StudyMed医師国家試験

退院はゴールではなくバトンパス―要支援の脳梗塞患者を「地域」へつなぐ

第103回医師国家試験 E問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第43問

75歳の女性。回復期リハビリテーション病院に入院中である。10年前から糖尿病と高血圧症とで診療所に通院していた。1か月前に左片麻痺が出現し脳外科病院に搬送され,脳梗塞の診断で1週間の入院後,転院となった。入院中,状態が安定したため,市役所に介護保険制度に基づく要介護・要支援認定申請が行われ,要支援の認定を受けた。現在の血圧は130/88mmHg。空腹時血糖122mg/dL,HbA1c 5.9%。  退院させるに当たり,担当医として行うべきことはどれか。2つ選べ。

  1. a.介護老人保健施設への入所申請
  2. b.介護老人福祉施設への入所申請
  3. c.地域包括支援センターへの情報提供
  4. d.糖尿病専門外来担当医への紹介状作成
  5. e.通院していた診療所医師への診療情報提供書作成

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、脳梗塞のリハビリを終えて退院する患者さんに、担当医として何をすべきかを問う問題だ。病気の診断ではなく、退院後の生活を支える仕組みを考える。カギは「要支援」という認定結果と、もともとの慢性疾患を誰が診ていたか、の2点だよ。
医学生医学生
脳梗塞のあとで片麻痺もあるので、施設に入ってもらうほうが安心かなと最初は思いました。
ドクタードクター
家族の気持ちとしてはわかるけど、制度上それが可能かをまず確認しよう。介護保険の認定は、軽い順に要支援1・2、要介護1〜5と分かれている。要支援というのは、日常生活は概ね自立しているけれど、一部に支援が必要な状態という判断なんだ。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習いました。要支援だと予防給付、要介護だと介護給付になるんでしたっけ。
ドクタードクター
よく覚えているね。そして予防給付では、介護保険施設には入所できない。介護老人保健施設、いわゆる老健は、医学的管理のもとでリハビリをして在宅復帰を目指す中間施設で、入所できるのは要介護1以上。介護老人福祉施設、つまり特別養護老人ホームは、常時介護が必要で在宅生活が難しい人の生活の場で、現在は新規入所が原則要介護3以上だ。
医学生医学生
ということは、どちらの施設への入所申請も、この方には当てはまらないんですね。
ドクタードクター
その通り。要支援と認定されたということは、在宅で生活していける状態だと判断されたということでもある。では、自宅に帰る人のために、介護面では誰とつながる必要があるかな。
医学生医学生
ケアマネジャーさんでしょうか。
ドクタードクター
要介護の人なら居宅介護支援事業所のケアマネジャーがケアプランを作るけれど、要支援の人の介護予防ケアプランは、原則として地域包括支援センターが作成する。市町村が設置していて、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員が配置されている高齢者支援の拠点だ。だから地域包括支援センターへの情報提供が一つ目の正解になる。
医学生医学生
麻痺の程度やADL、服薬の内容などを伝えておけば、通所リハなどのサービスが退院後すぐに始められるわけですね。
ドクタードクター
そう。情報が途切れると、せっかく回復期で取り戻した機能が自宅で落ちてしまうこともある。では、医療面ではどうだろう。この方は10年来の糖尿病と高血圧症がある。
医学生医学生
血糖のコントロールはむしろ良いように見えます。それでも脳梗塞を起こしたので、糖尿病専門医にしっかり診てもらうべきかと迷いました。
ドクタードクター
迷うのはわかるよ。でも現時点で空腹時血糖もHbA1cも良好な範囲にあり、専門医でなければ管理できない状況ではない。専門外来への紹介は、コントロールが悪化したときや合併症の精査が必要なときに検討すればいい。大事なのは、脳梗塞の再発予防として血圧・血糖の管理と抗血栓薬などの内服を継続していくことで、それを担うのは長年診てきた地域の診療所の医師が一番ふさわしい。
医学生医学生
だから、通院していた診療所の先生への診療情報提供書が二つ目の正解なんですね。
ドクタードクター
その通り。入院中の診断、治療内容、処方、リハビリの到達度、今後の管理目標を書いて引き継ぐ。地域医療の実習で、かかりつけ医の先生が病院からの手紙を読みながら外来をしているのを見たことはないかな。
医学生医学生
あります。「この情報があるから安心して薬を続けられる」とおっしゃっていました。逆に紹介状がないと、どの薬を変えたのか分からなくて困ると。
ドクタードクター
まさにそこが現場の実感だね。整理すると、退院時には医療の情報はかかりつけ医へ、生活と介護の情報は地域包括支援センターやケアマネジャーへ、という2本立てで引き継ぐ。急性期病院、回復期リハビリテーション病院、そして在宅という流れの中で、担当医はその橋渡し役になるわけだ。
医学生医学生
回復期リハビリテーション病棟には入院期間の上限もあったと思います。
ドクタードクター
脳血管疾患では原則150日、高次脳機能障害を伴う重症例などでは180日が上限だ。だからこそ、入院中から退院後の生活を見据えて準備を進めておく必要がある。地域包括支援センターは介護予防だけでなく、総合相談や虐待防止などの権利擁護も担っていて、地域包括ケアシステムの中核だということも覚えておこう。
医学生医学生
病気を治すだけでなく、患者さんが地域で暮らし続けられるように手配するのも医師の仕事なんですね。
ドクタードクター
そう。高齢者医療では特に、退院はゴールではなく次の担い手へのバトンパスだと考えてほしい。

