StudyMed医師国家試験

酸っぱいもので痛む耳の下―おたふくかぜが残す「一生ものの難聴」と髄膜炎

第104回医師国家試験 D問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第47問

6歳の男児。右耳の下の痛みを主訴に来院した。体温38.1℃。酸味の多いものを食べると痛みが増強する。約2週前に,通っている幼稚園に同様の症状を認める児がいた。顔面の写真を別に示す。  この疾患の合併症としてみられるのはどれか。2つ選べ。

第104回 D問題 第47問の問題画像
  1. a.難聴
  2. b.肺炎
  3. c.髄膜炎
  4. d.蜂巣炎〈蜂窩織炎〉
  5. e.リンパ節炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子どもの耳の下の痛みから疾患を見抜き、その合併症を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、酸味で痛みが強くなること、幼稚園での流行、そしてその時間差の3つ。写真では右の耳介の前から下にかけて腫れていて、耳たぶが持ち上がるような腫れ方をしている。これらが何を意味するか考えてみよう。
医学生医学生
酸っぱいもので痛むのは、唾液が出るからですか。
ドクタードクター
その通り。酸味で唾液の分泌が増えると、炎症で腫れた唾液腺の内圧が上がって痛みが増す。つまり唾液腺、ここでは耳下腺に炎症があることを示しているんだ。リンパ節炎や皮下の蜂巣炎ではこうはならない。
医学生医学生
幼稚園で2週間前に同じ症状の子がいたというのは、潜伏期と合っているということですね。
ドクタードクター
そう。流行性耳下腺炎の潜伏期は2〜3週間、平均16〜18日くらいで、まさに一致する。人から人へうつって流行している点も重要だ。化膿性耳下腺炎なら、Stensen管の開口部から膿が出たり皮膚が赤くなったりすることが多く、流行はしない。だから診断はムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎、おたふくかぜだね。
医学生医学生
小児科の実習でも、耳の下が腫れた子が外来に来ていました。合併症といえば精巣炎のイメージが強いです。
ドクタードクター
精巣炎も有名だけど、思春期以降の男性に多いもので、6歳の子ではあまり問題にならない。ムンプスウイルスは耳下腺だけでなく全身に広がり、中枢神経、内耳、精巣、卵巣、膵臓など、腺組織や神経組織を好んで障害する。この年齢で特に重要なのは何だと思う?
医学生医学生
神経組織というと、髄膜炎でしょうか。
ドクタードクター
正解。無菌性髄膜炎はムンプスで最も多い合併症の一つで、髄液の細胞数増加だけなら患者の約半数にみられる。頭痛や嘔吐、項部硬直などの症状がはっきり出るのは1〜10%程度とされる。耳下腺が腫れてから数日〜1週間ほどで起こることが多いけれど、腫れが先行しないこともあるんだ。髄液ではリンパ球優位の細胞増加がみられ、多くは後遺症なく治る。
医学生医学生
もう一つの正解は難聴ですね。内耳もやられるということですか。
ドクタードクター
そう、ムンプスウイルスが蝸牛を障害して起こる感音難聴、いわゆるムンプス難聴だ。頻度は数百〜1,000人に1人程度とされるけれど、多くは片側で高度、しかも治療してもほとんど回復せず一生残ることが多い。小児の後天性の片側性高度感音難聴の主な原因とされている。
医学生医学生
耳鼻科の実習で、片耳が聞こえないことに学校の健診で気づかれた子がいました。そういうケースもあるんですね。
ドクタードクター
まさにそこが怖いところ。小さい子は片側の難聴だと訴えないし、耳下腺の腫れがはっきりしない不顕性感染でも起こりうる。だから流行性耳下腺炎の後は聞こえにも気を配る必要がある。では、残りの選択肢がなぜ違うかも確認しよう。肺炎はどうかな。
医学生医学生
ムンプスは飛沫感染なので、呼吸器にも来そうに思えますが……。
ドクタードクター
入口は上気道だけど、肺で増えて肺炎を起こすことはほとんどない。肺炎を合併しやすいウイルス感染症として覚えるべきなのは、麻疹やインフルエンザ、成人の水痘のほうだね。蜂巣炎は黄色ブドウ球菌やA群溶連菌などの細菌が皮下に広がる化膿性炎症で、ムンプスの合併症ではない。リンパ節炎も、耳の下の腫れの鑑別にはなるけれど、合併症として特徴的なものではない。
医学生医学生
リンパ節炎は鑑別疾患で、合併症ではないという整理ですね。可動性のある結節として触れて、酸味で痛みは増えない、と。
ドクタードクター
その通り。発展知識も押さえよう。ほかの合併症として、思春期以降の精巣炎・卵巣炎、膵炎、まれに脳炎がある。検査では唾液腺型の血清アミラーゼが上がり、ムンプスIgM抗体やPCRで確認する。特効薬はなく、治療は対症療法だ。
医学生医学生
学校保健安全法では第二種感染症で、出席停止の基準もありましたよね。
ドクタードクター
そう。耳下腺、顎下腺、舌下腺の腫れが出てから5日が過ぎ、かつ全身状態が良くなるまで出席停止だ。予防には弱毒生ワクチンがあり、日本では任意接種で1歳以降に2回接種が推奨されている。治らない難聴を防ぐ手段としても、ワクチンの意義は大きいんだ。

