StudyMed医師国家試験

押しても消えない赤―硝子圧子が見抜くIgA血管炎の紫斑

第104回医師国家試験 D問題 第3問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第3問

検査器具の写真を別に示す。  この検査器具が診断に有用なのはどれか。

第104回 D問題 第3問の問題画像
  1. a.扁平苔癬
  2. b.尋常性疣贅
  3. c.膿疱性乾癬
  4. d.尋常性天疱瘡
  5. e.IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は皮膚科の診察器具の写真から、それが診断に役立つ疾患を選ぶ問題だ。写真は透明で、指で押し当てやすいようにゆるやかに弯曲したガラス板。この器具が何で、何を見分けるためのものかがわかれば、答えはすぐそこだよ。
医学生医学生
皮膚科の臨床実習で、先生がポケットから取り出して皮疹に当てていたのを見たことがあります。硝子圧子でしょうか。
ドクタードクター
正解。硝子圧子を使った診察法を硝子圧法、ダイアスコピーという。どんな原理か覚えているかな。
医学生医学生
皮疹を押して、色が消えるかどうかを見るんでしたっけ。
ドクタードクター
そう。紅斑は真皮の血管が拡張・充血して赤く見えている状態だから、押すと血管内の血液が押し出されて赤みが消える。一方、紫斑は血液が血管の外に漏れ出た出血だ。赤血球が組織の中にあるから、いくら押しても色は消えない。
医学生医学生
つまり、赤い皮疹が血管の拡張によるものか、出血によるものかを区別する検査なんですね。
ドクタードクター
その通り。では選択肢の中で、紫斑が主役の疾患はどれかな。
医学生医学生
IgA血管炎ですね。小児科の講義で、下肢に出る「触れる紫斑」、palpable purpuraと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。IgA血管炎はIgAを主体とする免疫複合体が小血管の壁に沈着して起こる小型血管炎で、小児に多い。下肢や臀部のわずかに盛り上がった紫斑に加えて、関節痛、腹痛や消化管出血、腎炎を伴う。皮疹は血管炎で赤血球が血管外に漏れたものだから、硝子圧子で押しても退色しない。これで紅斑ではなく紫斑だと確認できるから、硝子圧法が診断に役立つんだ。
医学生医学生
紫斑が出ているのに、血小板数は正常なんですよね。CBTの問題で特発性血小板減少性紫斑病との違いとして出てきました。
ドクタードクター
大事なポイントだ。IgA血管炎では血小板数も凝固能も正常で、出血の原因は血管そのものの炎症にある。皮膚生検では血管壁へのIgA沈着がみられる。では、ほかの選択肢も確認しよう。扁平苔癬はどうかな。
医学生医学生
扁平苔癬も紫紅色の皮疹なので、色を確かめるのに使えそうな気がしてしまいます。
ドクタードクター
迷うのはわかるよ。でも扁平苔癬は紫紅色で扁平に隆起した多角形の丘疹で、表面のWickham線条、口腔粘膜のレース状白斑、刺激部位に皮疹が出るKöbner現象が手がかりになる。確定は皮膚生検で、基底層の液状変性と帯状のリンパ球浸潤を確認する。硝子圧法は診断には使わないんだ。
医学生医学生
尋常性疣贅は、いわゆるいぼなので視診でわかりますね。ダーモスコピーで点状の出血が見えると習いました。
ドクタードクター
その通り。ヒトパピローマウイルス感染による角化した丘疹で、視診やダーモスコピーで診断し、治療は液体窒素による冷凍凝固が第一選択だ。膿疱性乾癬はどうだろう。
医学生医学生
発熱を伴って紅斑の上に無菌性膿疱が多発する病気ですね。病理実習でKogoj海綿状膿疱を見ました。
ドクタードクター
そう、診断には皮膚生検が重要で、原因遺伝子としてIL36RN遺伝子変異が知られている。最後に尋常性天疱瘡は?
医学生医学生
デスモグレイン3に対する自己抗体で、Nikolsky現象が陽性になる病気です。OSCE前に、皮膚科の手技と疾患の組み合わせをまとめて覚えました。
ドクタードクター
いい準備だね。天疱瘡は口腔粘膜のびらんと弛緩性水疱が特徴で、生検で表皮内水疱と棘融解、蛍光抗体法で表皮細胞間へのIgG沈着を確認する。こうして見ると、それぞれの疾患に「決め手になる手技や検査」があるのがわかるだろう。
医学生医学生
硝子圧法は、紫斑かどうかを判定するためだけの検査なんですか。
ドクタードクター
ほかにも使い道がある。押して血液の赤みを除くと、皮疹そのものの色が見やすくなるんだ。尋常性狼瘡やサルコイドーシスの結節では、リンゴジャムのような黄褐色調が透けて見える。肉芽腫性病変を疑うときにも役立つ手技だよ。
医学生医学生
IgA血管炎で、臨床上特に気をつけることは何でしょうか。
ドクタードクター
多くは自然に軽快するけれど、腹痛は腸重積の原因になることがあるし、長期予後は腎炎の程度に左右される。紫斑が消えた後もしばらくは尿検査で血尿や蛋白尿をフォローすることが大切だ。第XIII因子活性が低下することがある点も知っておくといい。
医学生医学生
皮疹が良くなっても、腎臓の経過まで見届ける必要があるんですね。
ドクタードクター
その通り。皮膚の診察は「見て、触って、押して」得られる情報が多い。硝子圧子一枚で紅斑と紫斑を分けられることを、ぜひ実習で体験してほしい。

