健診で響く「4/6度」の粗い雑音―最強点と雑音の型で見抜く肺動脈弁狭窄症
第105回医師国家試験 A問題 第44問
国試問題にチャレンジ
1歳6か月の男児。1歳6か月児健康診査のため来院した。正常分娩で出生した。1か月時の健康診査で心雑音を指摘され経過観察されていた。呼吸困難とチアノーゼとを認めない。身長80 cm,体重12.2 kg。体温36.8℃。呼吸数28/分。脈拍92/分,整。血圧94/60 mmHg。胸骨左縁第2肋間を最強点とする4/6度の粗い収縮中期雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。 最も考えられるのはどれか。
- a.大動脈縮窄症
- b.心房中隔欠損症
- c.心室中隔欠損症
- d.肺動脈弁狭窄症
- e.僧帽弁閉鎖不全症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)を最強点とし、振戦を伴うLevine 4/6度の粗い駆出性(収縮中期)雑音は、器質的な狭窄による高い圧較差を示し、肺動脈弁狭窄症を最も考えます。生後早期から雑音がありながら心不全症状がなく発育良好な経過も、軽症〜中等症の肺動脈弁狭窄症の自然歴に合致します。同部位でも心房中隔欠損症の雑音は柔らかく弱く、Ⅱ音の固定性分裂が特徴であり、心室中隔欠損症は胸骨左縁第3〜4肋間、僧帽弁閉鎖不全症は心尖部の全収縮期雑音、大動脈縮窄症は上下肢の血圧差と背部の雑音で区別します。確定診断は心エコーによる弁形態と右室-肺動脈間圧較差の評価で行い、中等症以上ではバルーン肺動脈弁形成術が第一選択です。雑音の部位・型・強さと発見時期を組み合わせて考える習慣は、乳幼児健診や外来での先天性心疾患の拾い上げに直結します。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・1歳6か月の男児。1歳6か月児健康診査で受診。 ・1か月健診で心雑音を指摘され、以後も持続している。 ・呼吸困難・チアノーゼはなく、身長80 cm、体重12.2 kgと発育は良好である(体重増加不良なし)。 ・呼吸数28/分、脈拍92/分、血圧94/60 mmHgはいずれも年齢相応で、多呼吸・頻脈などの心不全徴候はない。肝腫大もない。 ・聴診:胸骨左縁第2肋間に最強点をもつ、Levine 4/6度の粗い収縮中期雑音(駆出性収縮期雑音)。
診断へのプロセス
心雑音の鑑別では「タイミング(収縮期か拡張期か、駆出性か全収縮期か)」「最強点」「強さ」「随伴所見」を組み合わせて考える。 ・収縮中期雑音(駆出性雑音)は、血液が狭くなった半月弁(大動脈弁・肺動脈弁)やその周囲を通過するときに生じる雑音で、Ⅰ音からやや遅れて始まり、収縮中期にピークをもつダイヤモンド型を示す。一方、心室中隔欠損や僧帽弁閉鎖不全のような逆流・短絡による雑音は、Ⅰ音から始まる全収縮期雑音となる。 ・最強点の胸骨左縁第2肋間は肺動脈弁領域である(胸骨右縁第2肋間は大動脈弁領域)。 ・Levine 4/6度は振戦(thrill)を触れる強い雑音で、弁口を通過する血流速度が高い、すなわち器質的な狭窄による圧較差を示唆する。 したがって、肺動脈弁領域の強く粗い駆出性雑音から、肺動脈弁狭窄症が最も考えられる。さらに、生後早期から雑音があるのに心不全症状がなく発育良好である経過も、軽症〜中等症の肺動脈弁狭窄症の自然歴に合致する。確定診断は心エコー検査で、弁の形態(ドーム状の開放制限)と、ドプラ法による右室-肺動脈間の圧較差を評価して行う。
選択肢考察
- ×a. 大動脈縮窄症
大動脈縮窄症は、大動脈峡部(左鎖骨下動脈起始部の遠位で動脈管が接合する付近)が限局性に狭くなる疾患である。心室中隔欠損などを伴う大動脈縮窄複合では新生児・乳児期に重い心不全やショックで発症する。単独型では無症状のこともあるが、上肢高血圧と上下肢の血圧差(下肢血圧が低い)、大腿動脈拍動の減弱・遅延が特徴であり、雑音は左鎖骨下や背部(肩甲骨間)で聴取されやすい。本例は胸骨左縁第2肋間の強い駆出性雑音が主所見で、上肢血圧94/60 mmHgと高血圧もなく、合致しない。
- ×b. 心房中隔欠損症
心房中隔欠損症では、心房間の左右短絡で右心系に容量負荷がかかり、肺動脈弁を通る血流量が増えるため、胸骨左縁第2肋間付近に駆出性収縮期雑音(相対的肺動脈弁狭窄による雑音)を生じる。しかし短絡は圧較差の小さい心房間で起こるため雑音自体は柔らかく、通常2/6度程度までで、4/6度の粗い雑音にはならない。特徴的なのはⅡ音の固定性分裂である。乳児期は雑音が目立たず、幼児期〜学童期の健診で発見されることが多い。本例は雑音が強く粗い点で合致しない。
