魚のにおいが告げる腟内の異変―細菌性腟症の帯下を読み解く
第104回医師国家試験 D問題 第20問
国試問題にチャレンジ
細菌性腟症の帯下所見はどれか。
- a.黄褐色
- b.泡沫状
- c.pH<3.0
- d.アミン臭
- e.シダ状結晶
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌性腟症は特定の病原体の感染ではなく、乳酸桿菌が減少してGardnerellaや嫌気性菌が増殖する腟内細菌叢の乱れであり、嫌気性菌が産生するアミン類による魚臭(アミン臭)が最も特徴的な帯下所見です。Amselの基準では、灰白色で均一なさらさらした帯下、pH4.5超、KOH添加でにおいが強まるアミンテスト陽性、clue cellのうち3項目以上で診断します。泡沫状・黄緑色の帯下はトリコモナス腟炎、酒粕状の帯下はカンジダ腟炎、シダ状結晶は排卵期頸管粘液や羊水の所見と、それぞれ整理しておくと鑑別に役立ちます。妊婦では絨毛膜羊膜炎を介して前期破水や早産の危険因子となるため、メトロニダゾールなどによる適切な治療が重要です。帯下の色・形状・pH・においを病態と結びつけて理解することは、婦人科外来での診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
細菌性腟症(bacterial vaginosis)は、特定の病原体の感染ではなく、腟内の常在細菌叢のバランスが崩れることで起こる病態である。健康な性成熟期女性の腟内では乳酸桿菌(Lactobacillus、かつてDöderlein桿菌と呼ばれた)が優位で、腟上皮のグリコーゲンから乳酸を産生し、腟内をpH 3.8〜4.5程度の酸性に保って他の細菌の増殖を抑えている(腟の自浄作用)。細菌性腟症ではこの乳酸桿菌が減少し、代わりにGardnerella vaginalisや、Prevotella、Mobiluncusなどの嫌気性菌、Mycoplasma hominisなどが異常に増殖する。 増殖した嫌気性菌はトリメチルアミンなどのアミン類を産生するため、帯下は魚が腐ったような特有の臭い(アミン臭、魚臭)を放つ。これが細菌性腟症の最も特徴的な帯下所見であり、正解はdである。 臨床診断にはAmselの基準がよく用いられ、次の4項目のうち3項目以上を満たせば細菌性腟症と診断する。 ①灰白色で均一な、さらさらした帯下 ②腟分泌物のpHが4.5を超える ③アミンテスト(whiff test)陽性:帯下に10% 水酸化カリウム(KOH)を加えるとアミン臭が強まる ④鏡検でclue cell(手がかり細胞)を認める:腟上皮細胞の表面に多数の細菌が付着し、細胞の輪郭が不鮮明に見えるもの 帯下の性状は腟炎の鑑別に役立つ。泡沫状の帯下はトリコモナス腟炎、酒粕状・カッテージチーズ様の帯下はカンジダ腟炎の特徴であり、各選択肢がどの病態の所見かを整理しておくとよい。
選択肢考察
- ×a. 黄褐色
細菌性腟症の帯下は灰色〜灰白色で、腟壁に薄く均一に付着するのが特徴である。黄色調の帯下は、好中球が多く含まれる炎症性の帯下(トリコモナス腟炎の黄緑色帯下や、淋菌・クラミジアによる子宮頸管炎の膿性帯下など)でみられ、褐色調は出血が混じった帯下(萎縮性腟炎、子宮頸癌・体癌など)でみられる。細菌性腟症は炎症反応に乏しく(vaginitis〈腟炎〉ではなくvaginosis〈腟症〉と呼ばれる理由)、黄褐色は典型的ではない。
- ×b. 泡沫状
泡沫状の帯下はトリコモナス腟炎に特徴的な所見である。トリコモナス腟炎では黄緑色で泡沫状の悪臭のある帯下がみられ、腟壁や子宮腟部の点状出血(いちご状子宮頸部)を伴うことがある。細菌性腟症の帯下は、泡沫状ではなく、さらさらした均一な灰白色の帯下である。
