「落ち着きがない」の正体を見極める―ADHDの三主徴と誤解されやすいポイント
第103回医師国家試験 I問題 第23問
国試問題にチャレンジ
注意欠陥多動性障害〈ADHD〉で正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.女性に多い。
- b.知的能力障害〈精神遅滞〉は認めない。
- c.10歳前後で発症する。
- d.衝動的行動を認める。
- e.学業成績には影響しない。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
注意欠陥多動性障害(ADHD、現在のDSM-5-TRでは注意欠如多動症)は、不注意・多動性・衝動性を三主徴とする神経発達症であり、衝動的行動は中核症状の一つです。小児期は男児に多く、症状は幼児期から存在し、診断には12歳以前(出題当時の基準では7歳未満)から症状があることが求められるため、10歳前後に新たに発症する疾患ではありません。知的能力障害を本態とするものではなく知能は通常正常ですが、注意や行動抑制の障害のために学業や社会生活に支障をきたし、限局性学習症などの併存も多くみられます。治療は環境調整やペアレントトレーニングなどの心理社会的治療を基本に、メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシンなどの薬物療法を組み合わせます。疫学・発症時期・知能・症状・生活への影響を軸に整理しておくことで、他の神経発達症との鑑別や、成人期まで見据えた支援の考え方にもつなげられます。
解答・解説
正解はb, dです
ADHD(注意欠陥多動性障害の英語略称)は、現在のDSM-5-TR(米国精神医学会の診断基準)では「注意欠如多動症(注意欠如・多動性障害)」と呼ばれ、神経発達症(発達障害)の一つに位置づけられている。中核症状は次の3つである。 ・不注意:集中が続かない、ケアレスミスが多い、忘れ物・なくし物が多い、話を聞いていないようにみえる。 ・多動性:じっと座っていられない、そわそわする、しゃべりすぎる。 ・衝動性:順番を待てない、質問が終わる前に答えてしまう、他人の会話や遊びに割り込む。 診断には、これらの症状が発達水準に不相応な程度で6か月以上持続し、幼少期(DSM-5以降は12歳以前、旧DSM-IVでは7歳以前)から存在し、家庭と学校など2つ以上の場面でみられ、社会生活や学業に明らかな支障をきたしていることが必要である。 本問では、ADHDの「疫学(性差)」「知的能力との関係」「発症時期」「症状」「学業への影響」の基本事項を問うている。ADHDは男児に多く、幼児期から症状があり、知的能力障害によるものではなく、衝動性を中核症状にもち、学業にも影響する、という骨格を押さえれば正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ×a. 女性に多い。
ADHDは男児に多い。小児期の男女比はおおむね2:1程度とされ、臨床受診例ではさらに男児の比率が高く(3〜5倍とする報告もある)なる。女児では多動・衝動性よりも不注意が前面に出るタイプが比較的多く、目立ちにくいため見逃されやすいことも、臨床例での男児優位を強める一因と考えられている。女性に多いという記述は誤りである。
- ○b. 知的能力障害〈精神遅滞〉は認めない。
ADHDは不注意・多動性・衝動性を基本とする行動面の発達障害であり、全般的な知能の低下を本態とする疾患ではない。多くの患者の知能は正常範囲にあり、学業や生活上の困難は知能の低さではなく、注意の持続や行動の抑制の障害によって生じる。また診断上も、症状がその子の精神年齢(知的水準)から予想される程度を超えていることが必要であり、知的能力障害そのものによる落ち着きのなさとは区別される。なお、知的能力障害とADHDが併存する例もありうるが、ADHDという疾患の特徴としては「知的能力障害は認めない」とするのが本問の趣旨である。
- ×c. 10歳前後で発症する。
ADHDの症状は幼児期から認められ、多くは就学前〜小学校低学年のころに、集団生活の中で落ち着きのなさや不注意として気づかれる。本問出題当時の診断基準(DSM-IV)では「7歳未満に症状が存在すること」が要件であった。現在のDSM-5-TRでは「12歳になる前から症状のいくつかが存在していた」に緩和されているが、これは後から振り返って幼少期の症状を確認しやすくするための変更であり、10歳前後で新たに発症する疾患という意味ではない。
- ○d. 衝動的行動を認める。
衝動性は不注意・多動性と並ぶADHDの中核症状である。質問が終わる前に答えてしまう、順番を待てない、他人の会話やゲームに割り込む、危険を顧みずに行動してしまう、などの形で現れる。DSM-5-TRでは多動性と衝動性をまとめて一つの症状群(多動性・衝動性)として扱い、不注意と組み合わせて「混合して存在」「不注意優勢に存在」「多動・衝動優勢に存在」の3つの病型に分ける。
- ×e. 学業成績には影響しない。
ADHDでは、授業に集中し続けられない、指示を聞き漏らす、課題を最後までやり遂げられない、忘れ物が多い、ケアレスミスが多い、などのため、知能に見合った学業成績を上げられないことが多い。学業や社会生活への支障があることは診断基準の要件そのものでもある。また限局性学習症(学習障害)を併存することも少なくない。学業成績に影響しないという記述は誤りである。
疫学
・有病率は小児で約5%、成人で約2.5%とされる(DSM-5-TRの記載)。 ・小児期は男児に多い。成人になると性差は小さくなる。 ・多動性は成長とともに目立たなくなることが多いが、不注意は成人期まで持続しやすい。成人期に初めて診断される例もある。
病因
・遺伝要因の関与が大きく、一卵性双生児での一致率が高い(遺伝率は70〜80%程度と推定される)。 ・前頭前野を中心とした実行機能(計画・抑制・注意の制御)の障害や、ドパミン・ノルアドレナリン系の機能異常が想定されている。画像研究では前頭前部の代謝や容積の変化が報告されている。 ・低出生体重、早産、胎内でのアルコールや喫煙への曝露などの環境要因も危険因子として挙げられている。
併存症
・限局性学習症(読み・書き・計算の困難)、自閉スペクトラム症、チック症、反抗挑発症・素行症、不安症、抑うつなどを併存しやすい。 ・DSM-5以降は自閉スペクトラム症との併存診断が認められるようになった。
治療
・環境調整(刺激の少ない席配置、指示を短く具体的にする、視覚的なスケジュール提示など)、保護者へのペアレントトレーニング、本人へのソーシャルスキルトレーニングなどの心理社会的治療が基本となる。 ・薬物療法:中枢刺激薬のメチルフェニデート徐放錠、リスデキサンフェタミン、非中枢刺激薬のアトモキセチン(選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、グアンファシン(α2A受容体作動薬)などが用いられる。
ほかの神経発達症との比較
・知的能力障害:全般的な知的機能と適応機能の障害。 ・自閉スペクトラム症(かつての広汎性発達障害、自閉症、Asperger障害などを統合した概念):対人的相互反応・コミュニケーションの障害と、限定された反復的な行動・興味が特徴。知能は正常のこともある。 ・ADHD:不注意・多動性・衝動性が特徴で、知能は通常正常である。
POINT
・ADHDの三主徴は不注意・多動性・衝動性である。 ・男児に多い。 ・幼児期から症状があり、診断基準では12歳以前(旧DSM-IVでは7歳未満)に症状が存在することが必要である。 ・知的能力障害を本態とするものではなく、知能は通常正常である。 ・学業・社会生活に支障をきたし、学習障害などの併存も多い。 ・治療は環境調整・心理社会的治療と薬物療法(メチルフェニデート、アトモキセチン、グアンファシン、リスデキサンフェタミン)。
