その義務、根拠は医師法?刑法?―医師を縛る法律の地図を描く
第104回医師国家試験 G問題 第22問
国試問題にチャレンジ
医師法に規定されているのはどれか。3つ選べ。
- a.守秘義務
- b.堕胎の禁止
- c.無資格診療の禁止
- d.無診察治療の禁止
- e.死体検案書の交付
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
医師法は医師の資格と業務上の義務を定めた身分法で、第4章「業務」には無資格医業の禁止(第17条)、名称独占(第18条)、応招義務と診断書・検案書等の交付義務(第19条)、無診察治療等の禁止(第20条)、異状死体の24時間以内の警察署への届出(第21条)、処方箋交付義務(第22条)、保健指導義務(第23条)、診療録の記載と5年間保存(第24条)が並びます。一方、医師の守秘義務は刑法第134条の秘密漏示罪、堕胎の禁止は刑法の堕胎の罪に規定されており、医師法には条文がない点が頻出のひっかけです。人工妊娠中絶は母体保護法、診療に関する諸記録の2年保存は医療法施行規則、死亡届は戸籍法と、関連規定の根拠法も合わせて整理しておきましょう。死亡診断書と死体検案書の使い分けを含め、根拠法の地図を描いておくことは、研修医として書類を作成する際に自分と患者を守る実践的な知識になります。
解答・解説
正解はc, d, eです
医師の義務や禁止事項がどの法律に定められているかを問う問題である。医師に関わる規定は複数の法律に分かれており、国家試験では「医師法に書かれているもの」と「刑法など他の法律に書かれているもの」の区別が繰り返し問われる。 医師法は、医師の資格(免許・国家試験・臨床研修)と、医師として業務を行ううえでの義務(第4章「業務」、第17条〜第24条の2)を定めた身分法である。業務に関する主な条文は次のとおりである。 ・第17条:医師でなければ医業をしてはならない(業務独占) ・第18条:医師でなければ医師またはこれに紛らわしい名称を用いてはならない(名称独占) ・第19条:診療に従事する医師は、正当な事由がなければ診察治療の求めを拒んではならない(応招義務、第1項)。また、診断書・検案書・出生証明書・死産証書の交付を求められた場合も、正当な事由がなければ拒んではならない(第2項) ・第20条:自ら診察しないで治療をし、診断書・処方箋を交付すること、自ら出産に立ち会わないで出生証明書・死産証書を交付すること、自ら検案をしないで検案書を交付することの禁止 ・第21条:異状死体・異状死産児の24時間以内の警察署への届出 ・第22条:処方箋の交付義務 ・第23条:保健指導を行う義務 ・第24条:診療録の記載と5年間の保存 一方、秘密を漏らすこと(秘密漏示罪)や堕胎は、医師個人の身分に関する規定ではなく「犯罪」として刑法に定められている。この区別を押さえれば、医師法の規定は c・d・e の3つと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 守秘義務
医師の守秘義務は医師法ではなく刑法第134条(秘密漏示罪)に規定されている。医師・薬剤師・助産師・弁護士などが、正当な理由なく業務上知り得た他人の秘密を漏らした場合に処罰される。なお、看護師・保健師などの守秘義務は保健師助産師看護師法に定められており、医師とは根拠法が異なる点も合わせて覚えておくとよい。医師法には守秘義務の条文がないことが頻出のひっかけである。
- ×b. 堕胎の禁止
堕胎は刑法第29章「堕胎の罪」(第212条〜第216条)に規定されており、医師が女性の嘱託を受けて堕胎させる業務上堕胎罪(第214条)も含まれる。一方、母体保護法の指定を受けた医師(指定医師)が同法の要件を満たして行う人工妊娠中絶は、刑法の堕胎罪に当たらない扱いとなっている。いずれにしても医師法の規定ではない。
- ○c. 無資格診療の禁止
医師法第17条は「医師でなければ、医業をなしてはならない」と定めている。医業は医師だけが行える業務独占の規定であり、医師免許を持たない者の診療を禁じるものである。違反には罰則(3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金、または併科)がある。なお、名称の使用を医師に限る名称独占は第18条に定められている。
- ○d. 無診察治療の禁止
医師法第20条は、医師が自ら診察しないで治療を行うこと、診断書や処方箋を交付することを禁じている。同条はさらに、自ら出産に立ち会わずに出生証明書・死産証書を交付すること、自ら検案せずに検案書を交付することも禁止している(ただし、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合の死亡診断書の交付については例外規定がある)。オンライン診療も医師による「診察」を前提として、その範囲内で認められている。
- ○e. 死体検案書の交付
医師法第19条第2項は、診察・検案をしたり出産に立ち会ったりした医師が、診断書・検案書・出生証明書・死産証書の交付を求められた場合、正当な事由がなければ拒んではならないと定めている。死体検案書は、医師が診療中でなかった者の死体を検案(死体の外表を観察し死因などを判断すること)した際に交付する書類であり、その交付義務は医師法に基づく。また第20条により、自ら検案しないで検案書を交付することは禁じられている。
医師法の構成
第1章 総則(医師の任務:医療および保健指導をつかさどり、公衆衛生の向上・増進に寄与し、国民の健康な生活を確保する) 第2章 免許(絶対的欠格事由・相対的欠格事由、医籍登録など) 第3章 試験 第3章の2 臨床研修(診療に従事しようとする医師は2年以上の臨床研修を受けなければならない) 第4章 業務(第17条〜第24条の2) 第5章 医師試験委員、第6章 雑則、第7章 罰則
医師に関わる規定と根拠法の対応
・医業の独占(第17条)、名称独占(第18条):医師法 ・応招義務、診断書等の交付義務(第19条):医師法 ・無診察治療等の禁止(第20条):医師法 ・異状死体等の届出(第21条):医師法 ・処方箋交付義務(第22条):医師法 ・保健指導義務(第23条):医師法 ・診療録の記載・5年間保存(第24条):医師法 ・守秘義務(秘密漏示罪、第134条):刑法 ・堕胎の罪(第212〜216条):刑法 ・虚偽診断書等作成罪(第160条):刑法 ・業務上過失致死傷罪(第211条):刑法 ・人工妊娠中絶、不妊手術:母体保護法 ・診療に関する諸記録(病院日誌、処方箋など)の2年間保存:医療法施行規則 ・死亡届の提出(届出義務者は親族など):戸籍法
死亡診断書と死体検案書の使い分け
自らの診療管理下にある患者が、診療中の傷病に関連して死亡したと認められる場合は死亡診断書を交付する。それ以外(診療中でなかった者の死亡、外因死やその疑いなど)は、死体を検案したうえで死体検案書を交付する。
POINT
・医師法第4章「業務」の条文:第17条 無資格医業の禁止、第18条 名称独占、第19条 応招義務・診断書等交付義務、第20条 無診察治療等の禁止、第21条 異状死体届出(24時間以内・警察署)、第22条 処方箋交付義務、第23条 保健指導義務、第24条 診療録の記載・5年保存 ・医師の守秘義務は刑法第134条(秘密漏示罪)であり、医師法には規定がない ・堕胎の罪は刑法、人工妊娠中絶の要件は母体保護法
