「おしるし」だけじゃない―分娩前夜に母体と胎児が整える3つの準備
第103回医師国家試験 E問題 第31問
国試問題にチャレンジ
分娩の前駆症状はどれか。3つ選べ。
- a.胎動の増加
- b.子宮底の上昇
- c.子宮頸管の熟化
- d.胎児先進部の固定
- e.血性粘液性の腟分泌物
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
分娩の前駆症状は、分娩開始の数日〜数週前に母体と胎児が分娩に向けて準備を整える徴候で、胎児先進部の下降・固定、子宮底の下降、子宮頸管の熟化、前陣痛、産徴(血性粘液性の腟分泌物)が代表的です。先進部が骨盤内に固定されるため子宮底は上昇ではなく下降し、胎動はむしろ減ったように感じられますが、著しい胎動減少は胎児機能不全の可能性もあり評価が必要です。頸管熟化はBishopスコアで評価され、産徴でも出血が多い場合は前置胎盤や常位胎盤早期剥離を考えます。陣痛周期が10分以内(1時間に6回以上)となった時点が分娩開始であり、前駆症状を娩出力・産道・娩出物の3要素の準備として捉えると、妊婦からの相談や分娩管理での判断に直結する理解が得られます。
解答・解説
正解はc, d, eです
テーマ
分娩の前駆症状(分娩が近づいたことを示す徴候)を問う問題である。
考え方
分娩開始の数日〜数週前になると、母体と胎児には分娩に向けた準備としての変化が現れる。大きく分けると次の3つである。 1.胎児が下へ降りてくる変化:胎児の先進部(多くは児頭)が骨盤入口に進入して固定される。これに伴い子宮全体が下がり、子宮底が下降する。 2.子宮頸管が開きやすくなる変化:頸管が軟らかく、短くなり、位置が後方から中央へ移動し、少し開き始める(頸管の熟化)。 3.子宮の収縮性が高まる変化:不規則な子宮収縮(前陣痛)が増え、頸管の開大に伴って血液の混じった粘液が排出される(産徴、いわゆる「おしるし」)。 これらに当てはまるかどうかで判断する。一方、胎児が骨盤内に入って動きが制限されるため胎動は減ったように感じられ、子宮底は上昇ではなく下降する。 なお、分娩開始は、陣痛の周期が10分以内(または1時間に6回以上)の規則的な子宮収縮となった時点と定義される。前駆症状はそれより前の段階の徴候である点も区別しておく。
選択肢考察
- ×a. 胎動の増加
誤りである。分娩が近づくと児頭が骨盤内に下降・固定され、羊水量も妊娠末期には減少傾向となるため、胎児の動きは制限され、妊婦が自覚する胎動はむしろ減ったように感じられることが多い。ただし胎動の自覚が著しく減少・消失した場合は、胎児機能不全(胎児の状態悪化)の徴候のこともあるため、分娩前駆症状と決めつけずにノンストレステスト(NST)などで胎児の状態を確認する。
- ×b. 子宮底の上昇
誤りである。子宮底の高さは妊娠36週ごろに最も高くなり(剣状突起の下2〜3横指付近)、その後は胎児先進部が骨盤内へ下降するのに伴って子宮底は下がる。子宮底が下がると横隔膜や胃への圧迫が軽減し、妊婦は呼吸や食事が楽になったと感じる一方、膀胱が圧迫されて頻尿となりやすい。分娩前に起こるのは子宮底の「下降」である。
- ○c. 子宮頸管の熟化
正しい。分娩が近づくと、プロスタグランジンなどの作用で頸管の結合組織(コラーゲン)が分解・再構築され、水分量が増えて頸管は軟らかくなる。さらに頸管が短縮(展退)し、子宮口がわずかに開大し、子宮腟部の位置は後方から中央〜前方へ移動する。この一連の変化を頸管熟化といい、分娩の前駆症状の一つである。頸管熟化の程度はBishopスコア(子宮口開大度、頸管展退度、児頭の位置、頸部の硬さ、子宮口の位置の5項目で評価)で点数化され、高得点ほど分娩誘発が成功しやすい。
- ○d. 胎児先進部の固定
正しい。妊娠末期になると、胎児の先進部(頭位では児頭)が骨盤入口に進入し、外から押しても動かない状態になる。これを先進部の固定といい、分娩の前駆症状である。特に初産婦では分娩開始の数週間前から固定することが多く、経産婦では分娩開始の直前や陣痛開始後に固定することが多い。初産婦の妊娠末期に児頭が固定しない場合は、児頭骨盤不均衡(CPD)や前置胎盤、骨盤位などの可能性を考慮する。
- ○e. 血性粘液性の腟分泌物
正しい。子宮収縮性の高まりと頸管の熟化によって子宮口が開き始めると、頸管を塞いでいた粘液栓が排出されるとともに、子宮下部で卵膜が子宮壁から一部はがれて少量出血し、血液の混じった粘液性の分泌物がみられる。これを産徴(いわゆる「おしるし」)といい、分娩の前駆症状として代表的なものである。産徴がみられてから多くは数日以内に陣痛が始まる。ただし出血量が多い場合や鮮血が持続する場合は、前置胎盤や常位胎盤早期剥離などの異常を考える必要がある。
分娩前駆症状のまとめ
・胎児先進部の下降・固定(初産婦では分娩の数週前から) ・子宮底の下降(36週ごろが最高位で、以後下降)→ 上腹部の圧迫感の軽減、頻尿 ・子宮頸管の熟化(軟化、展退、開大、位置の前方移動) ・前陣痛(不規則で痛みの弱い子宮収縮の増加。Braxton Hicks収縮とも呼ばれる) ・産徴(血性粘液性の腟分泌物、おしるし) ・胎動の自覚の減少
前陣痛と分娩陣痛の違い
前陣痛は周期・強さが不規則で、時間がたっても強くならず、休息などで消えることがある。頸管の開大は進まない。これに対し分娩陣痛は規則的で、しだいに間隔が短く、強く、長くなり、子宮口の開大を伴う。周期が10分以内(または1時間に6回以上)になった時点を分娩開始とする。
分娩の3要素
分娩の進行は、娩出力(陣痛と腹圧)、産道(骨産道と軟産道)、娩出物(胎児と付属物)の3要素で決まる。前駆症状はこれら3要素がそれぞれ分娩に向けて準備を進めていることの表れと捉えると理解しやすい。
POINT
・分娩前駆症状:先進部の固定、子宮底の下降、頸管熟化、前陣痛、産徴(血性粘液性の分泌物)。 ・胎動は減少したように感じられ、子宮底は下降する(上昇ではない)。 ・頸管熟化の評価はBishopスコア。 ・分娩開始は陣痛周期が10分以内(または1時間に6回以上)となった時点。
