走り続ける少女の月経が止まった―問診で迫る運動性無月経
第104回医師国家試験 E問題 第45問
国試問題にチャレンジ
16歳の女子。6か月間の無月経を主訴に母親に伴われて来院した。2年前から月経周期は不規則であった。高校では陸上競技部に所属している。身長165 cm,体重42 kg。体温36.0℃。脈拍60/分,整。血圧96/56 mmHg。初経12歳。 重要な問診項目はどれか。2つ選べ。
- a.睡眠時間
- b.便通の回数
- c.体重の増減
- d.乳汁漏出の有無
- e.運動部での練習量
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
月経が3か月以上止まる続発無月経では、まず妊娠を除外したうえで、最も頻度の高い視床下部性の原因を念頭に問診を進めます。陸上競技部員で著明なやせ(BMI約15)を伴う本例では、運動量に見合わないエネルギー摂取不足によるGnRH分泌抑制、すなわち運動性・体重減少性無月経が疑われ、「体重の増減」と「練習量」が最も重要な問診項目となります。乳汁漏出は高プロラクチン血症の手がかりとして一般には有用ですが、本例の手がかりからは優先度が下がります。利用可能エネルギー不足・無月経・骨粗鬆症からなる女性アスリートの三主徴は疲労骨折にもつながるため、体重回復と練習量調整が治療の基本です。患者の背景から仮説を立て、それを確かめる問診を選ぶ姿勢は、あらゆる診療の基盤となります。
解答・解説
正解はc, eです
所見の整理
・16歳女子、初経12歳。それまであった月経が6か月間停止しており、続発無月経(これまであった月経が3か月以上停止したもの)に該当する。2年前から周期が不規則で、徐々に卵巣機能が低下してきた経過がうかがえる。 ・陸上競技部に所属し、身長165 cm、体重42 kgである。BMIは42÷(1.65×1.65)≒15.4 kg/m²と明らかなやせである。 ・体温36.0℃とやや低め、脈拍60/分と若年者としては遅め、血圧96/56 mmHgと低めであり、エネルギー不足に伴う代謝低下の所見と矛盾しない。
鑑別へのプロセス
続発無月経の原因として最も多いのは視床下部性であり、その代表が体重減少性無月経、運動性無月経、神経性やせ症(神経性食欲不振症)、精神的ストレスによるものである。本例は長距離などの持久系種目を含む陸上競技部員で、著明なやせを伴っていることから、運動量に見合ったエネルギー摂取ができていない状態(利用可能エネルギー不足)による視床下部性無月経、いわゆる運動性無月経が最も疑われる。背景に意図的な食事制限や神経性やせ症が隠れている可能性も考える必要がある。
設問の考え方
問診では、疑っている病態を裏づけ、原因を特定する情報を優先して聴取する。視床下部性無月経の二大要因である「体重の変化(体重減少の程度と速さ、食事内容)」と「運動の量・強度」を確認することが最も重要である。そのほか妊娠の可能性は続発無月経では常に否定すべき事項であるが、選択肢には含まれていない。
選択肢考察
- ×a. 睡眠時間
睡眠不足や不規則な生活はストレスとなり得るが、単独で無月経の原因となることはまれであり、本例の病態を特定するうえでの重要度は低い。本例ではやせと運動習慣という、より直接的な手がかりがある。
- ×b. 便通の回数
便通の状態は無月経の原因の鑑別に直接結びつかない。神経性やせ症で下剤乱用や便秘がみられることはあるが、まず確認すべき項目ではない。甲状腺機能低下症では便秘が起こり月経異常も生じ得るが、本例の所見からはより優先度の高い問診項目がある。
- ○c. 体重の増減
本例はBMI約15.4と著明なやせである。短期間での体重減少(一般にもとの体重の10〜20%程度以上)は、視床下部からの性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)の分泌を抑制し、下垂体からのLH・FSH分泌が低下して無月経となる(体重減少性無月経)。体重がいつ、どの程度、どのような理由(食事制限か、運動による消費増大か)で減ったかは、原因の推定と神経性やせ症の鑑別に不可欠であり、治療(体重回復)の目標設定にも直結する。
- ×d. 乳汁漏出の有無
乳汁漏出は高プロラクチン血症(プロラクチノーマ、抗精神病薬や制吐薬などの薬剤性、原発性甲状腺機能低下症など)を示唆し、続発無月経の一般的な鑑別としては確認する価値のある項目である。しかし本例ではやせと陸上競技という明確な手がかりがあり、優先して聴取すべき「2つ」としては体重変化と練習量に劣る。
- ○e. 運動部での練習量
陸上競技、特に長距離走などの持久系競技や、体操・新体操など体重管理が求められる競技では、エネルギー消費に摂取が追いつかず、視床下部性の運動性無月経を起こしやすい。練習の頻度・時間・強度、最近の変化(練習量の増加など)を聴取することで、運動による利用可能エネルギー不足が原因かどうかを評価でき、練習量の調整や栄養指導といった治療方針にもつながる。
無月経の定義
・原発無月経:満18歳になっても初経が起こらないもの。 ・続発無月経:これまであった月経が3か月以上停止したもの。
続発無月経の障害部位による分類
・視床下部性:体重減少性、運動性、神経性やせ症、精神的ストレス、Kallmann症候群など(最も頻度が高い)。 ・下垂体性:Sheehan症候群、下垂体腫瘍、高プロラクチン血症など。 ・卵巣性:早発卵巣不全、多嚢胞性卵巣症候群など。 ・子宮性:Asherman症候群(子宮内膜の癒着)など。 ・その他:甲状腺機能異常、副腎疾患、薬剤性。常に妊娠を除外することが前提である。
女性アスリートの三主徴(female athlete triad)
①利用可能エネルギー不足(摂食障害の有無を問わない)、②視床下部性無月経、③骨粗鬆症(骨量減少)の3つが互いに関連して生じる。エネルギー不足によってGnRHパルスが抑制され、低エストロゲン状態が続くと骨密度が低下し、疲労骨折の危険が高まる。近年は、男女を問わず代謝・免疫・心血管など全身に影響が及ぶ概念として、スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)とも呼ばれる。かつては体脂肪率の低下や運動に伴うストレスホルモンが主因と考えられていたが、現在では運動量に見合わないエネルギー摂取不足が中心的な原因とされている。
評価と対応
血中LH・FSH・エストラジオールは低値を示すことが多い。ゲスターゲン(黄体ホルモン)試験で消退出血がなければ第2度無月経と判断され、エストロゲン低下が高度である。治療の基本は、練習量の調整と十分なエネルギー摂取による体重回復であり、必要に応じてホルモン補充療法(Kaufmann療法など)を行う。骨密度評価も考慮する。
POINT
・続発無月経:これまであった月経が3か月以上停止 ・やせ(BMI約15)+陸上競技部 → 視床下部性の運動性無月経・体重減少性無月経を疑う ・重要な問診は「体重の変化」と「運動量」。背景に神経性やせ症がないかにも注意 ・女性アスリートの三主徴:利用可能エネルギー不足、無月経、骨粗鬆症 ・続発無月経では常に妊娠の除外が前提
