つるりと盛り上がる胃の隆起―表面の「顔つき」で見抜く胃粘膜下腫瘍
第104回医師国家試験 A問題 第22問
国試問題にチャレンジ
64歳の男性。上腹部の不快感を主訴に来院した。血液所見:赤血球385万,Hb 10.6 g/dL,Ht 32%,白血球8,600,血小板24万。免疫学所見:CRP 0.2 mg/dL,CEA 3.5 ng/dL(基準5以下)。上部消化管造影写真を別に示す。 最も考えられるのはどれか。

- a.胃憩室
- b.胃ポリープ
- c.胃粘膜下腫瘍
- d.胃癌
- e.胃巨大皺襞症
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
胃の隆起性病変は、表面の性状と立ち上がり方で上皮性か非上皮性かを見分けるのが第一歩です。表面平滑でなだらかに立ち上がり、正常粘膜に覆われた隆起は粘膜下腫瘍を示し、架橋ひだやdelleは補助所見となります。一方、ポリープや隆起型胃癌は表面に凹凸や模様を伴い急峻に立ち上がり、胃憩室は胃外へのバリウム突出像、胃巨大皺襞症はひだのびまん性肥厚として描出されます。胃粘膜下腫瘍で最多のGISTはKIT(CD117)・DOG1陽性で、通常の生検では診断が難しいためEUSやEUS-FNAで精査し、大きさや悪性所見に応じて経過観察か切除を選び、進行・再発例にはイマチニブを用います。CEA正常でも癌は否定できず、画像所見から病変の発生層を推定する考え方は内視鏡診療全般の基礎になります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・64歳男性、上腹部不快感という非特異的な症状 ・Hb 10.6 g/dL、Ht 32%と軽度の貧血(平均赤血球容積 MCV = Ht/赤血球数 ×10 ≒ 83 fLで正球性〜やや小球性寄り)。白血球・血小板・CRPは正常範囲 ・CEA(癌胎児性抗原)は基準範囲内 ・上部消化管造影(二重造影像): 胃上部に、内腔へ突出する類円形の隆起性病変を認める。表面は平滑で凹凸がなく、隆起の立ち上がりはなだらかで境界明瞭である。
診断のプロセス
症状も血液検査も診断を絞り込む決め手にはならず、画像所見から判断する問題である。 隆起性病変をみたら、まず病変が粘膜(上皮)由来か、粘膜より深い層(粘膜下層・固有筋層)由来かを考える。上皮性病変(ポリープ、隆起型胃癌)は、病変の表面が上皮そのものなので、表面に凹凸や模様がみられ、立ち上がりが急峻(くびれや段差を伴う)になりやすい。これに対し粘膜下腫瘍は、正常粘膜に覆われた腫瘍が下から押し上げる形になるため、表面平滑で周囲粘膜と連続した、なだらかな立ち上がりを示す。周囲のひだが腫瘤上にかかる架橋ひだ(bridging fold)や、頂部の潰瘍によるくぼみ(delle)もよくみられる所見である。 本例は表面平滑で比較的大型の類円形隆起であり、胃粘膜下腫瘍が最も考えられる。軽度の貧血は、頂部のびらん・潰瘍からの慢性的な出血を反映している可能性がある。胃粘膜下腫瘍で最も多いのは消化管間質腫瘍(GIST: gastrointestinal stromal tumor)である。
選択肢考察
- ×a. 胃憩室
誤り。胃憩室は胃壁の一部が外側へ袋状に突出したもので、造影では胃の輪郭の外側にバリウムがたまる像(突出像)として描出される。噴門部・穹窿部の後壁に多い。本例は内腔側へ盛り上がる隆起性病変(透亮像・陰影欠損)であり、方向が逆である。
- ×b. 胃ポリープ
