―― 拡張型心筋症
- d.神経原性ショック ―― 高位脊髄麻酔
- e.アナフィラキシーショック ―― 薬物アレルギー
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
ショックは、循環血液量減少性、心原性、心外閉塞・拘束性、血液分布異常性(血管原性)の4つに分類すると理解しやすくなります。重症下痢・出血・熱傷は体液量自体が減る循環血液量減少性、緊張性気胸・心タンポナーデ・肺塞栓症は閉塞性、急性心筋梗塞や拡張型心筋症は心原性、敗血症・アナフィラキシー・神経原性は血管拡張による血液分布異常性ショックです。神経原性ショックは交感神経遮断により徐脈を伴う低血圧を示す点が特徴で、アナフィラキシーにはアドレナリン筋注が第一選択となります。原因を「量・ポンプ・通り道・血管の張り」のどこが破綻したかで振り分ける考え方は、救急の現場でショックの型を推定し治療を選ぶための基礎になります。
解答・解説
正解はaです
ショックの病態分類と、それぞれを起こす代表的な原因疾患の対応を問う問題である。「誤っている組合せ」を選ぶ点に注意する。 ショックとは、急性の全身性循環障害によって重要臓器や組織への酸素供給が需要に見合わなくなり、細胞機能が障害される状態である。循環は「血管内の血液量」「心臓のポンプ機能」「血管の張り(血管抵抗)」「血液の流れ道が塞がれていないこと」で保たれるので、どこが破綻したかで次の4つに分けると理解しやすい。 ・循環血液量減少性ショック:出血、脱水(下痢・嘔吐、熱傷など)で血管内容量が減る。 ・心原性ショック:心筋梗塞、心筋症、不整脈、弁膜症などで心臓のポンプ機能が低下する。 ・心外閉塞・拘束性ショック(閉塞性ショック):緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症などで心臓への血液の流入や心臓からの拍出が物理的に妨げられる。 ・血液分布異常性ショック(血管原性ショック、分布性ショック):敗血症、アナフィラキシー、神経原性(脊髄損傷、高位脊髄くも膜下麻酔など)により末梢血管が拡張し、血液が末梢に貯留して有効循環血液量が減る。 問題の左列には、血行動態による分類(血管原性、閉塞性、心原性)と、原因による呼び方(神経原性、アナフィラキシー)が混在している。神経原性ショックとアナフィラキシーショックは、いずれも病態としては血液分布異常性(血管原性)ショックに含まれる。 各組合せについて、右列の原因がどの病態を起こすかを考えると、重症下痢は腸管からの大量の水分・電解質喪失によって体液量そのものが減るので、循環血液量減少性ショックに分類される。血管拡張を主体とする血管原性ショックと結びつけた組合せが誤りである。
選択肢考察
- ○a. 血管原性ショック ―― 重症下痢
重症下痢では、腸管から大量の水分とナトリウムなどの電解質が失われ、細胞外液、ひいては循環血液量そのものが減少する。これは循環血液量減少性ショックの機序である。一方、血管原性ショックは、血管が拡張して血液が末梢に溜まり、心臓へ戻る血液(静脈還流)が減る病態で、体内の血液量自体は減っていない。したがってこの組合せは誤りであり、本問の正解となる。なお、感染性腸炎などが重症化して敗血症に至れば、血管拡張による敗血症性ショック(血液分布異常性ショック)を合併しうるが、下痢そのものが直接起こすショックは循環血液量減少性と考えるのが標準的である。
- ×b. 閉塞性ショック ―― 緊張性気胸
緊張性気胸では、胸膜の損傷部が一方弁(チェックバルブ)となって胸腔内に空気が溜まり続け、胸腔内圧が著しく上昇する。縦隔が健側へ偏位し、上・下大静脈が圧迫されて心臓への静脈還流が妨げられるため、心拍出量が急激に低下する。これは閉塞性ショック(心外閉塞・拘束性ショック)の代表例であり、正しい組合せである。頸静脈怒張、患側の呼吸音減弱、気管の健側偏位などがみられ、画像検査を待たず胸腔穿刺やドレナージによる緊急脱気が必要となる。閉塞性ショックの原因には、ほかに心タンポナーデ、急性肺塞栓症がある。