まとめ

脳梗塞の回復期を終えて要支援と認定された高齢者の退院では、医療と介護の両面で情報を引き継ぐことが担当医の役割です。要支援者の介護予防ケアプランは地域包括支援センターが作成するため同センターへの情報提供が必要であり、再発予防のための糖尿病・高血圧症の管理はもともとのかかりつけ医に診療情報提供書で引き継ぎます。要支援者は介護保険施設に入所できず、老健は要介護1以上、特養の新規入所は原則要介護3以上が対象です。また、コントロール良好な慢性疾患はかかりつけ医で継続管理するのが基本で、専門医紹介は悪化時や合併症精査時に検討します。介護保険の区分と各機関の役割を理解しておくことは、地域包括ケアの中で患者の生活を支える医師にとって欠かせない知識です。

解答・解説

正解はc, eです

状況の整理

・75歳の女性。脳梗塞(左片麻痺)の急性期治療を脳外科病院で受けた後、回復期リハビリテーション病院に転院し、状態は安定している。 ・介護保険の認定結果は「要支援」であり、日常生活は概ね自立しているが、一部に支援が必要な状態と判断されている。 ・10年来の糖尿病と高血圧症は、もともと地域の診療所で管理されていた。現在は空腹時血糖122mg/dL、HbA1c 5.9%と血糖コントロールは良好で、血圧130/88mmHgも大きく外れてはいない。

設問の考え方

退院にあたって担当医に求められるのは、患者が住み慣れた地域・自宅で安全に生活を続けられるよう、医療と介護の橋渡しをすることである。 (1)介護面:要支援者のケアプラン(介護予防サービス計画)は、市町村が設置する地域包括支援センターが作成・管理する。したがって、退院後に適切な介護予防サービス(通所リハビリテーションなど)を受けられるよう、同センターに病状や生活機能、必要な支援についての情報を提供する。 (2)医療面:退院後は、脳梗塞の再発予防として糖尿病・高血圧症などの危険因子の管理を継続する必要がある。これはもともと通院していた診療所(かかりつけ医)が担うのが自然であり、入院中の経過・治療内容・今後の方針を記した診療情報提供書を作成する。 一方、要支援の段階では介護保険施設への入所はできず、血糖コントロールが良好な現時点で糖尿病専門医へ紹介する必要もない。

選択肢考察

  1. ×a.  介護老人保健施設への入所申請

    介護老人保健施設(老健)は、病状が安定した要介護者に対し、看護・医学的管理下でのリハビリテーションや介護を提供し、在宅復帰を支援する介護保険施設である。入所の対象は要介護1以上であり、要支援者は入所できない。本例は要支援の認定であり、在宅生活が可能な状態と判断されているため、入所申請は不要である。

