StudyMed医師国家試験

肝脾腫と反り返る赤ちゃん―骨髄の「ちりめん紙」が明かすGaucher病

第104回医師国家試験 A問題 第45問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第45問

 8か月の乳児。発達の遅れを主訴に来院した。4か月健診で肝・脾の腫大を指摘され経過観察されていた。2か月前から全身の筋緊張亢進が著明になった。首はすわっているが,寝返りとお座りとはできない。身長64.1 cm(-2.3 SD),体重6.9 kg(-2.2 SD)。顔貌に異常を認めない。腹部は膨隆し,右肋骨弓下に肝を5 cm,左肋骨弓下に脾を7 cm触知する。  診断に有用なのはどれか。

  1. a.脳波
  2. b.筋電図
  3. c.骨髄像
  4. d.腹部CT
  5. e.血中乳酸値

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、乳児の発達の遅れを入り口に、背景にある病気を想定して有用な検査を選ぶ問題だ。注目してほしいのは、早くから続いて大きくなっていく肝脾腫と、後から加わった神経症状の組み合わせ。この2つを1つの病態で説明できるかがカギになる。
医学生医学生
寝返りもお座りもできないので運動発達の遅れはありますね。肝脾腫というと、まず白血病や感染症を思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
自然な発想だね。ただ、白血病や重い感染症なら発熱、貧血、出血傾向などを伴うことが多い。今回はそうした記載がなく、何か月もかけて肝脾腫がじわじわ進み、そこに筋緊張亢進が加わっている。慢性に進む「臓器の腫大」と「中枢神経の障害」を同時に起こすものといえば?
医学生医学生
分解できない物質がたまっていく先天代謝異常、ライソゾーム病でしょうか。
ドクタードクター
その通り。ライソゾームの分解酵素が先天的に欠けていて、本来分解されるべき物質を取り込んだマクロファージが肝臓・脾臓・骨髄にたまるから臓器が腫れる。神経細胞にもたまれば神経症状が出る。では、ライソゾーム病の中でもどれを考えるかな。
医学生医学生
小児科の講義では、ムコ多糖症のガーゴイル様顔貌の写真が印象に残っています。
ドクタードクター
いい手がかりだね。今回は顔貌に異常がないから、Hurler症候群などのムコ多糖症や乳児型GM1ガングリオシドーシスは考えにくい。顔貌が正常で、乳児期に肝脾腫と神経症状を示すものとしては、Gaucher病2型とNiemann-Pick病A型が主な候補になる。
医学生医学生
その2つはどう見分けるんですか。
ドクタードクター
筋緊張に注目しよう。Gaucher病2型は急性神経型と呼ばれ、生後数か月で著明な脾腫とともに、後弓反張、斜視、嚥下障害などの球症状、痙性が急速に進む。一方、Niemann-Pick病A型は当初むしろ筋緊張が低下していることが多く、網膜のcherry red spotが特徴だ。筋緊張亢進が目立つ今回はGaucher病2型が最も考えやすい。
医学生医学生
どちらにしても、まず蓄積している細胞を見つければいいということですか。
ドクタードクター
まさにそれが答えだ。骨髄穿刺で骨髄像をみると、蓄積細胞を直接確認できる。Gaucher病ではグルコセレブロシドをため込んだGaucher細胞が出てくる。細胞質がしわくちゃの薄紙、いわゆるちりめん紙のような線状の模様を示すのが特徴だ。Niemann-Pick病なら細かい空胞で泡立ったように見える泡沫細胞になる。
医学生医学生
血液内科の実習で骨髄スメアを見せてもらったことがありますが、そういう細胞は見たことがないです。
ドクタードクター
まれな疾患だからね。でも国試レベルでは「ちりめん紙」と「泡沫」の対比は押さえておきたい。なお骨髄像は病型を絞る手段で、確定診断は白血球や培養皮膚線維芽細胞でのグルコセレブロシダーゼ活性の低下と遺伝子解析で行う。
医学生医学生
脳波は、神経症状があるので役立ちそうな気もしたのですが。
ドクタードクター
神経型ライソゾーム病ではけいれんを起こすこともあり、その評価に脳波を使う場面はある。ただ異常所見は非特異的で、肝脾腫の原因までは突き止められない。筋電図も、筋力低下が筋原性か神経原性かを見分ける検査だから、中枢神経の障害による筋緊張亢進や肝脾腫の診断にはつながらない。
医学生医学生
腹部CTは肝脾腫の評価になりませんか。
ドクタードクター
肝脾腫の大きさは確認できるけれど、触診で明らかな情報に大きく上乗せするものはなく、原因の特定にはつながらない。乳児では被曝や鎮静の負担も考える必要がある。血中乳酸値は、ミトコンドリア病や糖原病Ⅰ型、ピルビン酸代謝異常などを疑うときの手がかりで、今回の病像とは方向が違う。
医学生医学生
「肝脾腫と神経症状の組み合わせから蓄積症を想定し、蓄積細胞を直接見る」という流れですね。
ドクタードクター
その通り。発展として、Gaucher病は病型を整理しておこう。1型は神経症状のない非神経型で最も多く、肝脾腫、貧血・血小板減少、Erlenmeyerフラスコ変形などの骨病変が出る。3型は2型より緩やかに神経症状が進む。検査では酒石酸抵抗性酸ホスファターゼやACE、キトトリオシダーゼの上昇も参考になる。
医学生医学生
治療には酵素補充療法がありましたよね。
ドクタードクター
イミグルセラーゼなどの酵素補充療法や、エリグルスタットによる基質合成抑制療法があり、肝脾腫や血球減少、骨病変には有効だ。ただ酵素は血液脳関門を通過しないから、神経症状への効果は限られる。2型は急速に進行し、多くは幼児期までに亡くなる重い病型で、家族への説明や遺伝カウンセリングも大切になる。