- ×c. pH<3.0
細菌性腟症では、乳酸を産生する乳酸桿菌が減少するため腟内の酸性度が低下し、腟分泌物のpHは4.5を超えて上昇する(Amselの基準の一項目)。pH<3.0という強い酸性は、正常の腟内(pH 3.8〜4.5程度)よりもさらに低く、細菌性腟症とは逆方向である。なお、トリコモナス腟炎でもpHは上昇(4.5超)するが、カンジダ腟炎ではpHは通常正常範囲(4.5以下)にとどまる。
- ○d. アミン臭
細菌性腟症で増殖した嫌気性菌が、トリメチルアミン、プトレシン、カダベリンなどのアミン類を産生するため、帯下は魚が腐ったような特有のアミン臭(魚臭)を放つ。帯下に10% KOHを加えるとアミンが揮発して臭いが強まり、これをアミンテスト(whiff test)陽性という。性交後(アルカリ性の精液が混じったとき)や月経後に臭いが強くなると訴えることも多い。Amselの基準の一項目であり、細菌性腟症の最も特徴的な帯下所見である。
- ×e. シダ状結晶
シダ状結晶(シダ葉状結晶)は、排卵期の子宮頸管粘液をスライドガラス上で乾燥させたときにみられる所見である。エストロゲンの作用で頸管粘液中のNaCl濃度が高まることで形成され、排卵期の判定に用いられる(排卵後はプロゲステロンの作用で消失する)。羊水も乾燥させるとシダ状結晶を形成するため、前期破水(PROM)の診断に利用される。腟炎の帯下所見ではない。
主な腟炎・腟症の比較
・細菌性腟症:原因は腟内細菌叢の乱れ(乳酸桿菌の減少と嫌気性菌などの増殖)。帯下は灰白色・均一・さらさら、アミン臭。pH>4.5。clue cell。瘙痒感や炎症所見は乏しく、無症状のことも多い。 ・トリコモナス腟炎:原虫Trichomonas vaginalisによる性感染症。帯下は黄緑色・泡沫状で悪臭を伴う。pH>4.5。鏡検で運動する原虫を認める。瘙痒感・灼熱感が強い。パートナーの同時治療が必要。 ・カンジダ腟炎(外陰腟カンジダ症):主にCandida albicansによる。帯下は白色の酒粕状・カッテージチーズ様で、臭いは乏しい。pHは正常範囲(4.5以下)。強い外陰部瘙痒感。抗菌薬使用、妊娠、糖尿病、免疫抑制が誘因となる。鏡検で仮性菌糸・胞子を認める。 ・萎縮性腟炎:閉経後のエストロゲン低下で腟上皮が菲薄化し、乳酸桿菌が減少して起こる。黄色〜褐色(血性)の帯下や性交痛がみられる。
細菌性腟症の診断
臨床的にはAmselの基準(灰白色均一帯下、pH>4.5、アミンテスト陽性、clue cell陽性の4項目中3項目以上)が用いられる。検査室的には、腟分泌物のグラム染色で乳酸桿菌と Gardnerella・Mobiluncus様の菌の比率を点数化するNugentスコアが標準的である。
臨床的意義と治療
細菌性腟症は性成熟期女性に頻度の高い病態で、妊婦にもしばしばみられる。妊娠中は上行性感染から絨毛膜羊膜炎を起こし、前期破水や早産の危険因子となるため重要である。また、骨盤内炎症性疾患や術後感染、性感染症(HIVなど)の罹患リスクを高めることも知られている。治療はメトロニダゾール(経口または腟錠)が中心で、クリンダマイシンなども用いられる。
POINT
・細菌性腟症=乳酸桿菌の減少とGardnerella・嫌気性菌などの増殖による腟内細菌叢の乱れ。 ・帯下はアミン臭(魚臭)、灰白色・均一・さらさら、pH>4.5、clue cell(Amselの基準)。 ・KOHを加えるとアミン臭が強まる(whiff test)。 ・泡沫状・黄緑色=トリコモナス腟炎、酒粕状・カッテージチーズ様=カンジダ腟炎。 ・シダ状結晶=排卵期頸管粘液、破水時の羊水。 ・妊婦では絨毛膜羊膜炎→前期破水・早産のリスク。治療はメトロニダゾール。