まとめ

写真の器具は硝子圧子で、透明な板で皮疹を圧迫して色調の変化を観察する硝子圧法(ダイアスコピー)に用います。血管拡張・充血による紅斑は圧迫で退色し、血管外への出血である紫斑は退色しないため、両者の鑑別に有用です。IgA血管炎はIgA免疫複合体が小血管壁に沈着する小型血管炎で、下肢・臀部の触知可能な紫斑、関節痛、腹痛、腎炎を伴い、血小板数・凝固能は正常であることが特徴です。扁平苔癬のWickham線条やKöbner現象、天疱瘡のNikolsky現象など、皮膚疾患ごとに診断の決め手となる手技を整理しておくと、診察所見から疾患を絞り込む力が身につきます。また硝子圧法は尋常性狼瘡やサルコイドーシスのリンゴジャム様色調の確認にも使われ、簡便ながら臨床で応用範囲の広い手技です。

解答・解説

正解はeです

写真の器具

写真は透明なガラス板で、指で押し当てやすいように緩やかに弯曲している。これは硝子圧子(ドイツ語でGlasspatel:グラススパーテル)であり、硝子圧法(diascopy:ダイアスコピー)に用いる皮膚科の診察器具である。

硝子圧法の原理

透明な板で皮疹を圧迫し、上から色調の変化を観察する。 ・紅斑:真皮の血管が拡張・充血して赤く見えている状態である。圧迫すると血管内の血液が押し出されるため、赤みが消える(退色する)。 ・紫斑:血液が血管の外(真皮内)に漏れ出た出血である。赤血球は血管外にあるため、圧迫しても押し出されず、色は消えない(退色しない)。 つまり硝子圧法は「赤い皮疹が血管拡張によるものか、出血によるものか」を簡便に区別する検査である。このほか、圧迫で血液の赤みを除くことで皮疹そのものの色が見やすくなり、尋常性狼瘡(皮膚結核の一型)やサルコイドーシスの結節ではリンゴジャム様の黄褐色調(apple-jelly color)が確認できる。

設問への考え方

選択肢の中で、紫斑を主徴とし、紅斑との鑑別に硝子圧法が役立つ疾患を選べばよい。他の疾患はそれぞれ別の診察所見・手技が診断の手がかりとなる。

選択肢考察

  1. ×a.  扁平苔癬

    扁平苔癬は、紫紅色で扁平に隆起した多角形の丘疹が特徴の炎症性角化症である。表面にはWickham線条(白色の細い網目状の線)がみられ、口腔粘膜にはレース状の白斑を生じる。掻破などの刺激部位に同様の皮疹が生じるKöbner現象が陽性となる。確定には皮膚生検で基底層の液状変性と帯状のリンパ球浸潤を確認する。硝子圧法は診断に用いない。

  2. ×b.  尋常性疣贅

    尋常性疣贅はヒトパピローマウイルス(HPV、主に2型・27型・57型など)の感染による、いわゆる「いぼ」である。表面が粗く角化した丘疹で、主に視診で診断し、ダーモスコピーで点状の出血(血栓化した毛細血管)が観察されることがある。治療は液体窒素による冷凍凝固療法が第一選択である。硝子圧法は診断の決め手にならない。

