StudyMed医師国家試験

眼は病巣をにらみ、瞳孔は危機を告げる―放置された高血圧の果ての脳出血

第104回医師国家試験 C問題 第24問

国試問題にチャレンジ

第104回 C問題 第24問

73歳の男性。突然の意識消失のため搬入された。60歳時から毎年健康診断で高血圧を指摘されていたが,医療機関を受診していなかった。意識レベルはJCSⅢ-300。脈拍64/分,整。血圧210/130 mmHg。除脳硬直,左方向への共同偏視および左瞳孔散大がみられた。  最も考えられるのはどれか。

  1. a.脳出血
  2. b.脳梗塞
  3. c.低酸素血症
  4. d.糖尿病性昏睡
  5. e.症候性てんかん

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、突然の深昏睡で運ばれてきた高齢者の原因を神経所見から絞り込む問題だ。注目したいのは、発症様式、背景にある高血圧、そして眼の所見と姿勢の異常。それぞれが脳のどこで何が起きているかを教えてくれるよ。
医学生医学生
突然発症で、長年高血圧を放置していたので、まず脳卒中を考えました。
ドクタードクター
いいね。突然の発症は血管障害を強く示唆するし、未治療の高血圧は高血圧性脳出血の最大の危険因子だ。では、左方向への共同偏視は何を意味するだろう。
医学生医学生
えっと、病巣と反対側を向くんでしたっけ。
ドクタードクター
そこはよく混乱するところだ。前頭眼野は眼球を反対側へ向ける働きをもつ。片側の大脳半球が出血や梗塞で壊れると、健側の前頭眼野が勝って、眼球は病巣側を向く。いわゆる「病巣をにらむ」状態だね。だから左向きの共同偏視は、左大脳半球の破壊性病変を示している。
医学生医学生
反対側を向くのは、てんかんのような刺激性病変のほうでしたか。
ドクタードクター
その通り。発作で興奮している側の前頭眼野が眼を反対側へ押しやる。ちなみに橋の病変では水平注視中枢が障害されて、病巣と反対側を向く。次に左瞳孔散大と除脳硬直だ。これは何を考える?
医学生医学生
神経解剖の講義で、動眼神経の外側を副交感神経線維が走っていると習いました。圧迫されるとまず瞳孔が開く……鉤ヘルニアですか。
ドクタードクター
素晴らしい。側頭葉内側の鉤がテント切痕に嵌入して、同側の動眼神経を圧迫するから左の瞳孔が散大する。さらに中脳が圧迫されると意識障害が深まり、除皮質硬直から除脳硬直へ進む。血圧が著しく高いのに脈拍が64と比較的遅いのも、頭蓋内圧亢進によるCushing現象を思わせる所見だ。
医学生医学生
まとめると、左大脳半球に大きな病変ができて、それが短時間でヘルニアを起こしている、ということですね。
ドクタードクター
そう。そして高血圧性脳出血で最も多いのは被殻出血で、病巣側への共同偏視は被殻出血の典型だ。大きな血腫が占拠効果を発揮して、発症直後から脳ヘルニアにまで進んだと考えると、すべての所見がつながる。だから最も考えられるのは脳出血になる。
医学生医学生
でも、脳梗塞でも大きければヘルニアを起こしますよね。脳神経内科の実習で、中大脳動脈の広範な梗塞の患者さんが減圧開頭術を受けたのを見ました。
ドクタードクター
鋭い指摘だ。確かに大梗塞でも脳ヘルニアは起こりうる。ただ脳浮腫がピークに達するのは通常発症後2〜4日頃で、発症直後から瞳孔散大と除脳硬直がそろうのは考えにくい。発症時から深昏睡になる梗塞は、脳底動脈閉塞などかなり限られる。急速な経過と著明な血圧上昇は、脳出血をより支持するんだ。
医学生医学生
低酸素血症や糖尿病性昏睡は、局所症状が出ないので否定できますか。
ドクタードクター
そう考えていい。どちらも脳全体がびまん性に障害される代謝性の意識障害だから、片方向への共同偏視や片側だけの瞳孔散大といった左右差は説明できない。糖尿病性昏睡は脱水で血圧がむしろ下がりやすいし、糖尿病の既往も書かれていない。高浸透圧高血糖状態で一過性の局所症状が出ることはあるけれど、例外的と考えておこう。
医学生医学生
症候性てんかんは、意識消失と共同偏視は起こりえますよね。
ドクタードクター
起こりうる。でも発作後に一側の瞳孔散大や除脳硬直が続くことはない。これらは脳幹が物理的に圧迫されているサインで、てんかんでは説明できないんだ。
医学生医学生
診断を確定するには頭部CTですね。出血なら高吸収域として見えるはずです。
ドクタードクター
その通り。CBTでもよく問われる部位別の特徴も押さえておこう。視床出血は眼球が内下方を向いて鼻先をにらみ、縮瞳する。橋出血は発症直後から深昏睡で、針先のような著明な縮瞳と四肢麻痺。小脳出血は激しいめまいと嘔吐、歩行障害が目立ち、血腫が大きければ手術を考える。皮質下出血は高齢者ではアミロイドアンギオパチーも原因になる。
医学生医学生
眼の向きと瞳孔だけで、かなり部位が絞れるんですね。
ドクタードクター
救急の現場では、CTを撮る前に眼と瞳孔を見るだけで重症度と部位の見当がつく。それに、今回の患者さんは13年も健診で高血圧を指摘されながら受診していなかった。血圧管理こそが最大の予防だということも、医師として忘れないでほしい。

