StudyMed医師国家試験

「口が開かない」「口蓋垂が傾く」―扁桃の外へ広がった炎症を見抜く2つのサイン

第104回医師国家試験 A問題 第14問

国試問題にチャレンジ

第104回 A問題 第14問

急性扁桃炎と扁桃周囲膿瘍との鑑別に有用な所見はどれか。2つ選べ。

  1. a.膿栓
  2. b.開口障害
  3. c.口蓋垂偏位
  4. d.口蓋扁桃腫大
  5. e.頸部リンパ節腫大

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、のどの痛みを訴える患者さんで、急性扁桃炎と扁桃周囲膿瘍をどう見分けるかという問題だ。着眼点は「両方に共通する所見」と「炎症が扁桃の外に広がったときにだけ出る所見」を分けて考えること。まず、両者の関係から整理しておこうか。
医学生医学生
扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎がこじれてできるものですよね。
ドクタードクター
その通り。急性扁桃炎は口蓋扁桃そのものの感染だけど、炎症が扁桃の被膜を越えて外側に広がり、被膜と咽頭収縮筋の間、つまり扁桃周囲間隙に膿がたまると扁桃周囲膿瘍になる。20〜30歳代に多く、ほとんどが片側性だ。
医学生医学生
もともと扁桃炎から移行するなら、扁桃炎の所見はそのまま残っていることが多いんですね。
ドクタードクター
まさにそこがポイント。発熱、強い咽頭痛、扁桃の発赤・腫大、膿栓、頸部リンパ節腫大は両方でみられうる。だから「扁桃炎らしい所見」をいくら集めても鑑別の決め手にはならないんだ。
医学生医学生
膿栓があると重症っぽく見えて、つい膿瘍を疑いたくなってしまいます。
ドクタードクター
その気持ちはわかるけど、膿栓は扁桃表面のくぼみ、陰窩に白血球や剥がれた上皮、細菌がたまって白〜黄色の斑点に見えるもの。扁桃炎の代表的所見で、膿瘍の有無とは別の話なんだ。口蓋扁桃の腫大も同じで、扁桃炎でも膿瘍でも腫れるし、小児なら炎症がなくても大きいことがよくある。
医学生医学生
頸部リンパ節腫大も、所属リンパ節が反応しているだけなら両方で起こりますね。耳鼻科の実習で、顎の角の下を触って圧痛を確認するよう教わりました。
ドクタードクター
いい経験だね。顎二腹筋の下あたりの上内深頸リンパ節がよく腫れるけど、これも鑑別には使えない。では、膿瘍で初めて出てくる所見は何だと思う?
医学生医学生
炎症が外に広がるなら、周りの筋肉に影響が出そうです。口が開けにくくなる、とか。
ドクタードクター
正解。扁桃周囲間隙のすぐ外側には内側翼突筋という咀嚼筋がある。炎症がここに波及すると筋が攣縮し、痛みも加わって口が開かなくなる。これが開口障害、牙関緊急とも呼ばれる所見だ。炎症が扁桃内にとどまる急性扁桃炎では通常みられないから、膿瘍への進展を示す重要なサインになる。
医学生医学生
内側翼突筋は口を閉じる筋肉ですよね。開口障害なのに閉口筋が関係するのが少し不思議です。
ドクタードクター
鋭い疑問だね。閉口筋が炎症で縮こまって緩まないから、結果として口が開かない、と考えればいい。解剖学実習で見た翼突筋の位置を思い出すとイメージしやすいよ。もう一つの鑑別所見は口蓋垂の偏位だ。
医学生医学生
膿瘍は片側にできるから、その膿で軟口蓋が押されて口蓋垂が反対側に傾く、ということですか。
ドクタードクター
その通り。膿瘍の多くは扁桃の上極、前上方にできて、患側の軟口蓋を前内側に押し出して膨隆させる。そのため口蓋垂は健側へ偏位する。両側の扁桃が同じように腫れる急性扁桃炎ではこの左右非対称は出にくいから、のどを見たときに「左右差」を探すのが大切なんだ。
医学生医学生
開口障害と口蓋垂偏位は、どちらも「炎症が扁桃の外に出た」ことの証拠という点で共通していますね。
ドクタードクター
そう、そう整理しておくと忘れない。ほかにも、口に物を含んだような含み声、唾液が飲み込めずに出る流涎、片側に強い咽頭痛や耳への放散痛も膿瘍を示唆する。診断は膨隆部を試験穿刺して膿が引ければ確定で、膿瘍の広がりは造影CTで評価する。膿がまだたまっていない段階は扁桃周囲炎と呼ぶよ。
医学生医学生
治療は抗菌薬だけでは不十分なんでしょうか。
ドクタードクター
膿がたまっていれば穿刺排膿や切開排膿が基本で、抗菌薬の点滴を併用する。原因はA群β溶血性連鎖球菌などのレンサ球菌や嫌気性菌が多いので、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系やクリンダマイシンなどが使われる。再発を繰り返す人には口蓋扁桃摘出術を考える。
医学生医学生
救急外来で「ただののど風邪」と思って帰してしまうと危ないケースもありそうですね。
ドクタードクター
本当にそう。膿瘍が副咽頭間隙に広がると深頸部膿瘍、さらに縦隔に下りれば降下性壊死性縦隔炎という命に関わる状態になりうるし、浮腫による気道狭窄も怖い。それから、咽頭所見が乏しいのに強い咽頭痛や嚥下痛がある場合は急性喉頭蓋炎も忘れずに。のどの痛みでは「口が開くか」「左右差はないか」「息は苦しくないか」を必ず確認しよう。

