StudyMed医師国家試験

「わかっていても止められない」―チックの正体とTourette症候群

第104回医師国家試験 D問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第104回 D問題 第12問

チックがみられるのはどれか。

  1. a.双極性障害
  2. b.パニック障害
  3. c.注意欠陥多動性障害〈ADHD〉
  4. d.Asperger症候群
  5. e.Tourette症候群

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はチックを症状の中心とする疾患を選ぶ問題だ。選択肢には気分障害、不安症、神経発達症が並んでいるね。まずは「チックとは何か」をはっきりさせれば、迷わず答えにたどり着けるよ。チックがどんな症状か、説明できるかな。
医学生医学生
まばたきや首振りを何度も繰り返す癖のようなもの、というイメージです。
ドクタードクター
イメージとしては近いね。もう少し正確に言うと、チックは突然起こる、素早い、繰り返す、一定のリズムをもたない運動または発声だ。本人の意図とは無関係に起こるけれど、短い時間なら意識して抑えられる。そして出る直前に「むずむずする」「出さずにいられない」という前駆衝動を感じることが多い。
医学生医学生
抑えられるのに不随意運動なんですか。神経内科の講義で習った舞踏運動やミオクローヌスとは違う気がします。
ドクタードクター
鋭いね。そこが鑑別のポイントなんだ。舞踏運動やジストニア、ミオクローヌスのような神経疾患による不随意運動は、意志で止めるのが難しい。チックは一時的に我慢できるけれど、我慢した後にかえって強く出たりする。緊張や興奮、疲れで増えて、何かに集中しているときや睡眠中には減るのも特徴だよ。
医学生医学生
運動だけでなく発声のチックもあるんですね。
ドクタードクター
そう。運動チックはまばたき、顔しかめ、肩すくめなどの単純なものから、跳びはねる、物に触るといった複雑なものまである。音声チックも、咳払いや鼻を鳴らすといった単純なものから、単語の反復、他人の言葉をまねる反響言語、卑猥な言葉や社会的に不適切な言葉を口にしてしまう汚言症まで幅がある。
医学生医学生
汚言症はCBTの問題集で見て、Tourette症候群とセットで覚えました。
ドクタードクター
いい覚え方だ。Tourette症候群は、多彩な運動チックと1種類以上の音声チックが、初発から1年以上続くチック症の最重症型だ。両方が同時期に出ている必要はない。18歳未満で発症し、男児に多く、10歳代前半ごろに最も強くなって、青年期以降に軽くなっていく例が多い。今回の正解はこれだね。
医学生医学生
ADHDにもチックがあると思って少し迷いました。小児科実習で、ADHDとチックの両方がある子を見たので。
ドクタードクター
その経験は大事にしてほしい。ADHDの中核は不注意・多動性・衝動性で、チックはADHDそのものの症状ではない。ただ、Tourette症候群にはADHDの併存がとても多くて、併存例では生活上の困りごとの主因がむしろADHDのほうだったりする。だから「チックの子を診たらADHDや強迫症も評価する」という視点が臨床では欠かせないんだ。
医学生医学生
Asperger症候群の子が手をひらひらさせるのはチックとは違うんですか。
ドクタードクター
それは常同運動と呼ばれるもので、チックとは区別する。常同運動はリズミカルで、前駆衝動を伴わず、幼少期から続くことが多い。Asperger症候群は対人的相互作用の質的な障害と、限定された興味やこだわりが中心で、現在のDSM-5では自閉スペクトラム症に統合されているよ。
医学生医学生
双極性障害とパニック障害は、精神科の講義で習った内容から考えてもチックとは結びつかないですね。
ドクタードクター
その通り。双極性障害は躁状態とうつ状態を繰り返す気分の障害で、中心は気分の変動だ。パニック障害は、動悸や息苦しさ、死への恐怖を伴うパニック発作を予期せず繰り返し、「また起こるのでは」という予期不安や回避行動が続く不安症だね。どちらもチックは症状に含まれない。
医学生医学生
チック症にはTourette症候群以外にも種類があるんでしょうか。
ドクタードクター
DSM-5では持続期間と症状の組み合わせで分けている。1年未満のものが暫定的チック症で、小児期にはよくあり多くは自然に消える。運動チックだけ、または音声チックだけが1年以上続くのが持続性(慢性)運動または音声チック症。両方がそろって1年以上続くとTourette症になる。
医学生医学生
治療は薬が中心になるんですか。
ドクタードクター
まず大切なのは、本人・家族・学校への疾患教育と環境調整だ。叱って止めさせようとすると緊張が高まって、かえって悪化しやすい。行動療法としては、チックと両立しない動作を練習するハビットリバーサルを中心とした包括的行動介入が有効とされている。生活への支障が大きければ、アリピプラゾールやハロペリドールのようなドパミン受容体遮断作用をもつ抗精神病薬、あるいはクロニジンやグアンファシンといったα2作動薬が使われることもある。
医学生医学生
背景にドパミンの過剰があると考えられているから、抗精神病薬が効くんですね。
ドクタードクター
そう理解しておくといい。大脳基底核を含む皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常やドパミン神経伝達の過剰が想定されていて、遺伝的要因も関わるとされている。外来で親御さんが「わざとやっているのでは」と悩んでいることは少なくないから、病気の性質を丁寧に説明することが、治療の第一歩になるんだ。