まとめ

耳下腺部の腫脹と疼痛、酸味による痛みの増強、園内での流行と2〜3週間の潜伏期に一致する経過がそろえば、ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎を考えます。ムンプスウイルスは全身に広がって腺組織や神経組織を障害し、代表的な合併症は最も頻度の高い無菌性髄膜炎と、片側高度で回復しにくいムンプス難聴です。肺炎、蜂巣炎、リンパ節炎はムンプスに特徴的な合併症ではなく、リンパ節炎はむしろ耳下腺腫脹の鑑別疾患として位置づけられます。思春期以降の精巣炎・卵巣炎や膵炎、出席停止の基準、任意接種のワクチンまで含めて理解しておくと、小児感染症の診療や家族への説明に活かせます。

解答・解説

正解はa, cです

所見の整理

・6歳男児。右耳の下の痛みと38.1℃の発熱がある。 ・酸っぱいものを食べると痛みが強くなる。酸味で唾液の分泌が増えると、炎症で腫れた唾液腺の中の圧が上がって痛みが増す。唾液腺(ここでは耳下腺)に炎症があることを示す所見である。 ・約2週間前に、通っている幼稚園に同じ症状の子がいた。流行性耳下腺炎の潜伏期(2〜3週間、平均16〜18日)とよく合い、人から人へうつる感染症であることを示す。 ・顔面の写真では、右の耳介の前から下にかけて腫れがある。耳下腺の位置に一致し、耳たぶが持ち上がるような腫れ方になる。

診断へのプロセス

耳の下の痛みと発熱をみたら、流行性耳下腺炎、化膿性耳下腺炎、頸部リンパ節炎、蜂巣炎などを鑑別する。酸味で痛みが増すことは唾液腺の炎症を示し、リンパ節炎や皮下の蜂巣炎とは異なる。幼稚園での流行と潜伏期に合う経過から、感染症として広がっていると考えられる。化膿性耳下腺炎なら、耳下腺の開口部(Stensen管開口部)から膿が出たり皮膚が赤くなったりすることが多く、流行することはない。以上から、ムンプスウイルスによる流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)と診断する。

設問の考え方

ムンプスウイルスは耳下腺だけでなく全身に広がり、中枢神経、内耳、精巣、卵巣、膵臓などの腺組織や神経組織を好んで障害する。そのため、無菌性髄膜炎とムンプス難聴(感音難聴)が代表的な合併症となる。肺炎、蜂巣炎、リンパ節炎はムンプスに特徴的な合併症ではない。

選択肢考察

  1. ○a.  難聴

    ムンプスウイルスが内耳(蝸牛)を障害すると、感音難聴(音を感じる内耳や神経の障害による難聴)が起こる。これをムンプス難聴という。多くは片側で、高度の難聴になりやすく、治療してもほとんど回復しないため、一生残ることが多い。頻度は数百〜1,000人に1人程度とされ、小児の後天性の片側性高度感音難聴の主な原因である。耳下腺の腫れがはっきりしない不顕性感染でも起こることがある。低年齢の子では片側の難聴に気づかれにくいため注意が必要である。

