白いドームが映し出す「見える範囲」―Goldmann視野計と網膜色素変性
第104回医師国家試験 I問題 第14問
国試問題にチャレンジ
眼科検査の写真を別に示す。 この検査が診断に有用な疾患はどれか。

- a.斜視
- b.白内障
- c.糖尿病網膜症
- d.網膜色素変性
- e.加齢黄斑変性
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
半球状のドームの前で頭部を固定し、片眼で中心を固視する検査はGoldmann視野計による動的量的視野検査で、周辺を含めた視野全体の形をイソプタで地図のように描き出せます。網膜色素変性は杆体優位の障害により夜盲で始まり、輪状暗点から求心性視野狭窄へと進むため、Goldmann視野計が診断と進行評価に特に有用で、ERGの著明な減弱や骨小体様色素沈着と合わせて診断します。加齢黄斑変性は眼底検査・OCT・蛍光眼底造影、糖尿病網膜症は眼底検査と蛍光眼底造影、白内障は細隙灯顕微鏡、斜視は遮閉試験やHessチャートが診断の主役です。視野検査には動的と静的の違いがあり、緑内障の早期評価にはHumphrey視野計が広く使われる点もあわせて押さえましょう。検査の特性と疾患の特徴を結びつけて考える習慣は、眼科に限らずあらゆる診療科での検査選択に役立ちます。
解答・解説
正解はdです
写真では、被検者が半球状の大きな白いドームの前に座り、顎台と額当てで頭部を固定して片眼でドームの中心を見つめている。検者はドームの反対側から装置を操作している。これはGoldmann視野計(ゴールドマン視野計)による動的量的視野検査である。 Goldmann視野計では、被検者に中心の固視点を見続けてもらい、検者が大きさと明るさの異なる視標をドームの周辺から中心に向かって動かす。被検者は視標が見えた時点で合図する。同じ視標で見えた点を結んだ線(イソプタ)を何本か描くことで、視野の広さと感度の分布、暗点の位置・形を地図のように記録できる。周辺視野まで含めた視野全体の形をとらえるのが得意な検査である。 したがって、設問は「視野全体の形の異常そのものが診断の手がかりになる疾患はどれか」と読み替えられる。視野異常をきたし得る疾患は複数あるが、「診療で視野検査を行うことがある」ことと「視野検査が診断に有用である」ことは区別して考える必要がある。網膜色素変性は、輪状暗点から求心性視野狭窄へと進む特徴的な視野変化を示し、その評価にはGoldmann視野計が最も適している。
選択肢考察
- ×a. 斜視
斜視は、両眼の視線が同じ目標に向かわず、一方の眼の視線がずれている状態である。片眼ずつの視野は基本的に正常であり、視野検査で診断する疾患ではない。診断には、角膜反射法(Hirschberg法)、遮閉試験(cover test、cover-uncover test)、プリズムを用いた眼位の定量、Hessチャートによる眼球運動の評価などを用いる。
- ×b. 白内障
白内障は水晶体が混濁して視力低下、かすみ、まぶしさ(羞明)などをきたす疾患である。混濁によって視野全体の感度がやや低下することはあるが、特徴的な視野欠損の形はなく、視野検査で診断はできない。診断は細隙灯顕微鏡で散瞳して水晶体の混濁を直接観察することで行う。
- ×c. 糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、高血糖による網膜の細小血管障害で、毛細血管瘤、網膜出血、硬性白斑、軟性白斑(綿花状白斑)、無灌流領域、新生血管などを生じる。汎網膜光凝固術の後や進行例では視野障害をきたすことがあるが、視野の形から診断できるわけではない。診断と病期分類には眼底検査(検眼鏡・眼底写真)が基本であり、無灌流領域や新生血管の評価には蛍光眼底造影、黄斑浮腫の評価には光干渉断層計(OCT)を用いる。
- ○d. 網膜色素変性