まとめ

乳児期から続く肝脾腫に進行性の神経症状が加われば、分解されない物質が細胞内に蓄積するライソゾーム病を考えます。顔貌異常がなく筋緊張亢進や後弓反張、球症状が目立てばGaucher病2型、筋緊張低下とcherry red spotがあればNiemann-Pick病A型が候補です。診断の第一歩は骨髄像で、ちりめん紙様の細胞質をもつGaucher細胞や泡沫細胞を確認し、酵素活性測定と遺伝子解析で確定します。脳波・筋電図・腹部CTは非特異的で、血中乳酸値はミトコンドリア病などを想定する検査です。酵素補充療法は内臓病変には有効でも神経症状には効きにくいことも含め、「症状の組み合わせから病態を想定し、それを直接示す検査を選ぶ」という考え方を身につけておきましょう。

解答・解説

正解はcです

※この問題は、厚生労働省の発表により採点対象から除外されています。

所見の整理

・8か月の乳児で、主訴は発達の遅れである。定頸(首のすわり)はあるが、寝返りとお座りができない。通常、寝返りは5〜6か月、お座りは7か月前後で可能になるため、運動発達の遅れがある。 ・4か月健診で既に肝脾腫を指摘され、8か月の現在は肝を右肋骨弓下に5 cm、脾を左肋骨弓下に7 cm触知する。乳児期早期から続き、増大している著明な肝脾腫である。 ・2か月前(生後6か月頃)から全身の筋緊張亢進が目立つようになった。一度獲得しつつあった発達が進まず、神経症状が進行性に出現していると読める。 ・身長・体重ともに−2 SD以下で、発育不良がある。 ・顔貌に異常はない。 ・発熱、出血傾向、黄疸などの記載はない。

