指を縫う前に何を聞く?―「最後の食事」が要らない理由から学ぶ創傷処置の基本
第104回医師国家試験 C問題 第5問
国試問題にチャレンジ
手指の切創の縫合前に確認すべき項目で重要でないのはどれか。
- a.いつ受傷したか。
- b.いつ食事をしたか。
- c.アレルギー歴はあるか。
- d.常用している薬は何か。
- e.運動機能は保たれているか。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
手指の切創の縫合は局所麻酔で行う外来処置であり、全身麻酔時に誤嚥予防のため確認する最終食事時刻は、縫合前の確認事項としては重要度が低くなります。一方、受傷時刻はゴールデンタイム(およそ6〜8時間)との関係で一次縫合の可否を左右し、アレルギー歴は局所麻酔薬・消毒薬・抗菌薬・ラテックスへの反応を避けるため、常用薬は抗血栓薬による止血困難やステロイドによる治癒遅延を予測するために欠かせません。手指では腱・神経・血管が浅く走るため、運動・感覚・血流を必ず麻酔前に評価して記録することが重要です。さらに破傷風の予防接種歴や受傷機転も確認し、使う麻酔の種類に応じて問診の優先度を判断する視点は、救急外来での創傷処置全般に役立ちます。
解答・解説
正解はbです
本問は「重要でないもの」を選ぶ問題である。手指の切創を縫合する場面を具体的に想定し、処置の方法や安全性、予後の判断に関わる情報かどうかで各項目を評価する。 手指の切創の縫合は、通常、局所麻酔(手指では指の付け根で神経を遮断する指ブロック〈オーベルスト麻酔〉や、創周囲への浸潤麻酔)で行われる外来処置である。縫合前に確認すべき事項は、大きく次の3つの観点に整理できる。
1.創の状態と処置方針の決定
受傷からの経過時間、受傷機転(鋭的か挫滅か、咬傷か)、汚染の程度など。これらは一次縫合をしてよいか、感染予防をどうするかの判断に直結する。
2.処置を安全に行うための情報
局所麻酔薬や消毒薬、抗菌薬などに対するアレルギー歴、出血傾向に影響する常用薬(抗血小板薬・抗凝固薬)、既往歴、破傷風の予防接種歴など。
3.合併損傷の評価
手指には腱、神経、血管が皮膚のすぐ下を走行しており、切創で損傷されやすい。屈筋腱・伸筋腱の損傷の有無(運動機能)、指神経損傷の有無(感覚)、末梢の血流を、麻酔をかける前に確認する。麻酔後や縫合・固定後では正確な評価ができなくなるからである。 一方、最終食事時刻は、全身麻酔や鎮静を行う際に胃内容物の嘔吐・誤嚥を防ぐために確認する項目であり、局所麻酔で行う手指の切創縫合では優先度が低い。
選択肢考察
- ×a. いつ受傷したか。
重要である。受傷から時間がたつほど創内で細菌が増殖し、縫合後の感染や創離開のリスクが高まる。一般に受傷後およそ6〜8時間以内(ゴールデンタイム、golden period)であれば、十分な洗浄・デブリドマン(壊死・汚染組織の除去)のうえで一次縫合が可能とされる。時間がたった創や汚染の強い創では、一次縫合を避けて開放創として管理したり、遅延一次縫合としたりすることを検討する。受傷時刻は処置方針を左右する基本情報である。
- ○b. いつ食事をしたか。
重要でない。最終食事時刻は、全身麻酔や深い鎮静の際に、麻酔導入時の嘔吐と胃内容物の誤嚥(誤嚥性肺炎)を防ぐために確認する項目である。手指の切創の縫合は局所麻酔下で行い、意識や気道防御反射は保たれるため、食事の時刻によって処置の可否や方法が変わることは通常ない。よって縫合前の確認事項としての重要性は低い。
- ×c. アレルギー歴はあるか。
重要である。縫合では局所麻酔薬(リドカインなど)、消毒薬(ポビドンヨード、クロルヘキシジンなど)、抗菌薬、ラテックス手袋などを使用する。これらに対するアレルギーがあると、アナフィラキシーショックなど重篤な反応を起こしうる。局所麻酔薬では薬剤そのもののほか、添加されている防腐剤に反応する場合もある。使用する薬剤や物品を選ぶために、事前のアレルギー歴の聴取は必須である。
- ×d. 常用している薬は何か。
重要である。アスピリンなどの抗血小板薬や、ワルファリン・直接経口抗凝固薬(DOAC)などの抗凝固薬を内服していると、止血しにくく、小さな創でも出血が遷延したり血腫を作ったりしやすい。ステロイドや免疫抑制薬は創傷治癒の遅延や感染リスクの増大に関わる。常用薬の確認は処置の安全性と創の経過予測に欠かせない。
- ×e. 運動機能は保たれているか。
重要である。手指の切創では、皮下の浅い位置にある屈筋腱・伸筋腱が同時に損傷されていることがある。腱が断裂していれば皮膚縫合だけでは不十分で、腱縫合など専門的な修復が必要となる。局所麻酔をかけた後や縫合して包帯・シーネで固定した後では、運動や感覚の評価が困難になり、障害が受傷によるものか処置によるものかも区別できなくなる。そのため、各指関節の自動運動(特に深指屈筋腱・浅指屈筋腱の機能を分けた評価)と、指神経領域の感覚、末梢の血流を、必ず麻酔前に確認して記録しておく。
創傷処置前の評価の流れ
①問診:受傷時刻、受傷機転(刃物・ガラス・機械・咬傷など)、受傷場所(土壌汚染の可能性)、既往歴、常用薬、アレルギー歴、破傷風の予防接種歴。 ②診察:創の部位・長さ・深さ、汚染や異物の有無、出血の状態。手指では運動(腱)、感覚(神経)、血流(色調・毛細血管再充満時間)を麻酔前に評価する。必要に応じてX線で骨折や異物を確認する。 ③処置:十分な洗浄(大量の生理食塩水や水道水による洗浄が基本)、デブリドマン、局所麻酔、縫合。
破傷風の予防
外傷処置では、汚染の程度と予防接種歴に応じて破傷風トキソイドや抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与を検討する。土壌で汚染された創や深い刺創は特に注意する。
手指の局所麻酔
指ブロック(オーベルスト麻酔)は、指の基部の両側を走る指神経を遮断する方法である。かつては指へのアドレナリン添加局所麻酔薬の使用は壊死の危険から禁忌とされていたが、現在では健常な指での使用は安全性が高いとする報告が蓄積しており、見直しが進んでいる。ただし末梢循環障害のある患者では慎重に扱う。
最終食事時刻が重要になる場面
全身麻酔や鎮静下の処置では、麻酔導入時の嘔吐・誤嚥を防ぐため、術前の絶飲食時間(固形物はおよそ6〜8時間、清澄水は2時間程度)を確認する。外傷患者で緊急手術が必要な場合は、胃内容が残っている「フルストマック」として扱う。
POINT
・手指切創の縫合は局所麻酔で行うため、最終食事時刻の確認は重要度が低い(全身麻酔時には重要)。 ・受傷時刻:ゴールデンタイム(およそ6〜8時間)を過ぎた創は感染リスクが高く、一次縫合の適否に影響する。 ・アレルギー歴:局所麻酔薬・消毒薬・抗菌薬・ラテックス。 ・常用薬:抗血小板薬・抗凝固薬(止血困難)、ステロイド(創傷治癒遅延)。 ・腱・神経・血管の損傷評価(運動・感覚・血流)は必ず麻酔前に行う。 ・破傷風の予防接種歴も確認する。