まとめ

扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎の炎症が扁桃被膜を越えて扁桃周囲間隙に膿瘍をつくったもので、ほとんどが片側性です。発熱・咽頭痛・扁桃腫大・膿栓・頸部リンパ節腫大は両者に共通しうるため鑑別には役立たず、炎症が扁桃の外へ広がったことを示す開口障害(内側翼突筋への波及)と、患側軟口蓋の膨隆による口蓋垂の健側偏位が鑑別の決め手となります。含み声や流涎、片側の強い咽頭痛・耳への放散痛も膿瘍を示唆し、診断は試験穿刺や造影CTで行い、治療は穿刺・切開排膿と抗菌薬が基本です。深頸部膿瘍や縦隔炎、気道狭窄へ進展しうるため、咽頭痛の診察では開口の可否と左右差を必ず確認する習慣が、見逃しを防ぐ第一歩になります。

解答・解説

正解はb, cです

テーマ

急性扁桃炎は、口蓋扁桃そのものに起こる急性の細菌・ウイルス感染である。扁桃周囲膿瘍は、急性扁桃炎の炎症が扁桃の被膜を越えて外側に広がり、扁桃被膜と咽頭収縮筋の間(扁桃周囲間隙)に膿がたまった状態である。多くは急性扁桃炎に続いて起こり、20〜30歳代に多く、ほとんどが片側性である。

正解を導く考え方

扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎から移行するため、発熱、強い咽頭痛、嚥下痛、扁桃の発赤・腫大、膿栓、頸部リンパ節腫大といった所見は両者に共通してみられることが多い。したがって、これらは両者を見分ける決め手にならない。 鑑別に役立つのは、炎症が扁桃の外へ広がったことを示す所見である。 ・膿瘍の炎症が周囲の咀嚼筋(内側翼突筋)に及ぶことで起こる開口障害 ・膿瘍が軟口蓋を片側から押し出すことで起こる、患側の軟口蓋の膨隆と口蓋垂の健側への偏位 このほか、含み声(口の中に物を含んだような声)、流涎、片側に強い咽頭痛・耳への放散痛なども扁桃周囲膿瘍を示唆する。