診断へのプロセス

乳児期早期から持続・増大する肝脾腫に、進行する神経症状(発達の停滞と筋緊張亢進)が加わっている。感染症や白血病などの血液悪性腫瘍では発熱・貧血・出血傾向などを伴うことが多く、本症例の経過には合いにくい。肝脾腫と中枢神経症状の両方を説明するのは、分解されない物質が細胞内に蓄積する先天代謝異常、特にライソゾーム病(リピドーシスなど)である。 顔貌に異常がない点から、粗な顔貌(ガーゴイル様顔貌)を示すムコ多糖症(Hurler症候群など)や乳児型GM1ガングリオシドーシスは考えにくい。肝脾腫+中枢神経症状を示す乳児のライソゾーム病としては、Gaucher病2型(急性神経型)とNiemann-Pick病A型が主な候補となる。 ・Gaucher病2型:生後数か月以内に肝脾腫(特に脾腫が著明)で発症し、後弓反張や頸部の後屈、斜視、嚥下障害・喘鳴などの球症状、痙性(筋緊張亢進)が急速に進行する。けいれんを伴うことも多い。 ・Niemann-Pick病A型:乳児期に肝脾腫と哺乳不良・発育不良で発症し、当初は筋緊張低下を示すことが多い。網膜のcherry red spot(桜実紅斑)がみられる。 本症例は筋緊張亢進が目立つためGaucher病2型が最も考えやすいが、いずれにしても鑑別の第一歩は骨髄穿刺で蓄積細胞(Gaucher細胞や泡沫細胞)を確認することであり、そのうえで酵素活性測定により確定する。

設問の考え方

選択肢の中で、蓄積症に特徴的な形態学的所見を直接得られる検査は骨髄像のみである。他の検査は所見が非特異的か、別の疾患群を想定した検査である。

採点除外について

本問は採点対象から除外された。検査を問う前提として、乳児の肝脾腫+神経症状からGaucher病2型などのライソゾーム病を想起し、さらに病型ごとの臨床像まで踏まえる必要があり、受験者に求める水準を超えて難度が高すぎると判断されたと考えられる。出題意図としての正解は骨髄像(c)とされている。

選択肢考察

  1. ×a.  脳波

    診断に有用とはいえない。Gaucher病2型などの神経型ライソゾーム病ではけいれんを起こすことがあり、その評価に脳波を用いることはある。しかし、脳波の異常は非特異的で、肝脾腫の原因となる疾患を特定することはできない。本症例ではけいれんの記載もない。

  2. ×b.  筋電図

    有用でない。筋電図は、筋力低下の原因が筋そのもの(筋原性)か末梢神経・運動ニューロン(神経原性)かを見分けるための検査である。本症例の筋緊張亢進は中枢神経障害によるもので、筋電図でライソゾーム病を診断することはできない。また肝脾腫の説明にもつながらない。

  3. ○c.  骨髄像

    診断に有用である。ライソゾーム病では、分解できない物質をため込んだマクロファージ(蓄積細胞)が骨髄・肝・脾に集まる。Gaucher病では、グルコセレブロシドを蓄積し、細胞質が「しわくちゃの薄紙(ちりめん紙)」のような線状の模様を示すGaucher細胞がみられる。Niemann-Pick病ではスフィンゴミエリンなどを蓄積した、細かい空胞で泡立ったように見える泡沫細胞(Niemann-Pick細胞)がみられる。骨髄穿刺は蓄積症を形態学的に示し、病型を絞り込む手段となる。確定診断は、白血球や培養皮膚線維芽細胞での酵素活性測定と遺伝子解析で行う。

  4. ×d.  腹部CT

    診断に有用とはいえない。腹部CTでは肝臓と脾臓の腫大が確認できる程度で、すでに触診で明らかな肝脾腫の情報に大きなものを加えない。脾臓内に結節性病変がみられることもあるが、原因疾患の特定にはつながらない。乳児への放射線被曝や鎮静の負担も考慮すべきである。

