脳は痛まない?―頭痛の「発生源」は硬膜と血管にあった
第104回医師国家試験 H問題 第6問
国試問題にチャレンジ
頭蓋内で痛覚を感受する組織はどれか。
- a.硬膜
- b.大脳白質
- c.大脳基底核
- d.脈絡叢
- e.小脳
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
脳実質(大脳皮質・白質、基底核、視床、小脳、脳幹)や脈絡叢・脳室上衣には痛覚受容器がほとんどなく、それ自体は痛みを感じません。頭蓋内で痛みを感じるのは、頭蓋底部の硬膜、中硬膜動脈などの硬膜動脈、静脈洞と太い脳表静脈、脳底部の太い動脈、そして三叉・舌咽・迷走神経と上位頸神経です。脳出血や脳腫瘍、水頭症による頭痛は、これらの組織が牽引・圧迫・炎症によって刺激されることで生じます。テント上の痛みは三叉神経を介して前頭・側頭部に、テント下の痛みは上位頸神経を介して後頭・項部に感じられやすく、病変部位と頭痛部位のずれを理解する助けになります。頭痛の発生機序を解剖学的に押さえることは、二次性頭痛の鑑別や片頭痛の病態理解の土台となります。
解答・解説
正解はaです
頭痛はどこから生じるのかを理解するための基本問題である。意外に思えるかもしれないが、脳の実質そのもの(大脳の灰白質・白質、基底核、小脳、脳幹など)には痛みを感じる受容器(侵害受容器)がほとんど存在しない。実際に、脳外科手術では頭皮や硬膜に局所麻酔をすれば、意識のある患者の脳組織に触れたり切ったりしても痛みは生じない。 頭蓋内で痛みを感じるのは、主に次の構造である。 ・硬膜(とくに頭蓋底部の硬膜と、硬膜内を走る血管の周囲) ・硬膜動脈(中硬膜動脈など) ・静脈洞(上矢状静脈洞、横静脈洞など)とそこへ注ぐ太い脳表の静脈 ・脳底部の太い動脈(Willis動脈輪とその近位部) ・痛覚線維を含む脳神経(三叉神経、舌咽神経、迷走神経)と上位頸神経 これらには三叉神経や上位頸神経の感覚線維が分布しており、牽引・圧迫・拡張・炎症などの刺激が加わると痛みとして感じる。脳腫瘍や頭蓋内出血で頭痛が起こるのは、脳自体が痛むからではなく、周囲の硬膜や血管が引き伸ばされたり圧迫されたりするためである。したがって、選択肢の中で痛覚を感受するのは硬膜である。
選択肢考察
- ○a. 硬膜
正解。硬膜には主に三叉神経(テント上)と上位頸神経・迷走神経(テント下の後頭蓋窩)の感覚線維が分布しており、痛覚を感受する。特に頭蓋底部の硬膜や、中硬膜動脈などの硬膜動脈・静脈洞の周囲の硬膜は痛みに敏感である。一方、頭頂部など円蓋部(頭蓋冠の内側)の硬膜は、血管から離れた部分では痛覚が乏しく、硬膜動脈や静脈洞に沿った部分が痛みを感じる。髄膜炎やくも膜下出血で強い頭痛が起こるのは、炎症や血液による刺激がこれらの痛覚感受性組織に及ぶためである。
- ×b. 大脳白質
誤り。大脳白質は神経線維(軸索)の束からなる脳実質の一部であり、侵害受容器は存在しないため痛みを感じない。白質に病変(脳梗塞、脱髄病変、腫瘍など)があっても、それ自体では頭痛は生じない。頭痛が出るのは、病変が大きくなって頭蓋内圧が上昇したり、周囲の硬膜や血管が牽引・圧迫されたりした場合である。
- ×c. 大脳基底核
誤り。大脳基底核(線条体、淡蒼球など)は大脳深部の灰白質であり、脳実質の一部として痛覚受容器をもたない。被殻出血などの基底核部の出血で頭痛を伴うことがあるのは、血腫による圧排や脳室穿破、頭蓋内圧亢進により、痛覚感受性のある硬膜や血管が刺激されるためである。
- ×d. 脈絡叢
誤り。脈絡叢は脳室内にあって脳脊髄液を産生する組織である。脈絡叢や脳室の内面を覆う上衣には痛覚受容器がなく、痛みを感じない。脳室内の病変による頭痛は、髄液の流れが妨げられて水頭症となり頭蓋内圧が上昇し、硬膜や血管が引き伸ばされることで生じる。
- ×e. 小脳
誤り。小脳も脳実質であり、それ自体には痛覚受容器がない。小脳出血で強い後頭部痛が起こるのは、血腫が後頭蓋窩の硬膜や静脈洞、血管を圧迫・牽引するためであり、その痛みは後頭蓋窩の硬膜を支配する上位頸神経などを介して後頭部から項部に感じられる。
頭蓋内の痛覚感受性組織
痛みを感じる組織 ・頭蓋底部の硬膜 ・硬膜動脈(中硬膜動脈など)とその周囲の硬膜 ・静脈洞と、そこへ流入する太い脳表静脈 ・Willis動脈輪を構成する太い動脈とその近位部 ・三叉神経、舌咽神経、迷走神経、上位頸神経(C1〜C3) 痛みを感じない(ほとんど感じない)組織 ・脳実質(大脳皮質・白質、基底核、視床、小脳、脳幹) ・脈絡叢、脳室上衣 ・くも膜顆粒 ・血管から離れた円蓋部の硬膜、脳表の軟膜・くも膜の大部分
痛みの伝わる経路と頭痛の部位
・テント上(小脳テントより上)の構造:三叉神経(主に第1枝)が支配するため、痛みは前頭部・側頭部・眼窩部に感じられやすい。 ・テント下(後頭蓋窩)の構造:上位頸神経(C1〜C3)や舌咽神経・迷走神経が支配するため、痛みは後頭部・項部・耳の後ろに感じられやすい。 この関係は、病変の部位と頭痛の部位が必ずしも一致しない(関連痛)ことの説明となる。
頭痛が生じる主な機序
・痛覚感受性組織の牽引・偏位(脳腫瘍、頭蓋内圧亢進、低髄液圧による脳の下垂など) ・血管の拡張・伸展 ・炎症(髄膜炎、くも膜下出血による化学的刺激) ・痛覚線維をもつ神経の直接の圧迫 ・神経原性炎症:三叉神経の感覚線維終末からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPなどの神経ペプチドが放出され、血管拡張や血管透過性亢進による炎症が起こり、痛みが増幅される。片頭痛の病態(三叉神経血管説)の中心的な考え方であり、CGRPを標的とする片頭痛予防薬の開発につながった。 頭蓋外では、頭皮、筋肉、骨膜、頭皮の動脈、眼・耳・副鼻腔・歯などの組織も痛覚感受性をもち、頭痛の原因となる。
POINT
・脳実質(大脳白質・灰白質、基底核、小脳、脳幹)、脈絡叢、脳室上衣は痛みを感じない。 ・頭蓋内で痛みを感じるのは、硬膜(特に頭蓋底部)、硬膜動脈、静脈洞、脳底部の太い動脈、脳神経(V、IX、X)と上位頸神経である。 ・テント上の痛みは三叉神経を介して前頭・側頭部に、テント下の痛みは上位頸神経を介して後頭・項部に感じられやすい。 ・頭蓋内病変による頭痛は、痛覚感受性組織の牽引・圧迫・炎症によって生じる。
