そのカリウム高値、本当に患者の値?―溶血が生む「偽性高カリウム血症」の落とし穴
第103回医師国家試験 G問題 第37問
国試問題にチャレンジ
採血時の溶血によって検査値が最も影響を受けるのはどれか。
- a.ヘモグロビン
- b.尿素窒素
- c.カリウム
- d.総蛋白
- e.FDP
対話形式の解説
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ドクターまとめ
採血時の溶血では、赤血球内に血清よりはるかに高濃度で存在する成分ほど測定値が見かけ上上昇します。カリウムは赤血球内濃度が血清の20倍以上あるため、わずかな溶血でも偽性高カリウム血症を生じ、選択肢の中で最も影響を受けます。尿素窒素は細胞内外でほぼ等濃度、総蛋白は通常の溶血では影響が軽微、FDPは赤血球内成分ではなく、ヘモグロビンはもともと検体を溶血させて測定するため影響をほとんど受けません。溶血ではLDやASTなども上昇し、駆血の長時間化や検体放置、白血球・血小板増多なども偽性高カリウム血症の原因となります。異常値を見たら検体の質を疑い、心電図や臨床像と照らして再検する姿勢は、誤診や不要な治療を防ぐ基本です。
解答・解説
正解はcです
採血時に細い針で強く吸引する、駆血を長く続ける、採血管へ勢いよく注入する、検体を激しく振るなどの操作を行うと、赤血球が壊れて内容物が血清(血漿)中に漏れ出す。これを溶血という。溶血した検体では、赤血球内の濃度が血清中の濃度より大幅に高い成分ほど、測定値が見かけ上高くなる(偽高値)。
考え方
溶血の影響の大きさは、「赤血球内濃度 ÷ 血清中濃度」の比でおおよそ判断できる。 ・比が非常に大きい成分:LD(乳酸脱水素酵素)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、カリウム、酸性ホスファターゼ、マグネシウム、鉄など → 溶血で大きく上昇する。 ・比が1前後の成分(細胞膜を自由に通過して内外で濃度がほぼ等しいもの):尿素窒素、グルコースなど → 溶血の影響は小さい。 ・血清中の方が多い成分:アルブミン、ナトリウムなど → 溶血でむしろわずかに希釈される程度で、影響は小さい。 カリウムは細胞内の主要な陽イオンで、赤血球内濃度は約100 mEq/L程度と、血清中(基準値 3.5〜5.0 mEq/L程度)の20倍以上に達する。そのため、わずかな溶血でも血清カリウム値が上昇し、高カリウム血症と誤認される危険がある。日常診療で最も問題となる代表的な溶血の影響である。
選択肢考察
- ×a. ヘモグロビン
血液検査でのヘモグロビン濃度は、抗凝固薬入りの全血を試薬で溶血させ、赤血球内のヘモグロビンをすべて溶液中に出したうえで測定する。すなわち測定過程そのものが溶血を前提としており、採血時に溶血が起こっても全血中のヘモグロビン総量は変わらないため、測定値はほとんど影響を受けない。
- ×b. 尿素窒素
尿素は小さな非電解質分子で細胞膜を自由に通過するため、赤血球内と血漿中の濃度はほぼ等しい。したがって、赤血球が壊れて内容物が漏れ出しても血清中の濃度はほとんど変化せず、溶血の影響は小さい。
- ○c. カリウム
カリウムは赤血球内に血清中の20倍以上の高濃度で存在するため、溶血によって赤血球内のカリウムが血清中へ流出すると、測定値が見かけ上上昇する(偽性高カリウム血症)。軽度の溶血でも臨床的に意味のある上昇を示しうるため、選択肢の中で最も影響を受ける。溶血検体で高カリウム値が出た場合は、心電図所見や臨床症状と照らし合わせ、再採血して確認する必要がある。
- ×d. 総蛋白
総蛋白は血清中に約6.5〜8.0 g/dL存在し、アルブミンとグロブリンが主体である。赤血球の主な蛋白質はヘモグロビンであり、高度の溶血ではその分だけわずかに値が上がることはあるが、通常みられる程度の溶血で漏れ出す量は血清総蛋白に比べて小さく、影響は軽微である。
- ×e. FDP
FDP(フィブリン・フィブリノゲン分解産物)は、フィブリンやフィブリノゲンがプラスミンによって分解されてできる物質で、線溶(血栓を溶かす仕組み)の亢進を反映する。赤血球内に含まれる成分ではないため、溶血によって値が大きく変化することはない。凝固・線溶系の検査では、溶血よりも、抗凝固薬(クエン酸ナトリウム)と血液の比率を正しく保つこと(規定量まで採血すること)や、採血中に凝固が起こらないようにすることが重要である。
偽性高カリウム血症の主な原因
・採血時・検体処理時の溶血 ・駆血帯を長時間巻く、採血中に手を強く握ったり開いたりさせる(クレンチング):筋細胞からカリウムが流出する ・検体の長時間放置や冷蔵保存:赤血球膜のNa+/K+-ATPaseの働きが低下し、カリウムが血球外へ漏出する ・著明な白血球増多・血小板増多:血清を得る際の凝固過程で血球からカリウムが放出される(この場合はヘパリン加血漿で測定すると正常となる) ・点滴側の腕からの採血やEDTA-2K入り採血管からの混入
溶血で上昇しやすい主な項目
LD、AST、カリウム、酸性ホスファターゼ、マグネシウム、鉄など。なかでもLDは赤血球内濃度が血清の百数十倍に及び、溶血の影響を最も強く受ける項目の一つである。
溶血の見分け方
溶血検体は遠心後の血清が赤色調を呈する。自動分析装置では溶血指数(ヘモグロビン量の目安)を測定し、一定以上の溶血がある場合はコメントを付けたり再採血を依頼したりする。
生体内溶血との区別
採血操作による溶血(試験管内溶血)と、溶血性貧血などで体内で起こる溶血(生体内溶血)は区別して考える。生体内溶血では、血清中の遊離ヘモグロビン上昇に加えて、ハプトグロビン低下、間接ビリルビン上昇、網赤血球増加などの所見を伴う。
POINT
・溶血の影響は「赤血球内濃度が血清中より高い成分」ほど大きい ・代表はカリウム、LD、AST(ほかに酸性ホスファターゼ、Mg、Feなど) ・赤血球内カリウム濃度は血清の20倍以上で、溶血で偽性高カリウム血症を生じる ・尿素窒素やグルコースは細胞内外でほぼ等濃度のため影響が小さい ・ヘモグロビン測定は検体を溶血させて行うため、採血時の溶血の影響を受けにくい