誤り。胃ポリープは上皮性の隆起で、日常診療では胃底腺ポリープと過形成性ポリープが大部分を占める。胃底腺ポリープは数mm大の多発小隆起、過形成性ポリープは発赤調で表面に凹凸(分葉状・顆粒状)を伴い、有茎性・亜有茎性のことが多い。本例のように大型で表面が平滑、なだらかに立ち上がる隆起はポリープとしては非典型的である。なお2 cmを超える過形成性ポリープでは癌の併存に注意が必要とされる。
- ○c. 胃粘膜下腫瘍
正解。正常粘膜に覆われた腫瘍が粘膜下から内腔へ押し出すため、表面平滑で境界明瞭、周囲粘膜から連続するなだらかな立ち上がりの隆起となる。本例の造影像はこの特徴に合致する。架橋ひだ(bridging fold)や頂部の潰瘍(delle)は本例でははっきりしないが、これらがなくても表面平滑で立ち上がりのなだらかな隆起であれば粘膜下腫瘍と判断できる。頻度はGISTが最も多く、ほかに平滑筋腫、神経鞘腫、脂肪腫、異所性膵、神経内分泌腫瘍、悪性リンパ腫などがある。
- ×d. 胃癌
誤り。胃癌は上皮(粘膜)から発生するため、隆起型(0-I型、1型など)であっても表面に凹凸・結節・不整な陥凹を伴い、立ち上がりは急峻になることが多い。本例のように表面全体が平滑な隆起は胃癌としては非典型的である。CEAが基準範囲内であることも矛盾しないが、CEAは早期癌では上昇しないことが多く、除外の根拠にはならない。
- ×e. 胃巨大皺襞症
誤り。胃巨大皺襞症は胃体部の大弯を中心に粘膜ひだが脳回状に著しく肥厚する病態で、代表はMénétrier病(蛋白漏出による低アルブミン血症・浮腫を伴う)である。造影では太く蛇行したひだが多数みられる。本例は限局した類円形の隆起であり、ひだの著明な肥厚はみられない。
隆起性病変の見分け方
・上皮性(ポリープ、隆起型胃癌): 表面に凹凸・模様があり、立ち上がりは急峻。有茎性・亜有茎性のこともある。 ・非上皮性(粘膜下腫瘍): 表面平滑、正常粘膜で覆われ、なだらかな立ち上がり。bridging fold、頂部の潰瘍(delle)を伴うことがある。
GIST(消化管間質腫瘍)
・消化管の固有筋層にあるCajal介在細胞(消化管運動のペースメーカー細胞)に由来する間葉系腫瘍。胃が約60〜70%と最も多く、次いで小腸に多い。 ・KIT遺伝子またはPDGFRA遺伝子の機能獲得型変異が発生に関与し、免疫染色でKIT(CD117)、DOG1、CD34が陽性となる。平滑筋腫(デスミン陽性)や神経鞘腫(S-100蛋白陽性)との鑑別に用いる。 ・症状は乏しいことが多く、頂部潰瘍からの出血(吐下血、貧血)で見つかることがある。 ・悪性度は腫瘍径と核分裂像数で評価する。日本のガイドラインでは、2 cm未満で潰瘍・辺縁不整・増大などの悪性所見がなければ経過観察、2〜5 cmでは超音波内視鏡下穿刺吸引生検(EUS-FNA)などで精査し手術を考慮、5 cm以上または悪性所見を伴うものは手術適応とされる。 ・治療は完全切除(リンパ節転移はまれで、系統的郭清は原則不要)。切除不能・転移例や再発高リスク例の術後補助療法には、チロシンキナーゼ阻害薬イマチニブを用いる。
粘膜下腫瘍の精査
通常の内視鏡下生検では粘膜しか採れず、腫瘍組織が得られないことが多い。超音波内視鏡(EUS)で発生層・内部性状を評価し、EUS-FNAで組織を採取して診断する。
POINT
・表面平滑で立ち上がりがなだらかな隆起 → 胃粘膜下腫瘍。bridging fold、delle は補助所見。 ・表面の凹凸・急峻な立ち上がり → 上皮性病変(ポリープ、癌)。 ・胃憩室は胃外へのバリウム突出像、胃巨大皺襞症(Ménétrier病)は著明なひだ肥厚。 ・胃粘膜下腫瘍で最多はGIST(KIT/CD117、DOG1陽性)。5 cm以上や悪性所見があれば手術、進行・再発にはイマチニブ。
