筋層まで届いているか―膀胱癌の運命を分ける深達度とMRIの役割
第104回医師国家試験 D問題 第11問
国試問題にチャレンジ
膀胱腫瘍で壁内深達度の診断に有用なのはどれか。
- a.膀胱鏡検査
- b.骨盤部MRI
- c.逆行性膀胱造影
- d.骨盤部血管造影
- e.腹部超音波検査
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
膀胱癌の治療方針は、腫瘍が固有筋層に達していない筋層非浸潤性か、筋層以深に及ぶ筋層浸潤性かで大きく分かれるため、壁内深達度の評価が重要です。深達度の画像評価には、T2強調像で低信号の固有筋層の連続性を評価できる骨盤部MRIが最も有用で、拡散強調像や造影ダイナミック撮像の併用で精度が高まり、膀胱周囲脂肪や隣接臓器への進展も評価できます。膀胱鏡は腫瘍の存在と形態の観察、膀胱造影や経腹壁超音波は内腔の形や腫瘍の存在の把握、血管造影は主に出血に対する治療目的に用いられ、いずれも壁の層構造は評価できません。深達度の最終確定は固有筋層を含めたTURBT標本の病理診断で行い、MRIはTURBT前に撮影するのが望ましく、CTはリンパ節・遠隔転移・上部尿路の評価を担います。各検査が「何を見ている検査か」を区別して理解することが、膀胱癌に限らず悪性腫瘍の病期診断を組み立てる基本になります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
膀胱癌(膀胱腫瘍の大半は尿路上皮癌)の診療では、腫瘍が膀胱壁のどの層まで及んでいるか(壁内深達度、T分類)によって治療方針が大きく分かれる。その深達度評価に有用な画像検査を選ぶ問題である。
膀胱壁の構造とT分類の要点
膀胱壁は内側から、尿路上皮(粘膜上皮)→ 上皮下結合組織(粘膜固有層)→ 固有筋層(排尿筋)→ 膀胱周囲脂肪組織の順に並ぶ。 ・筋層非浸潤性膀胱癌(non-muscle invasive bladder cancer:NMIBC):Ta(乳頭状非浸潤癌)、Tis(上皮内癌)、T1(上皮下結合組織への浸潤)。 ・筋層浸潤性膀胱癌(muscle invasive bladder cancer:MIBC):T2(固有筋層への浸潤)、T3(膀胱周囲脂肪組織への浸潤)、T4(前立腺間質・子宮・腟などの周囲臓器や骨盤壁・腹壁への浸潤)。 NMIBCは経尿道的膀胱腫瘍切除術(transurethral resection of bladder tumor:TURBT)と膀胱内注入療法が中心となり、MIBCは膀胱全摘除術や集学的治療が必要となる。つまり「筋層まで達しているか」「壁外に出ているか」を見極めることが重要である。
考え方
壁の層構造を断層像として描出できる検査が深達度評価に向く。MRIは組織コントラストに優れ、T2強調像で固有筋層が低信号の帯として描出されるため、その連続性が途絶えているかどうかで筋層浸潤を推定でき、膀胱周囲脂肪への進展も評価できる。拡散強調像や造影ダイナミック撮像を組み合わせると精度がさらに上がる。これに対し、膀胱鏡・膀胱造影・血管造影・経腹壁の超音波はいずれも腫瘍の存在や内腔側の形態はとらえられても、壁の層構造を評価することはできない。 なお、深達度の最終的な確定は、TURBTで筋層を含めて切除した標本の病理診断によって行う。MRIはTURBT前の術前評価として行うのが望ましい(切除後は炎症や浮腫で評価が難しくなるため)。
選択肢考察
- ×a. 膀胱鏡検査
膀胱鏡は腫瘍の有無・数・大きさ・部位・形状を直接観察する、膀胱癌の診断に必須の検査である。乳頭状で有茎性の腫瘍なら表在性、広基性・非乳頭状(結節状)なら浸潤性を疑うといった推測はできるが、観察できるのは内腔面のみであり、壁のどの層まで浸潤しているかは判定できない。深達度の確定には生検やTURBTによる病理診断が必要である。