  2. ×b.  介護老人福祉施設への入所申請

    介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム、特養)は、常時介護を必要とし在宅生活が困難な要介護者のための生活の場となる介護保険施設である。要支援者は入所の対象とならず、さらに2015年度以降は新規入所が原則として要介護3以上に限られている。本例は対象外であり、入所申請は不要である。

  3. ○c.  地域包括支援センターへの情報提供

    地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談・支援の拠点であり、要支援者に対する介護予防ケアマネジメント(介護予防サービス計画の作成)を担う。退院後に必要な介護予防サービスやリハビリテーションを途切れなく受けられるよう、麻痺の程度、ADL(日常生活動作)、合併症、服薬、生活上の注意点などの情報を担当医から提供することは、退院支援として重要である。

  4. ×d.  糖尿病専門外来担当医への紹介状作成

    本例は糖尿病を合併しているが、空腹時血糖122mg/dL、HbA1c 5.9%と血糖コントロールは良好であり、現時点で専門医の管理を要する状況ではない。糖尿病はこれまでどおりかかりつけの診療所で継続管理すればよく、専門外来への紹介はコントロールが悪化した場合や合併症の精査が必要な場合に検討する。

  5. ○e.  通院していた診療所医師への診療情報提供書作成

    脳梗塞の再発予防には、糖尿病・高血圧症の継続的な管理と抗血栓療法などの内服管理が欠かせない。これを担うのは地域で長く診療してきたかかりつけ医が最も適している。入院中の診断、治療内容、処方、リハビリテーションの到達度、今後の管理目標などを記した診療情報提供書を作成し、退院後の医療を円滑に引き継ぐ必要がある。

介護保険の要介護度と利用できるサービス

・要支援1・2:予防給付(介護予防サービス)。介護予防訪問看護、介護予防通所リハビリテーション、介護予防福祉用具貸与などの在宅系サービスが中心で、介護保険施設には入所できない。ケアプランは原則として地域包括支援センターが作成する。 ・要介護1~5:介護給付。在宅サービスに加えて施設サービスも利用できる。ケアプランは居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)が作成する。

介護保険施設

・介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム):常時介護が必要で在宅生活が困難な人の生活の場。新規入所は原則要介護3以上。 ・介護老人保健施設:医学的管理下でのリハビリテーションを行い、在宅復帰を目指す中間施設。要介護1以上。 ・介護医療院:長期療養が必要な要介護者に医療と生活の場を提供する施設。2018年に創設され、介護療養型医療施設は2024年3月末で廃止されてこれに移行した。

地域包括支援センター

市町村(または委託法人)が設置し、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などが配置される。主な業務は、介護予防ケアマネジメント、総合相談支援、権利擁護(虐待防止など)、包括的・継続的ケアマネジメント支援である。地域包括ケアシステムの中核機関である。

回復期リハビリテーション病棟

脳血管疾患や大腿骨頸部骨折などで急性期治療を終えた患者に、ADLの向上と在宅復帰を目的とした集中的なリハビリテーションを行う。算定上限日数は疾患によって定められており、脳血管疾患では原則150日(高次脳機能障害を伴う重症例などでは180日)である。

退院支援の要点

急性期病院 → 回復期リハビリテーション病院 → 在宅(かかりつけ医・介護サービス)という流れの中で、医療情報(診療情報提供書)と生活・介護の情報(地域包括支援センターやケアマネジャーへの情報提供)の両方を確実に引き継ぐことが重要である。

POINT

・要支援者は介護保険施設(老健・特養)に入所できない。老健は要介護1以上、特養の新規入所は原則要介護3以上。 ・要支援者の介護予防ケアプランは地域包括支援センターが作成する。 ・退院時には、かかりつけ医への診療情報提供書と、介護を担う機関への情報提供の両方を行う。 ・病状が安定している慢性疾患は、専門医ではなくかかりつけ医で継続管理するのが基本である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。