  2. ×b.  肺炎

    ムンプスウイルスは飛沫で上気道から入るが、肺の中で増えて肺炎を起こすことはほとんどない。肺炎は、ムンプスの合併症として重要なものではない。肺炎を合併しやすいウイルス感染症には、麻疹(麻疹肺炎、二次性の細菌性肺炎)、インフルエンザ、水痘(成人)などがある。

  3. ○c.  髄膜炎

    無菌性髄膜炎(細菌培養で菌が見つからない髄膜炎で、多くはウイルスによる)はムンプスで最も多い合併症の一つである。髄液の細胞数が増えるだけのものまで含めると患者の約半数にみられ、頭痛、嘔吐、項部硬直などの症状がはっきり出るのは1〜10%程度とされる。耳下腺が腫れてから数日〜1週間ほどで起こることが多いが、耳下腺の腫れが先に出ないこともある。髄液ではリンパ球が中心の細胞数の増加がみられ、ウイルスが分離されることもある。多くは後遺症なく治る。まれに脳炎も起こる。

  4. ×d.  蜂巣炎〈蜂窩織炎〉

    蜂巣炎は、主に黄色ブドウ球菌やA群β溶血性レンサ球菌などの細菌が真皮から皮下組織に広がって起こる化膿性の炎症である。皮膚が赤く熱をもって腫れ、境界ははっきりしない。ムンプスの合併症ではなく、流行することもない。本例では酸味で痛みが増すことや園内での流行から、皮下組織の炎症ではなく耳下腺の炎症と考えられる。

  5. ×e.  リンパ節炎

    頸部リンパ節炎は、細菌感染や上気道のウイルス感染に伴って起こり、耳の下から顎の下の腫れと痛みの原因となるため、流行性耳下腺炎の鑑別疾患になる。しかし、ムンプスの合併症として特徴的なものではない。リンパ節の腫れは可動性のある結節として触れ、酸味で痛みが増すことはない。

流行性耳下腺炎(ムンプス、おたふくかぜ)の概要

・病原体:ムンプスウイルス(パラミクソウイルス科のRNAウイルス)。 ・感染経路:飛沫感染と接触感染。耳下腺が腫れる数日前から腫れた後5日ほどまでの間に、ほかの人にうつしやすい。 ・潜伏期:2〜3週間(平均16〜18日)。 ・好発年齢:3〜6歳ごろ。約30%は症状の出ない不顕性感染である。 ・症状:発熱と、耳下腺の腫れと痛み(片側から始まり、多くは両側になる)。顎下腺や舌下腺が腫れることもある。 ・検査:血清アミラーゼ(唾液腺型)が上がる。ムンプスIgM抗体やPCRで確認する。 ・治療:特別な治療薬はなく、解熱鎮痛薬などで症状を和らげる。 ・学校保健安全法:第二種感染症である。耳下腺、顎下腺、舌下腺の腫れが出てから5日が過ぎ、かつ全身状態が良くなるまで出席停止とする。

主な合併症

・無菌性髄膜炎:最も多い。 ・ムンプス難聴:片側の高度感音難聴が多く、治りにくい。 ・精巣炎:思春期以降の男性の20〜30%に起こる。多くは片側で、両側でも完全な不妊になることはまれである。 ・卵巣炎:思春期以降の女性に起こる。 ・膵炎:腹痛や嘔吐が出て、膵型アミラーゼやリパーゼが上がる。 ・まれなもの:脳炎、心筋炎、甲状腺炎など。

予防

・ムンプスワクチン(弱毒生ワクチン)がある。日本では任意接種で、1歳以降に接種する(2回接種が推奨される)。まれに、ワクチン接種後にも無菌性髄膜炎が起こることがある。

POINT

・耳下腺の腫れ、酸味で痛みが強くなる、園内での流行、潜伏期2〜3週間 → 流行性耳下腺炎を考える。 ・代表的な合併症:無菌性髄膜炎(最も多い)とムンプス難聴(片側の高度感音難聴で、治りにくい)。 ・そのほかの合併症:精巣炎・卵巣炎(思春期以降)、膵炎、脳炎。 ・出席停止の基準:耳下腺などの腫れが出てから5日が過ぎ、かつ全身状態が良くなるまで。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。