- ×c. 心室中隔欠損症
心室中隔欠損症は小児の先天性心疾患で最も多い。生直後は肺血管抵抗が高いため雑音が目立たず、肺血管抵抗が低下する生後数週以降、1か月健診で発見されることが多い。雑音は胸骨左縁第3〜4肋間を最強点とする粗い全収縮期雑音(逆流性雑音)で、しばしば振戦を伴う。欠損孔が大きいと乳児期から多呼吸・哺乳不良・体重増加不良などの心不全を呈し、小欠損は自然閉鎖することもある。本例は最強点が第2肋間で、雑音が収縮中期に限局する駆出性である点で合致しない。
- ○d. 肺動脈弁狭窄症
肺動脈弁狭窄症は、肺動脈弁の癒合・肥厚により弁の開放が制限され、右室からの駆出が妨げられる疾患である(弁下・弁上の狭窄も含めて肺動脈狭窄と呼ぶ)。右室圧が上昇し、右室肥大をきたす。聴診では胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域)を最強点とし、頸部・背部へ放散する粗い駆出性収縮期雑音を聴取し、狭窄が強いほど雑音は大きく長くなる。弁性狭窄では収縮期駆出音(クリック)や、肺動脈成分(ⅡP)の遅れによるⅡ音の幅広い分裂・ⅡPの減弱を伴うことがある。狭窄は出生時から存在するため、生後早期から雑音を聴取できる。軽症〜中等症では無症状で発育も良好であり、本例の所見・経過と一致する。治療は圧較差が大きい場合に経皮的バルーン肺動脈弁形成術が第一選択となる。
- ×e. 僧帽弁閉鎖不全症
僧帽弁閉鎖不全症では、収縮期に左室から左房へ血液が逆流し、心尖部を最強点として左腋窩へ放散する全収縮期雑音(逆流性雑音)を聴取する。容量負荷が強いとⅢ音も聴取される。小児では先天性の単独例はまれで、主にリウマチ性、Marfan症候群、房室中隔欠損症の合併などでみられ、成人ではより一般的な弁膜症である。本例は最強点が心尖部ではなく胸骨左縁第2肋間で、駆出性雑音である点で合致しない。
聴診部位と主な疾患
・胸骨右縁第2肋間(大動脈弁領域):大動脈弁狭窄症の駆出性収縮期雑音(頸部へ放散)。 ・胸骨左縁第2肋間(肺動脈弁領域):肺動脈弁狭窄症の強い駆出性雑音、心房中隔欠損症の相対的肺動脈弁狭窄による柔らかい駆出性雑音。左鎖骨下では動脈管開存症の連続性雑音。 ・胸骨左縁第3〜4肋間:心室中隔欠損症の全収縮期雑音、大動脈弁閉鎖不全症の拡張期雑音。Fallot四徴症では右室流出路狭窄による駆出性雑音を胸骨左縁第2〜3肋間に聴く。 ・心尖部:僧帽弁閉鎖不全症の全収縮期雑音、僧帽弁狭窄症の拡張期ランブル。 ・背部(肩甲骨間):大動脈縮窄症の収縮期雑音。
Levine分類(心雑音の強さ)
1度:注意深く聴いてやっと聴こえる。2度:聴診器を当てるとすぐに聴こえる弱い雑音。3度:中等度の雑音。4度:振戦(thrill)を伴う強い雑音。5度:聴診器の縁を胸壁に当てるだけで聴こえる。6度:聴診器を胸壁から離しても聴こえる。3度以上、特に振戦を伴う4度以上は器質的疾患を強く示唆する。
発見時期と自然歴からみた先天性心疾患
・生直後から雑音:半月弁の狭窄(肺動脈弁狭窄症、大動脈弁狭窄症)。狭窄は出生時から存在し、肺血管抵抗の影響を受けにくいため。 ・生後数週〜1か月健診で雑音:心室中隔欠損症、動脈管開存症。生後の肺血管抵抗低下に伴い左右短絡が増えて雑音が出現する。 ・幼児期〜学童期(就学時健診など)で発見:心房中隔欠損症。雑音が弱く、症状に乏しいため。 ・乳幼児期に心不全症状がなく発育良好な代表:軽症〜中等症の肺動脈弁狭窄症、心房中隔欠損症、小欠損の心室中隔欠損症。
肺動脈弁狭窄症の重症度と治療
心エコー(ドプラ法)で右室-肺動脈間の最大圧較差を推定する。一般に40 mmHg未満は軽症で経過観察、中等症以上(概ね40〜50 mmHg以上)ではバルーン肺動脈弁形成術を考慮する。新生児期の重症例(critical PS)は動脈管依存性で、チアノーゼを呈し緊急治療を要する。Noonan症候群では異形成弁による肺動脈弁狭窄を合併しやすい。
POINT
・胸骨左縁第2肋間の強い(振戦を伴う)粗い駆出性(収縮中期)雑音 → 肺動脈弁狭窄症。 ・駆出性雑音=半月弁の狭窄や流量増加、全収縮期雑音=心室中隔欠損・房室弁逆流。 ・心房中隔欠損症の雑音は同じ部位でも柔らかく弱い(Ⅱ音の固定性分裂が特徴)。 ・心室中隔欠損症は胸骨左縁第3〜4肋間、僧帽弁閉鎖不全症は心尖部の全収縮期雑音。 ・生後早期から雑音があり、無症状で発育良好 → 軽症〜中等症の肺動脈弁狭窄症に合致。