まとめ

未治療の高血圧をもつ高齢者が突然深昏睡に陥り、病巣側への共同偏視を認める場合は、高血圧性脳出血、特に最も頻度の高い被殻出血をまず考えます。大脳半球の破壊性病変では眼球は病巣側を向き、てんかんなどの刺激性病変では反対側を向くという原則が、病変の左右を決める鍵になります。一側の瞳孔散大と除脳硬直は同側のテント切痕ヘルニアを、血圧上昇と相対的徐脈はCushing現象による頭蓋内圧亢進を示し、発症直後からこれらがそろう急速な経過は脳梗塞より脳出血に合致します。低酸素血症や糖尿病性昏睡などの代謝性昏睡は左右差のある局所症状を説明できず、確定診断は頭部CTで高吸収域を確認して行います。眼球偏位と瞳孔所見から病巣と重症度を読み取る力は、脳卒中の救急診療で迅速な判断を下すための基本です。

解答・解説

正解はaです

所見の整理

・73歳男性、突然の意識消失 → 発症様式が「突然」であり、脳血管障害(脳卒中)をまず考える ・13年以上指摘されながら放置していた高血圧 → 高血圧性脳出血の最大の危険因子 ・JCS(Japan Coma Scale)Ⅲ-300:痛み刺激に全く反応しない深昏睡 ・血圧210/130 mmHgと著明な高血圧、脈拍64/分と比較的徐脈 → 頭蓋内圧亢進に伴うCushing現象(血圧上昇と徐脈)を示唆 ・除脳硬直 → 中脳〜橋上部レベルの脳幹が障害されている徴候 ・左方向への共同偏視 → 左大脳半球の破壊性病変(病巣側を向く) ・左瞳孔散大 → 左動眼神経が圧迫されている(左側の鉤ヘルニア=テント切痕ヘルニア)

診断へのプロセス

未治療の高血圧を背景に、突然発症した昏睡と、共同偏視という大脳半球の巣症状がそろっており、脳出血が最も考えやすい。共同偏視が左向き(病巣をにらむ)で左瞳孔が散大していることから、病変は左大脳半球にあり、高血圧性脳出血の好発部位である左被殻出血が第一に考えられる。大きな血腫による占拠効果で脳が偏位し、左の側頭葉内側(鉤)がテント切痕に嵌入して動眼神経と中脳を圧迫した結果、瞳孔散大・除脳硬直・深昏睡に至ったと解釈できる。 脳梗塞でも大梗塞では脳ヘルニアを起こしうるが、浮腫の進行には通常数日を要し、発症直後に急速にヘルニア徴候が完成することは少ない。代謝性の意識障害やてんかんでは、共同偏視・一側の瞳孔散大・除脳硬直という局所神経症状と脳ヘルニア徴候の組み合わせを説明できない。確定には頭部CT(出血は高吸収域として描出される)を行う。 なお、JCSⅢ-300は痛み刺激に全く反応しない状態であり、痛み刺激で除脳硬直肢位をとるならⅢ-200相当と評価するのが一般的である。問題文の記載にはやや不整合があるが、深昏睡であることに変わりはなく、診断には影響しない。