選択肢考察

  1. ×a.  膿栓

    膿栓は扁桃の陰窩(表面のくぼみ)に白血球や剥がれた上皮、細菌などがたまって、扁桃表面に白〜黄色の斑点として見えるものである。急性扁桃炎(特に陰窩性扁桃炎)の代表的所見であり、扁桃周囲膿瘍も急性扁桃炎に続いて起こるため同様にみられうる。両者に共通しうる所見なので、鑑別には役立たない。

  2. ○b.  開口障害

    扁桃周囲間隙の外側には内側翼突筋などの咀嚼筋がある。膿瘍の炎症がこれらの筋に波及すると、筋の攣縮と痛みのために口が開けにくくなる(開口障害、牙関緊急)。炎症が扁桃内にとどまる急性扁桃炎では通常みられないため、扁桃周囲膿瘍への進展を示す重要な所見である。高度になると経口摂取ができなくなり、口腔内の診察や処置も難しくなる。

  3. ○c.  口蓋垂偏位

    扁桃周囲膿瘍の多くは扁桃の上極(前上方)にでき、患側の軟口蓋(前口蓋弓の上方)を前内側へ押し出して膨隆させる。その結果、口蓋垂は膿瘍に押されて健側へ偏位する。扁桃周囲膿瘍はほぼ片側に生じるため、この左右非対称性は特徴的であり、両側の扁桃が同様に腫れる急性扁桃炎との鑑別に有用である。

  4. ×d.  口蓋扁桃腫大

    急性扁桃炎では扁桃が発赤・腫大し、扁桃周囲膿瘍でも患側の扁桃は腫大して前内方へ押し出される。また、慢性的な扁桃肥大は炎症がなくても小児などでよくみられる。どちらの疾患でも起こりうる所見のため、鑑別の決め手にはならない。

  5. ×e.  頸部リンパ節腫大

    咽頭の感染では所属リンパ節である上内深頸リンパ節(顎二腹筋の下あたり)などが腫れ、圧痛を伴う。急性扁桃炎、扁桃周囲膿瘍のいずれでもしばしばみられるため、鑑別には役立たない。

扁桃周囲膿瘍の診断

視診で患側の軟口蓋の膨隆と口蓋垂の偏位を確認し、膨隆部を試験穿刺して膿が引ければ診断が確定する。膿瘍の範囲や深部への広がりの評価には造影CTが有用である。扁桃周囲に炎症が広がっているが膿がたまっていない段階は扁桃周囲炎と呼ぶ。

治療

・膿瘍の穿刺排膿または切開排膿が基本である。 ・抗菌薬の点滴静注(原因菌はA群β溶血性連鎖球菌などのレンサ球菌や嫌気性菌が多く、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系やクリンダマイシンなどが用いられる)。 ・再発を繰り返す例では、口蓋扁桃摘出術を行う。

重症化・合併症

膿瘍が副咽頭間隙へ広がると深頸部膿瘍となり、さらに縦隔へ下行すると降下性壊死性縦隔炎という致死的な病態を起こしうる。咽頭・喉頭の浮腫による気道狭窄にも注意が必要である。

咽頭痛を訴えて注意すべき疾患

急性喉頭蓋炎は、咽頭の所見が乏しいのに強い咽頭痛・嚥下痛があり、急速に気道閉塞をきたしうる。扁桃周囲膿瘍とともに、見逃してはならない咽頭痛の原因である。

POINT

・扁桃周囲膿瘍は急性扁桃炎に続発し、ほぼ片側性に起こる。 ・鑑別に有用なのは、開口障害(牙関緊急)と、患側軟口蓋の膨隆・口蓋垂の健側偏位、含み声である。 ・膿栓、扁桃腫大、頸部リンパ節腫大は両者に共通しうる。 ・治療は穿刺・切開排膿と抗菌薬。深頸部膿瘍・縦隔炎への進展に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。