網膜色素変性は、主に杆体(暗所で働き周辺網膜に多い視細胞)から障害が始まる遺伝性の進行性網膜変性疾患である。初期症状は夜盲で、視野では中間周辺部(中心から約20〜30°付近)に輪状暗点が生じ、進行とともに周辺視野が失われて求心性視野狭窄となる。中心視野は末期まで比較的保たれるため、「視力はよいのに歩くとぶつかる」ような状態になる。このような周辺部を含めた視野の形の変化をとらえるにはGoldmann視野計が最適であり、診断と進行度の評価に有用である。診断には視野検査のほか、網膜電図(ERG)で反応が著しく減弱〜消失(non-recordable)していることの確認、眼底での骨小体様色素沈着・網膜血管の狭細化・視神経乳頭の蒼白化の観察が重要である。
- ×e. 加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は、加齢に伴い黄斑部(網膜の中心で視力に最も重要な部位)が障害される疾患で、脈絡膜新生血管を伴う滲出型と、網膜色素上皮などが萎縮する萎縮型がある。症状は変視症(物がゆがんで見える)、中心暗点、視力低下である。中心暗点は視野検査でもとらえられ、経過観察に役立つこともあるが、中心暗点はほかの黄斑疾患や視神経疾患でも生じるため、本疾患に特異的ではない。診断の中心は眼底検査、OCT、蛍光眼底造影(フルオレセイン、インドシアニングリーン)であり、変視症のスクリーニングにはAmslerチャートが用いられる。視野検査の診断的価値は網膜色素変性より低い。
視野検査の種類
・動的量的視野検査(Goldmann視野計): 視標を動かし、見えた点を結んでイソプタを描く。周辺視野まで含めた視野全体の形を評価しやすい。網膜色素変性、視路(視交叉・視索・視放線・後頭葉)の障害による半盲、進行した緑内障などの評価に用いる。 ・静的量的視野検査(Humphrey視野計など自動視野計): 位置を固定した視標の明るさを変えて各点の感度を測る。主に中心30°以内を細かく評価でき、緑内障の早期診断・経過観察に広く用いられる。 ・Amslerチャート: 格子状の図を片眼で見てゆがみや欠損を自覚させる簡便な検査で、黄斑疾患(加齢黄斑変性など)のスクリーニングに用いる。
代表的な視野異常と疾患
・求心性視野狭窄・輪状暗点: 網膜色素変性、末期緑内障、心因性視覚障害(らせん状視野など) ・Bjerrum暗点・鼻側階段: 緑内障 ・中心暗点: 黄斑疾患(加齢黄斑変性など)、視神経炎 ・盲点中心暗点: Leber遺伝性視神経症、中毒性視神経症 ・両耳側半盲: 視交叉の障害(下垂体腺腫など) ・同名半盲: 視交叉より後方(視索・視放線・後頭葉)の障害
網膜色素変性の要点
・遺伝形式は常染色体潜性(劣性)、常染色体顕性(優性)、X連鎖性などさまざまで、孤発例も多い。 ・症状: 夜盲 → 輪状暗点 → 求心性視野狭窄 → 末期に中心視力低下。 ・眼底: 骨小体様色素沈着、網膜血管の狭細化、視神経乳頭の蒼白化(ろう様萎縮)。 ・ERG: 早期から著しく減弱〜消失(non-recordable)。確定診断に重要である。 ・合併症: 白内障(後囊下白内障)、嚢胞様黄斑浮腫。 ・関連症候群: Usher症候群(感音難聴を合併)、Laurence-Moon-Bardet-Biedl症候群など。
POINT
・半球状ドームの前で頭部を固定し、片眼で中心を見つめている写真はGoldmann視野計(動的量的視野検査)である。 ・Goldmann視野計は周辺を含む視野全体の形を評価するのに適し、網膜色素変性の輪状暗点・求心性視野狭窄の評価に有用である。 ・網膜色素変性: 夜盲、輪状暗点→求心性視野狭窄、骨小体様色素沈着、ERGの減弱〜消失。 ・各疾患の診断の主役: 斜視=遮閉試験・Hessチャート、白内障=細隙灯顕微鏡、糖尿病網膜症=眼底検査・蛍光眼底造影、加齢黄斑変性=眼底検査・OCT・蛍光眼底造影。
