硬くて縮んで、酸素が通らない―特発性肺線維症の所見を病態から導く
第105回医師国家試験 A問題 第19問
国試問題にチャレンジ
特発性肺線維症〈IPF〉でみられるのはどれか。3つ選べ。
- a.残気量増加
- b.拡散能上昇
- c.A-aDO2開大
- d.血清KL-6上昇
- e.fine crackles聴取
対話形式の解説
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ドクターまとめ
特発性肺線維症は、病理学的にUIPパターンを示す原因不明の慢性進行性の線維化疾患で、高齢男性の喫煙者に多くみられます。肺が硬く縮むため拡散能低下を伴う拘束性換気障害となり、全肺気量・肺活量とともに残気量も減少し、1秒率は保たれます。肺胞壁の肥厚と換気血流比不均等によってA-aDO2が開大し、特に労作時の低酸素血症が目立ちます。Ⅱ型肺胞上皮の傷害を反映してKL-6・SP-A・SP-Dが上昇し、聴診では両側下肺野背側に吸気終末のfine crackles(ベルクロラ音)を聴取します。「硬く縮む」「壁が厚くなる」「上皮が傷む」という病態から所見を導く考え方は、他の間質性肺疾患や閉塞性肺疾患との鑑別にも役立ちます。
解答・解説
正解はc, d, eです
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は、原因不明の特発性間質性肺炎のうち最も頻度が高く、慢性・進行性に肺の線維化が進む疾患である。病理学的には通常型間質性肺炎(usual interstitial pneumonia:UIP)パターンを示し、高齢の男性・喫煙者に多い。 本問は、IPFの病態から各検査所見を推論できるかを問うている。次の3つの変化を押さえると、選択肢を整理しやすい。 1. 肺が硬くなり膨らみにくくなる(肺コンプライアンスの低下) → 全肺気量・肺活量・機能的残気量・残気量がいずれも減少する拘束性換気障害(%肺活量<80%)となる。1秒率は保たれるか、むしろ上昇する。 2. 肺胞壁(間質)が厚くなり、ガス交換の場が減る → 酸素の拡散距離が延び、有効な肺胞表面積と毛細血管床も減るため、肺拡散能(DLCO)が低下する。さらに換気血流比の不均等も加わって低酸素血症となり、肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大する。特に労作時に酸素飽和度が低下しやすい。 3. Ⅱ型肺胞上皮細胞の傷害・増生 → Ⅱ型肺胞上皮細胞が産生するKL-6、SP-A、SP-Dといった間質性肺炎のマーカーが血清中で上昇する。 身体所見では、両側下肺野背側を中心に、吸気の後半に「パチパチ」「バリバリ」という細かい断続性ラ音(fine crackles、捻髪音、ベルクロラ音)を聴取し、ばち指もしばしばみられる。以上から、A-aDO2開大、血清KL-6上昇、fine crackles聴取の3つがIPFでみられる所見である。
選択肢考察
- ×a. 残気量増加
IPFでは線維化によって肺が硬く縮み、肺全体の容量が小さくなるため、全肺気量・肺活量とともに残気量も減少する(拘束性換気障害)。残気量が増加するのは、呼気時に末梢気道が早期に閉塞して空気が肺内に取り残される(エアトラッピング)慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気管支喘息発作などの閉塞性換気障害である。したがって誤りである。
- ×b. 拡散能上昇
IPFでは肺胞壁(間質)の線維性肥厚により酸素が肺胞から毛細血管へ移動する距離が長くなるうえ、ガス交換に使える肺胞表面積と毛細血管床が減少する。そのため肺拡散能(一酸化炭素肺拡散能:DLCO)は低下する。拡散能の低下はIPFで早期から出現しやすく、病勢や予後の評価にも用いられる重要な指標である。なお、拡散能が上昇する病態としては肺胞出血、多血症、左右短絡、肥満などが挙げられる。上昇ではなく低下するため誤りである。
