生後1か月の38℃は「待てない熱」―哺乳不良と不機嫌が告げる重症細菌感染症
第104回医師国家試験 E問題 第48問
国試問題にチャレンジ
1か月の乳児。発熱を主訴に来院した。機嫌が悪く,哺乳量も少ない。体温38.6℃。呼吸数46/分。心拍数128/分,整。胸腹部に異常を認めない。発疹を認めない。大泉門は膨隆していない。 親に対する説明として適切なのはどれか。
- a.「乳児としては異常ありません」
- b.「水分を充分与えて,様子をみてください」
- c.「解熱薬を使いながら,様子をみてください」
- d.「抗菌薬を飲ませて,明後日に受診してください」
- e.「入院して検査と治療をしましょう」
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
生後3か月未満、とくに生後1〜2か月以内の乳児の発熱は、敗血症・細菌性髄膜炎・尿路感染症などの重症細菌感染症を想定し、入院で精査・治療するのが原則です。この時期は免疫が未熟でB群レンサ球菌、大腸菌、リステリアなどに感染しやすく、症状が非特異的なため、熱源不明や大泉門膨隆がないことは髄膜炎の否定根拠になりません。不機嫌・哺乳不良・活気低下は重要な重症サインであり、血液培養・尿培養・髄液検査などの検体採取後に、アンピシリンと第三世代セフェムなどによる経験的抗菌薬静注をすみやかに開始します。解熱薬や水分補給での経過観察、検体採取前の経口抗菌薬投与は診断と治療を遅らせるため不適切です。「月齢と全身状態で重症度を判断する」姿勢は、小児救急の現場で子どもの命を守る基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・生後1か月の乳児の発熱(38.6℃)である。 ・機嫌が悪い、哺乳量が少ない:乳児では「いつもと様子が違う(not doing well)」こと自体が重症感染症のサインであり、軽視してはならない。 ・呼吸数46/分、心拍数128/分:生後1か月の基準範囲(呼吸数はおおむね30~60/分、心拍数はおおむね100~160/分程度)に収まっており、現時点では明らかな多呼吸・頻脈とはいえない。 ・胸腹部所見、発疹なし、大泉門膨隆なし:身体診察からは熱源(感染巣)がはっきりしない。
考え方
生後3か月未満(特に生後1~2か月以内)の乳児の発熱は、それだけで重症細菌感染症(敗血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症・腎盂腎炎、骨髄炎など)を強く疑って対応する。この時期の乳児は免疫機能が未熟であり、B群レンサ球菌(GBS)、大腸菌などのグラム陰性桿菌、リステリアといった周産期に由来する病原体に感染しやすい。しかも症状が非特異的で、髄膜炎があっても項部硬直や大泉門膨隆がはっきりしないことが多い。したがって「バイタルサインが大きく崩れていない」「診察で熱源が見つからない」ことは重症感染症を否定する根拠にならない。 本例は発熱に加えて不機嫌と哺乳不良があり、全身状態の悪化を示している。治療開始が遅れると短時間で敗血症性ショックや髄膜炎による死亡・後遺症につながりうるため、外来で経過観察する選択肢はとらない。入院のうえ、血液培養、血液検査(白血球数、CRP、プロカルシトニンなど)、尿検査・尿培養(カテーテル採尿)、髄液検査(腰椎穿刺)などの全身的な感染源検索(sepsis work-up)を行い、培養提出後すみやかに経験的な抗菌薬の静脈内投与を開始するのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 「乳児としては異常ありません」
38.6℃の発熱は明らかな異常である。生後1か月の乳児に発熱、不機嫌、哺乳量低下がそろっている状況は重症感染症を疑うべき危険な徴候であり、「異常なし」と説明して帰宅させることは重大な見逃しにつながる。
- ×b. 「水分を充分与えて,様子をみてください」
すでに哺乳量が減っているため、家庭で十分な水分を与えること自体が難しい。また、水分補給は原因となる感染症の治療にならない。生後3か月未満の発熱を外来で経過観察することは、敗血症や髄膜炎の診断・治療の遅れを招くため不適切である。
- ×c. 「解熱薬を使いながら,様子をみてください」
解熱薬は熱による不快感を和らげる対症療法にすぎず、感染症そのものを治療しない。むしろ熱型や全身状態の変化が分かりにくくなり、重症化の発見を遅らせるおそれがある。乳児に解熱薬を使う場合はアセトアミノフェンを選ぶが(アスピリンはReye症候群の危険から小児には用いない)、生後早期の乳児の発熱ではまず原因検索が優先であり、解熱薬で様子をみる対応は誤りである。
- ×d. 「抗菌薬を飲ませて,明後日に受診してください」
重症細菌感染症が疑われる生後早期の乳児には、経口抗菌薬では十分な効果が期待できず、髄膜炎などを治療できない。また、培養検体を採取する前に抗菌薬を投与すると、その後の血液培養や髄液培養で起炎菌が検出されにくくなり、診断が困難になる(部分治療)。2日後の再診では急変に対応できない点でも不適切である。
- ○e. 「入院して検査と治療をしましょう」
生後1か月の乳児の発熱に不機嫌・哺乳不良を伴っており、敗血症や細菌性髄膜炎、尿路感染症などの重症細菌感染症を想定しなければならない。入院させて血液培養、尿検査・尿培養、髄液検査などで感染源を検索し、培養採取後ただちに経験的な抗菌薬の静注を開始し、全身状態を厳重に観察する対応が適切である。
生後3か月未満の乳児の発熱
・この時期の発熱(おおむね38.0℃以上)は、重症細菌感染症の頻度が年長児より高く、原則として入院による精査の対象となる。特に生後1か月未満(新生児期)~生後2か月頃までは、全身状態が良くても入院を基本とする考え方が一般的である。 ・症状は非特異的であり、「哺乳不良」「不機嫌」「活気低下」「傾眠」「無呼吸」「皮膚色不良」などが重要な手がかりとなる。発熱ではなく低体温で発症することもある。
主な起炎菌
・B群レンサ球菌(GBS)、大腸菌をはじめとするグラム陰性桿菌、リステリア菌など。
sepsis work-up(全身的な感染源検索)
・血液検査:血算(白血球数・分画)、CRP、プロカルシトニン ・血液培養 ・尿検査・尿培養:カテーテル採尿や膀胱穿刺で採取する(乳児の熱源として尿路感染症は頻度が高い) ・髄液検査・髄液培養:腰椎穿刺 ・必要に応じて胸部X線写真など
初期治療
・培養検体を採取した後、結果を待たずに経験的抗菌薬を静脈内投与する。上記の起炎菌をカバーする組み合わせとして、アンピシリン(リステリアに有効)と第三世代セフェム系薬(セフォタキシムなど)の併用などが用いられる。
乳児のバイタルサインの目安(生後1か月前後)
・呼吸数:おおむね30~60/分 ・心拍数:おおむね100~160/分 成人の基準値で判断しないことが大切である。
POINT
・生後3か月未満の乳児の発熱は、重症細菌感染症(敗血症、細菌性髄膜炎、尿路感染症)を疑い、入院で精査・治療するのが原則である。 ・不機嫌、哺乳不良、活気低下は乳児の重症感を示す重要な所見である。 ・熱源が不明でも、大泉門膨隆がなくても、髄膜炎は否定できない。 ・血液培養・尿培養・髄液検査などの検体採取後、すみやかに経験的抗菌薬を静注する。 ・解熱薬での経過観察や、検体採取前の経口抗菌薬投与は不適切である。
