首は「触る」のではなく「曲げる」―項部硬直を正しくとる診察法
第104回医師国家試験 H問題 第3問
国試問題にチャレンジ
髄膜炎が疑われる患者に行う診察法はどれか。
- a.頸部の筋群の硬さを触診で確認する。
- b.頭部を左右に振って眼振の出現を確認する。
- c.首を一側に回旋した際の対側上肢のしびれを確認する。
- d.仰臥位で頸部を他動的に前屈するときの抵抗感を確認する。
- e.仰臥位で股関節と膝関節を90度屈曲位にするときの筋硬直を確認する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
髄膜炎を疑ったら、項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候、jolt accentuationといった髄膜刺激症候を確認します。項部硬直は、仰臥位で頸部を他動的に前屈させたときの抵抗を見る診察法で、筋の触診で判定するものではなく、前屈のみが制限され回旋や側屈は保たれる点がパーキンソン病の筋強剛や頸椎疾患との違いです。Kernig徴候は股・膝関節90度屈曲位から膝を伸展させるときの抵抗を、jolt accentuationは頭部を水平に振ったときの頭痛の増悪を見るもので、眼振を見る平衡機能検査や上肢症状を見る頸椎・胸郭出口症候群の誘発テストとは目的が異なります。乳幼児や高齢者、昏睡患者では所見が乏しいことがあり、疑わしければ髄液検査で確認することが重要です。手技ごとに「どう動かし、何を見るか」を正確に理解しておくことは、緊急性の高い髄膜炎やくも膜下出血を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はdです
髄膜炎は、脳と脊髄を包む髄膜(軟膜・くも膜)およびくも膜下腔に炎症が生じる疾患である。典型的には発熱・頭痛・意識障害に加え、髄膜が炎症や出血で刺激されることによる「髄膜刺激症候(髄膜刺激徴候)」が出現する。身体診察で髄膜炎を疑ったときには、この髄膜刺激症候を確認することが基本となる。 代表的な髄膜刺激症候は、項部硬直、Kernig(ケルニッヒ)徴候、Brudzinski(ブルジンスキー)徴候の3つである。さらに近年は、発熱・頭痛を訴える患者で髄膜炎を否定するためのスクリーニングとして jolt accentuation(頭部を振ったときの頭痛増悪)も用いられる。 本問では、選択肢に似た表現の診察法が並んでいるため、「何を」「どのような体位・操作で」「どの所見を」見るのかを正確に区別できるかが問われている。項部硬直は、仰臥位の患者の頭部を検者が他動的に前屈させ、そのときの抵抗(首が曲がりにくい、下顎が胸につかない)を評価する診察法であり、これを正しく記述した選択肢を選べばよい。筋を触って硬さを確かめる、頭を振って眼振を見る、首を回して上肢の症状を見る、といった操作は、それぞれ別の目的の診察法であることに注意する。
選択肢考察
- ×a. 頸部の筋群の硬さを触診で確認する。
誤り。項部硬直の「硬直」は、頸部の筋を指で触れて硬さを確かめることで判定するものではない。頸部を他動的に動かしたときの抵抗、すなわち前屈させようとした際に反射的に筋が収縮して動きが妨げられる現象として評価する。髄膜が刺激されると、髄膜を引き伸ばす動き(頸部前屈)に対して防御的に後頸部の筋が緊張するため、触診ではなく運動に対する抵抗感でとらえる必要がある。
- ×b. 頭部を左右に振って眼振の出現を確認する。
誤り。頭部を左右に振った後に眼振が出るかをみるのは、頭振り眼振検査などの平衡機能検査であり、一側の前庭機能低下など、めまいの原因検索に用いる。また、頭位を変えて眼振を観察する頭位眼振検査・頭位変換眼振検査は良性発作性頭位めまい症の診断に用いられる。髄膜炎の診察で頭部を左右に振る手技としては jolt accentuation があるが、これは1秒間に2〜3回の速さで頭部を水平方向に回旋させ、頭痛が増悪するかを確認するものであり、観察するのは眼振ではなく頭痛である。
- ×c. 首を一側に回旋した際の対側上肢のしびれを確認する。
