「口が開かない」「口蓋垂が傾く」―扁桃の外へ広がった炎症を見抜く2つのサイン
第104回医師国家試験 A問題 第14問
国試問題にチャレンジ
急性扁桃炎と扁桃周囲膿瘍との鑑別に有用な所見はどれか。2つ選べ。
- a.膿栓
- b.開口障害
- c.口蓋垂偏位
- d.口蓋扁桃腫大
- e.頸部リンパ節腫大
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎の炎症が扁桃被膜を越えて扁桃周囲間隙に膿瘍をつくったもので、ほとんどが片側性です。発熱・咽頭痛・扁桃腫大・膿栓・頸部リンパ節腫大は両者に共通しうるため鑑別には役立たず、炎症が扁桃の外へ広がったことを示す開口障害(内側翼突筋への波及)と、患側軟口蓋の膨隆による口蓋垂の健側偏位が鑑別の決め手となります。含み声や流涎、片側の強い咽頭痛・耳への放散痛も膿瘍を示唆し、診断は試験穿刺や造影CTで行い、治療は穿刺・切開排膿と抗菌薬が基本です。深頸部膿瘍や縦隔炎、気道狭窄へ進展しうるため、咽頭痛の診察では開口の可否と左右差を必ず確認する習慣が、見逃しを防ぐ第一歩になります。
解答・解説
正解はb, cです
テーマ
急性扁桃炎は、口蓋扁桃そのものに起こる急性の細菌・ウイルス感染である。扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎の炎症が扁桃の被膜を越えて外側に広がり、扁桃被膜と咽頭収縮筋の間(扁桃周囲間隙)に膿がたまった状態である。多くは急性扁桃炎に続いて起こり、20〜30歳代に多く、ほとんどが片側性である。
正解を導く考え方
扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎から移行するため、発熱、強い咽頭痛、嚥下痛、扁桃の発赤・腫大、膿栓、頸部リンパ節腫大といった所見は両者に共通してみられることが多い。したがって、これらは両者を見分ける決め手にならない。 鑑別に役立つのは、炎症が扁桃の外へ広がったことを示す所見である。 ・膿瘍の炎症が周囲の咀嚼筋(内側翼突筋)に及ぶことで起こる開口障害 ・膿瘍が軟口蓋を片側から押し出すことで起こる、患側の軟口蓋の膨隆と口蓋垂の健側への偏位 このほか、含み声(口の中に物を含んだような声)、流涎、片側に強い咽頭痛・耳への放散痛なども扁桃周囲膿瘍を示唆する。
選択肢考察
- ×a. 膿栓
膿栓は扁桃の陰窩(表面のくぼみ)に白血球や剥がれた上皮、細菌などがたまって、扁桃表面に白〜黄色の斑点として見えるものである。急性扁桃炎(特に陰窩性扁桃炎)の代表的所見であり、扁桃周囲膿瘍も急性扁桃炎に続いて起こるため同様にみられうる。両者に共通しうる所見なので、鑑別には役立たない。
- ○b. 開口障害
扁桃周囲間隙の外側には内側翼突筋などの咀嚼筋がある。膿瘍の炎症がこれらの筋に波及すると、筋の攣縮と痛みのために口が開けにくくなる(開口障害、牙関緊急)。炎症が扁桃内にとどまる急性扁桃炎では通常みられないため、扁桃周囲膿瘍への進展を示す重要な所見である。高度になると経口摂取ができなくなり、口腔内の診察や処置も難しくなる。
- ○c. 口蓋垂偏位
扁桃周囲膿瘍の多くは扁桃の上極(前上方)にでき、患側の軟口蓋(前口蓋弓の上方)を前内側へ押し出して膨隆させる。その結果、口蓋垂は膿瘍に押されて健側へ偏位する。扁桃周囲膿瘍はほぼ片側に生じるため、この左右非対称性は特徴的であり、両側の扁桃が同様に腫れる急性扁桃炎との鑑別に有用である。
- ×d. 口蓋扁桃腫大
急性扁桃炎では扁桃が発赤・腫大し、扁桃周囲膿瘍でも患側の扁桃は腫大して前内方へ押し出される。また、慢性的な扁桃肥大は炎症がなくても小児などでよくみられる。どちらの疾患でも起こりうる所見のため、鑑別の決め手にはならない。
- ×e. 頸部リンパ節腫大
咽頭の感染では所属リンパ節である上内深頸リンパ節(顎二腹筋の下あたり)などが腫れ、圧痛を伴う。急性扁桃炎、扁桃周囲膿瘍のいずれでもしばしばみられるため、鑑別には役立たない。
扁桃周囲膿瘍の診断
視診で患側の軟口蓋の膨隆と口蓋垂の偏位を確認し、膨隆部を試験穿刺して膿が引ければ診断が確定する。膿瘍の範囲や深部への広がりの評価には造影CTが有用である。扁桃周囲に炎症が広がっているが膿がたまっていない段階は扁桃周囲炎と呼ぶ。
治療
・膿瘍の穿刺排膿または切開排膿が基本である。 ・抗菌薬の点滴静注(原因菌はA群β溶血性連鎖球菌などのレンサ球菌や嫌気性菌が多く、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系やクリンダマイシンなどが用いられる)。 ・再発を繰り返す例では、口蓋扁桃摘出術を行う。
重症化・合併症
膿瘍が副咽頭間隙へ広がると深頸部膿瘍となり、さらに縦隔へ下行すると降下性壊死性縦隔炎という致死的な病態を起こしうる。咽頭・喉頭の浮腫による気道狭窄にも注意が必要である。
咽頭痛を訴えて注意すべき疾患
急性喉頭蓋炎は、咽頭の所見が乏しいのに強い咽頭痛・嚥下痛があり、急速に気道閉塞をきたしうる。扁桃周囲膿瘍とともに、見逃してはならない咽頭痛の原因である。
POINT
・扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎に続発し、ほぼ片側性に起こる。 ・鑑別に有用なのは、開口障害(牙関緊急)と、患側軟口蓋の膨隆・口蓋垂の健側偏位、含み声である。 ・膿栓、扁桃腫大、頸部リンパ節腫大は両者に共通しうる。 ・治療は穿刺・切開排膿と抗菌薬。深頸部膿瘍・縦隔炎への進展に注意する。
