StudyMed医師国家試験

「おしるし」だけじゃない―分娩前夜に母体と胎児が整える3つの準備

第103回医師国家試験 E問題 第31問

国試問題にチャレンジ

第103回 E問題 第31問

分娩の前駆症状はどれか。3つ選べ。

  1. a.胎動の増加
  2. b.子宮底の上昇
  3. c.子宮頸管の熟化
  4. d.胎児先進部の固定
  5. e.血性粘液性の腟分泌物

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は分娩の前駆症状、つまり分娩が近づいたことを知らせる徴候を選ぶ問題だ。丸暗記より、分娩に向けて体が何を準備しているかを考えると迷わない。準備は大きく3つ。胎児が下に降りてくること、子宮頸管が開きやすくなること、子宮が収縮しやすくなることだ。
医学生医学生
分娩が近いなら、赤ちゃんも活発に動きそうなので胎動は増えるイメージがありました。
ドクタードクター
そう考える人は多いけれど、実は逆なんだ。児頭が骨盤内に降りて固定され、羊水量も妊娠末期には減る傾向にあるから、胎児の動きは制限される。妊婦さんは胎動が減ったように感じることが多いんだ。
医学生医学生
なるほど。でも胎動が減ったら心配になりませんか。
ドクタードクター
大事な視点だね。胎動の自覚が著しく減ったり消えたりした場合は、胎児機能不全のサインのこともある。前駆症状だろうと決めつけず、ノンストレステストなどで胎児の状態を確認するのが原則だ。では子宮底の上昇はどうだろう。
医学生医学生
妊娠が進むほど子宮底は上がっていくので、正しい気がしてしまいます。
ドクタードクター
そこが引っかけだ。子宮底は妊娠36週ごろに最も高くなって、そのあと胎児の先進部が骨盤に降りるのに伴って下がるんだ。すると胃や横隔膜への圧迫が減って呼吸や食事が楽になる一方、膀胱が押されて頻尿になりやすい。前駆症状として起こるのは子宮底の下降だね。
医学生医学生
胎児が下がるから子宮全体も下がる、ということは、胎児先進部の固定は正しい選択肢ですね。
ドクタードクター
その通り。妊娠末期に児頭が骨盤入口に入り込み、外から押しても動かなくなるのが先進部の固定で、前駆症状の一つだ。初産婦では分娩開始の数週間前から固定することが多く、経産婦では分娩直前や陣痛が始まってから固定することが多い。
医学生医学生
初産婦なのに末期になっても固定しない場合は、何か異常を考えるべきでしょうか。
ドクタードクター
鋭いね。児頭骨盤不均衡や前置胎盤、骨盤位などの可能性を考える。次は子宮頸管の熟化だ。
医学生医学生
産婦人科の講義でBishopスコアを習いました。頸管が軟らかくなって短くなり、開いてくる変化ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。プロスタグランジンなどの作用で頸管のコラーゲンが分解・再構築されて水分が増え、軟らかくなる。さらに頸管が短縮して子宮口がわずかに開き、子宮腟部は後方から中央・前方へ移動する。これが頸管熟化で、正しい前駆症状だ。Bishopスコアは子宮口開大度、頸管展退度、児頭の位置、頸部の硬さ、子宮口の位置の5項目で評価し、点数が高いほど分娩誘発が成功しやすい。
医学生医学生
血性粘液性の腟分泌物は、いわゆる「おしるし」ですね。
ドクタードクター
そう、産徴とも呼ぶ。子宮口が開き始めると頸管をふさいでいた粘液栓が出てきて、子宮下部で卵膜が少しはがれて出血するから、血の混じった粘液になる。多くは数日以内に陣痛が始まる。
医学生医学生
臨床実習で産科を回ったとき、「おしるしがあった」と電話してきた妊婦さんに、出血量や色を細かく聞いていました。
ドクタードクター
それはとても大事な対応だよ。出血が多い、鮮血が続くといった場合は、前置胎盤や常位胎盤早期剥離などの異常を考えなければならない。少量の血性粘液と区別することが重要なんだ。
医学生医学生
正解は頸管熟化、先進部の固定、血性粘液性の分泌物の3つですね。前駆症状と分娩開始の境目はどこになるんですか。
ドクタードクター
分娩開始は、陣痛の周期が10分以内、または1時間に6回以上の規則的な子宮収縮になった時点と定義される。それより前に起こる不規則で弱い収縮は前陣痛で、時間がたっても強くならず、休むと消えることもあり、子宮口の開大は進まない。分娩陣痛は規則的で、しだいに間隔が短く、強く、長くなっていく。
医学生医学生
妊婦さんから「陣痛かも」と相談されたら、規則性と強さの変化を確認すればいいんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に、分娩は娩出力・産道・娩出物の3要素で進む。前駆症状は、前陣痛が娩出力、頸管熟化が産道、先進部の下降が娩出物の準備と対応させると、それぞれの意味がつかみやすいよ。

まとめ

分娩の前駆症状は、分娩開始の数日〜数週前に母体と胎児が分娩に向けて準備を整える徴候で、胎児先進部の下降・固定、子宮底の下降、子宮頸管の熟化、前陣痛、産徴(血性粘液性の腟分泌物)が代表的です。先進部が骨盤内に固定されるため子宮底は上昇ではなく下降し、胎動はむしろ減ったように感じられますが、著しい胎動減少は胎児機能不全の可能性もあり評価が必要です。頸管熟化はBishopスコアで評価され、産徴でも出血が多い場合は前置胎盤や常位胎盤早期剥離を考えます。陣痛周期が10分以内(1時間に6回以上)となった時点が分娩開始であり、前駆症状を娩出力・産道・娩出物の3要素の準備として捉えると、妊婦からの相談や分娩管理での判断に直結する理解が得られます。