誤り。上肢のしびれは頸椎症性神経根症や頸椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群など、頸部・肩周囲の神経や血管の圧迫で生じる症状であり、髄膜刺激症候ではない。頸部の回旋を用いる診察法には、胸郭出口症候群の誘発テスト(上肢を挙上・外旋位にして頸部を対側へ回旋させ、橈骨動脈の脈拍が弱まるか消失するかをみる Allen テストなど)がある。また頸椎神経根症では、頭部を患側へ傾け・後屈させて圧迫し、患側上肢への放散痛・しびれをみる Spurling テストが用いられる。いずれも髄膜炎の診察法ではない。
- ○d. 仰臥位で頸部を他動的に前屈するときの抵抗感を確認する。
正解。これは項部硬直の診察法である。患者を仰臥位にし、枕を外して後頭部に手を添え、頭部をゆっくり持ち上げて頸部を前屈させる。髄膜刺激があると、前屈に伴って髄膜が伸展されることで痛みと反射的な筋収縮が生じ、抵抗が強く、下顎が胸につかない。髄膜炎による項部硬直では前屈方向の運動だけが制限され、左右の回旋や側屈は比較的保たれるのが特徴である。これに対し、パーキンソン病などの筋強剛や頸椎疾患では、前屈以外の方向にも抵抗や制限がみられる点で区別する。項部硬直は髄膜炎のほか、くも膜下出血でも出現する(くも膜下出血では発症直後には目立たず、数時間以上経ってから明らかになることが多い)。
- ×e. 仰臥位で股関節と膝関節を90度屈曲位にするときの筋硬直を確認する。
誤り。Kernig徴候の手技の途中までを述べているが、判定の内容が異なる。Kernig徴候は、仰臥位で股関節と膝関節をそれぞれ90度に屈曲させた姿勢をとらせたうえで、そこから膝関節を他動的に伸展させる。髄膜刺激があると、膝を伸ばす際に坐骨神経や腰仙部の神経根が引き伸ばされ、ハムストリング(膝の屈筋群)が反射的に収縮して伸展が妨げられる(おおむね135度未満で抵抗・疼痛が出れば陽性とされる)。つまり評価するのは「屈曲位にするとき」ではなく「屈曲位から膝を伸展するとき」の抵抗である。腰部や大腿後面の痛みを伴うこともある。
髄膜刺激症候の整理
・項部硬直:仰臥位で頭部を他動的に前屈させると抵抗があり、下顎が胸につかない。前屈のみが制限され、回旋・側屈は保たれる。 ・Kernig徴候:仰臥位で股関節・膝関節を90度屈曲位とし、膝を他動的に伸展させると抵抗・疼痛があり十分に伸ばせない。 ・Brudzinski徴候(項部徴候):仰臥位で頭部を他動的に前屈させると、股関節と膝関節が自然に屈曲する。 ・jolt accentuation:頭部を水平方向に1秒間に2〜3回の速さで振ると頭痛が増悪する。感度が高いとされ、陰性であれば髄膜炎の可能性を下げる目的で用いられてきた(ただし後の研究では感度は報告により差がある)。
髄膜刺激症候がみられる主な病態
・細菌性・ウイルス性・結核性・真菌性などの髄膜炎 ・くも膜下出血 ・癌性髄膜炎(髄膜癌腫症) なお、乳幼児や高齢者、深い昏睡の患者では、髄膜炎があっても髄膜刺激症候がはっきりしないことがある。髄膜刺激症候が陰性でも、臨床的に疑わしければ髄液検査(腰椎穿刺)で診断を確かめる。
紛らわしい頸部・上肢の診察法
・Spurlingテスト:頭部を患側に傾けて後屈し、上から圧迫する。患側上肢への放散痛があれば頸椎神経根症を示唆する。 ・Jacksonテスト:頭部を後屈させて圧迫し、上肢への放散痛をみる。 ・Adsonテスト・Allenテスト・Wrightテスト・Morleyテストなど:胸郭出口症候群の誘発テストで、主に橈骨動脈の脈拍減弱や症状の再現をみる。 ・頭位眼振検査・頭位変換眼振検査:良性発作性頭位めまい症などの診断に用いる。
POINT
・髄膜炎を疑ったら髄膜刺激症候(項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候、jolt accentuation)を確認する。 ・項部硬直は「仰臥位で頸部を他動的に前屈したときの抵抗」をみる。触診で筋の硬さをみるのではない。 ・髄膜刺激による項部硬直では前屈のみが制限され、回旋・側屈は保たれる。 ・Kernig徴候は股・膝関節90度屈曲位から「膝を伸展させる」ときの抵抗をみる。 ・jolt accentuationで確認するのは眼振ではなく頭痛の増悪である。 ・首の回旋・後屈で上肢症状をみる検査は、頸椎疾患や胸郭出口症候群の診察法である。
