押しても消えない赤―硝子圧子が見抜くIgA血管炎の紫斑
第104回医師国家試験 D問題 第3問
国試問題にチャレンジ
検査器具の写真を別に示す。 この検査器具が診断に有用なのはどれか。

- a.扁平苔癬
- b.尋常性疣贅
- c.膿疱性乾癬
- d.尋常性天疱瘡
- e.IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
写真の器具は硝子圧子で、透明な板で皮疹を圧迫して色調の変化を観察する硝子圧法(ダイアスコピー)に用います。血管拡張・充血による紅斑は圧迫で退色し、血管外への出血である紫斑は退色しないため、両者の鑑別に有用です。IgA血管炎はIgA免疫複合体が小血管壁に沈着する小型血管炎で、下肢・臀部の触知可能な紫斑、関節痛、腹痛、腎炎を伴い、血小板数・凝固能は正常であることが特徴です。扁平苔癬のWickham線条やKöbner現象、天疱瘡のNikolsky現象など、皮膚疾患ごとに診断の決め手となる手技を整理しておくと、診察所見から疾患を絞り込む力が身につきます。また硝子圧法は尋常性狼瘡やサルコイドーシスのリンゴジャム様色調の確認にも使われ、簡便ながら臨床で応用範囲の広い手技です。
解答・解説
正解はeです
写真の器具
写真は透明なガラス板で、指で押し当てやすいように緩やかに弯曲している。これは硝子圧子(ドイツ語でGlasspatel:グラススパーテル)であり、硝子圧法(diascopy:ダイアスコピー)に用いる皮膚科の診察器具である。
硝子圧法の原理
透明な板で皮疹を圧迫し、上から色調の変化を観察する。 ・紅斑:真皮の血管が拡張・充血して赤く見えている状態である。圧迫すると血管内の血液が押し出されるため、赤みが消える(退色する)。 ・紫斑:血液が血管の外(真皮内)に漏れ出た出血である。赤血球は血管外にあるため、圧迫しても押し出されず、色は消えない(退色しない)。 つまり硝子圧法は「赤い皮疹が血管拡張によるものか、出血によるものか」を簡便に区別する検査である。このほか、圧迫で血液の赤みを除くことで皮疹そのものの色が見やすくなり、尋常性狼瘡(皮膚結核の一型)やサルコイドーシスの結節ではリンゴジャム様の黄褐色調(apple-jelly color)が確認できる。
設問への考え方
選択肢の中で、紫斑を主徴とし、紅斑との鑑別に硝子圧法が役立つ疾患を選べばよい。他の疾患はそれぞれ別の診察所見・手技が診断の手がかりとなる。
選択肢考察
- ×a. 扁平苔癬
扁平苔癬は、紫紅色で扁平に隆起した多角形の丘疹が特徴の炎症性角化症である。表面にはWickham線条(白色の細い網目状の線)がみられ、口腔粘膜にはレース状の白斑を生じる。掻破などの刺激部位に同様の皮疹が生じるKöbner現象が陽性となる。確定には皮膚生検で基底層の液状変性と帯状のリンパ球浸潤を確認する。硝子圧法は診断に用いない。
- ×b. 尋常性疣贅
尋常性疣贅はヒトパピローマウイルス(HPV、主に2型・27型・57型など)の感染による、いわゆる「いぼ」である。表面が粗く角化した丘疹で、主に視診で診断し、ダーモスコピーで点状の出血(血栓化した毛細血管)が観察されることがある。治療は液体窒素による冷凍凝固療法が第一選択である。硝子圧法は診断の決め手にならない。
- ×c. 膿疱性乾癬
膿疱性乾癬(汎発型)は、発熱などの全身症状とともに紅斑上に無菌性膿疱が多発する疾患である。病理組織ではKogoj海綿状膿疱(表皮上層の好中球の集まり)や角層下膿疱がみられ、診断には皮膚生検が重要である。原因遺伝子としてIL36RN遺伝子変異が知られる。硝子圧法は診断には用いない。
- ×d. 尋常性天疱瘡
尋常性天疱瘡は、表皮細胞同士をつなぐデスモグレイン3(粘膜皮膚型ではデスモグレイン1も)に対する自己抗体による自己免疫性水疱症である。口腔粘膜のびらんと皮膚の弛緩性水疱が特徴で、一見正常な皮膚をこするとずれて表皮が剥がれるNikolsky現象が陽性となる。診断は皮膚生検(表皮内水疱、棘融解)、蛍光抗体法(表皮細胞間へのIgG沈着)、血中抗デスモグレイン抗体の測定で行う。硝子圧法は用いない。
- ○e. IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉
IgA血管炎は、IgAを主体とする免疫複合体が小血管壁に沈着して起こる小型血管炎で、小児に多い。下肢・臀部を中心に、わずかに隆起して触れることのできる紫斑(palpable purpura)が出現し、関節痛、腹痛・消化管出血、腎炎(紫斑病性腎炎)を伴う。皮疹は血管炎による赤血球の血管外漏出であるため、硝子圧子で押しても退色しない。これにより紅斑と区別して紫斑であることを確認できるため、硝子圧法が診断に有用である。
硝子圧法でわかること
・圧迫で退色する:紅斑(血管拡張・充血)。例として蕁麻疹、多形紅斑、薬疹など。 ・圧迫で退色しない:紫斑(血管外への出血)。例としてIgA血管炎、血小板減少による紫斑、老人性紫斑、ステロイド紫斑など。 ・黄褐色(リンゴジャム様)の小結節が透見される:尋常性狼瘡、サルコイドーシスなどの肉芽腫性病変。
IgA血管炎の概要
・好発:3〜10歳前後の小児に多いが成人にも生じる。上気道感染が先行することが多い。 ・病態:IgA1を含む免疫複合体が皮膚・消化管・腎の小血管壁に沈着し、白血球破砕性血管炎を起こす。 ・症状:下肢伸側・臀部の触知可能な紫斑、関節痛・関節炎、腹痛(腸重積の原因にもなる)、腎炎(血尿・蛋白尿)。 ・検査:血小板数と凝固能は正常である(紫斑があるのに血小板減少がない点が重要)。皮膚生検で血管壁へのIgA沈着を認める。第XIII因子活性が低下することがある。 ・予後:多くは自然軽快するが、長期予後は腎炎の程度に左右される。 ・名称:以前はSchönlein-Henoch紫斑病(アレルギー性紫斑病)と呼ばれていたが、2012年のChapel Hill分類改訂でIgA血管炎とされた。
皮膚科の主な診察手技
・硝子圧法:紅斑と紫斑の鑑別。 ・Nikolsky現象:天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、中毒性表皮壊死症など。 ・Köbner現象:乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑など。 ・Auspitz現象:乾癬の鱗屑を剥がすと点状出血がみられる。 ・皮膚描記法(ダーモグラフィズム):蕁麻疹では擦過部に膨疹を生じる(赤色皮膚描記症)。アトピー性皮膚炎では白色皮膚描記症がみられる。 ・ダーモスコピー:色素性病変(悪性黒色腫など)の観察。
POINT
・写真の器具は硝子圧子で、硝子圧法(diascopy)に用いる。 ・圧迫で退色すれば紅斑、退色しなければ紫斑。 ・IgA血管炎の皮疹は触知可能な紫斑で、硝子圧法で退色しない。血小板数・凝固能は正常。 ・尋常性狼瘡などでは硝子圧法でリンゴジャム様の色調がみえる。 ・Köbner現象(扁平苔癬、乾癬)、Nikolsky現象(天疱瘡)など、各疾患に特徴的な診察手技と結びつけて覚える。