  3. ×c.  膿疱性乾癬

    膿疱性乾癬(汎発型)は、発熱などの全身症状とともに紅斑上に無菌性膿疱が多発する疾患である。病理組織ではKogoj海綿状膿疱(表皮上層の好中球の集まり)や角層下膿疱がみられ、診断には皮膚生検が重要である。原因遺伝子としてIL36RN遺伝子変異が知られる。硝子圧法は診断には用いない。

  4. ×d.  尋常性天疱瘡

    尋常性天疱瘡は、表皮細胞同士をつなぐデスモグレイン3(粘膜皮膚型ではデスモグレイン1も)に対する自己抗体による自己免疫性水疱症である。口腔粘膜のびらんと皮膚の弛緩性水疱が特徴で、一見正常な皮膚をこするとずれて表皮が剥がれるNikolsky現象が陽性となる。診断は皮膚生検(表皮内水疱、棘融解)、蛍光抗体法(表皮細胞間へのIgG沈着)、血中抗デスモグレイン抗体の測定で行う。硝子圧法は用いない。

  5. ○e.  IgA血管炎〈Schönlein-Henoch紫斑病〉

    IgA血管炎は、IgAを主体とする免疫複合体が小血管壁に沈着して起こる小型血管炎で、小児に多い。下肢・臀部を中心に、わずかに隆起して触れることのできる紫斑(palpable purpura)が出現し、関節痛、腹痛・消化管出血、腎炎(紫斑病性腎炎)を伴う。皮疹は血管炎による赤血球の血管外漏出であるため、硝子圧子で押しても退色しない。これにより紅斑と区別して紫斑であることを確認できるため、硝子圧法が診断に有用である。

硝子圧法でわかること

・圧迫で退色する:紅斑(血管拡張・充血)。例として蕁麻疹、多形紅斑、薬疹など。 ・圧迫で退色しない:紫斑(血管外への出血)。例としてIgA血管炎、血小板減少による紫斑、老人性紫斑、ステロイド紫斑など。 ・黄褐色(リンゴジャム様)の小結節が透見される:尋常性狼瘡、サルコイドーシスなどの肉芽腫性病変。

IgA血管炎の概要

・好発:3〜10歳前後の小児に多いが成人にも生じる。上気道感染が先行することが多い。 ・病態:IgA1を含む免疫複合体が皮膚・消化管・腎の小血管壁に沈着し、白血球破砕性血管炎を起こす。 ・症状:下肢伸側・臀部の触知可能な紫斑、関節痛・関節炎、腹痛(腸重積の原因にもなる)、腎炎(血尿・蛋白尿)。 ・検査:血小板数と凝固能は正常である(紫斑があるのに血小板減少がない点が重要)。皮膚生検で血管壁へのIgA沈着を認める。第XIII因子活性が低下することがある。 ・予後:多くは自然軽快するが、長期予後は腎炎の程度に左右される。 ・名称:以前はSchönlein-Henoch紫斑病(アレルギー性紫斑病)と呼ばれていたが、2012年のChapel Hill分類改訂でIgA血管炎とされた。

皮膚科の主な診察手技

・硝子圧法:紅斑と紫斑の鑑別。 ・Nikolsky現象:天疱瘡、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、中毒性表皮壊死症など。 ・Köbner現象:乾癬、扁平苔癬、尋常性白斑など。 ・Auspitz現象:乾癬の鱗屑を剥がすと点状出血がみられる。 ・皮膚描記法(ダーモグラフィズム):蕁麻疹では擦過部に膨疹を生じる(赤色皮膚描記症)。アトピー性皮膚炎では白色皮膚描記症がみられる。 ・ダーモスコピー:色素性病変(悪性黒色腫など)の観察。

POINT

・写真の器具は硝子圧子で、硝子圧法(diascopy)に用いる。 ・圧迫で退色すれば紅斑、退色しなければ紫斑。 ・IgA血管炎の皮疹は触知可能な紫斑で、硝子圧法で退色しない。血小板数・凝固能は正常。 ・尋常性狼瘡などでは硝子圧法でリンゴジャム様の色調がみえる。 ・Köbner現象(扁平苔癬、乾癬)、Nikolsky現象(天疱瘡)など、各疾患に特徴的な診察手技と結びつけて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。