水痘が牙をむくのは誰か―「ウイルスにはT細胞」で解く原発性免疫不全症
第103回医師国家試験 E問題 第38問
国試問題にチャレンジ
水痘が重症化しやすいのはどれか。
- a.慢性肉芽腫症
- b.好中球減少症
- c.DiGeorge症候群
- d.Chédiak-Higashi症候群
- e.X連鎖性無ガンマグロブリン血症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
水痘・帯状疱疹ウイルスのような細胞内で増殖するウイルスの排除には、細胞傷害性T細胞を中心とする細胞性免疫が欠かせないため、T細胞不全では水痘が肺炎・肝炎・脳炎を伴って重症化しやすくなります。選択肢の中でT細胞不全を主体とするのは、22q11.2欠失による胸腺低形成をきたすDiGeorge症候群で、低カルシウム血症や円錐動脈幹異常の心疾患を伴い、CATCH22として覚えます。慢性肉芽腫症・好中球減少症・Chédiak-Higashi症候群は食細胞の障害で細菌や真菌に、X連鎖性無ガンマグロブリン血症は抗体の欠如で莢膜をもつ細菌に弱くなります。臨床では白血病や免疫抑制薬使用中などの細胞性免疫低下状態で重症水痘に注意し、抗ウイルス薬を早期に投与するとともに、生ワクチンである水痘ワクチンは原則禁忌となります。「どの免疫が障害されると、どの病原体に弱くなるか」という対応は、免疫不全症の理解と感染症診療の基本です。
解答・解説
正解はcです
原発性免疫不全症を「どの免疫系が障害されるか」で分類し、それぞれに起こりやすい感染症の病原体を結び付けられるかを問う問題である。 水痘は水痘・帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)による感染症である。ウイルスは細胞の中で増殖するため、感染細胞を排除するには細胞性免疫、すなわちT細胞(特に細胞傷害性T細胞)の働きが中心となる。そのため、T細胞の数や機能が低下した状態では、水痘が肺炎・肝炎・脳炎などを伴う進行性・播種性の重症水痘になりやすい。 免疫不全の種類と感染しやすい病原体の対応は、おおまかに次のように整理できる。 ・食細胞(好中球・マクロファージ)の数や機能の障害:細菌(黄色ブドウ球菌など)や真菌(アスペルギルスなど) ・液性免疫(B細胞・抗体)の障害:莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌b型など) ・細胞性免疫(T細胞)の障害:ウイルス(ヘルペス属ウイルスなど)、真菌(カンジダ、ニューモシスチスなど)、細胞内寄生菌 選択肢のうちT細胞の障害を主体とするのはDiGeorge症候群だけであり、これが水痘の重症化しやすい疾患となる。
選択肢考察
- ×a. 慢性肉芽腫症
慢性肉芽腫症は、食細胞のNADPHオキシダーゼの異常により活性酸素(スーパーオキシドなど)がつくれず、貪食した微生物を殺菌できない疾患である。多くはX連鎖性の遺伝形式をとる。カタラーゼ陽性菌(黄色ブドウ球菌、セラチア、バークホルデリアなど)や真菌(アスペルギルスなど)による肺炎・リンパ節炎・肝膿瘍などを繰り返し、殺しきれない病原体を囲い込む肉芽腫を形成する。T細胞機能は保たれており、水痘が重症化しやすい疾患ではない。
- ×b. 好中球減少症
好中球減少症は末梢血の好中球絶対数が1,500/μL未満となる状態であり、特に500/μL未満では易感染性が顕著になる。重症先天性好中球減少症や周期性好中球減少症では、乳児期から臍帯炎、皮膚感染症、中耳炎、口内炎などの細菌感染症を繰り返し、重度の場合は真菌感染も問題となる。ウイルスに対する主な防御であるT細胞免疫は保たれているため、水痘が重症化しやすいわけではない。
- ○c. DiGeorge症候群
DiGeorge症候群は、染色体22q11.2の微細欠失などにより、胎生期の第3・第4咽頭嚢(鰓弓)由来の器官の発生が障害される疾患である。胸腺の低形成・無形成のためT細胞の分化・成熟が障害され、細胞性免疫不全をきたす。その結果、ウイルス(水痘・帯状疱疹ウイルスなどのヘルペス属ウイルスを含む)、真菌、細胞内寄生菌などによる感染症が反復・重症化しやすく、水痘も重症化しうる。ほかに、副甲状腺低形成による低カルシウム血症(新生児期のテタニーなど)、円錐動脈幹異常(Fallot四徴症、総動脈幹症、大動脈弓離断など)を中心とする先天性心疾患、特徴的な顔貌を伴う。