選択肢考察

  1. ○a.  脳出血

    長年未治療の高血圧、突然の意識障害、著明な血圧上昇、病巣側への共同偏視という典型像がそろう。左向きの共同偏視と左瞳孔散大から左大脳半球(特に被殻)の出血と考えられ、血腫の占拠効果による左鉤ヘルニアで動眼神経と脳幹が圧迫され、除脳硬直と深昏睡に至ったと説明できる。発症直後から急速に脳ヘルニアへ進む経過も脳出血に合致する。

  2. ×b.  脳梗塞

    脳梗塞で発症時から深昏睡となるのは、脳底動脈閉塞などの脳幹梗塞か、内頸動脈・中大脳動脈起始部閉塞による広範な大脳半球梗塞に限られる。大梗塞でも脳浮腫がピークに達して脳ヘルニアをきたすのは通常発症後2〜4日頃であり、発症直後に瞳孔散大・除脳硬直がそろう経過は考えにくい。未治療高血圧と著明な血圧上昇も脳出血をより支持する。

  3. ×c.  低酸素血症

    低酸素血症による意識障害は脳全体がびまん性に障害されるため、一方向への共同偏視や一側だけの瞳孔散大といった左右差のある局所症状を説明できない。また210/130 mmHgもの著明な血圧上昇も説明しにくい。

  4. ×d.  糖尿病性昏睡

    糖尿病ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖状態による昏睡は代謝性・びまん性の脳機能障害であり、共同偏視や瞳孔不同などの巣症状は通常みられない(高浸透圧高血糖状態では一過性の局所症状を呈することがあるが例外的)。また著しい脱水を伴い、血圧は低下傾向となることが多く、本例の高度な高血圧とは合わない。糖尿病の既往も記載されていない。

  5. ×e.  症候性てんかん

    てんかん発作では、焦点と反対側を向く共同偏視と意識消失は起こりうる(右大脳の発作性興奮なら左を向く)。しかし発作後に一側の瞳孔散大や除脳硬直が持続することはなく、これらは脳ヘルニアによる脳幹圧迫を示す所見である。著明な血圧上昇も含め、てんかんでは説明できない。

高血圧性脳出血の好発部位と特徴

・被殻出血(約40%で最多):病巣側への共同偏視、対側の片麻痺・感覚障害、優位半球なら失語 ・視床出血(約30%):内下方への眼球偏位(鼻先をにらむ)、対側の感覚障害・片麻痺、縮瞳 ・皮質下出血:部位に応じた巣症状。高齢者ではアミロイドアンギオパチーも原因となる ・橋出血:発症直後からの深昏睡、著明な縮瞳(pinpoint pupil)、四肢麻痺、眼球正中固定 ・小脳出血:激しい回転性めまい・嘔吐・歩行障害、病巣と反対側への共同偏視。血腫が大きければ手術適応

共同偏視の向き

前頭葉眼球運動野(前頭眼野)は眼球を反対側へ向ける働きをもつ。したがって、大脳半球の破壊性病変(出血・梗塞)では健側の前頭眼野が優位となり眼球は病巣側を向く(病巣をにらむ)。一方、てんかん発作などの刺激性病変では眼球は病巣と反対側を向く。橋の病変では水平注視中枢(傍正中橋網様体)の障害により病巣と反対側を向く。

テント切痕ヘルニア(鉤ヘルニア)の徴候

側頭葉内側の鉤がテント切痕に嵌入し、同側の動眼神経(外側を走る副交感神経線維が先に障害される)を圧迫して同側の瞳孔散大・対光反射消失をきたす。さらに中脳が圧迫されると意識障害の進行、除皮質硬直から除脳硬直、呼吸パターンの異常へと進む。

Cushing現象

頭蓋内圧が上昇すると脳灌流圧を保とうとして血圧が上昇し、反射性に徐脈となる(呼吸異常を加えてCushing三徴)。脳ヘルニアが切迫していることを示す。

JCSⅢ桁

Ⅲ-100:痛み刺激に対し払いのけるような動作をする Ⅲ-200:痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる(除脳・除皮質肢位を含む) Ⅲ-300:痛み刺激に全く反応しない

POINT

・未治療高血圧の高齢者の突然の意識障害+共同偏視 → 高血圧性脳出血(被殻出血が最多) ・大脳半球の破壊性病変では眼球は病巣側を向き、刺激性病変(てんかん)では反対側を向く ・一側の瞳孔散大+除脳硬直 → 同側のテント切痕ヘルニア ・血圧上昇+徐脈はCushing現象で頭蓋内圧亢進を示す ・発症直後から急速に脳ヘルニアへ進むのは脳梗塞より脳出血の特徴 ・確定診断は頭部CTで高吸収域を確認する

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。