2つのホルモンが同時に消えるとき―急性副腎不全の検査値を「役割」から読み解く
第105回医師国家試験 A問題 第13問
国試問題にチャレンジ
急性副腎不全時に血中で低下するのはどれか。2つ選べ。
- a.ブドウ糖
- b.尿酸
- c.ナトリウム
- d.カリウム
- e.カルシウム
対話形式の解説
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ドクターまとめ
急性副腎不全(副腎クリーゼ)では、コルチゾールとアルドステロンが同時に欠乏します。コルチゾール欠乏は糖新生の低下による低血糖、低血圧、ADH抑制不全による希釈性低ナトリウム血症を、アルドステロン欠乏は腎でのNa喪失による低ナトリウム血症・脱水と、K⁺・H⁺貯留による高カリウム血症・代謝性アシドーシスをもたらすため、血中で低下するのはブドウ糖とナトリウムです。カルシウムはむしろ上昇しうるほか、脱水による腎機能低下で尿酸が上がることもあり、好酸球増多も参考所見になります。ACTH不足による続発性では高カリウム血症が目立たない点も押さえておきましょう。疑った時点で採血後ただちにヒドロコルチゾンと輸液を開始することが救命の鍵であり、ホルモンの役割から検査値を推論する姿勢は内分泌疾患全般の理解に役立ちます。
解答・解説
正解はa, cです
急性副腎不全(副腎クリーゼ)は、副腎皮質ホルモンが急激に不足し、生命を脅かす状態である。原因としては、慢性副腎不全(Addison病など)の患者が感染・手術・外傷などのストレスを受けたとき、長期ステロイド内服を急に中止したとき、両側副腎出血(Waterhouse-Friderichsen症候群など)などが代表的である。 本問を解くには、不足するホルモンを「グルココルチコイド(コルチゾール)」と「ミネラルコルチコイド(アルドステロン)」に分け、それぞれが欠けたときに血中の物質がどう変化するかを考えればよい。
コルチゾール欠乏の影響
コルチゾールは肝臓での糖新生を促し、インスリンに拮抗して血糖を維持する。これが欠けると糖新生が低下し、低血糖となる。また、コルチゾールには血管のカテコールアミン反応性を保つ作用や、腎での自由水排泄を助ける作用がある。欠乏すると血圧が維持できず、さらに抗利尿ホルモン(ADH)分泌が抑制されにくくなるため、水が貯留して希釈性の低ナトリウム血症も生じる。
アルドステロン欠乏の影響
アルドステロンは腎の集合管でNa⁺の再吸収とK⁺・H⁺の排泄を促す。欠乏すると尿中へのNa⁺喪失が増えて低ナトリウム血症と循環血液量減少(脱水)をきたし、一方でK⁺とH⁺が体内に貯留して高カリウム血症と代謝性アシドーシスになる。 以上から、血中で低下するのはブドウ糖とナトリウムであり、カリウムはむしろ上昇する。
選択肢考察
- ○a. ブドウ糖
コルチゾールは肝での糖新生を促進し、末梢での糖利用を抑えて血糖を上げる方向に働く。急性副腎不全ではコルチゾールが欠乏するため糖新生が低下し、さらに食事摂取不良も加わって低血糖をきたす。低血糖は意識障害の一因にもなる。
- ×b. 尿酸
副腎皮質ホルモンの欠乏は、尿酸の産生や排泄を直接低下させる機序をもたない。むしろ急性副腎不全では脱水・循環血液量減少による腎前性の腎機能低下が起こりやすく、尿酸が排泄されにくくなって上昇する方向に傾くことがある。したがって「低下する」ものには当たらない。
- ○c. ナトリウム
アルドステロン欠乏により腎集合管でのNa⁺再吸収が低下し、尿中へNa⁺が失われる。加えてコルチゾール欠乏ではADH分泌が抑えられにくく自由水排泄も障害されるため、水が貯留して希釈性の要素も加わる。この両面から低ナトリウム血症となる。
- ×d. カリウム
アルドステロンはNa⁺再吸収と引き換えにK⁺を尿中へ排泄させる。欠乏するとK⁺排泄が減り、さらに代謝性アシドーシスによる細胞内から細胞外へのK⁺移動も加わって、高カリウム血症となる。血中では低下ではなく上昇する。
- ×e. カルシウム
副腎不全は頻度は高くないものの高カルシウム血症の原因の一つとして知られている。循環血液量減少による腎でのCa排泄低下や、血液濃縮、骨からのCa動員の増加などが関与すると考えられているが、詳しい機序は十分に解明されていない。いずれにせよ低下する方向ではない。
急性副腎不全(副腎クリーゼ)の概要
誘因: 既存の副腎不全患者への感染・手術・外傷・脱水などのストレス、長期グルココルチコイド投与の急な中止、両側副腎出血・梗塞(敗血症、特に髄膜炎菌感染に伴うWaterhouse-Friderichsen症候群、抗凝固療法中など)。 症状: 全身倦怠感、悪心・嘔吐、腹痛、発熱、低血圧・ショック、意識障害。
検査所見の整理
低下するもの: 血糖、血清Na、血圧、(原発性では)血中コルチゾール・アルドステロン。 上昇するもの: 血清K、血清Ca(ときに)、BUN(脱水による)、好酸球・リンパ球数、(原発性では)ACTH・血漿レニン活性。 その他: 代謝性アシドーシス。
原発性と続発性の違い
原発性(副腎そのものの障害)ではコルチゾールもアルドステロンも欠乏するため、低Na・高Kがそろう。続発性(下垂体からのACTH不足)ではアルドステロン分泌はレニン-アンジオテンシン系で保たれるため高カリウム血症は目立たず、低Na血症は主にコルチゾール欠乏によるADH過剰(希釈性)で生じる。
治療
疑った時点で採血(コルチゾール・ACTH)を行い、結果を待たずにヒドロコルチゾンの静注と、生理食塩水・ブドウ糖液による輸液を開始する。ヒドロコルチゾンは大量投与でミネラルコルチコイド作用も発揮する。
POINT
・急性副腎不全ではコルチゾールとアルドステロンの欠乏が同時に起こる。 ・コルチゾール欠乏 → 低血糖、低血圧、希釈性低Na血症。 ・アルドステロン欠乏 → 低Na血症、高K血症、代謝性アシドーシス、脱水。 ・高Ca血症、好酸球増多も副腎不全でみられる所見である。 ・疑ったら検査結果を待たずにヒドロコルチゾンと輸液で治療を始める。
