「見る・触る・叩く・聴く」で迷わない―胸部診察の所見はどの手技で得るのか
第104回医師国家試験 H問題 第7問
国試問題にチャレンジ
胸部の診察について正しい組合せはどれか。
- a.視診 ―― 肺肝境界
- b.触診 ―― 声音振盪
- c.打診 ―― 縦隔偏位
- d.聴診 ―― 心濁音界
- e.問診 ―― 摩擦音
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
胸部診察では、所見が「目で見るもの」「手で感じる振動や拍動」「叩いた音の違い」「聴診器で聞く音」のどれかを考えると、手技との対応が整理できます。声音振盪は発声による胸壁の振動を手で感じる触診所見で、肺炎のコンソリデーションで増強し、胸水・気胸・無気肺・肺気腫で減弱するため、打診で同じ濁音を示す肺炎と胸水の鑑別に役立ちます。肺肝境界(右鎖骨中線上で第6肋間付近)と心濁音界は打診、胸膜摩擦音と心膜摩擦音は聴診で評価し、縦隔偏位は画像検査で確認しつつ身体診察では気管偏位や心尖拍動の移動が手がかりになります。各手技で何がわかり何がわからないかを理解しておくことは、OSCEだけでなく、ベッドサイドで画像に頼らず病態を推測する力の基礎となります。
解答・解説
正解はbです
胸部の身体診察は、問診で得た情報をもとに、視診(目で見る)→触診(手で触れる)→打診(叩いて音の性質を聞く)→聴診(聴診器で音を聞く)の順に進めるのが基本である。本問は、代表的な診察所見がどの手技で得られるかという対応関係を問うている。 考え方の軸は「その所見は何を感じ取るものか」である。 ・目で観察するもの(胸郭の形、呼吸運動の左右差、呼吸補助筋の使用、心尖拍動の見え方)→視診 ・手で感じ取る振動や拍動(声音振盪、心尖拍動の位置、振戦(スリル)、気管の位置)→触診 ・叩いて生じる音の違い(清音・濁音・鼓音)で臓器の境界や含気の変化を知るもの(肺肝境界、心濁音界)→打診 ・聴診器で聞く音(呼吸音、副雑音、心音、心雑音、摩擦音)→聴診 名称に「濁音」「境界」が含まれる所見は打診、「音」「雑音」が含まれる所見は多くが聴診、「振盪」「振戦」は触診と整理すると判断しやすい。この対応に当てはめると、声音振盪を触診と結んだ組合せだけが正しい。
選択肢考察
- ×a. 視診 ―― 肺肝境界
肺肝境界は打診で求める。右鎖骨中線上を上(胸部)から下(腹部)へ向かって叩いていき、含気のある肺による清音が、実質臓器である肝臓による濁音に変わる位置を境界とする。健常成人ではおよそ第6肋間の高さにある。胸腔内の病変(胸水貯留など)、横隔神経麻痺による横隔膜挙上、肺気腫による横隔膜低位などで位置が変わる。深吸気と深呼気で打診して境界の移動幅を比べれば、横隔膜の可動性も評価できる。肺と肝臓の境目は体表から見えないため、視診では判断できない。
- ○b. 触診 ―― 声音振盪
声音振盪(tactile fremitus)は、発声で生じた声帯の振動が気道と肺を通って胸壁に伝わったものを、検者が手で感じ取る触診所見である。検者は手掌の基部(または尺側縁)を左右対称の部位に当て、患者に低めの声で「ひとーつ」などとゆっくり発声させ、振動の強さを左右で比べる。 肺実質の含気がなくなり硬くなった状態(大葉性肺炎などによる肺のコンソリデーション)では振動がよく伝わるため増強する。一方、胸水や気胸で胸膜腔に液体や空気がたまっている場合、無気肺で気管支が閉塞している場合、肺気腫などでは伝わりにくくなり減弱する。この増減が胸水と肺炎の鑑別の手がかりになる。
- ×c. 打診 ―― 縦隔偏位
打診で分かるのは、胸壁からおよそ5cmまでの深さにある、2~3cm以上の大きさの病変に限られるとされる。胸郭の中央深部にある縦隔の位置を打診で評価することはできない。縦隔偏位は主に胸部エックス線写真やCTなどの画像検査で確認する。身体診察で手がかりになるのは、頸部で触れる気管の偏位や、心尖拍動の位置の移動(いずれも触診)である。緊張性気胸や大量胸水では縦隔は健側へ、無気肺では患側へ偏位する。
- ×d. 聴診 ―― 心濁音界
心濁音界は、周囲の含気した肺が出す清音と、心臓が出す濁音との違いから、打診によって心臓の輪郭をおおまかに描き出したものである。範囲が広がっていれば心拡大(心肥大・心拡張)や心嚢液貯留を疑う。逆に肺気腫で過膨張した肺が心臓の前面を覆うと、範囲は狭くなる。聴診で心臓の大きさを求めることはできない。
- ×e. 問診 ―― 摩擦音
摩擦音は聴診器で聞く異常音であり、問診で得られる情報ではない。胸部で聞かれる摩擦音には次の2つがある。 ・胸膜摩擦音: 炎症で粗くなった臓側胸膜と壁側胸膜がこすれ合って生じる。呼吸に同期して吸気・呼気の両方で聞こえ、胸膜炎の初期などにみられる。胸水が増えると胸膜同士が離れるため、聞こえなくなることがある。 ・心膜摩擦音: 心周期に同期して聞こえ、急性心膜炎などにみられる。呼吸を止めても消えない点で胸膜摩擦音と区別できる。
胸部診察で得られる主な所見の整理
・肺の視診: 胸郭の変形(樽状胸、漏斗胸など)、呼吸数と呼吸パターン、呼吸運動の左右差(呼吸運動の制限)、呼吸補助筋の使用 ・肺の触診: 声音振盪、胸郭の拡張の左右差、気管の位置 ・肺の打診: 清音・濁音・鼓音の区別、肺肝境界、横隔膜の可動域 ・肺の聴診: 呼吸音(正常呼吸音、減弱・消失、気管支呼吸音化)、副雑音(連続性ラ音、断続性ラ音、胸膜摩擦音) ・心臓の視診: 心尖拍動 ・心臓の触診: 心尖拍動の位置(最強点)、振戦(スリル)、傍胸骨部の拍動(右室の負荷を示す) ・心臓の打診: 心濁音界 ・心臓の聴診: Ⅰ音・Ⅱ音と過剰心音(Ⅲ音・Ⅳ音)、心雑音、心膜摩擦音
打診音の種類
・清音: 正常な含気肺の音 ・濁音: 肝臓・心臓などの実質臓器、胸水、無気肺、コンソリデーション ・鼓音: 胃泡、気胸 ・過共鳴音: 肺気腫
声音振盪と関連所見
声音振盪と同じ考え方で、聴診器で声の伝わり方を調べる方法を声音聴診(声音共鳴)という。コンソリデーションでは声がはっきり聞こえ(気管支声)、胸水では弱まる。声音振盪と同じ方向に増減する。
POINT
・声音振盪は触診で評価する。肺炎(コンソリデーション)で増強し、胸水・気胸・無気肺・肺気腫で減弱する ・肺肝境界と心濁音界は打診で評価する(肺肝境界は右鎖骨中線上の第6肋間付近) ・胸膜摩擦音と心膜摩擦音は聴診所見である(呼吸を止めて消えれば胸膜摩擦音) ・縦隔偏位は画像検査で確認する。身体診察では気管偏位と心尖拍動の移動(触診)が手がかりになる