解答・解説

正解はc, d, eです

テーマ

分娩の前駆症状(分娩が近づいたことを示す徴候)を問う問題である。

考え方

分娩開始の数日〜数週前になると、母体と胎児には分娩に向けた準備としての変化が現れる。大きく分けると次の3つである。 1.胎児が下へ降りてくる変化:胎児の先進部(多くは児頭)が骨盤入口に進入して固定される。これに伴い子宮全体が下がり、子宮底が下降する。 2.子宮頸管が開きやすくなる変化:頸管が軟らかく、短くなり、位置が後方から中央へ移動し、少し開き始める(頸管の熟化)。 3.子宮の収縮性が高まる変化:不規則な子宮収縮(前陣痛)が増え、頸管の開大に伴って血液の混じった粘液が排出される(産徴、いわゆる「おしるし」)。 これらに当てはまるかどうかで判断する。一方、胎児が骨盤内に入って動きが制限されるため胎動は減ったように感じられ、子宮底は上昇ではなく下降する。 なお、分娩開始は、陣痛の周期が10分以内(または1時間に6回以上)の規則的な子宮収縮となった時点と定義される。前駆症状はそれより前の段階の徴候である点も区別しておく。

選択肢考察

  1. ×a.  胎動の増加

    誤りである。分娩が近づくと児頭が骨盤内に下降・固定され、羊水量も妊娠末期には減少傾向となるため、胎児の動きは制限され、妊婦が自覚する胎動はむしろ減ったように感じられることが多い。ただし胎動の自覚が著しく減少・消失した場合は、胎児機能不全(胎児の状態悪化)の徴候のこともあるため、分娩前駆症状と決めつけずにノンストレステスト(NST)などで胎児の状態を確認する。

  2. ×b.  子宮底の上昇

    誤りである。子宮底の高さは妊娠36週ごろに最も高くなり(剣状突起の下2〜3横指付近)、その後は胎児先進部が骨盤内へ下降するのに伴って子宮底は下がる。子宮底が下がると横隔膜や胃への圧迫が軽減し、妊婦は呼吸や食事が楽になったと感じる一方、膀胱が圧迫されて頻尿となりやすい。分娩前に起こるのは子宮底の「下降」である。

  3. ○c.  子宮頸管の熟化

    正しい。分娩が近づくと、プロスタグランジンなどの作用で頸管の結合組織(コラーゲン)が分解・再構築され、水分量が増えて頸管は軟らかくなる。さらに頸管が短縮(展退)し、子宮口がわずかに開大し、子宮腟部の位置は後方から中央〜前方へ移動する。この一連の変化を頸管熟化といい、分娩の前駆症状の一つである。頸管熟化の程度はBishopスコア(子宮口開大度、頸管展退度、児頭の位置、頸部の硬さ、子宮口の位置の5項目で評価)で点数化され、高得点ほど分娩誘発が成功しやすい。

  4. ○d.  胎児先進部の固定

    正しい。妊娠末期になると、胎児の先進部(頭位では児頭)が骨盤入口に進入し、外から押しても動かない状態になる。これを先進部の固定といい、分娩の前駆症状である。特に初産婦では分娩開始の数週間前から固定することが多く、経産婦では分娩開始の直前や陣痛開始後に固定することが多い。初産婦の妊娠末期に児頭が固定しない場合は、児頭骨盤不均衡(CPD)や前置胎盤、骨盤位などの可能性を考慮する。

  5. ○e.  血性粘液性の腟分泌物

    正しい。子宮収縮性の高まりと頸管の熟化によって子宮口が開き始めると、頸管を塞いでいた粘液栓が排出されるとともに、子宮下部で卵膜が子宮壁から一部はがれて少量出血し、血液の混じった粘液性の分泌物がみられる。これを産徴(いわゆる「おしるし」)といい、分娩の前駆症状として代表的なものである。産徴がみられてから多くは数日以内に陣痛が始まる。ただし出血量が多い場合や鮮血が持続する場合は、前置胎盤や常位胎盤早期剥離などの異常を考える必要がある。

分娩前駆症状のまとめ

・胎児先進部の下降・固定(初産婦では分娩の数週前から) ・子宮底の下降(36週ごろが最高位で、以後下降)→ 上腹部の圧迫感の軽減、頻尿 ・子宮頸管の熟化(軟化、展退、開大、位置の前方移動) ・前陣痛(不規則で痛みの弱い子宮収縮の増加。Braxton Hicks収縮とも呼ばれる) ・産徴(血性粘液性の腟分泌物、おしるし) ・胎動の自覚の減少

前陣痛と分娩陣痛の違い

前陣痛は周期・強さが不規則で、時間がたっても強くならず、休息などで消えることがある。頸管の開大は進まない。これに対し分娩陣痛は規則的で、しだいに間隔が短く、強く、長くなり、子宮口の開大を伴う。周期が10分以内(または1時間に6回以上)になった時点を分娩開始とする。

分娩の3要素

分娩の進行は、娩出力(陣痛と腹圧)、産道(骨産道と軟産道)、娩出物(胎児と付属物)の3要素で決まる。前駆症状はこれら3要素がそれぞれ分娩に向けて準備を進めていることの表れと捉えると理解しやすい。

POINT

・分娩前駆症状:先進部の固定、子宮底の下降、頸管熟化、前陣痛、産徴(血性粘液性の分泌物)。 ・胎動は減少したように感じられ、子宮底は下降する(上昇ではない)。 ・頸管熟化の評価はBishopスコア。 ・分娩開始は陣痛周期が10分以内(または1時間に6回以上)となった時点。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。