  5. ×e.  血中乳酸値

    有用でない。血中乳酸(およびピルビン酸)の上昇は、ミトコンドリア病(Leigh脳症など)や糖原病Ⅰ型、ピルビン酸代謝異常などの手がかりとなる検査である。本症例の著明な肝脾腫と進行する神経症状はライソゾーム病を示唆するもので、乳酸値の測定では診断に至らない。

ライソゾーム病(リピドーシスを含む)

ライソゾーム(細胞内で物質を分解する小器官)の酵素が先天的に欠損し、分解されない物質が細胞内に蓄積する疾患群である。多くは常染色体潜性(劣性)遺伝である(Fabry病やHunter症候群はX連鎖性)。

Gaucher病

・欠損酵素:グルコセレブロシダーゼ(酸性β-グルコシダーゼ)。蓄積物質:グルコセレブロシド(グルコシルセラミド)。 ・1型(非神経型):最も多い。肝脾腫、貧血・血小板減少、骨病変(骨痛、Erlenmeyerフラスコ変形、病的骨折)。神経症状はない。 ・2型(急性神経型):乳児期早期に発症。肝脾腫に加え、後弓反張、斜視、牙関緊急、嚥下障害などの球症状、痙性が急速に進行し、多くは2〜3歳までに死亡する。 ・3型(亜急性神経型):2型より緩徐に神経症状(眼球運動障害、けいれん、ミオクローヌスなど)が進行する。 ・検査:骨髄のGaucher細胞、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ(TRACP)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)、キトトリオシダーゼの上昇。確定は白血球・線維芽細胞での酵素活性低下と遺伝子(GBA1)解析。 ・治療:酵素補充療法(イミグルセラーゼなど)や基質合成抑制療法(エリグルスタット)。肝脾腫や血球減少、骨病変には有効だが、酵素が血液脳関門を通過しないため神経症状への効果は限られる。

Niemann-Pick病

・A型・B型:酸性スフィンゴミエリナーゼの欠損により、スフィンゴミエリンが蓄積する。A型は乳児期に肝脾腫と重い神経症状で発症し、cherry red spotを伴い、通常幼児期早期に死亡する。B型は神経症状に乏しく、肝脾腫と間質性肺疾患が中心となる。非神経症状に対しては酵素補充療法(オリプダーゼ アルファ)が使えるようになっている。 ・C型:NPC1/NPC2遺伝子異常によるコレステロールの細胞内輸送障害で、酵素欠損症ではない。新生児胆汁うっ滞や脾腫、小児期以降の核上性垂直性注視麻痺、失調、カタプレキシーなどを示す。

cherry red spot(桜実紅斑)を示す主な疾患

Tay-Sachs病、Sandhoff病、GM1ガングリオシドーシス、Niemann-Pick病A型、シアリドーシスなど。網膜神経節細胞に物質が蓄積して黄斑周囲が白濁し、中心窩の赤色が際立つ。Gaucher病では通常みられない。

肝脾腫+神経症状の乳児で考える疾患の見分け方

・顔貌異常あり:ムコ多糖症(Hurler症候群など)、GM1ガングリオシドーシス、I-cell病。 ・顔貌異常なし・筋緊張亢進:Gaucher病2型。 ・顔貌異常なし・筋緊張低下+cherry red spot:Niemann-Pick病A型。 ・肝脾腫を伴わず、cherry red spot+聴覚過敏:Tay-Sachs病。

POINT

・乳児の肝脾腫+進行する神経症状 → ライソゾーム病(リピドーシス)を考える。 ・肝脾腫+顔貌異常なし+筋緊張亢進(後弓反張・球症状)→ Gaucher病2型。 ・骨髄像:Gaucher病ではちりめん紙様の細胞質をもつGaucher細胞、Niemann-Pick病では泡沫細胞。 ・確定診断は白血球・線維芽細胞での酵素活性(Gaucher病はグルコセレブロシダーゼ)測定。 ・酵素補充療法は神経症状には効きにくい(血液脳関門を通過しない)。 ・本問は採点対象から除外された(出題意図の正解は骨髄像)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。