運転できなくても「自立」している?―基本的ADLと手段的ADLの境界線
第104回医師国家試験 H問題 第2問
国試問題にチャレンジ
高齢者の基本的なADLの評価項目として誤っているのはどれか。
- a.bathing
- b.dressing
- c.driving
- d.eating
- e.toileting
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ADLは、食事・更衣・入浴・整容・トイレ動作・排泄管理・移乗・移動などの身の回りの動作である基本的ADLと、電話・買い物・食事の準備・家事・洗濯・交通手段の利用・服薬管理・金銭管理などの手段的ADLに分けて評価します。自動車の運転は外出の手段であり、Lawtonの尺度では交通手段の利用に含まれる手段的ADLのため、基本的ADLの評価項目ではありません。基本的ADLの代表的な尺度はBarthel index(10項目・100点満点)とKatz index(6項目)で、リハビリテーション領域ではFIMも広く使われます。生活機能の低下は手段的ADLから始まり基本的ADLへ進むことが多く、その早期の変化は認知症やフレイルに気づく手がかりになります。2つの層を区別して評価する視点は、高齢者総合機能評価や退院支援、介護サービスの調整など、高齢者診療のあらゆる場面の土台となります。
解答・解説
正解はcです
テーマ
日常生活動作(ADL:activities of daily living)の評価は、高齢者総合機能評価(CGA:comprehensive geriatric assessment)の中心となる項目である。ADLは大きく次の2つに分けて考える。 ・基本的ADL(BADL:basic ADL):食事、更衣、入浴、整容、排泄(トイレ動作・排尿排便の管理)、移乗、移動、階段昇降など、自分の身の回りのことを行うための最低限の動作。 ・手段的ADL(IADL:instrumental ADL):電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用(自動車の運転や公共交通機関の利用)、服薬管理、金銭管理など、地域で自立した生活を送るために必要な、より複雑で道具や判断力を要する動作。
考え方
選択肢の英語が、身の回りの動作(BADL)なのか、社会生活の中で道具を使う動作(IADL)なのかを見分ければよい。bathing(入浴)、dressing(更衣)、eating(食事)、toileting(トイレ動作)はいずれも代表的なBADLの評価指標であるBarthel indexやKatz indexに含まれる項目である。driving(自動車の運転)は外出・移動の手段であり、IADLに分類されるため、基本的ADLの評価項目ではない。
選択肢考察
- ×a. bathing
bathingは入浴のことで、浴槽への出入り、シャワーの使用、体を洗う・拭くといった一連の動作を指す。Barthel index、Katz indexのいずれにも含まれる基本的ADLの項目である。高齢者では介助が必要になりやすい動作の一つである。
- ×b. dressing
dressingは更衣のことで、衣服を取り出して着る・脱ぐ、ボタンやファスナー、靴の着脱などを含めた身支度の動作を指す。Barthel index、Katz indexに含まれる基本的ADLの項目である。
- ○c. driving
drivingは自動車の運転であり、身の回りの基本動作ではなく、外出・移動の「手段」として手段的ADL(IADL)に分類される(Lawtonの尺度では「交通手段の利用」に含まれる)。運転できなくても公共交通機関や家族の送迎などで代替でき、身の回りの自立とは直接関係しない。したがって基本的ADLの評価項目としては誤りである。なお、基本的ADLの「移動」は歩行や車椅子の操作を指し、自動車の運転とは異なる。
- ×d. eating
eatingは食事のことで、用意された食事を箸やスプーンなどを使って口に運び、適切な時間内に摂取する動作を指す(Barthel index、Katz indexではfeedingと表記される)。基本的ADLの項目である。なお、食事を作ること(food preparation)は手段的ADLに分類される点と区別する。
- ×e. toileting
toiletingはトイレ動作のことで、トイレへの出入り、便座への移乗、衣服の上げ下げ、トイレットペーパーの使用、後始末などを含む。Barthel index、Katz indexに含まれる基本的ADLの項目である。排尿・排便のコントロール(失禁の有無)も別項目として評価される。
代表的な評価尺度
1. Barthel index(基本的ADL) 10項目を自立・部分介助・全介助などで点数化し、合計100点満点で評価する。 食事(feeding)、車椅子からベッドへの移乗(transfers)、整容(grooming)、トイレ動作(toilet use)、入浴(bathing)、平地歩行(mobility)、階段昇降(stairs)、更衣(dressing)、排便コントロール(bowels)、排尿コントロール(bladder)。 2. Katz index(基本的ADL) 入浴、更衣、トイレ動作、移乗、排尿・排便の自制(continence)、食事の6項目を自立・依存で評価する。これらの能力は、失われるときは入浴→更衣→トイレ…の順に、回復するときはその逆順になりやすいとされる。 3. 機能的自立度評価法(FIM:functional independence measure) セルフケア・排泄・移乗・移動の運動項目13項目と、コミュニケーション・社会的認知の認知項目5項目の計18項目を、それぞれ1〜7点で評価する(18〜126点)。実際に「している」ADLを評価する点が特徴で、リハビリテーション領域で広く用いられる。 4. Lawtonの手段的ADL尺度(IADL) 電話の使用、買い物、食事の準備、家事、洗濯、交通手段の利用(自分で運転する・公共交通機関を使うなど)、服薬管理、金銭管理の8項目。
高齢者総合機能評価(CGA)
高齢者の病気だけでなく、身体機能(BADL・IADL)、認知機能(MMSE、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなど)、気分・意欲(老年期うつ病評価尺度GDSなど)、社会的・経済的状況(家族構成、介護者、住環境、社会資源)などを多面的に評価し、治療やケアの方針に生かす手法である。
BADLとIADLの関係
一般に、高齢者の生活機能の低下はより複雑な動作であるIADLから始まり、進行するとBADLに及ぶ。そのためIADLの低下は、認知症の初期やフレイルの早期発見の手がかりとなる。
POINT
・基本的ADL(BADL):食事・更衣・入浴・整容・トイレ動作・排尿排便・移乗・移動・階段など身の回りの動作 ・手段的ADL(IADL):電話・買い物・食事の準備・家事・洗濯・交通手段(運転を含む)・服薬管理・金銭管理 ・driving(運転)はIADLであり、基本的ADLではない ・BADLの代表的尺度はBarthel index(10項目、100点満点)とKatz index(6項目)、IADLはLawtonの尺度 ・生活機能の低下はIADLから始まりBADLへ進む