まとめ

チックは突発的・急速・反復的で非律動的な運動または発声で、短時間なら抑制でき、前駆衝動を伴い、緊張で増えて睡眠中には減るのが特徴です。多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上続き、18歳未満で発症するものがTourette症候群で、汚言症や反響言語を伴うこともあり、ADHDや強迫症の併存が多くみられます。ADHDは不注意・多動・衝動性、Asperger症候群(自閉スペクトラム症)は対人関係の障害とこだわりが中核で、後者にみられる常同運動はチックとは区別されます。治療は疾患教育と環境調整が基本で、行動療法や抗精神病薬・α2作動薬が用いられることもあります。チックを正しく定義し、併存症まで視野に入れて評価する姿勢は、小児の診療で子どもと家族を支えるうえで欠かせません。

解答・解説

正解はeです

問われていること

チックを中核症状とする疾患を選ぶ、児童精神医学の基本問題である。

チックとは

チックは、突発的・急速・反復的で、一定のリズムをもたない運動または発声である。本人の意図とは無関係に起こるが、短時間なら意識して抑えることができ、多くの場合、出る直前に「むずむずする」「出さずにいられない」といった前駆衝動を伴う。緊張や興奮、疲労で増え、集中している時や睡眠中には減るのが特徴である。 ・運動チック:まばたき、顔しかめ、首振り、肩すくめなど(単純性)、跳びはねる、物に触るなど(複雑性)。 ・音声チック:咳払い、鼻を鳴らす、「アッ」などの発声(単純性)、単語や語句の反復、汚言症(コプロラリア:卑猥な言葉や社会的に不適切な言葉を発する)、反響言語(他人の言葉をまねる)など(複雑性)。

考え方

チック症(チック障害)は、症状の種類と持続期間で分類される。多彩な運動チックと1種類以上の音声チックが1年以上続く最重症型がTourette症候群(トゥレット症)である。したがってチックがみられる疾患はTourette症候群であり、他の選択肢はそれぞれ気分の障害、不安の障害、神経発達症であってチックはその症状に含まれない。

選択肢考察

  1. ×a.  双極性障害

    躁状態(または軽躁状態)とうつ状態という病相を反復する気分障害である。躁状態では気分高揚、多弁、観念奔逸、睡眠欲求の減少、誇大性、浪費などがみられる。症状の中心は気分の変動であり、チックは症状に含まれない。

  2. ×b.  パニック障害

    予期しないパニック発作(動悸、呼吸困難、発汗、ふるえ、胸痛、死への恐怖などが突然出現し、数分でピークに達する)を繰り返し、また発作が起こるのではという予期不安や回避行動が続く不安症である。逃げ出しにくい場所や助けが得にくい状況を避ける広場恐怖を伴うことが多い。チックはみられない。

  3. ×c.  注意欠陥多動性障害〈ADHD〉

    不注意(気が散りやすい、忘れ物が多い)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(順番を待てない、衝動的に行動する)を特徴とする神経発達症である。チックはADHDの症状そのものではない。ただしTourette症候群にはADHDの併存が多く、併存例ではADHDのほうが生活上の支障の主因となることもある点は押さえておきたい。

  4. ×d.  Asperger症候群

    知的障害や明らかな言語発達の遅れを伴わないが、対人的相互作用の質的な障害(相手の気持ちや場の空気を読むことが苦手など)と、限定された興味・こだわり・常同的な行動を示す発達障害である。現在のDSM-5では自閉スペクトラム症に統合されている。手をひらひらさせるなどの常同運動はみられうるが、これはチックとは区別される。

  5. ○e.  Tourette症候群

    多彩な運動チックと1つ以上の音声チックが(同時期でなくてもよい)、初発から1年以上持続し、18歳未満で発症するチック症の最重症型である。汚言症や反響言語といった複雑性音声チックを伴うこともある。男児に多く、症状は10歳代前半頃に最も強くなり、青年期以降に軽快する例が多い。ADHDや強迫症の併存が多いことも特徴である。

チック症の分類(DSM-5)

・暫定的チック症:運動チックまたは音声チック(または両方)が1年未満。小児期によくみられ、多くは一過性に消失する。 ・持続性(慢性)運動または音声チック症:運動チックのみ、または音声チックのみが1年以上持続。 ・Tourette症:複数の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上持続。 いずれも18歳未満の発症で、物質(精神刺激薬など)や他の医学的疾患(Huntington病、ウイルス後脳炎など)によるものを除く。

Tourette症候群の病態と治療

・大脳基底核を含む皮質-線条体-視床-皮質回路の機能異常やドパミン神経伝達の過剰が想定され、遺伝的要因も関与する。 ・対応の基本は、本人・家族・学校への疾患教育と環境調整である。叱責や注意で止めさせようとすると緊張が高まり悪化しやすい。 ・行動療法として、ハビットリバーサル(チックと両立しない拮抗反応を練習する)を中心とする包括的行動介入が有効とされる。 ・生活への支障が大きい場合は薬物療法を行い、アリピプラゾールやハロペリドールなどの抗精神病薬(ドパミン受容体遮断作用をもつ)が用いられる。α2作動薬(クロニジン、グアンファシン)が選ばれることもある。 ・併存するADHD、強迫症、不安、気分の問題の評価と治療も重要である。

チックとの鑑別

・常同運動(自閉スペクトラム症など):リズミカルで前駆衝動を伴わず、幼少期から持続する。 ・ジストニア、舞踏運動、ミオクローヌス:神経疾患による不随意運動で、随意的に抑制しにくい。

POINT

・チック=突発的・急速・反復的・非律動的な運動または発声。一時的に抑制でき、前駆衝動を伴い、睡眠中は減少する。 ・Tourette症候群:多彩な運動チック+1つ以上の音声チックが1年以上持続、18歳未満発症。汚言症・反響言語もみられる。 ・ADHD、強迫症の併存が多い。 ・治療は疾患教育・環境調整、行動療法、必要に応じて抗精神病薬など。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。