- ○b. 骨盤部MRI
MRIは軟部組織のコントラスト分解能が高く、T2強調像で低信号を示す固有筋層の連続性を評価して筋層浸潤の有無を推定できる。膀胱周囲脂肪組織や前立腺・子宮など隣接臓器への進展、骨盤内リンパ節腫大の評価にも有用である。拡散強調像・造影ダイナミック撮像の併用で精度が高まり、所見を5段階で評価して筋層浸潤の可能性を示すVI-RADS(Vesical Imaging-Reporting and Data System)も提唱されている。ただし粘膜固有層への浸潤(T1)の有無や筋層内の浅深(T2aとT2b)の区別は難しく、最終的な確定は病理診断による。
- ×c. 逆行性膀胱造影
尿道から造影剤を注入して膀胱を描出する検査であり、腫瘍は陰影欠損や膀胱の変形として示される。膀胱尿管逆流や膀胱の形態評価には用いられるが、壁の層構造は描出されないため深達度はわからない。かつては膀胱壁の伸展性の低下から筋層浸潤を推測する多重膀胱造影が行われたこともあるが、現在は断層画像にとって代わられている。
- ×d. 骨盤部血管造影
腫瘍への栄養血管や腫瘍濃染像をとらえることはできるが、壁内のどの層まで浸潤しているかの判定には役立たない。膀胱癌では、制御困難な出血に対する内腸骨動脈塞栓術や動注化学療法など、治療目的で行われる場面が主である。
- ×e. 腹部超音波検査
経腹壁の超音波は非侵襲的で、尿が十分にたまった状態であれば膀胱内に隆起する腫瘍の存在をとらえられるため、血尿のスクリーニングや水腎症の評価に有用である。しかし壁の層構造を正確に分離して描出することはできず、深達度の評価には不向きである。尿道から探触子を挿入する経尿道的超音波では筋層浸潤の評価がある程度可能とされたが、侵襲性があり壁外の情報も得にくいため、MRIが普及した現在ではほとんど行われない。
膀胱癌の概要
・組織型:尿路上皮癌が約90%以上を占める。まれに扁平上皮癌(慢性炎症、ビルハルツ住血吸虫症など)、腺癌(尿膜管遺残など)。 ・危険因子:喫煙(最大の危険因子)、芳香族アミン(ベンジジン、β-ナフチルアミンなど)への職業曝露、シクロホスファミド、骨盤部放射線照射など。男性に多く、高齢者に多い。 ・症状:無症候性肉眼的血尿が最も多い。上皮内癌では膀胱刺激症状(頻尿、排尿時痛)を示すことがある。
診断の流れ
1)尿検査(血尿)、尿細胞診、超音波検査 2)膀胱鏡検査で腫瘍を確認(上皮内癌の検出には狭帯域光観察や光力学診断が補助となる) 3)画像による病期評価:MRIで深達度(T)、CTで上部尿路病変・リンパ節(N)・遠隔転移(M)を評価。尿路上皮癌は多発しやすいため、腎盂・尿管の検索(CTウログラフィーなど)も行う。 4)TURBTで切除し、病理学的に組織型・異型度・深達度を確定する(固有筋層を含む切除が重要)。
治療の概略
・NMIBC:TURBT。再発・進展リスクに応じて抗癌剤またはBCG(Bacillus Calmette-Guérin)の膀胱内注入療法を追加する。上皮内癌にはBCG膀胱内注入療法が有効である。 ・MIBC(転移なし):シスプラチンを含む術前化学療法の後、膀胱全摘除術+尿路変向術(回腸導管、自排尿型新膀胱など)が標準。適応を選んでTURBT・化学療法・放射線療法による膀胱温存療法も行われる。 ・転移例:全身薬物療法(化学療法、免疫チェックポイント阻害薬など)。
POINT
・膀胱癌の治療方針は筋層浸潤の有無(NMIBCかMIBCか)で決まる。 ・深達度の画像評価にはMRIが最も有用(T2強調像で低信号の固有筋層の連続性を評価)。 ・膀胱鏡は存在診断と形態観察、深達度の確定はTURBT標本の病理診断。 ・CTはリンパ節・遠隔転移・上部尿路の評価に用いる。