- ○c. A-aDO2開大
A-aDO2は肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差で、肺でのガス交換の効率を表す指標である(室内気での基準は概ね10〜20 Torr以下で、加齢とともにやや大きくなる)。IPFでは肺胞壁の肥厚による拡散障害と、線維化の不均一な分布による換気血流比不均等が生じるため、肺胞に十分な酸素があっても動脈血に取り込まれにくくなり、A-aDO2が開大する。拡散障害の影響は、血液が肺毛細血管を通過する時間が短くなる運動時に特に顕著となり、労作時の低酸素血症をきたす。IPFでみられる所見であり正しい。
- ○d. 血清KL-6上昇
KL-6(シアル化糖鎖抗原)は、主に再生・増生したⅡ型肺胞上皮細胞から産生される糖蛋白である。間質性肺炎では肺胞上皮の傷害と透過性亢進により血中に漏れ出し、血清濃度が上昇する(基準値は500 U/mL未満)。同じくⅡ型肺胞上皮細胞が産生する肺サーファクタント蛋白SP-A、SP-Dも上昇する。これらは間質性肺炎の診断補助だけでなく、疾患活動性や経過の評価にも用いられる。IPFでみられる所見であり正しい。
- ○e. fine crackles聴取
fine crackles(捻髪音)は、呼気時に閉じていた末梢気道や肺胞が、吸気時に次々と急に開くことで生じる細かい断続性ラ音である。IPFでは両側の下肺野背側を中心に、吸気の後半(吸気終末)に強く聴取され、マジックテープをはがすような音であることからベルクロラ音とも呼ばれる。線維化が肺底部・胸膜直下に優位に分布するというIPFの特徴を反映しており、早期から聴取されることが多い。IPFでみられる所見であり正しい。なお、吸気の早期から聴取される粗い断続性ラ音(coarse crackles)は、気道内の分泌物を反映し肺炎や気管支拡張症などでみられる。
特発性肺線維症(IPF)の概要
・好発: 50歳以上、男性、喫煙者 ・症状: 緩徐に進行する乾性咳嗽、労作時呼吸困難 ・身体所見: 両側下肺野背側のfine crackles、ばち指 ・画像: 胸部X線で両側下肺野優位の網状影と肺容積の減少。高分解能CT(HRCT)で胸膜直下・肺底部優位の網状影と蜂巣肺(蜂窩肺)、牽引性気管支拡張がみられる(UIPパターン)。 ・血液: KL-6、SP-A、SP-Dの上昇。LDHも上昇し得る。 ・呼吸機能: 拘束性換気障害(%肺活量低下、全肺気量・残気量の減少)、拡散能(DLCO)低下、1秒率は正常〜上昇 ・血液ガス: 低酸素血症、A-aDO2開大。PaCO2は過換気により正常〜低下することが多い。 ・気管支肺胞洗浄: 特異的所見に乏しく、他疾患の除外に用いる。 ・合併症: 急性増悪(予後不良)、肺癌、肺高血圧症、気胸 ・治療: 抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)で肺活量低下の進行を抑える。在宅酸素療法、呼吸リハビリテーション、適応があれば肺移植。副腎皮質ステロイド単独の効果は乏しい。
拘束性障害と閉塞性障害の比較
・拘束性(IPFなど): 肺活量↓、全肺気量↓、残気量↓、1秒率→〜↑、拡散能↓ ・閉塞性(COPDなど): 1秒率↓、全肺気量→〜↑、残気量↑、拡散能は肺気腫で↓
POINT
・IPFは拘束性換気障害: 肺活量・全肺気量・残気量はすべて減少し、1秒率は保たれる。 ・拡散能(DLCO)は低下、A-aDO2は開大し、特に労作時に低酸素血症となる。 ・血清マーカー: KL-6、SP-A、SP-D(Ⅱ型肺胞上皮細胞由来)が上昇する。 ・聴診: 両側下肺野背側の吸気終末のfine crackles(ベルクロラ音)。ばち指も特徴的。 ・HRCTで胸膜直下・肺底部優位の蜂巣肺(UIPパターン)。
