暗い部屋で横になりたい頭痛―診断基準から読み解く片頭痛の素顔
第104回医師国家試験 D問題 第16問
国試問題にチャレンジ
片頭痛でみられる症状はどれか。3つ選べ。
- a.嘔吐
- b.散瞳
- c.光過敏
- d.眼瞼下垂
- e.体動による頭痛の増悪
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
片頭痛は片側性・拍動性・中等度以上で、日常的な動作により増悪する頭痛が4〜72時間続くのが特徴で、発作中には悪心・嘔吐や光過敏・音過敏を伴います。患者が暗く静かな部屋でじっと横になりたがるのはこのためで、痛みで歩き回る群発頭痛や、日常動作で増悪しない緊張型頭痛との鑑別点になります。一方、散瞳や眼瞼下垂は片頭痛の症状ではなく、脳動脈瘤による動眼神経麻痺や、縮瞳・眼瞼下垂を伴う群発頭痛など別の病態を示唆します。治療は急性期のNSAIDsやトリプタン、頻回例では予防薬や抗CGRP関連抗体製剤が用いられます。診断基準に基づいて典型像を押さえておくことは、危険な二次性頭痛を見逃さないための土台にもなります。
解答・解説
正解はa, c, eです
片頭痛の頭痛の性状と随伴症状を問う問題である。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の診断基準の中身を思い浮かべれば解答できる。
前兆のない片頭痛の診断基準(ICHD-3、要約)
A. B〜D を満たす発作が5回以上ある B. 頭痛発作の持続時間は4〜72時間(未治療または治療が無効の場合) C. 次の4項目のうち2項目以上を満たす ① 片側性 ② 拍動性 ③ 中等度〜重度の強さ ④ 歩行や階段昇降などの日常的な動作により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のためにそうした動作を避ける D. 頭痛発作中に次のうち1項目以上を満たす ① 悪心または嘔吐(あるいはその両方) ② 光過敏および音過敏 E. ほかに最適な診断がない 嘔吐と光過敏は基準 D の随伴症状、体動による頭痛の増悪は基準 C の頭痛の特徴にそのまま該当する。 一方、散瞳と眼瞼下垂は自律神経症状あるいは脳神経麻痺の徴候であり、片頭痛の典型的な症状ではない。頭痛にこれらを伴う場合は、動眼神経麻痺をきたす内頸動脈-後交通動脈分岐部動脈瘤や、眼瞼下垂・縮瞳(部分的ホルネル症候群)を伴う群発頭痛など、別の疾患を考える必要がある。
選択肢考察
- ○a. 嘔吐
悪心・嘔吐は片頭痛発作中によくみられる随伴症状で、ICHD-3 の診断基準 D の一項目である。悪心は大多数の患者にみられ、嘔吐も半数前後にみられる。発作中は胃の動きが低下するため、経口薬の吸収が悪くなることがあり、制吐薬の併用や非経口製剤(点鼻・皮下注射)の選択が考慮される。
- ×b. 散瞳
散瞳は片頭痛の診断基準に含まれる症状ではなく、典型的な片頭痛ではみられない。頭痛に片側の散瞳を伴う場合は、動眼神経の副交感神経線維が圧迫される病態、とくに内頸動脈-後交通動脈分岐部の脳動脈瘤による動眼神経麻痺を疑い、緊急の精査が必要である。なお群発頭痛で出現するのは散瞳ではなく縮瞳である。
- ○c. 光過敏
発作中にふだんは気にならない程度の光をまぶしく不快に感じる光過敏は、片頭痛の代表的な随伴症状であり、音過敏とあわせて ICHD-3 の診断基準 D に含まれる。患者は発作中に暗く静かな部屋で横になって過ごすことを好む。緊張型頭痛では光過敏と音過敏がそろうことはなく、鑑別点となる。
- ×d. 眼瞼下垂
眼瞼下垂は片頭痛の典型的症状ではない。頭痛に眼瞼下垂を伴う場合は、動眼神経麻痺(散瞳・眼球運動障害を伴う。脳動脈瘤などが原因)や、群発頭痛でみられる同側の縮瞳・眼瞼下垂(部分的ホルネル症候群)を考える。かつて「眼筋麻痺性片頭痛」とよばれた病態も、現在は片頭痛ではなく有痛性の脳神経障害(再発性有痛性眼筋麻痺性ニューロパチー)として分類されている。
- ○e. 体動による頭痛の増悪
歩行や階段の昇り降り、頭を動かすといった日常的な動作で頭痛が強くなる、あるいは痛みのためにそうした動作を避けるのは片頭痛の特徴で、ICHD-3 の診断基準 C の一項目である。対照的に、群発頭痛では痛みのためにじっとしていられず歩き回ることが多く、緊張型頭痛は日常動作で増悪しない。
片頭痛の概要
・若年〜中年の女性に多く、家族歴を伴うことが多い。 ・発作は4〜72時間持続し、片側性・拍動性の中等度〜重度の頭痛が典型である(両側性のこともある)。 ・誘因として、ストレスからの解放(週末)、睡眠の過不足、月経、空腹、アルコール(とくに赤ワイン)、天候の変化、光・音・においの刺激などがある。 ・病態は、三叉神経血管系の活性化とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)などの放出による神経原性炎症・血管拡張が中心と考えられている。前兆は大脳皮質を伝播する皮質拡延性抑制(CSD)によると考えられる。
前兆
典型的前兆は、頭痛に先立って5〜60分かけて進展する視覚症状(閃輝暗点:ぎざぎざの光る線と視野欠損)が最も多く、しびれなどの感覚症状や言語症状もある。
一次性頭痛の比較
・片頭痛:片側・拍動性、4〜72時間、体動で増悪、悪心・嘔吐、光・音過敏。 ・緊張型頭痛:両側性・圧迫感や締め付け感、軽度〜中等度、体動で増悪しない、悪心・嘔吐はない(光過敏か音過敏のどちらか一方を伴うことはある)。 ・群発頭痛:片側の眼窩周囲の激痛、15〜180分、群発期に連日出現、じっとしていられない、同側の流涙・結膜充血・鼻漏・鼻閉・縮瞳・眼瞼下垂など自律神経症状を伴う。20〜40代男性に多い。
治療
・急性期:軽症〜中等症ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、中等症〜重症ではトリプタン。制吐薬を併用することもある。近年はラスミジタン(5-HT1F 受容体作動薬)なども用いられる。 ・予防:発作頻度が多い場合、ロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリンなどや、抗 CGRP 関連抗体製剤が用いられる。
頭痛で危険な徴候
突然発症の激しい頭痛、動眼神経麻痺(散瞳・眼瞼下垂)、発熱や項部硬直、神経脱落症状などを伴う頭痛は、くも膜下出血や脳動脈瘤、髄膜炎などの二次性頭痛を疑う。
POINT
・片頭痛は片側性・拍動性・中等度以上・体動で増悪の頭痛で、4〜72時間続く。 ・随伴症状は悪心・嘔吐、光過敏・音過敏である。 ・散瞳・眼瞼下垂は片頭痛の症状ではなく、動眼神経麻痺(脳動脈瘤)や群発頭痛(縮瞳・眼瞼下垂)を考える。 ・群発頭痛では痛みで動き回り、片頭痛では体動を避ける。