- ×c. 心原性ショック ―― 拡張型心筋症
拡張型心筋症は、左室(ときに両心室)が拡大して収縮力が低下する疾患で、進行すると心臓のポンプ機能が破綻して心拍出量が保てなくなり、心原性ショックを起こしうる。したがって正しい組合せである。心原性ショックの最も代表的な原因は急性心筋梗塞であるが、ほかに劇症型心筋炎、重症不整脈(心室頻拍など)、急性の弁機能不全なども原因となる。心原性ショックでは、心拍出量の低下に加え、左室充満圧の上昇による肺うっ血を伴うことが多い。
- ×d. 神経原性ショック ―― 高位脊髄麻酔
血管の緊張と心拍数の維持には交感神経が重要である。交感神経の節前ニューロンは胸髄から上部腰髄(T1〜L2付近)にあり、心臓を支配する心臓促進線維はT1〜T4付近から出る。高位の脊髄くも膜下麻酔(脊椎麻酔)や頸髄・上位胸髄の損傷では、これらの交感神経の出力が遮断される。一方、副交感神経である迷走神経は脳幹から出る脳神経なので影響を受けず、その作用が相対的に優位となる。その結果、末梢血管が拡張して血圧が下がり、同時に徐脈を呈する。これが神経原性ショックであり、正しい組合せである。通常のショックでは代償性に頻脈となるのに対し、徐脈を伴い、皮膚が温かく乾いていることが特徴である。
- ×e. アナフィラキシーショック ―― 薬物アレルギー
アナフィラキシーは、アレルゲンに感作されたIgE抗体がマスト細胞や好塩基球を活性化し、ヒスタミンなどの化学伝達物質が一気に放出されることで起こる全身性の急性アレルギー反応である。血管拡張と血管透過性亢進により血圧が低下すると、アナフィラキシーショックとなる。原因としてはハチ毒や食物のほか、抗菌薬(特にβラクタム系)、造影剤、筋弛緩薬、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬物も多く、正しい組合せである。治療の第一選択はアドレナリンの筋注(成人0.3〜0.5mg、大腿前外側)である。
ショックの4分類と血行動態の目安
・循環血液量減少性:前負荷(中心静脈圧など)低下、心拍出量低下、末梢血管抵抗上昇。皮膚は冷たく湿潤(cold shock)。 ・心原性:心拍出量低下、左室充満圧(肺動脈楔入圧)上昇、末梢血管抵抗上昇。肺うっ血を伴いやすい。 ・心外閉塞・拘束性:心拍出量低下、中心静脈圧上昇(頸静脈怒張)、末梢血管抵抗上昇。 ・血液分布異常性:末梢血管抵抗低下。初期は心拍出量が保たれるか増加し、皮膚が温かい(warm shock)。敗血症性、アナフィラキシー、神経原性が含まれる。
ショックの初期徴候
蒼白、冷汗、虚脱、脈拍触知不能、呼吸不全(ショックの5P)が古典的な徴候である。収縮期血圧90mmHg未満や平均動脈圧65mmHg未満は目安であるが、血圧低下前の頻脈、尿量減少、意識の変化、乳酸値上昇などにも注意する。
下痢と脱水
小児や高齢者では下痢・嘔吐による脱水が進みやすく、循環血液量減少性ショックに陥りやすい。コレラなどの大量の水様下痢では1日に数リットル以上の体液が失われうる。治療の基本は細胞外液(等張性輸液)の補充である。
神経原性ショックと脊髄ショックの区別
神経原性ショックは交感神経遮断による循環不全(低血圧・徐脈)を指す。これに対し脊髄ショックは、脊髄損傷直後に損傷部以下の反射がすべて消失し弛緩性麻痺となる神経学的な状態を指し、両者は別の概念である。
POINT
・ショックは循環血液量減少性、心原性、心外閉塞・拘束性、血液分布異常性の4つに分類する。 ・重症下痢、出血、熱傷は循環血液量減少性ショック。 ・緊張性気胸、心タンポナーデ、肺塞栓症は閉塞性ショック。 ・急性心筋梗塞、拡張型心筋症などは心原性ショック。 ・敗血症、アナフィラキシー、神経原性は血液分布異常性(血管原性)ショック。 ・神経原性ショックは徐脈を伴う低血圧が特徴。