- ×d. Chédiak-Higashi症候群
Chédiak-Higashi症候群は、LYST遺伝子の異常による常染色体劣性遺伝の疾患である。細胞内顆粒(リソソーム)の輸送・融合が障害され、好中球などの細胞内に巨大顆粒がみられる。好中球の遊走能や殺菌能が低下するため、乳児期から黄色ブドウ球菌やレンサ球菌による細菌感染を反復し、メラノソームの異常による部分白皮症(皮膚・毛髪・眼の色素が薄い)、出血傾向、進行性の神経障害を伴う。経過中にEBウイルス感染などを契機として血球貪食性リンパ組織球症(促進期)をきたすことがあるが、主体は食細胞の機能異常であり、水痘が重症化しやすい疾患として代表的なものではない。
- ×e. X連鎖性無ガンマグロブリン血症
X連鎖性無ガンマグロブリン血症(Bruton型無ガンマグロブリン血症)は、BTK(Bruton型チロシンキナーゼ)遺伝子の異常によりB細胞の分化が早期に止まり、末梢血B細胞がほぼ欠如して全クラスの免疫グロブリンが著しく低下する男児の疾患である。胎盤を通過した母体由来のIgGが減少する生後数か月以降(おおむね4〜6か月頃から)、肺炎球菌やインフルエンザ菌などの莢膜をもつ細菌による中耳炎・副鼻腔炎・肺炎を繰り返す。T細胞機能は保たれているため、多くのウイルス感染症は通常の経過をとり、水痘も重症化しにくい。ただしエンテロウイルスによる慢性髄膜脳炎や、生ワクチン株ポリオウイルスの感染には弱いことが知られている。
原発性免疫不全症の分類と感染しやすい病原体
・T細胞(細胞性免疫)不全:DiGeorge症候群など。ウイルス(VZV、サイトメガロウイルスなど)、真菌(カンジダ、ニューモシスチス)、抗酸菌などの細胞内寄生菌。 ・B細胞(液性免疫)不全:X連鎖性無ガンマグロブリン血症、分類不能型免疫不全症(common variable immunodeficiency:CVID)、選択的IgA欠損症、IgGサブクラス欠損症、乳児一過性低ガンマグロブリン血症など。莢膜をもつ細菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌)が中心。 ・T細胞・B細胞の複合不全:重症複合免疫不全症(severe combined immunodeficiency:SCID)、Wiskott-Aldrich症候群、毛細血管拡張性運動失調症(Louis-Bar症候群)など。ウイルス・真菌・細菌のすべてに弱い。 ・食細胞の数・機能の異常:好中球減少症、慢性肉芽腫症、Chédiak-Higashi症候群、白血球接着不全症など。細菌(特に黄色ブドウ球菌)と真菌。 ・補体欠損:C5〜C9などの後期成分欠損ではナイセリア属(髄膜炎菌など)の感染を繰り返す。
重症水痘のリスク因子
先天性のT細胞不全のほか、白血病などの悪性腫瘍、ステロイドや免疫抑制薬の投与中、臓器移植後、HIV感染症などの細胞性免疫低下状態では、水痘が肺炎・肝炎・脳炎・播種性血管内凝固を伴って重症化しやすい。このような患者にはアシクロビルなどの抗ウイルス薬を早期に投与する。また、水痘ワクチンは生ワクチンであり、細胞性免疫不全の患者には原則として接種できない。
DiGeorge症候群(22q11.2欠失症候群)の特徴
心疾患(Cardiac defect)、特異顔貌(Abnormal facies)、胸腺低形成(Thymic hypoplasia)、口蓋裂(Cleft palate)、低カルシウム血症(Hypocalcemia)の頭文字をとってCATCH22と覚えられる。
POINT
・ウイルス感染の重症化はT細胞(細胞性免疫)不全を考える。 ・DiGeorge症候群:22q11.2欠失、胸腺低形成によるT細胞不全、低カルシウム血症、円錐動脈幹異常の心疾患(CATCH22)。 ・食細胞の異常(好中球減少症、慢性肉芽腫症、Chédiak-Higashi症候群)→細菌・真菌感染。 ・B細胞の異常(X連鎖性無ガンマグロブリン血症)→莢膜をもつ細菌感染。発症は母体由来IgGが減る生後数か月以降。
