「妊娠を守るホルモン」で解く―プロゲステロンの作用をエストロゲンとの対比で整理する
第103回医師国家試験 G問題 第28問
国試問題にチャレンジ
プロゲステロンの作用で正しいのはどれか。
- a.卵胞刺激
- b.子宮筋収縮
- c.子宮頸管熟化
- d.子宮頸管粘液増加
- e.子宮内膜脱落膜化
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
プロゲステロンは排卵後の黄体、妊娠中はやがて胎盤から分泌され、「妊娠の準備と維持」を担うホルモンです。代表的な作用は子宮内膜の分泌期化・脱落膜化で、エストロゲンで増殖した内膜間質細胞を脱落膜細胞へ分化させ、着床と妊娠維持の場を整えます。そのほか子宮筋の弛緩、頸管粘液の減少・粘稠化、基礎体温の上昇も重要で、子宮収縮はオキシトシン・プロスタグランジン、頸管熟化はプロスタグランジン、頸管粘液増加はエストロゲン、卵胞刺激はFSHの作用です。エストロゲンとの拮抗関係で整理すると、経口避妊薬や子宮内膜症治療、切迫早産予防などの臨床応用も理解しやすくなります。
解答・解説
正解はeです
女性ホルモンのうち、プロゲステロン(黄体ホルモン)の作用を問う問題である。
プロゲステロンの分泌源
プロゲステロンは、排卵後に卵胞が変化してできる黄体から主に分泌される。妊娠が成立すると、はじめは妊娠黄体が、妊娠7〜10週ごろからは胎盤が主な産生源となる(黄体・胎盤シフト)。
プロゲステロンの役割をひとことで言うと「妊娠の準備と維持」
・子宮内膜:エストロゲンで厚くなった増殖期内膜を分泌期内膜に変え、さらに間質細胞を脱落膜細胞へ分化させて(脱落膜化)、受精卵が着床しやすい環境をつくる。 ・子宮筋:オキシトシンへの反応性を下げ、収縮を抑えて妊娠を維持する。 ・子宮頸管:頸管粘液を減少させて粘稠にし、精子や微生物の通過を妨げる。頸管の熟化も抑える。 ・その他:体温中枢に作用して基礎体温を約0.3〜0.5℃上昇させる(高温相)、乳腺の腺房(乳汁をつくる小葉部分)の発育を促す。
エストロゲンとの対比
多くの作用はエストロゲンと拮抗的に働く。例えば頸管粘液では、エストロゲンが増量・水様化させるのに対し、プロゲステロンは減少・粘稠化させる。子宮筋でも、エストロゲンがオキシトシン受容体を増やして収縮しやすくするのに対し、プロゲステロンは弛緩させる。この対比で整理すると、各選択肢の正誤が判断しやすい。
選択肢考察
- ×a. 卵胞刺激
卵胞の発育を促すのは、下垂体前葉から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)である。FSHは顆粒膜細胞に作用して卵胞を発育させ、アロマターゼを誘導してエストロゲン産生を高める。プロゲステロンは視床下部・下垂体へのネガティブフィードバックによって、むしろゴナドトロピン分泌を抑える方向に働く(この性質は経口避妊薬の排卵抑制に利用されている)。
- ×b. 子宮筋収縮
子宮筋を収縮させるのは、オキシトシンやプロスタグランジン(PGF2α、PGE2)である。プロゲステロンは子宮筋の興奮性を下げ、オキシトシンへの反応性を低下させることで子宮を静かに保ち、妊娠を維持する。反対の作用なので誤り。切迫早産予防に黄体ホルモン製剤が用いられることがあるのも、この子宮収縮抑制作用に基づく。
- ×c. 子宮頸管熟化
子宮頸管熟化とは、分娩に向けて頸管が軟化・短縮・開大しやすくなる変化で、頸管の結合組織(コラーゲン線維)の再構築による。これを促すのは主にプロスタグランジン(PGE2など)であり、分娩誘発の際の頸管熟化にもPGE2製剤が用いられる。プロゲステロンは妊娠中、頸管熟化を抑えて頸管を閉じた状態に保つ役割をもつので誤りである。
- ×d. 子宮頸管粘液増加
頸管粘液を増量させるのはエストロゲンである。排卵期にはエストロゲンの作用で頸管粘液が増え、水様透明になり、よく糸を引く(牽糸性の亢進)。乾燥させると羊歯状結晶がみられ、精子が頸管を通過しやすくなる。排卵後はプロゲステロンにより粘液は減少・粘稠化し、牽糸性も羊歯状結晶も消失して、精子が通りにくくなる。したがってプロゲステロンの作用とは逆であり誤り。
- ○e. 子宮内膜脱落膜化
脱落膜化とは、エストロゲンで増殖した子宮内膜の間質細胞が、プロゲステロンの作用を受けて、グリコーゲンや脂質を蓄えた大型の多角形細胞(脱落膜細胞)に分化する変化である。脱落膜は胚の着床と、絨毛の過剰な侵入の制御、母体の免疫寛容などに関わり、妊娠の成立と維持に欠かせない。月経周期の分泌期後半から始まり、妊娠が成立するとさらに進行する。これはプロゲステロンの代表的な作用である。
エストロゲンとプロゲステロンの主な作用の比較
子宮内膜:エストロゲン=増殖、プロゲステロン=分泌期化・脱落膜化 子宮筋:エストロゲン=オキシトシン受容体増加・収縮しやすくする、プロゲステロン=弛緩・収縮抑制 頸管粘液:エストロゲン=増量・水様・牽糸性↑・羊歯状結晶(+)、プロゲステロン=減少・粘稠・牽糸性↓・羊歯状結晶(−) 基礎体温:プロゲステロンが上昇させる(二相性の高温相) 乳腺:エストロゲン=乳管の発育、プロゲステロン=腺房(小葉)の発育 腟上皮:エストロゲン=角化・成熟
分娩開始と各ホルモン
分娩が近づくと、子宮筋のプロゲステロン作用が機能的に低下し(ヒトでは血中濃度より受容体レベルの変化が関与するとされる)、エストロゲンの作用が優位になる。オキシトシン受容体やギャップ結合が増え、プロスタグランジン産生が高まって頸管熟化と陣痛が進む。
プロゲステロン作用の臨床応用
・経口避妊薬(エストロゲン・プロゲスチン配合):排卵抑制、頸管粘液の粘稠化、内膜の着床阻害。 ・子宮内膜症:ジエノゲストなどのプロゲスチン製剤が、異所性内膜を脱落膜化させたのち萎縮させる作用を利用して用いられる。 ・子宮内膜増殖症・子宮体癌(妊孕性温存を目指す若年者の高分化型早期例):高用量の黄体ホルモン療法。 ・黄体機能不全、生殖補助医療での黄体補充。
POINT
・プロゲステロンは黄体(妊娠中は後に胎盤)から分泌され、妊娠の成立・維持に働く。 ・子宮内膜の分泌期化・脱落膜化はプロゲステロンの作用。 ・子宮筋弛緩、頸管粘液の減少・粘稠化、基礎体温上昇もプロゲステロン。 ・頸管粘液増加(牽糸性↑)はエストロゲン、子宮収縮はオキシトシン・PG、頸管熟化はPG、卵胞刺激はFSH。
